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AIを活用したインサイトマーケティング事業の共創

デジタルとリアルの境界があいまいになった昨今のマーケティングには、より包括的でより深い消費者理解が欠かせません。NECでは、新時代のマーケティングに必要な、領域横断的かつ深層にまで踏み込んだ消費者理解を実現するソリューションを追究しています。本稿では、株式会社マクロミルとの共創事例を中心に紹介します。マクロミルの有する広範な生活者データとNECのAI技術を組み合わせることで、まさに領域横断的に、消費者理解の真に迫るマーケティングを可能にするサービスを次々と開発しています。

1. はじめに

昨今、マーケティングのあり方が大きな変化を迎えています。オンラインとオフラインの境界線はなくなりつつあり、小売店から金融業、メーカーまであらゆる企業が、いかに消費者を理解するかという課題に否応なしに直面しています。また、マーケティングテクノロジーはECを中心に発展してきましたが、デジタルとリアルという区別があいまいになった現在、デジタルに立脚する従来の手法だけでは消費者インサイトを大きく見誤りかねません。

本稿で紹介するインサイトマーケティング事業は、まさにこの激動のマーケティング領域において、必要な、新しい、そして真に迫る消費者理解を、NECのAI技術で可能にしようとするものです。

第2章ではNECの考えるインサイトマーケティングとは何かを説明し、第3章で本事業の要である株式会社マクロミル(以下、マクロミル)との共創とその狙いについて紹介します。第4章では具体的な事業内容について述べ、第5章で今後の展望を本稿のまとめとします。

2. NECの考えるインサイトマーケティング

多くの消費者がモバイルデバイスを使いこなし、時間や場所の制約から解放されて、商品・サービスやチャネルの選択の自由度は飛躍的に拡大しています。その結果、企業にとっては、消費者に選ばれるための競争が今までになく苛烈になりました。各社が保有データを活用し、消費者インサイトを獲得しようと取り組んでいます。しかし、マーケティングでのデータ活用は明らかにまだ発展の途上です。

NECは、各企業が「特定の領域だけのデータ」を用いてしまうことが、マーケティングデータ活用の1つの限界であると考えています。人は特定のリテールチェーンだけで買い物をするわけではありませんし、そもそも常に買い物だけをして生きてはいません。特定の企業が自社の保有データだけから消費者理解をしようとしても、見えるのは消費者の一側面にすぎず、そこには必ず限界があります。

もう1つ、「表面的・意識的なデータ」に留まりがちな点に限界があると考えています。購買履歴などのデータは非常に価値を持つものの、その裏側の購買動機などの、より深いインサイトまでは分からないことがあります。

マーケティングのデータ活用の2つの限界を乗り越えるためには、「個人」を領域横断的に、そして無意識レベルまで深く理解するデータと分析が不可欠です。これをAIの力で実現することが、NECのインサイトマーケティング事業の狙いです。

3. 共創

真の消費者理解を実現するため、NECはマクロミルとの共創の道を選びました。

マクロミルはマーケティングリサーチ業界をけん引するトップ企業の1社であり、19カ国1,000万人以上のパネルネットワークを有し、本人の同意を得た生活者データを収集しています。デモグラフィック情報、アンケートデータ、Webアクセス情報、日々の買い物を記録してもらった購買データ、更には脳波データに至るまで、膨大かつ多面的なデータ資源を有し、これらを活用して市場ニーズなどのリサーチを行い、商品開発のアイデアや販売促進策の提案、新しいマーケットの開拓を支援することがマクロミルのビジネスです。ユニークかつ先進的なデータ資源をより一層価値あるものにするために、マクロミルはセンシングやAIなどの更なる技術アセットを必要としていました。

一方、NECが有するNo.1,Only1のAI技術のなかにはマーケティング領域と非常に相性の良い技術があることは以前から分かっていたものの、BtoBにビジネスの主軸を置くNECには生活者データがありませんでした。

マーケティングのためのAI技術と生活者データ。お互いの強みがかみ合い、両者のアセットを有効活用して新たなマーケティングインサイトを生み出す、非常に強力な協業関係の構築に至りました。

