サイト内の現在位置を表示しています。

ネットワークインフラを活用して実世界を見える化する光ファイバセンシング技術

世界の高速インターネットを支える光通信技術で使用される光ファイバは、情報伝達というその基本機能に加え、周囲の環境変化をとらえる情報収集機能も持ち合わせます。NECは、海底光ケーブルシステムで培った世界最高レベルの光通信技術と最先端のAI技術を組み合わせることで、世界中に神経網のように広がる光通信インフラをセンサーとして活用し、実世界を見える化する光ファイバセンシング技術の研究開発に取り組んでいます。本稿では、光ファイバセンサーの基本原理及びシステム構成と、重要施設への侵入検知/道路交通流の監視/橋梁劣化検知の3つの適用事例を紹介します。

1. はじめに

光ファイバ網は高速インターネットを支える重要な通信インフラの1つです。NECは光ファイバ通信の黎明期より、この光ファイバ網の構築を支えてきた実績があります。例えば、海底ケーブルシステム事業は1968年に開始し、これまでに太平洋横断光海底ケーブル敷設や端局装置の提供など数多くの実績を有しています1)2)。光ファイバは、情報伝達というその基本機能に加え、周囲の環境変化をとらえる情報収集機能も併せ持ちます。それが光ファイバセンサーです。光ファイバセンサーとは、情報伝達媒体である光ファイバケーブル自体をセンシング媒体とする線形状のパッシブセンサーです。光ファイバケーブル上やその近傍で発生した振動、歪み、温度などの環境変化とその発生位置をとらえることができます。光ファイバセンサーは、光ファイバ通信技術の進展に支えられその性能を向上させてきました。そして昨今、AI技術の急速な進化により、センサーで取得したデータをAIで分析し学習することで、実世界をより深く見える化できるようになってきました。本稿では、第2章において光ファイバセンシング技術の概要とNECの技術の特徴について説明し、第3章において実世界の見える化事例を3つ紹介します。そして第4章で本稿をまとめます。

2. 光ファイバセンシング技術の紹介

光ファイバセンサーの基本原理とシステム構成を図1に示します。情報伝達媒体である光ファイバケーブルをセンサーとして機能させるため、光ファイバケーブルの片端にセンシング装置を接続し、もう片端はセンシング信号の反射を抑制する終端処理を行います。センシング装置から光ファイバに対して、短い時間幅を持つセンシング信号を入力すると、光ファイバ上のすべての位置から微弱な戻り光が生じます。センシング装置は、その微弱な戻り光を時系列に観測します。光ファイバケーブル上で、振動/歪みの印加や温度変化などの環境変化が発生した場合、その環境変化によって光ファイバを構成する石英ガラスの構造及び特性パラメータが変化します。それに伴って戻り光の信号品質(光強度など)も、生じた環境変化に依存して変化します。発生場所は、センシング信号を入力してから、品質が変化した戻り光を観測するまでの往復時間から算出し特定します。このように観測場所は時間で分離されるため、複数の地点の同時検知も可能です。センシング信号は、光ファイバケーブル最遠端からの戻り光と次の入力センシング信号光が混在しないように一定の繰返し周波数で入力することで、同場所における環境変化の推移を観測できます。

図1 光ファイバセンサーの基本原理とシステム構成

NECの光ファイバセンシング技術の特徴は次の2点です。

  • センシングの長距離性 / 高い距離分解能性:
    海底光ケーブル通信で培った光信号の増幅技術と感度を向上させる光送受信技術を応用することで、数十kmの長距離を数mの高い距離分解能で検出することを可能とします。1台のセンシング装置でカバーできる距離が長いことは、広域の監視用途になるほど、強みになります。
  • 高い環境ロバスト性能:
    光ファイバセンサーで取得したデータをAIで分析し学習することで、環境ノイズの分離や詳細な事象の識別を可能とします。これにより、必ずしもセンシング用途に光ファイバを新設する必要はなく、既設の光通信インフラを活用したセンシングが可能となります。

3. NECが取り組む実世界の見える化事例の紹介

次に、光ファイバセンシング技術の適用事例を3つ紹介します。

3.1 重要施設の侵入検知

1つ目の事例は、重要施設における不正侵入の検知です(図2)。広大な敷地を有する空港や発電所などの重要施設では、敷地の外周をすべて監視するためには多数の監視カメラが必要になるため、監視コストの低減はお客様の重要なニーズとなります。光ファイバセンサーは、施設の外周フェンスに沿って光ファイバケーブルを敷設するだけで、侵入行動によって発生する振動を検知できるため、カメラによる監視を補完する低コストな広域監視手段として期待されています。この侵入検知の用途で課題となるのが、誤報の低減です。誤報とは雨や風、非侵入行動、小動物などに起因して生じる振動を人間の不正侵入と誤って検知することです。通常は発報するしきい値を下げることで誤報を低減しますが、これは失報率とトレードオフの関係にあります。

