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都市・不動産DXの現在地
~データプラットフォームを活用した新たな価値創出のあり方~

お客様との接点を改革するDXオファリング

昨今、都市・エリア開発領域では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による生活様式の変容や、オンライン上のサービス普及などの外部環境の変化に伴い、企業は従来のリアルに限ったサービス提供を続けるだけでは立ち行かなくなってきています。そこで本稿では、そのような状況下で先進企業が近年取り組み始めている都市・不動産領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)として、“顧客へのパーソナライズなサービス提供”、“シームレスなカスタマージャーニーの実現”、“空間を最適化するデータ収集・連携・活用”の3つの取り組みや関連する事例について述べる他、それらのDXを実現するためのNECの都市・不動産DXオファリングSuite並びに核となるデータプラットフォームサービスについて紹介します。

1. はじめに

昨今、都市・エリア開発領域では大きな転換期を迎えています。AmazonやYouTubeなどの良質なITサービスの普及とともに、人々の日々の行動がオンライン起点のものとなりました。街中に出かける場合においても、オンライン上の情報やサービスによって目的地や移動経路がある程度決まることになり、思いがけない店や商品を見つけるなどの街中でのセレンディピティ(偶発的な出会い)が生まれにくくなっています。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の感染拡大により、人々の生活様式そのものが大きく変容しました。自宅あるいは自宅周辺で過ごす機会が増え、eコマースや宅配デリバリーなどの街中に出かけずとも利用できるサービスが購買の選択肢として考えられるようになってきています。そのような社会状況から、企業は従来のリアルに限ったサービス提供を続けるだけでは立ち行かなくなっている状況といえます。

本稿では、そのような状況下で先進企業が近年取り組み始めている都市・不動産領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)(以下、DX)について紹介します。第2章では、“既存事業の売上向上”、“新たな事業領域の確立”、“既存コストの削減”に影響する実効性の高い都市・不動産DXの取り組みや事例について説明し、第3章において、それらを実現するNECのDXオファリングについて紹介し、最後に本稿をまとめます。

2. 都市・不動産DXの取り組み

第2章では、都市・不動産DXの実効性のある取り組みとして、“既存事業の売上向上”などに向けた「顧客へのパーソナライズなサービス提供」、“新たな事業領域の確立”などに向けた「シームレスなカスタマージャーニーの実現」、“既存コストの削減”などに向けた「空間を最適化するデータ収集・連携・活用」の3つのDXの取り組みや事例について紹介します。

2.1 顧客へのパーソナライズなサービス提供

生活スタイル、悩み事、欲しいモノ、目指す自己実現など顧客のニーズが多様化しているなか、従来通りの情報発信やサービス提供をしたとしても、多様なオンラインサービスに対して優位性を持てず、顧客へ継続的にリーチすることが難しくなってきています。

そこで近年、先進企業ではリアルやデジタルを含めたさまざまな顧客接点において、顧客状況に応じたパーソナライズな情報発信・サービス提供を行い、顧客の体験価値を向上させています。具体的には、デジタルを含めた多様な顧客接点を構築し、それらを1つの顧客IDに統合することで顧客流入経路を増やすとともに、共通IDに紐付けられた顧客データを分析することで、各利用者の状況ごとのサービスや情報提供を行っています。これにより、OMO(Online Merges with Offline)な顧客体験を創出し、従来のオンラインサービスとの差別化やクロスセルによる売上向上を図っています。

例えば、森ビル株式会社様はこれまでオンラインサービスごとに顧客IDが異なっていましたが、NECのID統合基盤とデータ活用基盤を導入することで、さまざまなサービスにおいて共通ID化するとともに、共通IDに紐付けられた顧客の行動データを分析して、顧客ごとに即した情報提供やサービス提供を実現しています(図11)

図1 森ビル株式会社様に導入されたヒルズネットワーク

2.2 シームレスなカスタマージャーニーの実現

多くの企業ではスマートフォンアプリなどのデジタルでの顧客接点を構築していますが、あくまで街中に出かけるカスタマージャーニーの一部に対するサービスであるため、ロイヤリティの高い顧客を除いてサービスを利用してもらえないケースが多々あります。例えば、特定の商業施設で利用できるアプリケーションでは、街中に出かけるための移動や施設外の消費活動にまたがる一連のカスタマージャーニーまでは網羅できず、多くの顧客に利用してもらうほどのインセンティブが生まれにくいものとなっています。

そこで、近年1社のサービス領域に限らず、エリアマネジメント団体などがエリア全体で共通のIDやインタフェースを構築し、カスタマージャーニーを網羅する形でさまざまなサービス提供を進める取り組みが増えてきています。これにより、顧客のサービス利用のインセンティブが増す他、各サービサーが顧客の属性並びにカスタマージャーニーにまたがる行動データを収集することができるため、適切なターゲット・タイミングにて顧客アプローチをすることが可能となります。

例えば、南紀白浜(和歌山県)の観光スマートシティ実証では、NECの顔認証基盤を活用することで、スマートフォン上で顔情報を登録いただいた利用者に、空港にある観光サイネージでパーソナライズに情報を受け取れる、一部ホテルにおいてキーレスでチェックインできる、テーマパークや店舗などで顔決済を行えるなど、一連の観光カスタマージャーニー上でパーソナライズなサービスを提供しています2)

