Japan
サイト内の現在位置を表示しています。
Vol.76 No.1 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~
Vol.76 No.1(2025年3月)
記載されている技術は製品に採用されているとは限りません。
製品が掲載されている場合は、販売を終了している可能性がありますので別途ご確認ください。
近年、気候変動の影響や新興国を含めた経済成長に伴うさまざまな環境問題が深刻化し、持続可能な社会への転換が急務となっています。地球温暖化や異常気象に起因する災害による被害が増大するなか、企業や政府は具体的な対策を求められています。特に、温室効果ガス(GHG)削減や資源循環推進などは、国際的な規制強化や経済政策によって推し進められています。
NECグループは「2025中期経営計画」に基づき、財務・非財務の両面を統合的にとらえ、社会・環境への価値提供を行うことを目指しています。社会や企業の環境負荷軽減に向けた取り組みをICTによって支援することで、新たな価値を創出しています。特に気候変動による災害などの影響を軽減する気候変動適応の分野では、リモートセンシングやAIを用いた「NECデジタル適応ファイナンス」を推進し、適応策の導入効果の可視化による資金調達の活性化に挑戦しています。
本特集では、NECグループが長年培った環境領域のノウハウを先端技術と融合して提供するサービスやソリューションにより、社会全体のグリーントランスフォーメーション促進と深刻化する環境問題への対策を支援する取り組みを紹介します。
- ※所属部門名称など掲載情報は2025年3月時点の内容です。
グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~
グリーントランスフォーメーション特集によせて
代表執行役Corporate EVP 兼 CFO
藤川 修
グリーントランスフォーメーションへの取り組み ~NECグループの実践と共創による社会課題解決~
コーポレート事業開発部門 カーボンニュートラルビジネス推進PMOグループ長
石井 健一
NECグループがグリーントランスフォーメーションで果たす使命と可能性
執行役 Corporate EVP 兼 クロスインダストリービジネスユニット長
受川 裕
国際社会経済研究所(IISE)理事 兼 CTO(Chief Technical Officer)
野口 聡一

少子高齢化に悩む日本では2009年から人口減少が始まっていますが、世界的には途上国を中心に人口増加が続いており、各国が経済成長にひた走るなかで、水やエネルギー、食糧の需要は拡大する一方です。こうした負担の増大が地球の環境に異変をもたらし、災害の甚大化や深刻化を招いています。本稿では、NEC執行役 Corporate EVP兼クロスインダストリービジネスユニット長の受川裕とNECグループのシンクタンクである国際社会経済研究所(IISE)理事兼CTOの野口聡一が、NECグループの技術と知見を地球規模でのグリーントランスフォーメーションに生かす取り組みやその狙いについて語り合いました。
NECグループが考える環境経営の姿 ~クライアントゼロとして守りから攻めへ~
執行役Corporate EVP 兼 CSCO
田熊 範孝

近年、地球温暖化が加速し、プラネタリーバウンダリーにおいて複数の環境指標が安全域を超えるなか 、企業は持続可能な地球共生に向けて環境に配慮した行動が強く求められています。NECは「NEC 2030VISION」で環境を重要テーマとして位置付け、自社の環境負荷低減と、製品・サービスを通じた環境貢献の両面から取り組みを強化しています。特に、自社をフィールドに最新のテクノロジーを実践し、そこから得た知見をお客様向けソリューション「BluStellar」へつなげるクライアントゼロの取り組みに力を注いでいます。
適応
気候変動リスクを可視化し、社会のレジリエンスを加速するNECデジタル適応ファイナンス
足立 龍太郎

気候変動の影響の予測は不確実性が高く、適応策の効果を実感するまで長時間を要することから、適応策への資金は不足しがちです。こうした背景を踏まえ、災害の物理リスクや財務影響、適応策の効果を定量的に評価、投資家や企業に情報提供し投資を促す適応ファイナンスが広まりつつあります。一方で、気候変動リスクや適応効果の適切で継続的な評価、その評価に基づいた適応策の投資効果算出には、政策・制度面の充実や、更なる技術・知識の向上など、さまざまな取り組みが必要です。
本稿では、デジタル技術の活用によりリスク評価に必要な情報を取得・生成し、適応ファイナンスの社会実装に寄与する「NECデジタル適応ファイナンス」の取り組みを紹介します。
COP29 における「デジタル技術を活用した気候変動適応の促進」発信レポート
佐藤 美紀・足立 龍太郎・北村 真奈美・増田 一記・佐々木 優人

