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AIとデータ活用によるデジタライゼーションの拡大

社会に存在するさまざまな事象をデータで把握し、AI・アナリティクスを駆使したデータ活用により、新たな社会価値創造の実現が加速しています。NECでは、AIによる社会価値創造に必要なケイパビリティ、すなわちAI技術、人材、製品サービスを揃えるだけでなく、社会課題を見出し、その解決に向けて、それらリソースを効果的に迅速にお客様に提供することに、より多大な実績を上げています。AI技術は今後も、「見える化」「分析」「対処」という3つの基本的な枠組みで進展し、この3つの領域の技術連携も進むと期待されます。更にAIの説明性を高めるために、「処理の透明性」と「社会の受容性」という2つの視点からの開発が行われ、また、深層学習技術を導入の初期段階から実用的な性能を引き出すために、少量データ学習技術の進化も進むと考えられます。

AI・アナリティクス事業部  事業部長 池田 雅之
データサイエンス研究所 所長 広明 敏彦


1. はじめに

NECでは、ちょうど120年前の1899年の創業以来、世界が直面するさまざまな社会課題に対して不断の取り組みを行い、その時代が必要とした最先端の解決策を常に社会に提供してきました。創業当時は19世紀末の国際的な通信網の確立が喫緊の課題であり、電話網の整備に大きく貢献し、その後も、通信技術を核とした取り組みのなかで、衛星通信、データ通信など情報処理分野へと、その課題解決に必要な技術を発展させてきました。AI(Artificial Intelligence:人工知能)の分野においては、郵便番号自動読取区分機における手書き文字認識に始まり、画像認識、生体認証「Bio-IDiom」へと進化させてきました。またCPU/GPU、ストレージ、ネットワークなどの大幅な処理能力拡大を背景にして、これまでにない大量のデータを処理する最先端AI技術群「NEC the WISE」を発表しています。これらAIの技術はクラウド、IoT、セキュリティなどの技術とともに、より「安全」「安心」「効率」「公平」で人々が豊かに生きる社会の実現に大きく貢献していくことが期待されています。

2. AIの社会実装に向けた取り組み

AIを使ったさまざまな社会課題の解決手法は、今後ますます社会に浸透していきます。その際には、AIは「人と協調する」ことが強く求められると見込まれ、そのためには、AI技術やAIを用いたソリューションだけでなく、AIが人間社会にうまく溶け込むための配慮や、AIをうまく使いこなせる人材を継続的に育成するための仕組みや教育用コンテンツなどが必要になります。

NECは「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を発表し、AIの利用によって差別を生まない、といった基本的な指針を制定し、AIを実装するうえで生じると予想される新たな課題への対策を進めています。また、不足するAI人材への対応として、「NEC アカデミー for AI」の創設など、継続的な人材育成にも取り組んでいます。

NECはこれらの活動を通して、信頼できる「人と協調するAI」を実現し、AIの社会実装を加速させていきます。

3. AIによる社会価値創造の取り組み

NECのお客様(官庁、公共、金融、流通、製造、通信など)は幅広い業種にわたるため、お客様の抱える課題も多岐にわたり、そのためAIの適用によるソリューションも、これらさまざまなお客様の課題の解決に十分資するものであることが求められます。AIによる価値創造の取り組みも、単一の技術への偏りや、特定のテーマのみを対象とするのではなく、お客様の課題に応じてさまざまな手段を活用しながら適切に解決できることが重要となります。これらを背景に、NECではAI・アナリティクスの活用プロセスをフレームワーク化するための社内体制や製品サービスの開発整備を進めてきました。本特集では、課題解決の多様な事例を掲載していますが、それらは次の社会価値創造のプロセスを通して実現しています(図1)。

図1 AI・アナリティクスの活用プロセス

4. AI技術開発の基本的な取り組み技術

ICT技術とディープラーニング技術の進化を背景に、AIの性能が急速に向上した結果、昨今ではさまざまな分野において、AIの本格的な導入が進みつつあります。それでは、AI技術は今後、どのような進化をしていくのでしょうか。

人間の知的活動は、実世界の対象を観察理解し、思考や判断を行い、その結果として何らかの行動を起こすという一連のプロセスとしてとらえることができます(図2)。

図2 人間の知的活動

AI技術は、この人間の知的活動をコンピュータによって実現するものと言え、長年にわたり、世界的に研究開発が続けられています。NECも半世紀以上の技術開発の歴史があり、これまでに顔認証や異種混合学習など数多くの世界初や世界最高水準1)のAI技術を生み出してきました。NECではAI技術を「見える化」「分析」「対処」という領域でとらえ、今後も、AIに関する研究開発は、人間の知的活動のプロセスを踏襲したこの3つの基本的な枠組みで進めていきます(図3)。

