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DX効果の最大化のためのユーザーサポート
~厚労省プロジェクトを通じての考察~

お客様との接点を改革するDXオファリング

多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるものの、成功例は少なく、その原因や対策についてはいろいろなところで研究され、議論がなされているところです。本稿では、実際に厚生労働省のワクチン接種円滑化プロジェクトを通じて見えた課題とその対応について述べ、DXの成果の最大化のために必要と推察する内容をまとめます。また、学びをもとに用意したDXオファリングについても紹介します。

1. はじめに

“DX”という言葉を多くの人が当たり前に口にするようになってきました。2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表して以降、多くの企業の経営者はさまざまな取り組みに着手し始めています。2020年のアビームコンサルティング株式会社の調査による1)と、年間売上高1,000億円以上の大手企業約500社のうち60%が年間売上高の0.5%以上をDX実現のための投資に回していることが分かります。一方、図1は同調査において、自社で推進したDXの投資が成功であったかを表すものですが、“成功に至った”と評価している企業は全体のわずか6.6%にとどまっています。

図1 DXの取り組みで成功に至ったグループ

また、図2では成功に至ったグループとそうでないグループを比較しており、DXの実現に必要な12の項目の達成度ギャップを表しています。これによるとギャップTOP3は「全社員へのデジタル教育」「デジタル知見を有した経営陣による意思決定」「DX組織はデジタルとビジネス・業務の知見を保有」となっており、経営層、現場社員ともにデジタルリテラシーの欠如が課題であることが分かります。

図2 成功と失敗グループのギャップ

本稿では、第2章で厚生労働省から受注したプロジェクトを通じて見えた実際の課題及び解決策を紹介し、第3章では日本におけるDX成功の鍵を考察したうえで、第4章で具体的なDXオファリングを紹介します。

2. 国家規模のプロジェクトを通じて見たDXの課題

2.1 緊急国家プロジェクト

2020年初秋、NECは厚生労働省から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種円滑化システム(V-SYS)を受注しました。国民への円滑なワクチン接種を目的としたシステムで、ワクチンの希望量や供給量、配送先などの情報を、国や地方自治体、民間企業がやり取りするためのものです。SaaSをベースとしたシステム構築に加えて、その運用業務やユーザーサポートを含めてNECが担当しました。本プロジェクトの大きなポイントは“緊急”ということであり、さまざまな不確定要素が存在し、限られた時間のなかで制度設計支援や業務プロセスの構築などを行うアジャイルな対応が求められました。

2.2 課題と解決策

迅速な制度設計、システム改善によってプロジェクトは前進していく一方で、そうした進め方ゆえに発生した大きな課題がありました。それは、“ユーザーサポート”です。当該プラットフォームにアクセスするのは国だけではなく民間企業・病院も含めて数万ユーザーであり、刻一刻と変化する制度やシステムにユーザーが対応していくことは困難を極めていました。ここでは具体的な課題と、実際に行った解決策を3点紹介します。

2.2.1 ITリテラシー

  • 1)
    課題:ユーザーリテラシー
    NECが設置したコールセンターには、多い日で約1,000件を超える問い合わせがありましたが、その問い合わせ内容(図3)の40%は“ログインできない”というものでした。その原因としては、“推奨ブラウザのインストールができない”や“ログイン案内のメールが見つからない”といった、ITリテラシーに起因するものがほとんどでした。
図3 コールセンターに入った問い合わせの分類
  • 2)
    解決策:領域を定めないサポート
    汎用的なクラウドサービスならではのユーザーフレンドリーなUIであっても、このような問い合わせは必ず存在します。今回、こうしたユーザーに対してはシステムの操作のみに領域を定めず、周辺環境も含めて丁寧なサポートを提供できるようにITの基礎知識を持ったオペレーターを用意し、取り残すユーザーがないよう留意しました。

