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組織・オペレーション改革のツボ ~どうする日本型S&OP~
『S&OP』セミナーレポート 第2弾
カテゴリ:DX・業務改革推進調達・生産管理SCM/MES/FSM
NEC 戦略・デザインコンサルティング統括部 SCM改革グループ ディレクター 佐藤博亮
サプライチェーン環境の不確実性が増す中で、S&OPに取り組む企業が増加しています。しかし、成果を生むには各企業の戦略、ケイパビリティなどを踏まえたアレンジと高度な分析技術の活用、および組織戦略が不可欠です。
そこで、前回はS&OPセミナーレポート第1弾として「VUCAな環境下におけるS&OPの課題と進化の方向性」と題してNECが目指すAdvanced S&OPについてご紹介しました。今回は第2弾としてS&OPを進めるための組織・オペレーション改革のポイントについてご紹介します。是非ご参考ください。
【目次】
1.SCMとS&OPの違い
「S&OPについての知識はあっても、なかなか進められない」という企業は少なくありません。そこで、どうすればS&OPを進めることができるかの打ち手を理解する必要があります。
まずはS&OPの概念についての再確認です。
S&OPとは、端的には「経営」と「販売」、「操業」を繋ぐ計画を整合すること。そして、サプライチェーンマネジメントは“数”に着眼しているのに対し、S&OPは“金”に着眼しているという違いがあります。
例えば、製造業に着眼してみましょう。S&OPが進んでいる海外においては、これによって高水準の営業利益率を維持している製造業者が多くあります。Appleは24.5%、Johnson &Johnsonは23.5%、BOSCHは17.9%。これに対し、日本の製造業は3.1%。しかし、日本の製造業者も市場訴求力やオペレーションが優れた企業は多数あります。潜在的には、S&OPによる伸び代が20%ほどあると言えるのではないでしょうか。
ではなぜ、日本ではS&OPが進まないのでしょうか?
大きく「組織構造」「商習慣」「進め方」という3つの要因があると私は考えます。
これらをそれぞれ「脊髄分断」「八百万信仰」「全方位&道具万能神話」と呼んでいます。
2.組織構造における「脊髄分断」
まずは「脊髄分断」をご紹介します。
一般的な企業は、経営は脳にあたり、両手両足は営業やマーケティング、胴体は製造や調達に該当します。そして、脳と体の間に経営企画部がいて、全身の血液を循環させていると言えます。
ところが、その経営企画部は四半期ごとの経営会議のために各部門からデータを収集しているのみというケースがまま見受けられます。また、本来は販売、製造、調達が連携して計画を立てるべきところ、バラバラに立てている。その上、横串を刺すサプライチェーン組織は、金額ではなく数で管理している。つまり、金額ベースで計画立案を行う組織がない企業が多いのです。
そこで、当該組織を新たにつくることになります。「金額を扱うため、現場だけでは意思決定できない」のであれば、経営と現場の間に新たな組織を位置付けて、双方を調整させる形が望ましいでしょう。
また、管理対象として“数”と“金額”の情報が個別に存在し、統合されていないと混乱を招きます。数を管理するサプライチェーン組織と合併し、“数×金額”の両面で管理することが最良と言えるでしょう。
この組織は、単に計画を管理するだけでなく、経営に貢献する付加価値を生む組織になることが重要です。金と数のタイムリーな情報を取り扱っている特性上、販売や生産、調達など機能部門への助言や製品ライフサイクルの見直し、商材の絞り込み提案など様々な経営補助機能が考えられます。
また、「脊髄分断」の姿として、様々な金額費目に対する責任組織が不明確という点も散見されます。図のように原価や利益はそれぞれ管理部署が異なるケースが一般的です。例えば、このケースにおいて、原材料費の高騰が発生した場合、販売価格を設定する組織と職務分掌がされているため、短時間で両者の意見をすり合わせが難しいです。結果、原材料費の高騰分を販売価格へ転嫁し収益確保に繋げるといった動きが取れない状況に陥ります。
こうした場合、販売価格を決めるのは営業部門であるとしても、全てを押し付けるのではなく、意思決定サイクルを短くし経営も巻き込みながら最終価格を決定する仕組みをつくることが望ましいです。そこで、どこまでなら営業部門だけで決め、どこから経営層も加わるのかといったトリガーとルールを予め決めておくことが有効と言えます。
3.商習慣における「八百万信仰」
次に「八百万信仰」をご紹介します。
日本企業では、顧客満足度の向上が全ての既存顧客に適用されているのではないでしょうか。しかし、年間1億円分を買ってくれる顧客と、10万円しか買ってくれない顧客を同等に扱う必要があるのでしょうか?企業は営利団体のため、当然、1億円分を買ってくれる顧客を優遇すべきです。(成長性など、他にも加味する要素はありますが、ここでは割愛します)
そこで、まずは図のように顧客をセグメントします。
顧客を絞れば、優良顧客と売れる商材を絞ることができます。
絞ることができれば、超多品種の圧縮、これに伴う管理費低減、中核顧客・製品への経営資源集中投下、これに伴う収益拡大など多くの経営効果を発現することが可能ではないでしょうか?
