サイト内の現在位置を表示しています。

新たな社会価値を生み出すAI特集によせて

執行役員常務 兼 CTO
西原 基夫
NISHIHARA Motoo

世界の人口増加や都市化に伴う食糧やエネルギー不足、交通渋滞、国内の労働力不足や生産性向上などの社会課題を解決し、一人ひとりがより輝く社会を実現するために大きな力を発揮するのが、AI(Artificial Intelligence:人工知能)です。実世界を「見える化」「分析」「対処」することで、全体最適の観点からさまざまな無駄を省くとともに、更に個々の社会システムを新たな姿に進化させていきます。そのなかで私たち人間は、性別・年齢・人種・障害の有無などに関係なく、すべての人が多様な能力を発揮できるとともに、それを生かせる機会や場が得られるようになります。NECは、このようにデジタル化の進展が隅々まで浸透した社会を「Digital Inclusion」な社会と呼んでいます。

NECは、このような将来社会を見据え、半世紀以上にわたりAI関連の技術に取り組んできました。NEC技報が最初にAI特集を組んだのは1986年のことです。今では、「見える化」「分析」「対処」の各領域で世界最高水準の技術を多数保有しており、最先端AI技術群「NEC the WISE」として体系化しています。「見える化」には、世界No.1の顔認証1)、指紋認証、虹彩認証を始めとするバイオメトリクス技術がありますが、こちらは前回の「バイオメトリクスを用いた社会価値創造特集」で多くを取り上げましたので、本号では、「分析」「対処」を中心に紹介したいと思います。機械学習やデータ分析の技術に相当しますが、NECはこの分野の技術力でも世界のトップクラスで、著名学会での累積の論文採択数で第5位にランクされています。日本企業ではトップの実績となります。

NECのAIの特徴は「ホワイトボックス型」であることです。最近主流のAIであるディープラーニングは、出した答えの理由が分からないブラックボックス型です。一方で、社会課題や経営判断のように答えが1つではない問題を解く際には、「なぜそれを選ぶべきか」という判断根拠が必要になります。人はAIが出したさまざまな示唆に基づき、より高度な意思決定を行うことができるようになります。NECは「ホワイトボックス型AI」のニーズを早くから予見し、2010年頃から研究開発を積み上げてきました。2012年には他社に先駆けて事業化を始めており、プラントの故障予兆検知、製造の需給最適化、銀行の不正取引監視など、さまざまな領域で約160件の事業実績があります。最近「説明可能なAI」の研究開発が盛んに行われていますが、NECでは研究でも事業でも業界をリードしてきました。今では「人と理解し合えるAI」「新たな気づきを提供し、人の能力を拡張するAI」へと発展させています。本号でも、これらの最新研究成果を紹介しています。

今後、AIを更に発展させ、「Digital Inclusion」な社会を実現していくためには、AIの性能や機能を高めるだけでなく、社会受容性や導入容易性を上げていくことも必要です。そのためには、技術開発だけでなく、プライバシーへの配慮、倫理や受容性を鑑みた活用原則・法制度への対応が一層重要となります。NECは、「社会に受容されるAIの提供」に向けて、2019年4月に「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を発表しました。また、AIの社会実装を担う人材不足が世界的な課題となるなか、2013年からAI人材育成に関する取り組みを始め、数多くのAI人材を育成してきました。

今回の「新たな社会価値を生み出すAI特集」では、NECが提供するAIによる社会価値創造の最新事例、「Digital Inclusion」の実現に向けた最先端のAI技術群を紹介します。また、技術論文に加えてAIポリシーや人材育成の取り組みについても紹介します。

本特集をぜひご一読賜りますとともに、引き続き、皆様のご指導、ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

参考文献