協業でこそ可能になるソリューションが既に生まれてきています。第4章で具体的な事業内容を紹介します。

4. 具体的な事業

マクロミルとの共創を通じて、(1)生体情報を活用した会場調査サービス、(2)AIを活用した生活者購買を予測するサービス、(3)「dotData」を活用したAI分析サービス「D-Profile」、が既にサービスを開始しています。

(1)生体情報を活用した会場調査サービス(図1

図1 生体情報を活用した会場調査サービス

マクロミルの実施するリサーチサービスのなかに、会場調査というものがあります。疑似店舗にモニターを集めて、新商品のプロトタイプなどを陳列し、棚前での行動やパッケージ評価などを行って商品の受容性を検証するためのリサーチです。

会場調査においてNECのAI技術「遠隔視線推定技術」を活用し、生体反応を定量的に測定するのが本調査サービスです。本調査サービスでは、棚前テストと個別パッケージテストにて「遠隔視線推定技術」を用いています。

店頭の棚を再現して新商品を評価する棚前テストでは、モニターが新商品に注目していたかどうかが、重要な調査項目となります。人間の調査員がモニターの視線を観察する場合、どうしても推定はざっくりとしたものになります。そこで正確なアイトラッキングを行おうとすると、従来はゴーグル型などの視線測定装置をモニターが着用する必要がありました。しかし、NECの「遠隔視線推定技術」を用いれば、専用の測定装置の装着不要で、正確な視線を推定することができます。

NECの「遠隔視線推定技術」は、通常のカメラのみから高精度に視線方向の検知が可能な技術です1)。世界No.1のNECの顔認証技術2)の中核となる顔特徴点検出技術を応用した技術であり、専用装置不要・離れた場所からでも検知できるといった特徴があります。本技術を活用することで、より自然な状態で調査を実施することができます。

一方、個別パッケージテストでは、NECの視線推定に、マクロミル傘下株式会社センタンの脳波センシングを組み合わせることで、視線の先にあるデザイン要素がポジティブ・ネガティブのどちらに働くかが分かります。これらの調査から、消費者の興味を引く度合いとなるエンゲージ力を、視線の推移と心理面の両面で指標化することが可能です。

なお、本サービスは先行して2018年9月に実証実験を実施し、従来のアンケート調査では明らかにすることが困難だった、「最初に商品のどこを見たのか」「どの商品と比較したのか」、更には「それがネガティブ・ポジティブのどちらに働いたのか」などの商品選択過程における生活者のリアルな反応を把握できることが実証されています。

これはまさに、マーケティングデータ活用の限界であった「表面的・意識的なデータ」の壁を乗り越えるものです。NEC the WISEのセンシングテクノロジーをマーケティングに用いることで、より深く真に迫る消費者行動・心理の理解が可能になるのです。

(2)AIを活用した生活者購買を予測するサービス(図2

図2 AIを活用した生活者購買を予測するサービス

NEC the WISEの「顧客プロフィール推定技術」でマクロミルの生活者データ(購買データ)の不足項目を補完し、約10万人規模まで拡充したデータを販売するサービスです。

企業がマーケティング戦略を考えるにあたって、幅広い購買者データは不可欠です。しかし、新商品や購買頻度の低い商品など購買量が少ない商材の場合、購買パネル数が少なく、データ不足で十分な分析ができないという課題に直面することがあります。また、DMP(データマネジメントプラットフォーム)で自社の保有する複数データと掛け合わせ分析を行うシーンでも同様の課題が発生します。

NEC the WISEの「顧客プロフィール推定技術」は、NEC独自の関係マイニング技術で、データの欠損部分を高精度かつ全自動で推定・拡張する技術です3)。既存データの傾向を把握して、データを数倍に拡大したり、データの欠損部分を推定したりすることができます。本技術はアカデミアでも高い評価を得ており、データマイニングの最難関国際会議の1つであるICDM 2017において、採択率わずか9%の口頭発表に選ばれました。