図3 複数の技術群とデータを組み合わせることで、社会価値の創造を目指す

この3領域の各技術は、それぞれが単独でも活用が進んでいますが、今後は、3つの領域の技術や機能同士が互いに連携し、更に高度で知的な一連の機能やサービスの実現をとおして、より高い顧客価値を創造することが望まれます。それには、AIの技術群が有機的に連携し機能するためのシステムプラットフォームや、組織を越えてデータを安全に収集蓄積し利活用できるデータマネジメント環境の実現が重要となります。近年、注目を集めているデジタルトランスフォーメーション(DX)も、AIプラットフォーム上でAI機能群が連携しながら、実世界である現場をデジタル的にモデル化し、より高いレベルの予測や最適化制御を可能にするものです(図4)。

図4 デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するシステム構造

NECでは、AI技術の開発や進化を次の2つの方向性で取り組んでいます。第1は、安全な街づくりや品質管理など、ゴールが定まっている問題へのアプローチです。この方向は、機械学習などを活用して自動化や自律化を図りながら、圧倒的な効率化を追求します。技術開発としては、「見える化」の精度向上や広域化、「分析」の高速化や外乱へのロバスト化などを目指します。第2は、経営判断、対人ケア、新製品開発など、これまで人が判断してきたような、ゴールが明確には定まらない問題へのアプローチです。この方向は、AIと人との協調や、AIから人への効果的な示唆の提示など、「知」の高次化への挑戦です。具体的には、従来は専門家が対処してきたような、より複雑な問題や知識が扱えるように、因果律やグラフ構造のデータが扱えるような機械学習、更には、人間の意図を学習するような技術の研究開発を行っています。

5. 人とともに未来を創る最新AI技術

第三次ブームとも呼ばれ、急速に普及が進むAI技術ですが、コモディティ化が進むと同時に、いくつかの大きな問題点が指摘され始めています。その代表的なものとして、AIのブラックボックス性と、深層学習には膨大な学習データを必要とする点が挙げられます。

AIのブラックボックス性の多くは、深層学習技術の特性に起因するもので、具体的には、現状の深層学習技術では、学習後のAIプログラム(モデル)の挙動が完全に予測できず、揺らぎや誤差を含む入力やまったく未知の入力に対して、出力や動作の精度や性能、信頼性などを保証できないことを指します。これらの問題は「AIの説明性(Explainable AI)」として最近注目を集めていますが、「処理の透明性」と「社会の受容性」との2つの視点に分けて考える必要があります。

処理の透明性とは、人がAIの結果を理解しやすく、学習結果に対する入力と出力との間に明確な因果関係や高い再現性があることを言います。NECでは深層学習を用いず、数理的な解釈や理解が容易なホワイトボックスタイプのさまざまな機械学習技術を開発してきました。また、深層学習技術を用いる場合も、挙動や特性が特定できるような使い方をする、例えば特徴量の設計部分にのみ用いる、といった使い方をすることで、性能の高さと処理の説明性との両立を図っています。更に、グラフ構造や時系列データといった新たなデータ構造への取り組みや、学習したモデルの可視化など、人間がAIの挙動や出力結果を理解しやすく、妥当性などを判断しやすくする技術の研究開発にも取り組んでいます。

社会の受容性とは、処理の透明性に加えて、AIの出力結果を人が受容できるよう、人の知見や社会の常識をAIモデルに反映することを指します。例えば、データから学習したAIモデルが、法律や慣習などの面でふさわしくない結果を出力したり挙動をすることが分かった場合、社会的な受容性に問題が生じる可能性があることを結果とともに提示したり、あるいは、適切な結果を出力するように、モデルを直接的に修正するようなことが考えられます。NECでは、論理推論や意図学習といった技術開発を含め、人の考えや知識をAIに組み込みやすくする研究開発を通して、社会受容性の高いAIの実現を目指しています。

また、深層学習技術は、実用的な性能を引き出すには膨大な学習用データを必要とする点も大きな問題です。画像認識の場合では一般的に、1つの認識対象に対して、最低でも1,000枚以上、可能ならば数万枚以上の正解ラベル付けされた画像が必要となります。しかし、実際の利用シーンでは、検討の初期段階でそのような大量の学習データを用意することは困難なことが多く、そこで、なるべく少ない学習データでAIモデルの初期バージョンを立ち上げ、テスト的な運用を通じて学習用データを継続的に収集しながら、追加で学習を行い精度や性能を高める方法が有効です。これを実現するのが少量データ学習技術です。この技術では、従来の半分から10分の1、場合によっては100分の1程度の学習データ量でも、実用上は十分な精度や性能が出ることを目指しています。原理的には、別の学習データや学習済みモデルの転用などによって、学習用データを事実上増強するような効果を得ています。この技術の一部は既に実用レベルにあり、NECの機械学習製品への導入が始まっています。

6. むすび

AIは単なるバズワードではなく、かつて「産業のコメ」と言われた半導体や社会を支えてきた通信や情報処理の技術と同様に、これからのデジタル社会を支える中核技術として、至る所で「人が生きる、豊かに生きる」社会を実現していくことでしょう。前述したような取り組みを通して、AIは更に人に寄り添い、現場の実情に合った実用的な技術として成熟が進んでいくはずです。今後のNECのAI技術の進化にどうぞご期待ください。

参考文献

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