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グローバルレベルでのシステム標準化/統合化は何が大変か

コラムで学ぶデータ活用

新見さんは、ふと思いました。「2025年の崖」で聞いた全社横断的なデータ活用が必要だとしたら、海外進出をしている企業は、現地法人もその対象になるはずだと。はたして、グローバルベースでシステムを標準化/統合化するなどというのは可能なのか。
古田先輩に聞いてみるとなかなか大変なようです。

「グローバル対応」についての学びポイント!

  • システム標準化/統合化のパターンごとにメリット、デメリットがあり、総合的に判断してどのパターンで進めるか検討が必要。
  • 「日本は世界の例外」であり、日本との違いを理解してプロジェクトを進めていかなくていけない。
  • グロ-バルプロジェクト成功のカギは、人材育成と強力なトップダウン。

新見さんメモ

グローバルベースでのシステム標準化/統合化パターン

「2025年の崖」でお聞きした全社横断でのデータ活用ですが、海外に進出している現地法人も対象になりますよね。

新見さん

いいところに気がついたね。データ活用を考えるうえで、グローバルでシステムの標準化/統合化を考えるということも重要なテーマだ。
まず、システムの標準化/統合化パターンについて整理しておこう。これまでの経験だと、システム標準化/統合化には大きく3つのパターンがあるといえるかな。

No パターン 内容 イメージ
1 情報系
統合
基幹系システムは各会社個別に構築し、情報系システムのみ統合を実現する。
(データは変換し収集するしくみ)
2 基幹系統合
(分散型)
グローバルモデルのテンプレートを構築し、各社はこのテンプレートをベースに、各社個別要件を追加構築し展開する。
3 基幹系統合
(集中型)
2と基本同じだが同一プラットフォーム(ワンインスタンス)上に実現し展開する。

図1 グローバルベースでのシステム標準化/統合化パターン

それぞれメリット、デメリットがあり、総合的に判断してどのパターンで進めるか検討が必要だ。具体的なメリット・デメリットはこんな感じになるだろう。

No パターン メリット・デメリット
1 情報系統合 <メリット>
  • 早く、安く、しくみを構築できる
  • 現地法人の抵抗なし
<デメリット>
  • 変換マスタを用意する必要があり、それを維持管理しなければならない
  • データ精度と鮮度が低くなって、使われなくなるリスクがある
2 基幹系統合
(分散型)
<メリット>
  • 柔軟な構築・展開が可能
  • 業務メンバおよび現地法人の抵抗少ない
<デメリット>
  • 複数システムからのデータ収集する必要がある
  • 複数マスタ・アプリ(プログラム)を維持しなければならない
  • 複数インフラを運用保守しなければならない
3 基幹系統合
(集中型)
<メリット>
  • 単一システムであるため、見える化とコントロールが容易
  • 単一マスタ・アプリケーション(プログラム)を維持管理すればよい
  • 単一インフラを運用保守すればよいため低コストに収まる
<デメリット>
  • 業務メンバおよび現地法人の抵抗は大きい
  • データ間のコンフリクトを考慮する必要がある
  • タイムゾーンを考慮したアプリ(プログラム)を構築する必要がある
  • 文化(言語など)・制度(税など)・地理(時差など)・経済(格差など)の違いを考慮する必要がある
  • リライアビリティにおけるリスクは増大する
  • ダウンタイムが制限されるため、システム運用保守は難しくなる
  • 会社間の独立性維持に対応する必要がある

図2 システム標準化/統合化パターンごとのメリット・デメリット

古田先輩
新見さん

パターン3の実現はかなり大変そうですね。

そうだね。データ活用の視点でいえばパターン3が最もよいと思うけど、確かに実現は難しいよね。そのためパターン2と3の中間ぐらいの対応、例えば、タイムゾーンを意識して、そのエリアごとにインスタンスを集約するといった事例があったりする。

古田先輩

なぜグローバルのシステム標準化/統合化が難しいのか

新見さん

いずれにしても、グローバルにおいてもシステムの標準化・統合化を進めていくべきということですよね。

そう簡単ではないけどね。この難しさゆえ、海外のシステム構築は現地法人任せとなり、結果的に「2025年の崖」で話をしたように、個別最適・複雑化・ブラックボックス化したシステムとなる傾向があるかな。全社横断でのデータ活用が難しい状況となっている日本企業は多いね。
我々の会社も以前はそうだった。

古田先輩
新見さん

何がそんなに難しいのですか。

新見さんの英語は完璧かな?