2.3 空間を最適化するデータ収集・連携・活用

施設などを運営するにあたって、時間帯や場所によって人の偏りが生じることになります。これらの情報はきめ細かな顧客接点を持ったところで完全には可視化できないものであり、これらの情報がないために空間を管理するにあたっての警備や照明・空調などの各種コストが一様に掛かってしまうこととなります。また、近年はCOVID-19の感染拡大により、空間ごとの混雑状況が事業継続や顧客満足度に大きく影響するものとなっています。

そこで、近年カメラ映像の解析やIoTセンサーを活用することで空間のデータを可視化するとともに、それらを流通・分析して、空間マネジメントコストの最適化や顧客体験向上に活用する取り組みが推進されてきています。

例えば、2022年に竣工予定のNTT都市開発株式会社様のアーバンネット名古屋ネクスタビルでは、NECのビル内データ流通基盤を活用して、ロボットによるビル警備、混雑情報のサイネージ上での表示、カメラによる不審者検知などを最適化した形で管理・運用するスマートビル化に向けた検討が進められています(図23)

図2 アーバンネット名古屋ネクスタビルでのデータ活用

3. 都市・不動産DXを推進するDXオファリング

前述した都市・不動産DXを実現するにあたって、NECでは顔認証入退場・決済、映像解析などの先進技術を活用した製品やDX戦略策定支援、アジャイル開発立上支援などのコンサルティングサービスを含めた都市・不動産DXオファリングSuiteを整備しています。第3章では、そのうち、核となるデータプラットフォームサービスとして“IDコネクトサービス”、“データコネクトサービス”、“データ活用経営戦略支援サービス”の3つのDXオファリングについて紹介します。

3.1 顧客データの収集を促進するIDコネクトサービス

パーソナライズなサービス提供、シームレスな顧客体験などを実現するためには、複数の顧客接点を統合・連携するだけでなく、顧客ごとのデータを収集・活用する必要があります。IDコネクトサービス4)では、複数の使い慣れた既存顧客IDの連携や顧客データの収集ができる他、収集した顧客データを外部団体へ連携する際、利用者自身が連携可否を選択できる、プライバシーに配慮したサービスとなります(図3)。例えば、リアル店舗を訪れた際に、オンラインストアでお気に入りとしていた商品の位置情報を示すなど、ID連携及び顧客データの活用を推進することで、これまでにないOMOな体験を実現することが可能となります。

図3 IDコネクトサービス概要

3.2 組織間でデータを流通させるデータコネクトサービス

高度な空間マネジメントやパーソナライズなサービス提供などを実現するためには、サービス・組織・企業を超えて、顧客データに限らないさまざまなデータをリアルタイムかつ安全・安心に流通して複合的に利活用できる環境が必要となります。データコネクトサービス5)は、リアルタイムにさまざまな種類のデータの流通を行える他、組織をまたがっても権限管理機能をコントロールすることで安全にデータ活用を推進することができるサービスです(図4)。例えば、施設内の人流データや照明・空調・清掃ロボットなどの稼働データを組み合わせることで、人がいない場所・時間帯では空調や照明を抑える、清掃ロボットを稼働するなど、リアルタイムなデータ連携によって顧客体験やオペレーションを最適化することが可能となります。

図4 データコネクトサービス概要

3.3 データ管理・分析を最適化する経営戦略支援サービス

パーソナライズなサービス提供や高度な空間マネジメントなどを実現するためには、前述したIDコネクトサービスやデータコネクトサービスなどによってデータを収集・連携するだけでなく、データを一元的に管理・分析する環境を整備して、データをもとに適切な顧客体験や施策を立案する必要があります。データ活用経営戦略支援サービス6)は、組織や役職などが異なる多様なユーザーが共同でデータを活用できる「プラットフォーム」と、活用をサポートする「役務」をトータルで提供するサービスです(図5)。例えば、顧客属性やオンライン・リアルでの行動などのデータ分析を行い、パーソナライズな情報提供の内容を検討、施策の結果をデータで振り返り改善策を検討など、アジャイルなサービス検討、マーケティング施策の検討などを行うことが可能です。

図5 データ活用経営戦略支援サービス概要

4. むすび

本稿では都市・エリア開発領域における近年の事業環境を踏まえたうえで、実効性のある都市・不動産DXの取り組みや事例と、それらを実現するためのプラットフォームとなるDXオファリングについて説明してきました。これらのプラットフォーム上でさまざまなアプリケーションを展開することで、これまでの限定的なデジタル化の施策ではなしえなかった効果を生むDX推進が実現できるものと考えています。

また、都市・エリア開発における事業環境や技術、サービスなどは日々刷新されており、常に新しいものを取り入れていく必要があります。前述したDXオファリングにおいても、今後の外部環境や内部環境の変化にアジャイルに対応できるものとすべく、プラットフォームサービスの拡張性や機能性の向上に向け、取り組んでいきます。


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参考文献

執筆者プロフィール

桐山 弘有助
デジタルビジネスオファリング事業部
主任