次に、S&OPのオペレーションそのものの“選択と集中”を行うことが重要です。
S&OPをSCMの代替として全事業で運用を試みる企業があります。しかし、S&OPと従来のSCMは、前述のとおり別物です。まずは、S&OPそのものの実効性を高めるべく、“狭く・深く”製品・地域などを絞り込んで実行することを推奨します。戦略製品/成長製品と安定収益製品に適用すると効果的かもしれません。
前者においては導入当初は赤字でも市場占有を目指し市場占有後に収益プラスを図る、後者は原価変動に迅速に対応し収益最大化を図るなど、製品の市場ポジションを考慮して、S&OPのオペレーションを行うことが重要です。
もし、商材が多種あり、1品目に絞れない場合は、カテゴリ単位でおおまかに見る、あるいは主力の特定商材で見るといった業務が望ましいでしょう。
実際に商材を絞ってS&OP業務を成功した事例として、ダノン社が挙げられます。ダノン社では、利益率が高く需要変動が大きいヨーグルトに絞り、マーケティングとS&OPの考えを導入した価格設定、ならびに、販売数量の最適化を行いました。結果として、リーマンショック後の景気低迷下においても、売上・営業利益を共に増やすことができたのです。この成果は特定商材に対策するための経営資源を集中投下したこと、加えて、グローバルサプライチェーンセンターと地域のサプライチェーン統括組織にて、短サイクル・定期的に計画検討・見直しを実施したことが成果につながったのではないかと言われています。
4.進め方における「全方位&道具万能神話」
最後に「全方位&道具万能神話」です。
情報システムに代表される「道具」を導入さえすれば、魔法のように課題が解決するという思い込みがあります。しかし、多くの場合は、道具の適用に加えて、仕事のやり方も変えなければ効果創出は難しいでしょう。
前述のとおり、S&OP業務は数ベースで調整を行う既存のSCM業務の置き換えではなく、金額ベースで調整を行う業務の考え方です。まずは、この変化点に対する理解について、関係者間で整合を図る必要があります。
S&OPは、製品の特性や業態によって考え方や方法論は異なります。図のとおり、B2Bの場合は限られた顧客をロックインすることが重要です。個別商材需要を充足するため顧客別の製品開発と製品提供を行うことが多いです。一方で、B2Cでは不特定多数の顧客に対し、B2Bに対し比較的安価な商材の販売をしかけていきます。市場の嗜好変化も早く、短いライフサイクルの商品を開発することも多いです。
また、組立製造とプロセス製造でも設備投資や拠点制約の大小、労働集約か資本集約かといった違いがあり、それぞれのマトリクスにおける最適解は異なります。
次に、進め方のお話をします。よく「全事業部のコンセンサスを取る必要ある」と聞きますが、S&OPの導入に際しては“総論賛成、各論反対”となりがちです。特に、先述のような市場特性・生産特性が異なる事業間では意見の相違と衝突が生じてしまいます。理解のある事業からまずは導入し、その成功をもって他事業への展開を図るというアプローチが望ましいでしょう。
成果創出には時間がかかるものです。とは言え、成果創出に時間がかかりすぎるようでは関係者のモチベーションも上がりません。
1年、3年、5年とステップを踏んでKPIを設定し、徐々に成果を高めながら継続させていく運営を行うことを推奨しています。このように長期を見据えた短期のゴールを設定し、経営層に細かく結果報告をすることで、志半ばでS&OPの計画が取り止めになったり、目先の数字に捉われて将来的な目標を見失ったりといったリスクを減らすことができます。
5.日本型S&OP組織・オペレーション改革を支援するNECサービスメニュー
最後に、NECでは「そもそもS&OPをすべきかを判断したい」、または、「S&OPを始めるにあたってまずは費用対効果を知りたい」といったお客様に向けて、バリューチェーン全般からコンサルタントが総合的に分析を行う『S&OP成熟度 簡易診断』をご用意しております。
また、実データを基にS&OP適用の効果を実証の上、改革ロードマップを作成する『S&OP 実証実験+構想策定』といったサービスメニューもご用意しております。
加えて、S&OPの意思決定を洗練させるための影響因子・影響度合いをデータサイエンティストがデータに基づき特徴量の発見・数理モデル構築を行う『S&OP最適化データ探索』と、お客様自身で特徴量分析を行い、数理モデル継続見直しの自律化をdotDataというツールを用いて支援する『特徴量発見dotData活用支援サービス』もご提供しております。
ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
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