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Vol.72 No.1 新たな社会価値を生み出すAI特集

Vol.72 No.1(2019年10月)

世界が抱えるさまざまな社会課題を解決し、一人ひとりがより輝く社会を実現するために大きな力を発揮するのが、AI(Artificial Intelligence:人工知能)です。AIで実世界を「見える化」「分析」「対処」することで、さまざまな無駄を省き、社会システムを新たな姿に進化させていきます。そのなかで、すべての人が多様な能力を発揮できるとともに、それを生かせる機会や場が得られるようになります。NECは、このようにデジタル化の進展が隅々まで浸透した社会を「Digital Inclusion」な社会と呼んでいます。

NECは、半世紀以上にわたりAI関連の技術に取り組んできており、世界最高水準の技術を保有しています。それらを、最先端AI技術群「NEC the WISE」として体系化し、更にAIの性能を最大限に引き出すために必要なプラットフォーム、人的リソースまで一括して提供することで、人や社会にとって付加価値の高いソリューションの提供を実現します。

本特集では、NECが提供するAIによる社会価値創造の最新事例、「Digital Inclusion」の実現に向けた最先端のAI 技術群、更にはAIと人権に関するポリシーや人材育成の取り組みについても紹介します。

新たな社会価値を生み出すAI特集

新たな社会価値を生み出すAI特集によせて

執行役員常務 兼 CTO西原 基夫


AIとデータ活用によるデジタライゼーションの拡大

AI・アナリティクス事業部 事業部長 池田 雅之データサイエンス研究所 所長 広明 敏彦

AIの社会実装に向けた取り組み

「NECグループ AIと人権に関するポリシー」とその実践に向けた取り組み

鮫島 滋・澤近 俊輔・山田 徹

AI(人工知能)の研究開発や利活用は、人々の生活を豊かにする反面、その使い方によってはプライバシー侵害をはじめとした人権課題を生み出すおそれがあります。このような課題に関しては、政府、学会、企業などにおいても活発な議論が行われており、立法化や指針(ガイドラインなど)の制定が急速に進められています。本稿では、NECが2019年4月に策定した「NECグループ AIと人権に関するポリシー」(以下、「AIと人権に関するポリシー」)の内容や策定の背景に加え、その実践に向けた取り組みを紹介します。


AI時代の人材育成

孝忠 大輔

超スマート社会(Society 5.0)の実現に向け、AIを活用して社会課題を解決し、新たな価値を創造できる人材の活躍が期待されています。世界的にAI人材不足が深刻化するなか、各企業の間で優秀なAI人材の争奪戦が行われており、AI人材育成に対するニーズが高まっています。NECグループでは、2013年からAI人材育成に関する取り組みを始め、数多くのAI人材を育成してきました。本稿では、NECグループのAI人材育成を担う「NECアカデミー for AI」の活動事例を基に、AI時代における人材育成方法について紹介します。

デジタルトランスフォーメーションを加速するAI活用サービス・ソリューション

「みんなで創るAI」を支えるNEC Advanced Analytics Platform (AAPF)

菅野 亨太・後藤 範人

成功するAI活用のためには、データサイエンティストやアプリケーション開発者などの多様な専門家の協働が不可欠です。NEC Advanced Analytics Platform(AAPF) はその協働を支援するAI活用プラットフォームです。AAPFでは、異種混合学習などのNEC the WISEの技術群だけではなく、世界で使われているオープンソースソフトウェアの分析ツールも利用できます。また、コンテナ技術の活用により、利用者ごとの多様なニーズに合わせた分析環境を簡単に作成することができます。AAPFは、データ分析環境、多様なAIアプリケーションの開発環境や実行基盤、人材育成のための学習環境など、さまざまな用途で既に利用され、AIの社会実装を支えています。本稿では、AAPFとその活用例について紹介します。


物体指紋認証技術による個体識別機能の活用

長田 正志・田村 将弘・福澤 茂和・大西 祥史

NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の要素技術の1つである「物体指紋認証技術」は、製造工程で自然発生的に生じる製品表面の微細な紋様(物体指紋)により、従来、識別用タグの付与やレーザーマーキングのような特殊加工ができなかったさまざまな物品に関しても、個体の識別を可能とするものです。NECでは、この物体指紋認証技術による個体識別機能を、2016年10月から「GAZIRU個体識別サービス」として提供を開始、現在はオンプレミスに実装した「GAZIRU個体識別エンジン」も提供しています。本稿では、個体識別機能を活用した事例を紹介します。