本技術を活用することで、詳細なプロフィールと購買履歴のある一部のパネルデータから学習し、購買履歴のないパネルでも、購買を高精度に推定・拡張することが可能になります。マクロミルは現在保有する家計調査サービスMHSの約2万人のデータに加え、本サービスで約15万人分のデータを推定拡張。購買を起点とした消費者理解や広告のプランニング、DMPの構築ニーズなどに応えます。

これはまさに、マーケティングデータ活用のもう1つの限界であった「特定の領域だけのデータ」の壁を乗り越えるものです。NEC the WISEのAI技術を用いることで、領域横断的なマクロミルの生活者データの価値を更に高め、より多角的な消費者理解を可能にします。

(3)「dotData」を活用したAI分析サービス「D-Profile」4)

「D-Profile」は、NECが提供するデータ分析プロセスをAIによって自動化するソフトウェア「dotData」を用いて、マクロミルが保有する多様な生活者起点の横断的なデータ(年齢などの属性情報、購買履歴、アクセスログなど)を分析し、顧客に特徴的な属性や行動特性などを明らかにするものです(図3)。本サービスは先行して複数社へ2018年12月より提供を開始しています。

図3 「dotData」を活用したAI分析サービス「D-Profile」

本サービスの活用により、企業は自社で、データ収集・蓄積、分析ツールの導入、分析専門人材の確保などをしなくてはならないという課題を解決するとともに、属人的な分析からの脱却、そして複数種類の大量データを同時に分析することが可能となります。これまで発見が困難だった企業が求める新たな生活者像を、領域横断的な分析によって発掘することが可能となる、これまでになかったまったく新しいサービスを実現しています。

また、生体情報を活用した会場調査サービスのような「深いデータ」と、AIを活用した生活者購買を予測するサービスのような「幅広いデータ」に「dotData」を活用し、消費者を軸として包括的に分析することも可能になるでしょう。こうして、「特定の領域だけのデータ」による壁も「表面的なデータ」による壁も乗り越えた、領域横断的かつ深い、真に迫るマーケティングの実現を目指します。

5. おわりに

これらのサービスは、NECのAI技術をマクロミルのアセットと組み合わせたマーケティングソリューションのまだ一部にすぎません。真の消費者理解という大きな目標の実現に向け、本稿で紹介した以外のAI技術も活用した複数の企画・検証をすすめています。その1つが、リアルな店舗での実際の消費者行動を徹底的にセンシング・分析し、「消費者がなぜその選択をしたか」つまり店頭の購入プロセスを紐解くサービスです。

第4章1節の会場調査サービスでは、上市前の新商品に対する消費者の本音の反応を、生体情報から見出します。更に上市後、店頭での消費者の反応も得ることで、店の環境要因なども受けた、リアルな購入プロセスのモデル化が可能です。上市前後、それぞれの消費者反応のデータベースとモデル構築サイクルを相互に深めていくことで、いずれは「誰が、どんな商品に、どういった反応をするか」を予測するモデルが得られるかもしれません。これまでとはまったく別次元の消費者インサイトから、なぜ買ったのか/買わなかったのかを明らかにし、選ばれる商品づくり・店頭づくりができるようになれば、メーカーにも小売業にも、極めて大きな革新をもたらしうるものになります。

NECは本共創を通じ、消費傾向や消費者の価値観を反映した、マーケティング活動に役立つデータ・分析を企業へ提供します。これによって、個々の企業が独自のデータを保有・活用するだけでなく、安全・安心なデータ流通を通してさまざまなデータを融合・活用できる状況をサポートし、個々の生活者にフィットした価値や豊かさを追求・享受できる社会の実現を目指します。本共創は、NECの先端技術の可能性を広げ、マーケティングを革新していくためのビジネスプラットフォームとなることでしょう。

参考文献

執筆者プロフィール

下村 英恵
コーポレート事業開発本部
高木 政志
コーポレート事業開発本部
シニアマネージャー
土屋 博紀
コーポレート事業開発本部
エキスパート
竹井 豊
コーポレート事業開発本部
エキスパートデザイナー
都丸 涼
コーポレート事業開発本部
主任

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