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物体指紋認証技術による個体識別機能の活用

NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の要素技術の1つである「物体指紋認証技術」は、製造工程で自然発生的に生じる製品表面の微細な紋様(物体指紋)により、従来、識別用タグの付与やレーザーマーキングのような特殊加工ができなかったさまざまな物品に関しても、個体の識別を可能とするものです。NECでは、この物体指紋認証技術による個体識別機能を、2016年10月から「GAZIRU個体識別サービス」として提供を開始、現在はオンプレミスに実装した「GAZIRU個体識別エンジン」も提供しています。本稿では、個体識別機能を活用した事例を紹介します。

1. はじめに

企業における製造・流通のグローバル化に伴い、商品の適切な管理・品質保証がますます重要となっています。NECでは、「物体指紋認証技術」1)を活用して、商品管理のためのバーコード、RFIDなどの識別用タグの取り付けや、特殊加工を施すなどの手段を用いることのない、物品そのものによる管理の実現を進めています。本稿では、その取り組みの成果として、製造現場で個体レベルのトレーサビリティを実現する「個体識別情報管理ソリューション」、及び二次流通市場に適用した事例を紹介します。

2. 物体指紋認証技術による個体識別機能について

物体指紋認証技術は、製品・部品の製造過程で自然発生的に生じる個体固有の表面紋様(物体指紋)を撮影し、それら画像を登録・照合することで、個体の識別を実現する技術です。物体指紋は、高精度に切削加工される機械部品や、同一の金型から製造した部品でも、個々に異なる唯一な特徴を持っています(図1)。そのため、微小な部品など、識別のためのタグ付けや表面へのマーキングができない部品であっても、適切な照明条件で拡大した物体指紋の画像をカメラで撮影するだけで、個体を識別することが可能になります(NECの検証環境において、同一金型から製造したボルト1,000本に対し、1,000×1,000の100万回照合を実施した結果、照合ミスが0であることを確認しています)。

図1 物体指紋認証技術

金属のような工業製品に限らず、印刷物や革製品などについても、経年劣化が少なく、形状が変わりにくいものについては、「物体指紋」により一意に個体を識別できます。

NECでは、本技術による個体識別機能を、クラウドで提供する個体識別サービスと、オンプレミスに実装した個体識別エンジンの2つの形態で、「GAZIRU個体識別」2)として提供しています。図2は、個体識別機能の利用方法の概略を、GAZIRU個体識別サービスを例として示しています。ユーザーは自身が作成するアプリケーションから、アプリケーションインタフェース(Web API)を介して、GAZIRU個体識別を利用できます。アプリケーションを搭載したスマートフォンやPCに接続されたカメラにより、管理したい物品の物体指紋を撮影し、事前にデータベースに登録しておくことで、同種の物品が、既にデータベースに登録されているものであるかを、その物品の物体指紋を撮影・照合することで確認できます。

図2 個体識別機能の利用方法(クラウドサービスの例)

3. 個体識別機能の活用事例

本章では、個体識別機能を活用した事例を紹介します。

3.1 製造業向け個体識別情報管理ソリューション

(1) 開発の背景

昨今、製品の品質に起因する重大事故が、消費者はもちろん企業に対しても大きな影響を及ぼしています。品質管理は企業に対する社会要求とみなされるようになってきました。

そのため、多くの企業が、品質問題への対応として、生産に関わるさまざまなデータの管理・分析を細分化する取り組みを始めています。製品に不具合が発見された場合、生産データを早急に確認・解析し、その原因を突き止める必要があります。しかし実際には、データを採取していても、それらのデータと不具合を生じた生産工程が簡単には紐付かないケースがあります。例えば、生産ラインの特性上、工程途中の一時的なストックや抜き取りによる品質検査を実施している場合、個品単位での生産工程追跡は非常に困難です。ロット単位でしか生産データを管理できていなければ、不具合の原因が即座に特定できない、あるいは、安全確保のためロット全数を廃棄せざるを得ず、原因究明に費やすコスト増加や、大量廃棄による生産性低下を招きます。

このような背景から、製品を個体レベルで管理可能な「個体識別情報管理ソリューション」を開発しました。

(2) 生産工程でのトレーサビリティの実現

製品・部品を個体レベルで管理するには、通常、QRコードやバーコード、あるいはICタグなどが用いられます。しかし、部品のサイズや形状により、コードやタグの付与が難しい場合や、製品特性や品質管理の観点から表面への印字が認められない場合があります。

物体指紋技術は画像から個体を判断するため、部品のごく小さな部位であっても、物体指紋の採取に必要な画像が得られれば個体を識別することが可能です。そのため、識別箇所(バーコードの印字場所に相当)の選定に対する制約が少なく、また、個体識別のための加工や接触の必要がないため、それら加工に伴う品質検査工程の再評価が不要といった利点があります。

個体識別情報管理ソリューションでは、物体指紋に基づいて個体IDを管理することで、生産データとともに基幹のデータ管理システムへの蓄積を可能とし、個体レベルでのトレーサビリティを実現します。本ソリューションの流れを説明します(図3)。

図3 個体識別情報管理ソリューションの流れ
1) 物体指紋の登録

生産ラインとのインタフェースは、製造機器の制御に一般的に導入されている、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)を用います。最初の生産工程や、生産管理を開始する所定の位置に部品がセットされると、ライン側ではPLCに撮影指示の信号、及び当該部品の個体IDを発行しセットします。本ソリューションのシステムは、撮影指示に従って、カメラを制御し部品を撮影、PLCから受け取った個体IDと撮像画像をGAZIRU個体識別エンジンに送付し、画像から抽出した物体指紋情報と、個体IDとを紐付けます。