画像処理コントローラへのディープラーニング活用による外観検査ソリューション

横井 英彦・高木 和久・大西 祥史・川元 正裕・広瀬 真央・水野 善敬

工場系のサービス・ソリューションとして、不良品検出の共創事例を紹介します。検査領域へのAI活用が注目されるなか、ラインセンサーシステム専業メーカーと共創し、画像検査検品システムの中核となる画像処理ソフトにNECの「RAPID機械学習」を組み込んだソリューションを構築しました。機械学習を組み込んだ画像検品システムを容易に構築できる顧客価値に加え、NECの技術を共創パートナーの製品に組み込むことにより、新たな領域への展開、ものづくり現場のデジタル化への貢献を目指します。


通信予測制御技術を活用した車両の遠隔監視ソリューション

水越 康博・岩井 孝法

近年、モビリティ領域にて、ドライブレコーダーの遠隔監視への応用や遠隔型自動運転への期待が高まっています。しかし、自動車の移動により、モバイル網の通信帯域やカメラ映像の送信データ量が複雑に変動するため、複数の車載カメラ映像をリアルタイムに監視するときに映像が乱れてしまうという課題があります。この課題を解決するため、NECは通信帯域の変化を予測する通信予測と、複数のカメラから重要な通信を判定し通信帯域をルールベースのAIにより自動最適化する通信制御とを統合した通信予測制御技術に取り組んでいます。本稿では、この技術を活用して複数の車載カメラ映像のリアルタイム監視を実現した遠隔監視ソリューションを紹介します。


働き方改革や健康経営を支える「NEC 感情分析ソリューション」

阿部 勝巳・岩田 慎一郎

近年、「働き方改革」や「健康経営」に向けた取り組みが重要となっています。「NEC 感情分析ソリューション」で従業員の日々の感情変化を可視化し、適切な施策を取ることで、個々人に最適な業務、職場環境を提供することが可能となります。本稿では、「NEC 感情分析ソリューション」のシステム構成、適用事例、今後の展望について紹介します。


オフィスのセキュリティと利便性を向上する「顔認証ソリューション for オフィス」

斎木 誠・平尾 浩一郎・大林 永利・三宅 峰・リ サンサン

企業でのセキュリティ意識の高まりから、鍵による施錠、IDカードやパスワードなど、オフィスではさまざまな認証手段が導入されています。これらは場所や用途によって使い分ける、手間をかけて管理、運用するといった利用者の負担や、盗難や使い回しによる不正利用といった課題があります。「顔認証ソリューション for オフィス」は、複数のNEC顔認証製品、サービスをまとめて提供し、オフィス内の認証手段を顔認証で統一することにより、セキュアで利用者の利便性が高いオフィスを実現するためのソリューションです。本稿では、本ソリューションについて紹介します。


業務自動化・省力化を実現する自動応答ソリューション(AIチャットボット)の概要

高橋 勝彦・三科 直美・服部 雅弘・坂森 康宏

近年、AI技術の活用の1つとして、人材不足や多様な働き方を支援するために、問い合わせ業務を人に代わってAIが対応する自動応答ソリューションが注目されています。特に、問い合わせ手段として電話やメール以外に、手軽に利用できるチャットの利用が増えており、チャットボットは身近なAIとして利用シーンが拡大しています。本稿では、自然文の多様な表現を認識する「テキスト含意認識技術」を活用することで、高精度な回答を出すことができる自動応答ソリューションの概要を紹介します。


ビジネス創造へのワークシフトを加速するソリューション(AI for Work Shift Support)の概要と実証事例

今西 昌子・藤堂 康一・片岡 昭人・本橋 洋介・見上 紗和子

グローバル化、テクノロジーの進展などにより、異業種からの競合の参入、業界の垣根を超えた新ビジネスの台頭など、企業を取り巻く事業環境はより厳しいものになり、企業を支える人財への期待は高まり続けています。特に日本では、労働人口が減少し採用のハードルも上がるなか、選ばれ続ける企業として、人財が新たな価値・ビジネスを創造する業務に注力する環境や制度を用意していく必要があります。本稿では、ホワイトカラーの日常業務に着目し、飛躍的な進展を遂げているAI技術を活用し、意思決定に必要な準備や作業をAIが整え、人はビジネス創造にシフトするソリューションの概要とNECでの実証事例を紹介します。


AIを有効活用する「NEC Energy Resource Aggregation クラウドサービス」

田村 徹也・猪飼 一仁・小島 有紀子・岸田 洋・松島 徹

NECは、1951年から培ってきたエネルギー事業者向け事業経験を元に、効率的かつ持続可能な社会を作るべくエネルギーマネジメント事業を展開してきました。そのなかで、今回AIを活用するエネルギーサービスである「NEC Energy Resource Aggregation クラウドサービス(RAクラウドサービス)」の提供を開始することとなりました。「RAクラウドサービス」は、バーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業を通して今後VPPの事業化を検討している事業者向けに提供するもので、需要家側にある複数のエネルギー設備を、AIを用いて制御・最適化しデマンドレスポンス(DR)に対応させるものです。


