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NECグループがグリーントランスフォーメーションで果たす使命と可能性

Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~
NEC執行役 Corporate EVP 兼 クロスインダストリービジネスユニット長
受川 裕(右)
国際社会経済研究所(IISE)理事 兼 CTO(Chief Technical Officer)
野口 聡一(左)

少子高齢化に悩む日本では2009年から人口減少が始まっていますが、世界的には途上国を中心に人口増加が続いており、各国が経済成長にひた走るなかで、水やエネルギー、食糧の需要は拡大する一方です。こうした負担の増大が地球の環境に異変をもたらし、災害の甚大化や深刻化を招いています。本稿では、NEC執行役 Corporate EVP兼クロスインダストリービジネスユニット長の受川裕とNECグループのシンクタンクである国際社会経済研究所(IISE)理事兼CTOの野口聡一が、NECグループの技術と知見を地球規模でのグリーントランスフォーメーションに生かす取り組みやその狙いについて語り合いました。

はじめに

野口 私は宇宙飛行士として宇宙へ3回行く機会に恵まれました。宇宙から地球を眺めると、ミッション(2005年、2009-2010年、2020-2021年)のたびに北極圏の氷の面積が小さくなっており、驚くべきスピードで溶けていることがわかって胸が痛みました。更に、ジャングル地帯で熱帯雨林が失われていく様子も目視できました。

受川 貴重な経験ですね。私も気温上昇の問題は特に懸念しています。北極・南極の氷が溶け出して海面上昇が進むだけでなく、異常気象や健康被害など、さまざまな問題が連鎖的に起きています。結果として貧困や食料危機をもたらしているのが実情でしょう。

野口 こうした地球の変化を目の当たりにすると、焦りに似た気持ちに突き動かされます。私たちは1つの地球を共有しているのに、人口増加に伴う過剰な利用で資源が枯渇しつつあります。また、海洋ではマイクロプラスチックなどの汚染が広がり、生態系への影響は想像をはるかに超えるスピードで進んでいます。

高まる「気候変動適応」への関心とNECの関連技術

受川 自然災害による経済的損失は、2000年〜2019年の20年間に全世界で約3兆8,000億ドル(約420兆円)に達したとの試算もあります。環境の劣化が加速したことで、経済格差は更に広がってきました。複雑に絡み合った環境問題には、個別に一つひとつ対処するのではなく、システム全体を見渡して解決していく必要があるでしょう。

野口 そのとおりです。近年は気候変動への国際的な取り組みが台頭してきました。当初は温室効果ガスの排出抑制、いわゆる「緩和」に焦点が当てられていましたが、最近では、ここまで進行した気候変動の影響は避けられないという認識から、悪影響を最小限に抑えるための「適応」に注目が集まっています。2024年11月にアゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(以下、COP29)でも、この適応が主要議題となり、特に途上国支援の具体的な適応策が話し合われましたね。

受川 気候変動適応への対策に関しては、日本が大きなアドバンテージを持っていると私は考えています。災害大国であるわが国は、「気候変動などが引き起こす災害の被害を最小限にする」ための適応策について、これまでの災害で培ってきた豊富な防災の知見を生かせる立場だからです。実際、NECは国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(以下、COP28、2023年にアラブ首長国連邦・ドバイで開催)で「適応ファイナンスへのデジタル技術適用」、すなわち「NECデジタル適応ファイナンス」という新たな提案を行い、参加国・地域から大きな反響を得ました。

このNECデジタル適応ファイナンスについては、クロスインダストリービジネスユニットで事業化を進めています。野口さんに代表理事をお願いしている「適応ファイナンスコンソーシアム」を2024年3月に立ち上げて以降、コンソーシアムメンバーとともに具体的なユースケースを考えてきました。特に途上国の気候変動に対するファイナンスが大きなテーマだったCOP29では、コンソーシアムの代表理事になっていただいている野口さんのご協力も得ながら、適応ファイナンスコンソーシアムとしてユースケースを示してアピールしました。現地に開設された「ジャパンパビリオン」では、グローバルイノベーションビジネスユニットで研究している衛星画像解析技術と生成AI技術を活用し、適応の価値を可視化して適応策への効果を測定するソリューションアイデアを発表しました。国連関係者や国際金融機関、日本政府関係者から高い関心を集めたほか、さまざまな国・地域から訪れた代表団と話し合い、パートナーを探すことができました。