古田先輩
新見さん

全然できません。

それでは現地法人のメンバと会話できないよね。システム構築ではそれなりの高度な交渉が必要となるし、システム要件を綿密に詰めていかなくてはいけない。日本の中であっても認識違いで仕様に齟齬があったりするのに、コミュニケーションが十分取れない状況下ではなおさらだよね。通訳を使うにしても、業務や技術がわからない人を介してのコミュニケーションというのはやはり難しい。大体、通訳を使っている時点で現地の信用は得られないしね。英語もできない人にグローバルシステムなんて任せられない、と実際に私も言われ、必死に英語を勉強したものだ。
あと言語だけの問題だけでもない。「CAGE」って知っているかな?
それぞれ、CはCulture(文化)、AはAdministration(制度)、GはGeography(地理)、EはEconomics(経済)のそれぞれ頭文字をとったもの。例えば、Cultureであれば、先ほどの言語の違い。英語だって通じない国があるし、習慣の違いもあるからね。ある国では、ある担当者の役割の仕事を別の人に任せたら訴訟問題になったこともあった。クリスマスに残業を命じたら、労働組合が出てきて大騒ぎになったこともあったかな。日本では考えられない習慣の違いというものがあったりするんだ。Administrationでは、例えば税法。米国には一万を超える税務管轄域があり、ブラジルでは毎日のように税率と税法が改正され、EUでは数十万もの税計算パターンがある。日本と同じ感覚でシステム構築をしたら大変なことになる。Geographyでいえば、このあと説明するタイムゾーンの問題があるね。Economicsであれば、現地で採用する要員の単金の違いのようなものがある。
こういった日本との違いを理解し、プロジェクトを進めていかなくていけない難しさがあるんだ。
「日本は世界の例外」だと思った方がいいかな。

古田先輩

グローバルベースでのシステム標準化/統合化のポイント

新見さん

日本企業がグローバルベースでシステム標準化/統合化を進めていくうえで、特に何がポイントとなるのでしょうか。

ここでは3つポイントを挙げておこう。

ポイント1:譲歩するところ、譲歩しないところを明確にする

グローバルに限らず、システムの標準化・統合化では、個別要件の機能開発を極力抑えることが重要。現場の意見をすべて聞いていたら、とても標準化・統合化なんて進められないよね。そのために、個別要件を取り入れるかどうか方針を明確にしておく必要があるかな。例えば、プロジェクトが目標とする戦略的要件、I/Fなど相手に影響するような要件、顧客に関わる要件、法的要件までは認めるが、現場の改善レベルの要件は認めないといった具合だ。日本には往々にして曖昧な表現で忖度するような文化があるが、グローバルでは明確に方針を示す必要があるかな。

ポイント2:時差を十分に考慮してシステム構築する

特にグローバル・ワンインスタンスでシステムを実装すると、タイムゾーンの違いに関する対応は、グローバルシステムを構築するうえで非常に重要な課題となる。システム上に表示されている時間、データに記録されている時間は、日本時間なのか、現地時間なのか、サーバーに設定されたシステムの時間なのか。画面上の表示されている時間と実際のデータに記録されている時間が異なるようなケースもある。各機能においてどの時間を使用するのか、しっかり要件を明確し実装していかなくてはいけない。
また、運用保守も注意が必要かな。24時間365日、各国の人々とどうコミュニケーションし、どう運用保守の業務を実施していくのか。システム停止が許される時間も極めて限られる。このような視点も考慮して運用保守のしくみを構築していく必要があるんだ。

ポイント3:言語に配慮する

日本語がわかるのは日本人だけ。グローバルの情報系システムで日本語が出てくるなんていうのは本末転倒だよね。グローバル共通でデータ活用するための共通言語を英語と定義、マスタにローカル言語と合わせ英語表記の属性を用意し、これらがデータに反映されるような工夫が必要となる。もちろん、情報系だけでなく、グローバルSCMのような全社横断で情報を共有し、オペレーションを実行するようなケースにおいても、業務面だけでなくシステム運用保守面においても、同様に考慮しなくてはいけない。

古田先輩

グローバルプロジェクト成功のカギは

新見さん

話を聞いていると、グローバルでシステムの標準化・統合化するというのは大変ですね。

確かに大変だ。グローバルベースでのシステム標準化/統合化プロジェクトには、これまで話をしてきた内容に関する見識を持ってプロジェクト遂行できるグローバル人材の育成が必要となるかな。
また、このような標準化・統合化のプロジェクトは、さまざまなコンフリクトを調整しなければならず、ボトムアップだけで進めることは難しい。日本だけでなく海外現地法人に対しても、ビジョンと目的をしっかり説明し、強力なトップダウンでプロジェクトを遂行していくことが重要であることも忘れてはならない。

古田先輩

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「データ活用のポイント」コラム

コラム制作者:
日本電気株式会社 エンタープライズ・トランスフォーメーション事業統括部
中西英介・土屋直之
本コラムの設定は架空のものであり実在の人物や団体などとは関係ありません。

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