容体変化予兆検知技術による早期退院支援の取り組み

林谷 昌洋・大野 友嗣・久保 雅洋

患者の入院が長引くことにより、社会保障費の増大が懸念されています。患者の退院遅延の原因には、入院中の容体変化による治療起因の遅延や事務的な手続きの遅れに起因する退院調整の遅延などがあります。本稿では、治療起因の遅延の主要因である不穏及び誤嚥性肺炎についての取り組みを紹介します。不穏及び誤嚥性肺炎を検知するために、電子カルテ及びバイタルデータをもとに学習したAI技術を開発しました。これまでは未然検知が難しかったこれらに本AI技術を用いることにより医療従事者の未然介入が可能となり、早期退院につながる見込みを得ましたので紹介します。


予防・健康領域に対するデータ利活用による効果的なアプローチ

田中 博典・田尻 俊宗

日本の少子高齢化が今後も加速し、2040年には国民医療費は66.7兆円になると試算されています。医療費の増大、働き手の減少が社会課題となるなか、予防・健康管理は特に重要視されています。本稿では、AIを用いたデータ分析により、予防・健康管理に対してやみくもに対策を打つのではなく、過去データに基づいた科学的かつ効果的なアプローチへの挑戦を紹介します。主に、従来の統計的手法とAI(異種混合学習)を組み合わせることで、生活習慣と検査値の因果関係をとらえる手法を説明します。


AIを活用したインサイトマーケティング事業の共創

下村 英恵・高木 政志・土屋 博紀・竹井 豊・都丸 涼

デジタルとリアルの境界があいまいになった昨今のマーケティングには、より包括的でより深い消費者理解が欠かせません。NECでは、新時代のマーケティングに必要な、領域横断的かつ深層にまで踏み込んだ消費者理解を実現するソリューションを追究しています。本稿では、株式会社マクロミルとの共創事例を中心に紹介します。マクロミルの有する広範な生活者データとNECのAI技術を組み合わせることで、まさに領域横断的に、消費者理解の真に迫るマーケティングを可能にするサービスを次々と開発しています。


時代のムードを味わえる「あの頃はCHOCOLATE」の開発

伊豆倉 さやか・世良 拓也

NECのAI技術とチョコレート専門店のコラボレーションによって誕生した「あの頃はCHOCOLATE」。新聞記事に含まれる大量の単語をAIが分析し複数の味覚指標値に変換することで、時代のムードをチョコレートの味わいで表現、印象的な出来事があった5年分の味わいのチョコレートを製作・販売しました。本稿では、AIを活用した単語の味覚指標への変換方法について紹介するとともに、人とAIの共創による商品開発の可能性について述べます。

人とともに未来を創る最新のAI技術

あらゆる小売商品を認識可能にする多種物体認識技術

菊池 克・白石 壮馬・佐藤 貴美・鍋藤 悠・岩元 浩太・宮野 博義

近年の労働人口減少によりコンビニエンスストア・スーパーなどの小売業界でも労働力不足が深刻化しており、特に業務負荷の高い決済業務(レジ精算)に対しAIを活用した省力化・無人化の実現が期待されています。本稿では、カメラからの画像認識を用いた決済無人化の実現に向け、小売店で扱うパッケージ品などの定型物から日配品・生鮮品などの非定型物まで、あらゆる商品を一括で画像認識する多種物体認識技術を解説します。また本技術を活用し、来店客が複数の商品を雑然と置くだけの簡易な操作で高速決済可能な、画像認識POSシステムについて紹介します。


ネットワークインフラを活用して実世界を見える化する光ファイバセンシング技術

樋野 智之・青野 義明・ファン ミンファン・田中 俊明・櫻井 均

世界の高速インターネットを支える光通信技術で使用される光ファイバは、情報伝達というその基本機能に加え、周囲の環境変化をとらえる情報収集機能も持ち合わせます。NECは、海底光ケーブルシステムで培った世界最高レベルの光通信技術と最先端のAI技術を組み合わせることで、世界中に神経網のように広がる光通信インフラをセンサーとして活用し、実世界を見える化する光ファイバセンシング技術の研究開発に取り組んでいます。本稿では、光ファイバセンサーの基本原理及びシステム構成と、重要施設への侵入検知/道路交通流の監視/橋梁劣化検知の3つの適用事例を紹介します。