2) 物体指紋による照合

続く各生産工程や検査工程など生産ライン上に設定された照合箇所では、PLCから撮影指示を受け、カメラを制御し、照合用画像を撮影します。画像はGAZIRU個体識別エンジンへ送信され、物体指紋情報を抽出、登録されている物体指紋データと照合することで、紐付けられた個体IDを取得し、PLCに書き込みます。ラインを流れてくる部品そのものを照合し、個体IDを取得するため、途中にシャッフルやストックといったトレースが難しい工程を含む場合でも、設備データや検査結果などの生産データを個体IDとを関連付けて、管理可能となります。

(3) 効果

本ソリューションを活用して、個体レベルでのトレーサビリティを実現することで、製造現場でのさまざまな改善効果が期待できます。例えば、不具合個体の加工条件、検査結果を即座に検索可能となり、原因分析の迅速化が図れます。また、製品組立において、部品の相性で品質にばらつきがでるような場合では、良質な組立品の各部品の生産工程情報を抽出し、相性を生む原因を分析・把握して、相性の良い部品同士の選択で組立直行率を向上するといった効果も期待できます。

ものづくりでは、サプライチェーン全体のデジタル化による、スループット向上や品質管理強化がますます重要となっています。本ソリューションを適用することで、生産現場のデジタル化で得られる効果の拡大に貢献していきます。

3.2 ブランド品と鑑定書の紐付けサービスでの活用事例

(1) 背景

高級ブランド品の二次流通市場は、従来のBtoBやBtoCに加え、インターネットを通じたCtoCなど流通ルートの多様化もあり年々拡大しているなか、模倣品の流通による被害防止や、公平な鑑定に基づく適正な価格での取引が求められています。

通常、高級ブランド品のリユース品の買い取りは、のように行われ、(2)の真贋のみならず、(3)の品質状態(きず、汚れ、変形、においなど)が商品の価値を決める重要な要素であり、その判定・評価(いわゆる鑑定)は専門家が行います。

表 リユース品の買い取りにおける4つのステップ

リユース品の取引は、例えば、所有者→買い取り業者→卸業者→販売業者→購入者といった複数の流通過程を経ます。現状では、業者による買い取りの度に前述の鑑定が必要となり、専門家の工数不足が課題となっています。また、鑑定の結果を記した鑑定書を発行しても、現品と鑑定書のすり替わりや鑑定書の偽造などにより、現品と鑑定書の対応が保証できないといった課題があるため、鑑定書による取引が普及しづらい現状があります。

(2) 「GAZIRU個体識別サービス」による課題解決

これらの課題に対して、画像認識やAIによる学習の活用により、(1)及び(2)を自動化するアプローチが多く見られ、サービスとして提供されているものもあります。しかし、模倣品の製造技術は年々精緻化しており、(3)については専門家による判断が必要なため、最終的には人手による鑑定に頼らざるを得ないという実情があります。また、RFIDなどで現品を識別する方法が考えられますが、それらの取り付けには商品自体に手を入れる必要があり、ブランド品の商品価値を損なうため、すり替わりの課題を解決する手段としては適用できません。

この解決手段として、GAZIRU個体識別サービスを利用して、新たな鑑定サービス「TALグレーディングレポート発行サービス」を構築した、株式会社アプレ様の事例を紹介します3)図4)。アプレ様は貴金属や高級ブランドのリユース品の買い取り/販売事業を手がけており、科学的技法を取り入れた高い鑑定技術により商品の鑑定を行っています。

図4 利用イメージ

持ち込まれるリユース品(図4の例ではバッグ)の真贋及び品質状態を自社の基準で鑑定した結果をグレーディングレポートと呼ぶ鑑定書として発行、その際に、現品の特定箇所の物体指紋を撮影、GAZIRU個体識別サービスを利用して、取得した物体指紋とグレーディングレポートを紐付けて管理します。これにより、登録されたリユース品は、同一ブランドの同一品であっても特別な識別用のタグなどを取り付けることなく、前述した特定箇所の画像を撮影・照合するだけで識別でき、対応するグレーディングレポートを参照することが可能となります。また、現品とグレーディングレポートのすり替わりが発生した場合でも、GAZIRU個体識別サービスで照合することにより、両者が一致していないことが容易に判別できます。

(3) 効果

以上により、第三者の専門家が作成するグレーディングレポートと現品の紐付けを容易に実現することで、これまで取引のつど行われてきた専門家の鑑定の省略もしくは簡易化による工数削減が可能となります。また、グレーディングレポートの発行後に時間が経過し、再鑑定が必要な場合でも、(1)と(2)を行う必要がないことに加え、グレーディングレポートには前回鑑定時点での品質状態が詳細に記録されているため、再鑑定の工数削減が見込めます。更に、BtoB及びBtoCの取引のみならず、CtoCでの取引においても、模倣品・不正品の流通抑止・排除や、適正な価格での取引を促進し、売り手・買い手双方の利益を守る安心・公平な取引の実現と、市場の健全な発展が期待できます。

4. むすび

本稿では、物体指紋認証技術による個体識別機能と、そのものづくり現場と二次流通市場における活用例を紹介しました。特別な識別タグなどを用いることなく個体を管理するニーズは、本稿で示した、製造現場や流通市場に限らず、医療現場や公共機関などのさまざまな領域に存在しており、今後も適用領域の拡大に向けたソリューション化を推進していきます。


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    QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
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    その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

長田 正志
AI・アナリティクス事業部
エキスパート
田村 将弘
スマートインダストリー本部
主任
福澤 茂和
AI・アナリティクス事業部
シニアエキスパート
大西 祥史
スマートインダストリー本部
マネージャー

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