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AIを有効活用する「NEC Energy Resource Aggregation クラウドサービス」

NECは、1951年から培ってきたエネルギー事業者向け事業経験を元に、効率的かつ持続可能な社会を作るべくエネルギーマネジメント事業を展開してきました。そのなかで、今回AIを活用するエネルギーサービスである「NEC Energy Resource Aggregation クラウドサービス(RAクラウドサービス)」の提供を開始することとなりました。「RAクラウドサービス」は、バーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業を通して今後VPPの事業化を検討している事業者向けに提供するもので、需要家側にある複数のエネルギー設備を、AIを用いて制御・最適化しデマンドレスポンス(DR)に対応させるものです。

1. はじめに

昨今、日本では電力を市場で取り引きしており、発電の計画値に対して不足する電力量(kWh価値)を取り引きする卸電力市場が開設されています。これに加え今後は、国全体で必要となる供給力(kW価値)を取り引きする容量市場と呼ばれる市場と、需給バランスの変動への対応、電力の周波数維持などのための調整力(△kW価値+kWh価値)を取り引きする需給調整市場が新たに創設されます。この需給調整市場は、発電出力の変動が大きい再生可能エネルギーの主力電源化1)を実現するうえで極めて重要な役割を担います。

調整力市場は、2021年度を目途に創設2)が検討されており、これまでエリアごとに調達されていた調整力が、全国大の需給調整市場により調達されることになります(図1)。

図1 需給調整市場の概要

今後、既存の事業者及び新しいエネルギー設備を有する新たな事業者が需給調整市場に参加することで、需給調整市場が活性化し、調整力がより安価に調達・運用できるようになることが期待されています。

2. お客様の要望で実現した「RAクラウドサービス」

NECは、2016年度からスタートした「需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業」(図2)に参画しています。この構築実証事業は、需要家である企業や家庭などが保有する蓄電池、発電設備などのエネルギーリソースを新たなエネルギーマネジメント技術により遠隔・統合制御し、需給調整力を創出するための取り組みで、あたかも1つの発電所のように機能させ、電力の需給調整に活用する実証を行うことを目的としています。図2に示すリソースアグリゲーター(RA事業者)は、需要家とサービス契約を直接締結して、需要家の制御可能な電力を束ね、リソース制御を行うエネルギー事業者のことであり、実証における中核になります。またアグリゲーションコーディネーター(AC事業者)は、RA事業者が制御可能な電力量を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者との間で電力取引を行う役割を担っています。

図2 VPP構築実証事業のイメージ

NECは、この構築実証事業に取り組むなかで、需要家の電力を束ねて調整力を作り出すためのサービス提供の要望を、多くのRA事業者から受けました。そこで2019年11月よりこれまでの実証事業で構築してきたシステムをベースにAIを活用するエネルギーサービスである「NEC Energy Resource Aggregation クラウドサービス(RAクラウドサービス)」の提供を開始いたします。

3. サービス提供の仕組みとクラウドサービスのメリット

「RAクラウドサービス」では、制御するエネルギーリソースをあらかじめクラウド上に登録したうえで、RA事業者が保有するエネルギー設備管理システムを通してさまざまな情報を受信します。これらの情報をもとに、クラウド上でエネルギーリソースごとに最適な制御内容を決定し、調整力を創出することができます(図3)。更に本サービスの特徴として、AIを用いることで、より精度の高いエネルギーリソースの制御を行い、正確な調整力の創出を実現します。

図3 「RAクラウドサービス」の提供の仕組み

現状、電力広域的運営推進機関で検討されている需給調整市場の制度設計3)の進捗に合わせてRA事業者に対する要求仕様は更新されます。「RAクラウドサービス」では常にこれらの要件に対応していくため、NECのAI技術を活用した最新のRA事業者向けクラウドサービスをご利用いただくことができます。

4. 「RAクラウドサービス」の提供機能について

本章では、「RAクラウドサービス」が提供する機能について紹介します。「RAクラウドサービス」の主な機能は、(1)外部システムとの連携機能、(2)エネルギーリソースの管理機能、(3)AIを活用したRA機能に分類されます。

4.1 外部システムとの連携機能

RA事業者が、需要調整市場で取引を行うためには一般送配電事業者と電力取引を行う役割を担っているAC事業者のシステムと連携する必要があります。図4は、外部システムであるAC事業者のシステムとの連携を示しています。連携に使用されるプロトコルは、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するサイバーセキュリティガイドライン4)に準拠してOpenADRに対応しています。連携する情報はAC事業者ごとに設定されますが、本サービスでは図4に示す情報を送受信することが可能です。