NECは2023年度よりCOP(Conference of the Parties:気候変動に関する国連気候変動枠組条約締結国会議)において、気候変動の緩和(Mitigation)に比較して投資が遅れている適応領域(Adaptation)における資金循環改善をもたらす「適応ファイナンス」をデジタル技術活用によって推進することを国際社会に提言しています。2024 年11月に開催されたCOP29は「Finance COP」と呼ばれ、気候変動のための資金目標が大きなテーマであったなかで、NECは前回のCOP28に続いて社会実装に向けたNECの取り組みとデジタル技術の活用イメージを発信、多くの賛同を得ました。本稿では、COP29でのNECの発信内容と成果について紹介します。
緩和
企業のカーボンニュートラル実現を支援するGXコンサルティング
山本 英夫・松本 仁志

今後グローバルでのカーボンニュートラル実現に向けた市場環境の継続的な変化により、企業はGXに対する戦略的な対応が必要になります。
NECグループ全体では、企業のGXに伴う組織全体の課題解決を支援するため、「GXプラットフォーム」の提供による企業及び製品レベルでの温室効果ガス(GHG)排出の可視化支援から、「GXコンサルティング」によるGX戦略の策定支援、更に「GHG削減ソリューション」による具体的なGHG排出削減対策の実施支援まで、ワンストップで提供する体制を構築しています。
本稿では、NECグループの提供する「GXコンサルティング」の特徴について詳しく紹介します。
社会のグリーントランスフォーメーションを加速するGXプラットフォーム
長谷川 昭・君塚 政彦・町川 高明

脱炭素と資源循環は現代企業にとって不可欠な取り組みです。これらはグリーントランスフォーメーション(GX)の中核を成し、企業はCO2排出削減と効率的な資源利用を両立させる環境対策が求められています。この対策が進まない企業は、法的罰則や市場競争力の低下、投資家の支持喪失などのリスクに直面する可能性が高まります。NECが提案する「GXプラットフォーム」は、CO2排出量などの環境データを統合管理し、最適な施策を提案することで、企業が持続可能な成長を実現できるよう支援します。
ABG(Activity Based GHG Emission)マネジメント実現にむけて
岡田 和久

日本における二酸化炭素(CO2)排出量の3分の1は、製造業を中心とした産業領域から排出されています。社会的責任の観点から、日本の製造業はCO2排出量の削減活動を継続する必要があります。
製品ごとのCO2排出量を正確に管理するためには、調達や生産などの製品の各プロセスで発生するCO2排出量を詳細に集計する「製品カーボンフットプリント」(製品CFP)が有効です。この方法は、活動基準原価計算のように、プロセスごとに発生するCO2排出量を積み上げて管理する手法であり、NECではABG(Activity Based GHG Emission)と呼んでいます。
本稿では、製品CFP開示の規制動向、ABGで改善サイクルをマネジメントするあるべき姿、その実現に向けた想定課題と、NECがどのように価値提供しようとしているかを紹介します。
生産拠点への再生可能エネルギー導入と効用
横山 浩二・臼井 和昭

NECプラットフォームズでは、自社管理の生産拠点から排出するCO2排出量(Scope 1、2)の削減活動を推進するため、NECグループと連携した目標を設定し、再生可能エネルギーなどを利用した「CO2の実質ゼロ化」に向けた活動を進めています。
このため、中期計画に基づき太陽光発電システムから発電した、いわゆる「生グリーン電力」の導入を進めています。また福島事業所では、お客様からの「製造工程で使用するCO2発生量を可能な限りゼロにしてほしい」との要望を実現するため、2024年6月から使用する電力の再生可能エネルギー化100%実施に切り替えました。
これらの生産拠点で実行した太陽光発電の電力導入拡大に向けた取り組みを紹介します。
量子インスパイアード技術を用いた物流の最適化
泓 宏優・千嶋 博・谷 孔太・白川 佳穂

NECとNECフィールディングは、保守部品の配送計画最適化に量子インスパイアード技術を適用し、2022年10月より本番業務システムとして運用しています。具体的には、東京23区内に保守部品を供給するNECフィールディングの東京パーツセンターにおいて、従来人手で行っていた日々の配送計画業務を、量子インスパイアード技術を適用したシステムを導入し自動化しました。このシステムにより、温室効果ガスの排出量を抑制しながら、業務の効率化とコスト削減を実現しました。本事例のように、量子インスパイアード技術はグリーントランスフォーメーションに貢献することが可能です。
農業DXソリューション「CropScope」による低環境負荷な営農の実現
佐藤 峰斗・山田 真子