熟練者の意思決定を模倣する意図学習技術

江藤 力・鈴木 康央・中口 悠輝・窪田 大・柏谷 篤

近年、さまざまな業務で人工知能(AI)による自動化が進められています。一般にAIによる自動化は、対象業務における良さや悪さの指標(最適化指標)を設定し、AIにその指標を最大もしくは最小にする意思決定(数理最適化における最適解)を自動で探索させることで実現されます。しかし、属人的な業務ではAIに対する最適化指標の設定が難しく、自動化が困難となっています。本稿では、熟練者の意思決定履歴データから、背後にある「意図」として最適化指標を学習し、その意思決定を模倣することで属人的な業務においてもAIによる自動化を実現するNECの意図学習技術を紹介します。


グラフベース関係性学習(GraphAI)

Mathias NIEPERT・Daniel ONORO-RUBIO・Alberto GARCIA-DURAN・Brandon MALONE・Roberto GONZALEZ・舩矢 幸一・定政 邦彦・副島 賢司・細見 格・森永 聡・Saverio NICCOLINI

私たちが取り扱う分析対象の多くはグラフで表現することができます。それらのグラフはデータポイントを表すノードと、さまざまな関係を表すエッジとで構成されています。例えば、ある患者の診断は、その患者のバイタルや人口統計学的情報だけではなく、患者の血縁者が持つ同様の情報、患者が訪れた病院に関する情報によっても特定が可能です。また、ある新事業の将来業績は、その企業のビジネス指標だけではなく、他の企業や人との関係、それらのネットワークや専門技能によっても予測できます。NEC欧州研究所と中央研究所の共同チームはこの洞察を更に押し進め、グラフで構成する世界をベースとしたグラフベース関係性学習(GraphAI)を追究することで、さまざまなビジネス領域で適用可能な画期的新技術を実現しました。この新技術は、ノード分類の性能を向上するだけでなく、リンク予測やグラフ分類のタスクを実現し、マルチモーダルでかつ不完全なデータソースを統合、更には複雑なAIモデルに「説明可能性」を与えることができます。


時系列データ モデルフリー分析技術

吉永 直生・外川 遼介・網代 育大

時系列データ モデルフリー分析は、ディープラーニングを活用して時系列データの特徴を取り出し、照合できるようにすることで、高速、高精度な状態判別を実現する技術です。既存のデータ分析技術とは異なり、固定的な数理モデルを前提としないため、モデルチューニングの手間を大幅に削減できることが特徴です。本技術をシステムの監視業務に適用することで、現在のシステム状態がいつもと同じで問題ない、あるいは、いつもと違う、過去のあのときと似ている、といった監視員による判断を自動化することができます。本稿では、技術の特徴を説明するとともに、運用監視を含めたユースケースを紹介します。


社会インフラの最適運用を支援する論理思考AI

大西 貴士・窪澤 駿平・定政 邦彦・副島 賢司

NECで取り組んでいるプラント運転支援技術について紹介します。本技術は、プラントの運用手順書や設計情報を知識として用いてプラントの挙動を定性的に推論する論理推論と、プラントシミュレータを環境として用いた強化学習とを組み合わせた技術で、複雑なプラントの最適操作を現実的な時間で学習することが可能となります。本稿では、技術の概略と化学プラントシミュレータを用いた実証結果について紹介します。


少量データ向け深層学習技術

佐藤 敦

近年、深層学習の登場によって、画像認識などのパターン認識技術の精度は、飛躍的に向上しています。高い精度を達成するには、大量データを学習する必要がありますが、実問題への適用を考えた場合、そのような大量データを準備することは難しい場合が多く、限られたデータでどう精度を高めるかが課題となっています。本稿では、少量の学習データに対して効果的な深層学習を行うために開発した、2つの技術を紹介します。1つは、深層ネットワークの構造に基づき、層ごとに異なる正則化の強さを適切に設定する「層ごとの適応的正則化」、もう1つは、中間層で識別が難しい苦手な特徴を生成しながら学習する「敵対的特徴生成」です。手書き数字認識や一般物体認識の公開データセットに対する実験をとおして、その有効性を明らかにします。


AIを支えるコンピューティングプラットフォーム

石坂 一久・荒木 拓也・井上 浩明

AIではデータ量の大規模化やアルゴリズムの複雑化により、膨大な計算性能が必要となっており、特定の用途に特化したハードウェアアクセラレータの活用が重要となっています。多岐にわたるAIの個々の開発者がこれらのアクセラレータを使いこなすのは困難で、フレームワークと呼ばれるアクセラレータをサポートしたソフトウェアも重要となります。本稿では、NECが開発しているアクセラレータをサポートしたことを特徴とする統計的機械学習向けのフレームワークFrovedis、統計的機械学習と深層学習の両者をサポートしたアクセラレータVector Engineを紹介します。