2.2.2 問い合わせの増加

  • 1)
    課題:問い合わせへの回答滞留
    アジャイルな業務立ち上げやプロセス改善の反動として、急激な問い合わせデマンドが発生することがあり、オペレーターのリソースが追い付かない場合があります。今回のプロジェクトにおいても、ユーザーがシステム操作を伴う業務フローに直面するタイミングや、システムアップデートの局面において、回答待ちのものが3,000件を超えて溜まる状況となりました。
  • 2)
    解決策:回答の効率化と適切なリソース計画
    こうした状況に対してNECはまず、問い合わせ内容のログをキーワードでカテゴリ分類、質問を共通化してFAQの整備を行いました。分類後、各グループに適したFAQを回答としてメール送付することで、スピードを優先した対応を行いました。これにより3,000件を超える滞留問い合わせは約2週間で数十件程度まで減少し、正常化させることに成功しました。また、問い合わせ件数や傾向を分析し、類似イベント発生の際に事前の予測やFAQの準備ができるようになり、適切なリソース計画のもと以降の滞留をなくすことに成功しました。

2.2.3 システム利用状況

  • 1)
    課題:システムの利用に積極的でないユーザー
    特に民間企業のユーザーにおいては、本システムの利用に積極的ではない担当者も多く、業務フローを進めずに停滞させているケースが散見されました。一例として、書類にサインしメール添付で送付するという作業において、期日の1週間前で約30%のユーザーが未実施のステータスであり、前日になっても約20%が変わらず未実施という状況でした。
  • 2)
    解決策:プロアクティブサポートと業務改善
    こうした実態を踏まえ、ユーザーの状況を分析したうえで電話やメールなどによってアクションをリマインドするとともに、対応方法が分からないユーザーへ個別に説明を行うことで業務の進捗を促し、すべてのユーザーの業務フロー完遂に成功しました。また、停滞しているユーザーの多い業務フローについてはシステムの改修を行い、システム利用の過程のなかで簡単に当該フローを済ませられるように改善を行いました。

3. 実例から考察するDX成功の鍵-ユーザーサポート

企業が自社の業務を変革しようとするとき、良いシステムや業務フローを設計しても、ユーザーの利用が伴わなければ失敗に終わってしまいます。前述のようにDXに取り組む企業の94%が失敗と感じ、その要因には経営者・現場担当者のデジタルリテラシーがないことが挙げられていますが、これらを教育によって補おうとすることには限界があります。むしろ、まずは業務運用を開始し、ユーザーの状況に応じた適時適切なサポートの提供により、ユーザーを巻き込みながらリテラシー向上を図っていく方が効果的だと考えます。DXの実現にはスピードが要となり、クラウドサービスなどの活用が見込まれますが、最初からすべてのユーザーにとって完璧なものとはなりえません。一方、あらゆる要望に応えれば重厚長大になり、設計している間に必要な要件が変わっているかもしれません。こうしたジレンマを超えてDXの効果を最大化するためには、スピードを重視してシステムを立ち上げる一方でユーザーに対して丁寧なサポートを迅速に提供し、能動的なアプローチによって業務を進捗させていくことが重要であると考えています。また、こうしたサポートの重要性をあらかじめ認識し、業務構想の段階で全体計画のなかに織り込んでおくことが、DX成功の鍵となるものと考えます。

4. 提供するDXオファリング

第3章までの内容を踏まえて、NECは、DX効果最大化のためのサポートをDXオファリングとして整備しています。第4章では当DXオファリングについての概要や特徴を紹介します。