図4 外部サーバ連携機能

4.2 エネルギーリソースの管理機能

「RAクラウドサービス」では、管理者画面からRA事業者が管理するエネルギーリソースの情報をクラウド上に登録することができます。リソース登録情報を図5に示します。リソース1台ずつ、管理者画面に表示された項目について入力・登録することで、状態管理、制御、制御実績管理を行うことができます。

図5 クラウドに登録するリソース情報

本サービスではリソースの設置情報も登録することができるため、エリア単位で管理が可能となり全国の複数のAC事業者と連携することができます。

4.3 AIを活用したRA機能

登録された複数のエネルギーリソースの特徴や運転条件、リソースから収集したさまざまなデータを考慮して、AC事業者からのDR指令に基づきエネルギーリソースを制御するのがRA機能となります。

4.3.1 リソース状態把握(データ収集)

より高品質な調整力を創出するためには、精度の高いリソースの状態を短時間に把握する必要があります。そのためエネルギー設備管理システムから図6に示す、エネルギー設備の設定値、状態、入出力電力、需要の情報を取得します。これらの情報をもとに、ベースラインの算出、エネルギーリソースの制御可能量算出に使用します。ベースラインは、リソースを制御しなかった場合に想定される需要を、収集した需要の情報からあらかじめ算出したものです。

図6 エネルギー設備管理システムから収集するリソース情報

4.3.2 AIを用いた需要予測、制御可能量計算

DR指令は、ベースラインを基準にしてどれだけ需要を「下げる」のか、もしくは「上げる」のかで示されます。図7にリソース制御のイメージを示します。ただしリソースを制御しようとしているタイミングでは、実際の需要とは誤差が生じます。また、リソースの制御においても、リソースの特性やそのときの状態などにより必ずしも指示したとおりの制御ができるとは限りません。そのため、DR指令どおりの制御を行うためには、これらの誤差などを吸収するようにリソースに制御の指示を与える必要があります。

図7 リソース制御のイメージ

「RAクラウドサービス」のAIは、過去の制御実績を学習し、過去のベースラインの予測精度の評価を行います。また、学習結果に基づき、ベースラインと実際の需要との間の誤差や、リソースの特性などに起因する制御誤差を補うように、リソースに対する制御の適切な補正量を求め、より制御の精度を高めます。

将来は前述した内容に加え需要に影響するようなイベント情報や気象情報なども加味し、より精度の高い制御を行えることが期待されます。

4.3.3 制御指示機能

図8に制御指示機能について示します。制御指示機能では、AC事業者からのDR指令を管理します。DR指令の内容と、リソース状態やあらかじめ算出しておいた制御可能量とをマッチングし、各リソースに最適な指令値を振り分けます。その際、第4章3節2項で説明したAIによる制御誤差を補うように補正量を加え、各リソースに対して制御の指示を行います。

図8 「RAクラウドサービス」の制御指示機能

5. 終わりに

本稿で紹介した「RAクラウドサービス」は、需要予測、制御可能量計算、制御指示といったRA機能を、AIを活用することで実装し、精度の高い調整力の実現に寄与することができます。今後NECは、クラウドサービスの利点を生かし常に最先端のAI技術を導入し、より精度の高いサービスをすべてのお客様に提供していくことを目指しています。一方、多数に分散するエネルギーリソースの状況を的確に見極め制御する技術は、エネルギー以外の領域にも活用が可能です。今後、エネルギー領域からインフラ維持やリソース再活用領域などで社会価値を提供してまいります。

参考文献

  • 1)
    経済産業省資源エネルギー庁:第5次エネルギー基本計画,2018.7
  • 2)
    電力広域的運営推進機関:需給調整市場において新たなリソースに期待すること,2018.12
  • 3)
    電力広域的運営推進機関:第6回 需給調整市場検討小委員会 資料2 商品要件の見直しについて,2018.10
  • 4)
    経済産業省資源エネルギー庁:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するサイバーセキュリティガイドライン Ver1.2(原案),2019.3

執筆者プロフィール

田村 徹也
スマートエネルギー事業部
エグゼクティブエキスパート
猪飼 一仁
スマートエネルギー事業部
主任
小島 有紀子
スマートエネルギー事業部
マネージャー
岸田 洋
スマートエネルギー事業部
シニアマネージャー
松島 徹
スマートエネルギー事業部
エグゼクティブエキスパート

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