図2 重要施設の不法侵入検知

NECは、高い距離分解能を有するセンシング技術とAIによる分析/学習技術とを組み合わせることで、誤報の原因を特定し除去することに取り組んでいます。これによりしきい値を変えることなく侵入監視で問題となる誤報を解消します。図3に監視エリアにおける人間行動の見える化の取り組みを紹介します。これはフェンスに取り付けた光ファイバケーブルにより、フェンス近傍での人間の行動をセンシングしたものです。フェンスに対する行動の違いによって、光ファイバセンサーで検知される振動パターンは大きく異なります。これらの振動パターンをAIで分析し学習することで、フェンス近傍での人間の行動を推定することも可能になります。

図3 侵入行動による振動パターンの違い

3.2 道路交通流の監視

2つ目の事例は、道路脇に既設されている通信用光ファイバによる車両の交通流監視です3)図4に高速道路への適用例を示します。現在の高速道路の交通状況は、交通量計やCCTV(closed-circuit television)カメラによるスポット観測のため、交通事故の早期発見や渋滞など広域状況変化の捕捉精度に課題があります。そこで、NECは高速道路脇に既設されている光ファイバインフラに注目し、光ファイバセンシング技術によりインフラ側から車両の走行振動を連続的にとらえることで、高速道路全線の交通流を俯瞰的に監視することに取り組んでいます。AIにより交通流の軌跡から平均速度を高い精度で推定するなど、長距離区間でも詳細に状況把握できる点がNECの特徴です。車両の走行軌跡は、横軸を距離/縦軸を時間で表すと図5に示す速度の傾きを持つ線で表現されます。急な傾きは渋滞を意味し、ゆるやかな傾きは順調な交通の流れを意味します。傾きの正負はセンシング装置に対する車両の走行方向によって決まります。

図4 高速道路の交通流監視
図5 走行車両の振動軌跡

図6に高速道路事業者様と実施した交通流監視の実証実験の結果を報告します4)。これは東名高速道路の清水ICから沼津ICまでの45km区間で交通流を実測した結果です。横軸が距離で縦軸が時間(5分間)の走行軌跡となります。東名高速道路の光ファイバケーブルは、上下線路肩部や中央分離帯部など区間ごとに敷設場所が異なるため、観測される車両の走行軌跡も区間ごとに異なります。この走行軌跡データは100msごととほぼリアルタイムに更新され、45kmの実証区間全線で交通流の実測ができることを確認しています。

図6 東名高速道路(45km区間)における走行軌跡

NECでは、この走行軌跡から車両平均速度を推定するため、走行軌跡の画像をAIに学習させることで、高精度に車両平均速度を推定することに取り組んでいます。図7に走行車両の平均速度を推定する手法を示します。距離と時間で表される走行軌跡画像の教師データを多数創出し、それを学習させ精度の高い推定モデルを構築します。これにより実際の走行軌跡画像から平均速度を算出する精度を向上させています。これまでに、光ファイバセンサーにより算出された平均走行速度は、交通量計(ループコイル)のデータに対して85%以上の高い精度を有することを確認しています。

図7 車両平均速度の推定手法

3.3 橋梁の劣化検知

3つ目の事例は、橋梁の劣化検知です(図8)。橋梁に敷設された光ファイバケーブルを利用して鉄道車両走行時の振動を観測し、振動特性の変化をモニタリングすることで、従来人手に頼って点検していた橋梁の劣化状態を機械的に自動検知できる技術を確立すべく実証に取り組んでいます。

図8 振動計測による橋梁劣化検知

鉄道会社様のご協力のもと、橋梁の改修前後で、光ファイバセンサーで観測される振動特性を分析し、橋梁状態の分類が可能かどうか、実証実験を行いました。実験では、列車通過後の減衰自由振動を切り出し、試験橋梁で強く観測された特定の周波数域を抽出して、RAPID機械学習5)の1クラス分類(異常検知)機能を用いて、正常状態(改修後)のモデルからの逸脱度合いを異常度として出力しました。図9に改修前後の異常度の分布を示します。出力された異常度について、改修前と改修後で明らかな差異が認められることから、異常度をもとに橋梁状態の分類が可能であることを確認できています。

図9 橋梁改修前後の異常度の差異

4. むすび

本稿では、NECが取り組む光ファイバセンシング技術の概要とその事例について説明してきました。光ファイバインフラは世界中に神経網のように広がり、日常生活に欠かせないものになりました。NECは、世界最高レベルの光通信技術と最先端のAI技術を組み合わせることで、この光通信ネットワークの既存インフラをセンサーとして活用し実世界を見える化する研究開発に取り組んでいきます。

参考文献

執筆者プロフィール

樋野 智之
データサイエンス研究所
主任研究員
青野 義明
第一ネットワークソリューション事業部
シニアマネージャー
ファン ミンファン
NEC Laboratories America
Researcher
田中 俊明
セーファーシティソリューション事業部
部長
櫻井 均
スマートインフラ事業部
シニアエキスパート