NECでは露地圃場向けの農業DXソリューション 「CropScope」 の開発に取り組んでいます。生産者はCropScopeを活用することで、衛星や各種センサーから収集されたデータに基づいて圃場の状況を遠隔かつリアルタイムに把握することができます。更にCropScopeは、収集したデータから最適な水・肥料の施用量や効率的な施用スケジュールを自動的に導出し、その実行までシームレスに行います。欧州の加工用トマト圃場における実証実験においては、水及び肥料をそれぞれ15%、20%ずつ削減しつつ、20%の増収を達成することができました。本稿ではこれらを実現する一連の機能と、CropScopeが貢献しうる環境負荷低減効果について紹介します。
データセンターのグリーン化と省エネ技術
鈴木 敦男

IT社会を支えるデータセンター。NECは長年のデータセンター運用経験を生かし、2024年5月にNEC神奈川データセンター二期棟及びNEC神戸データセンター三期棟を開設しました。本稿ではデータセンターを取り巻く環境への要求とグリーン化に対するさまざまな施策を主軸に紹介します。両センターは省エネ性を追求し、データセンターの省エネ性の主たる指標である“設計pPUE”をトップクラスの1.16に抑えました。昨今ではAIに対する期待が高まり、AIを支えるGPUサーバなどの収容に伴う技術動向などを踏まえて、NECの考えるデータセンターの将来像を紹介します。
サーキュラーエコノミー
プラスチックリサイクルにデジタルプロダクトパスポート(DPP)が果たす役割とそれを支える技術
撫佐 昭裕・阿部 晋樹・小林 宰・高垣 暁・伊東 賢太郎

持続可能な社会を実現するために、循環経済(サーキュラーエコノミー)を目指す取り組みが拡大しています。欧州ではサーキュラーエコノミーを実現するため、デジタルプロダクトパスポート(DPP)が導入されます。日本でも同様の取り組みが進んでおり、NECは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムに参加し、プラスチックの情報流通プラットフォーム、通称PLA-NETJの構築を推進しています。PLA-NETJではNECのトラスト技術を活用することで、データの信頼性を高めた情報流通プラットフォームを提供します。今後対象をプラスチックからさまざまな製品や素材に拡大し、サプライチェーンを情報流通によって支えることで、サーキュラーエコノミーの実現を目指します。
マテリアルズ・インフォマティクスによるプラスチックリサイクルの革新
田中 修吉・山城 緑・遠藤 謙光

本稿では、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術のプラスチックリサイクル分野への適用の取り組みについて紹介します。持続可能な社会の実現に向けて重要度が更に高まっているプラスチックリサイクルの分野に、NECがこれまで取り組んできたMI技術を活用した再生プラスチック製造工程の効率化システムを提案し、プラスチックリサイクラーとその有効性を確認しました。本システムを水平展開することで、プラスチックリサイクル分野に革新をもたらすことを目指しています。
ICT活用による高度なアルミニウム循環経済構築
石田 勝彦・山本 敬之
GX差異化技術
衛星画像解析と大規模言語モデルの組み合わせによる被災時の迅速な状況把握
戸田 真人・先﨑 健太・CHAKRADHAR Srimat・SANKARADAS Murugan・DEBNATH Biplob・MIN Martin Renqiang・COSATTO Eric

近年の気候変動に伴う自然災害の増加に対し、NECは衛星画像と大規模言語モデル(LLM)を組み合わせた解析システムを開発しています。このシステムは、チャット形式での対話を通じて専門知識がないユーザーでも直感的に災害状況を把握でき、迅速な初動対応を支援します。精密な被災分析や、定量的な情報を抽出可能な多数の解析AIモデルを組み合わせた迅速な回答生成が実行できる点が特徴です。将来は、気候変動への適応支援に拡張し、データを活用した詳細な災害リスクの可視化を推進する予定です。
エージェントベースシミュレーションによるグローバルサプライチェーンの持続可能性向上
WANG Haoyu・CHEN Haifeng・佐藤 志幸・WHITE Chris