4.1 概要

“DX-BPO(仮称)”として、DXの成果の最大化にフォーカスしたBPO(Business Process Outsourcing=業務の外部委託)サービスをNECは提供しています。まず、お客様の取り組む業務とその目的をヒアリングのうえ、目的達成のためのサポートを定義し、必要に応じてKPIを設定します。KPI達成のため、問い合わせ対応にとどまらない多面的なサポートを検討し、それらを組み合わせて最適なプランを提案します。ベーシックプランとしては、(1)コンタクトセンター(カスタマーからの問い合わせ受付/回答)、(2)プロアクティブコンタクトセンター(カスタマー状況に基づく、電話やメールによる能動的サポート)、(3)作業代行(書類作成やシステム操作の代理実施)、(4)データベース構築(問い合わせデータベースの構築と分析によるカスタマーインサイトの抽出)を用意しています(図4)。加えてオプショナルプランとしては(5)利用者への教育コンテンツの提供、(6)システム運用代行を用意しており、教育もしくは運用業務に精通した担当者によって、利用者の理解度促進や、お客様の運用負荷の低減に資する取り組みの提案も可能です。

図4 DX-BPO(仮称)のベーシックプラン詳細

4.2 特徴

一般的なコールセンターやBPO(業務の外部委託)に対して、NECが提供するDXオファリングの特徴は次の通りです。

4.2.1 システム構築とBPOによるシナジー

第2章での実例のように、システム構築とBPOを一体として提供することでシナジーを生み出し、DX推進のドライバーとすることが可能です。NECがシステム構築から運用・ユーザーサポートまで提供する場合、システム上の制約や拡張性について熟知したうえでの、具体的かつ効果的な課題解決の提案を行います。これによりユーザーからのインサイトを業務に即座に反映するなど、システム・運用一体となった効率的な改善サイクルを作ることが、NECが提供したい価値の1つです。

4.2.2 データサイエンティストによるユーザー分析

第2章で述べたように、ユーザー数が多い時には次のようにユーザーの行動データを分析することで、適切なアプローチやその対象を特定することが可能です。

  • ユーザーのログイン状況
  • 画面や機能別の業務進捗状況

第2章での例でも、必要なアクションを期日までにユーザーが行っていない、といったことが発生しました。そこで、データサイエンティストがシステムのログをもとに業務状況を確認し、遅れを早期に確認して、プロアクティブコンタクトセンターに連絡することで、緊急性の高い業務を完遂することができました。

他にも、データサイエンティストによる解析により、個々の担当者では気付きづらい統計的な傾向を可視化し、意思決定者に向けた支援を行うことがあります(BIツールなどと連携して、全体の業務状況を俯瞰するビューを提示します)。

また、コンタクトセンターの会話ログは膨大な自然言語データになるため、人手ですべてを確認して傾向をとらえることは困難です。そこで、データサイエンティストによる分析を行い、頻繁に質問される内容についてFAQに追加する、大きな不満につながっている点を明らかにしてシステムの変更につなげるといったことを迅速に行います。また、チャットボットを実装し、コンタクトセンターの会話の分析結果によりチャットボット内の自動応答内容を充実させることで、ユーザー数が増えてもコンタクトセンターへの受電過多状態の抑制につなげることが可能です。

迅速なDXの実現は、業務の緊急かつ柔軟な変更を生みやすく、ユーザーの戸惑いを生んでしまうことがあります。また、DXの状態を意思決定者が逐次に確認することで、迅速なPDCAサイクルを回すことができます。NECでは、前述のような、ログ分析による業務進捗状況の可視化や、自然言語解析技術を用いた問い合わせ内容分析を提供する内容をDX-BPO(仮称)のプランに含めることで、継続的な改善活動の実現を支援します。

5. むすび

DXという言葉は、今や多くの人が認知しているキーワードとなってきています。一方で、その言葉が指すものが広範かつ抽象的であることから、抵抗感を示すユーザーは少なからず存在しています。NECとしては、先端技術でお客様のDXに貢献するのみならず、利用に積極的でないユーザーとも向き合い、真にお客様の業務変革を成し遂げるパートナーとしてトータルサポートの提供を担います。

参考文献

執筆者プロフィール

赤石 亮
デジタルビジネスオファリング事業部
エキスパート
坪 昌宏
デジタルビジネスオファリング事業部
シニアエキスパート
米川 由也
デジタルビジネスオファリング事業部
エキスパート
本橋 洋介
AI・アナリティクス事業部
事業部長代理