野口 NECデジタル適応ファイナンスは技術開発だけでなく、公的資金に加えて民間資金を効果的に活用する仕組みとして特に重要ですね。気温上昇がもたらした災害が世界中で増えているなか、将来的には災害対応以外の環境変化などにも、このNECデジタル適応ファイナンスの枠組みを応用できる可能性があります。COP28での提案以降、さまざまな進展がありましたよね。

受川 適応ファイナンスコンソーシアムを立ち上げたほか、グローバルで活用できるソリューションの開発を進めています。NECインドネシアはインドネシアの不動産都市開発を手掛ける大手企業であるSinar Mas LandのIT子会社Samakta MitraとMoU(基本合意書)を締結、実践的なユースケースの開発を進めています。インドネシアは日本と同様に自然災害が多い国ですので、NECデジタル適応ファイナンスを活用して災害に強い都市開発を加速し、地域価値を高める狙いがあると考えます。

サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブで多数の協働

野口 環境問題への取り組みではサーキュラーエコノミー、いわゆる循環経済も注目されていますね。従来の「採取・使用・廃棄」という直線的なモデルを、資源を効率的に再利用する新しい経済モデルへと転換する試みです。欧州連合(EU)が世界に先行していて、2015年にサーキュラーエコノミー行動計画を発表。目標設定から規制、そして市場ルール化まで、段階的に進めてきました。

受川 欧州の動きは注視しています。環境規制を通じて市場のルールを作るのが巧みな欧州では、これらのルールが実質的な参入障壁になっています。経済安全保障の観点からも見過ごせない動きと言えます。日本も対応を進めていて、政府主導で「ウラノス・エコシステム」(経済産業省の主導で進む、仮想空間と物理空間を高度に融合させて経済発展、社会課題の解決、産業発展を両立させる仕組み)などを整備しています。NECもこの分野の取り組みを始めています。

野口 具体的にどのような取り組みでしょうか?

受川 例えば、富山大学とはクロスインダストリービジネスユニットにてアルミニウムの高品位リサイクル、東北大学とはデジタルプラットフォームビジネスユニットにてプラスチックのトレーサビリティについて、それぞれ産学連携で研究開発を進めています。また、丸喜産業(富山県高岡市)とは、グローバルイノベーションビジネスユニットがNECで開発したマテリアルズ・インフォマティクスのためのAI技術を活用して、再生プラスチックの製造効率化と品質向上で協働しています。また欧州が先行しているScope 3のためのデータ主権・データトラストを具備したサプライチェーンデータプラットフォームの開発を、クロスインダストリービジネスユニットとエンタープライズビジネスユニットの連携で進めています。これらは今後の製造業のサプライチェーンのありかたを考えると、非常に重要なプロジェクトになっています。

野口 「ネイチャーポジティブ」、すなわち自然資本回復という考え方も最近は注目されるようになりました。単に環境汚染のような悪影響を止めるだけでなく、積極的に生態系を再生して生物多様性を回復させようという概念です。国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)の「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」で定められた「2030年目標」など、国際的な枠組みにも反映されました。特に企業には具体的な行動が求められていますね。

受川 ネイチャーポジティブは経済成長と環境保全の両立という観点から、重要なテーマになっています。実はNECは、この分野で早くから取り組みを進めてきました。国内IT企業のなかで最初にTNFDレポート(企業活動が生態系に及ぼす影響について情報開示を求める国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース」のフレームワークに基づく報告)を開示しました。この実績を評価いただき、多くのお客様からコンサルティングの依頼をいただき、アビームコンサルティングと住友商事の合弁会社であるGXコンシェルジュからサービス提供しています。