複雑なグローバルサプライチェーンを持つ現代社会で直面する困難や課題は、私たちに効率性と持続可能性を向上させる課題と機会をもたらしています。直面する課題は、自然災害や予期せぬ事故、異例のビジネス慣行など予測不可能な出来事によって一層深刻化します。気候変動に関する事象の頻度と影響が増大するなか、より高度なモデリング手法の必要性が高まっています。これらのモデルは、リスク軽減と持続可能性向上に焦点を当てることで、気候変動の影響緩和や炭素排出削減への取り組み支援に重要な役割を果たすことが期待されます。
本稿では、強化学習(RL)アルゴリズムの使用により、持続可能性をサプライチェーン運用に直接取り入れ可能にした新しいエージェントベースのシミュレーション手法を紹介します。この手法により、従来のサプライチェーンシミュレーションの限界を超えることが可能となりました。NECが開発したエージェントベースのシミュレーション技術は、炭素排出量を考慮した、持続可能なサプライチェーンシミュレーションシステムです。本シミュレーション技術は、現在は計画中のグリーントランスフォーメーション(GX)の支援を提供する包括的なソリューションにおいて、分析シミュレーションの中核を担うものです。また、本稿では、複数レベルにわたる複雑で不確実性の高いサプライチェーン特性に対応するため、マルチエージェントRL手法の有効性を評価しました。この手法を従来のヒューリスティック手法と比較し、単一及び複数のRLエージェントがサプライチェーンの各段階においてどのようにリスクを管理し、持続可能性を向上させるかを検証しました。その結果、RLベースの手法が従来の手法よりもリスク管理、収益の最大化、及び持続可能性目標達成において優れていることが実験で明らかになりました。
光ファイバセンシングによる洋上風力発電の送電用海底ケーブルモニタリング
水口 弘司・美島 咲子・DING Yangmin

カーボンニュートラル実現施策の1つである洋上風力発電において、電力を洋上から陸上に供給する送電用海底ケーブルは非常に重要な設備であり、常時モニタリングによる損傷リスクの早期発見が期待されています。NECでは、送電用海底ケーブルに内包される光ファイバケーブルを使用し、光ファイバセンシング技術による送電用海底ケーブルの状態モニタリングに取り組んでいます。光ファイバセンシング技術の強みであるセンシングの長距離性・高い距離分解能性と高い環境ロバスト性を生かし、常時モニタリングを低コストに実現します。本取り組みをきっかけに洋上風力発電の普及課題を解決し、2050年のカーボンニュートラル実現に貢献します。
環境負荷を最小限にする弧状推進工法による洋上風力発電ケーブル敷設
中野 康平・今井 健太・君川 俊

2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーとして洋上風力発電の導入が拡大しています。洋上風車で作られた電気は洋上から陸上への電力ケーブルによる送電が必要になりますが、風などの発電環境が洋上風車の設置位置決めで重要視されるため、特に陸揚げ部での既設構造物や沿岸漁業などの障害物への対応が課題となっています。それらの障害を回避する手段として、護岸の既存構造物を壊さず、かつ海底面を開削せずに設置可能な、環境問題にも対応できる弧状推進工法が注目されています。
本稿では、環境負荷を最小限にし、洋上風力発電ケーブルを敷設できる非開削工法の弧状推進工法を紹介します。
ICTによるグリーントランスフォーメーション・ソリューションの展望
藤平 慶太

グリーントランスフォーメーション(GX)は脱炭素社会に向けた経済社会システムの変革であり、イノベーションや新たな投資が進められています。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、GXをより効率的・効果的に進めるうえで両輪となり、これらを一体で進めることが今後のビジネスの主流になっていきます。ICTは、気候変動緩和、適応、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブといった分野でデータ分析や効率化を支援します。環境問題解決に資するICTには、AI、デジタルツイン、リモートセンシング、IoT、ロボティクス、ブロックチェーンなどがあります。GXへのICTの活用により、効率化、正確化、監視・予測、最適化、自動化、情報共有などが促進されることが期待されています。
NEC Information
2024年度C&C賞表彰式典開催
NEC技報 人気コンテンツ
近い将来、AIの普及によって社会のあり方にさまざまな影響が出ることが予想…

AI時代における社会ビジョン ~人々の働き方、生き方、倫理のあり方~
マイナンバーカードは、マイナンバー法に基づき地方公共団体が希望者に交付するICカードです。…

マイナンバーカードに関わる顔認証システムの活用
量子暗号は、将来にわたり解読されるリスクがなく超長期的に情報を保護できる暗号方式で、…

光が導く次世代の暗号技術「量子暗号」
サイバー攻撃は高度化・巧妙化が進み、既存のセキュリティ対策では検知も難しく、…

AI(人工知能)を活用した未知のサイバー攻撃対策
鉄道業では「AI・IoT」を活用した業務変革(鉄道DX)が加速しており、NECは「鉄道輸送」や「旅客サービス」で…

AI・IoTを活用した鉄道業務変革(鉄道DX)