GX分野で生かせるNECならではの知見と技術とは

野口 生物多様性の崩壊は経済的リスクとして認識される一方で、ビジネスチャンスでもありますよね。

受川 NECがグリーントランスフォーメーション(GX)に取り組む理由の1つは、課題解決にこれまでの知見を生かせるからです。環境情報のデジタル化や情報流通の信頼性・秘匿性の確保、AI、デジタルツインの活用など、NECの強みを通じて「社会のGX」に貢献できると考えています。

野口 確かにNECの技術的な蓄積を活用できるGXの分野は多岐にわたっていますね。

受川 特に、環境負荷の大きい製造業と、そのサプライチェーン、そして関連する社会インフラを管轄する政府・自治体で活用していただくことができると思っています。これまで政府・自治体などからさまざまな案件を信頼して任せていただいているNECだからこそ、手掛けられる分野があります。なかでも重要なのは、温室効果ガス(GHG)排出管理、資源循環、気候変動リスク適応、自然資本の4分野です。

例えば最近、地域を再開発する際、特にスマートシティなどの開発にグリーンインフラの要素を入れたいという声が多くなっています。これは自然環境が有する機能を防災・減災や環境保全など、さまざまな課題の解決に用いようというものですね。今後、構想を提示していくつもりです。

NECは、製造業の「クライアントゼロ」として環境施策の知見を発揮できるほか、その知見を生かしてコンサルティングも提供できます。特に重要なのは、政府や業界からいただいている信頼の強さです。この信頼は「ソートリーダーシップ」(Thought Leadership)にも欠かせないと考えています。

野口 ソートリーダーシップとは、市場のリーダーとして将来ビジョンを発信し、新しい価値を創造することですね。IISEでもさまざまな活動を展開しています。

受川 このソートリーダーシップ活動は、かつてNECが不得意とした分野でした。しかし、NECデジタル適応ファイナンスの取り組みや自然資本など、多数の分野でIISEとの連携によってソートリーダーシップを発揮しつつあり、成果が形になってきていると思っています。

衛星情報を高度に使う宇宙テクノロジーこそNECの出番

野口 私の専門分野である宇宙テクノロジーも、環境問題の解決に重要な役割を果たせると考えています。

宇宙テクノロジーの分野には大きな可能性があります。例えば、人工衛星で取得した地球の観測データを使って温室効果ガスを測定したり、森林の違法伐採を監視したり、更には防災・減災や持続可能な農業を支援したりと、応用範囲は広大です。宇宙テクノロジー分野ではNECのAI技術、特に生成AIとの組み合わせに強く期待しています。

受川 AIと組み合わせることで、環境ソリューションが「民主化」される可能性が広がっていくかもしれませんね。

野口 そのとおりです。専門家や技術者でなくても、誰もが環境問題の解決に参加できるという意味での「民主化」ですね。環境問題は人類全体の課題であり、世界中のあらゆるリソースを結集して取り組む必要があります。

受川 NECは、衛星から得た情報にAIを組み合わせて環境情報の利活用を促進する分野で、真にリーダーシップを発揮できると私も確信しています。今まで長い期間にわたって多方面の関係者と環境問題に取り組めるプラットフォームづくりを進めてきましたから。

野口 環境問題は1つの解決策だけでは不十分で、システム全体を見て取り組むことが必要です。そのためには、セクターを超えた多様なプレーヤーとの共創が欠かせません。NECがそうした変革をリードする存在になるべきだと考えています。今年11月にブラジル・ベレンで開催予定の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)では、私も積極的に提言していこうと考えています。

受川 野口さんが期待されている宇宙からの環境問題へのアプローチは、まさにNECグループだからこそ実現・推進できる分野として力を入れていきたいと考えています。環境問題への取り組みが不可欠な時代に、地球規模で社会の変革に貢献していきたいですね。政府も成長戦略の1つとしてGX領域を挙げていますし、今こそビジネスチャンスでもあります。各界のご期待に応えられるようにがんばります。

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