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ローカル5Gで実現するスマートファクトリー

Connected Manufacturing

製造業の事業環境としては、人手不足・技術伝承・マスカスタマイゼーションといった変化だけでなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、サプライチェーンの分断や従業員の移動制限など、新たな課題も表面化しています。スマートファクトリーは、これらの現在認知できている課題に対応することはもちろん、これから起こる未知の課題にも柔軟に変化し対応することができる工場です。NECは、製造業としての知見とITベンダーとしての知見を組み合わせ、自社工場のスマート化を推進するとともに、そのノウハウを生かしたスマートファクトリーの構築支援を行っています。本稿では、スマートファクトリーにおけるローカル5Gの活用について紹介します。

1. はじめに

近年、工場は、マスカスタマイゼーション対応、海外労働コストの上昇、国内労働力不足、技術伝承などの課題に直面しています。更に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、サプライチェーンの分断や、需要変動による工場操業停止、生産拠点再編成及び従業員出勤制限といった新たな課題が発生しました。これらの課題を解決し、無駄なく操業し続ける工場を実現するために、IoT、AI、更に5Gなどの最先端技術をうまく組み合わせて活用し、スマートファクトリー化を推進する必要があります1)

今後、スマートファクトリーを進化させ、ブレークスルーにつなげる大きな技術革新が5Gです。NECは、5Gが持つ超高速、超低遅延、多数同時接続といった特性を生かし、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をどのように加速できるかを検討しています。

2. スマートファクトリーで期待されるローカル5Gの役割

5Gを含めた未来の工場の目指すべき(あるべき)姿は、「生産ラインの在り方」と「人の働き方」が変わることにあると考えています。作る品種や生産量が急激に変わっても、自働化や無線化によるデータ活用が進み、生産ラインのレイアウトや人の配置を大きく変更する必要がなくなっていると考えられます。

また5Gを活用することにより、遠隔操作・制御ができるようになり、オフィスから現場を管理したり、ストレスのたまる作業や体力的にきつい作業も、快適な環境から楽に操作できたり、といったことが可能になります。

これらにより製造業における人材不足の問題は抜本的に改善され、New Normal社会における、製造業の働き方変革に対応していきます(図1)。

図1 工場の働き方変革

NECでは、自社工場であるNECプラットフォームズ株式会社甲府工場(山梨県甲府市)にて、実際にローカル5Gを導入し、自らものづくりのデジタライゼーションを推進しています(図2)。

図2 NECプラットフォームズ株式会社甲府工場へのローカル5Gの導入

3. スマートファクトリーにおけるローカル5Gユースケース

本章では、具体的なユースケースをNECの取り組みを交えて紹介します(図3)。

図3 スマートファクトリーでのローカル5Gの活用

3.1 高精細な画像・映像を活用した検査自動化

以前から画像活用も行われていましたが、固定カメラから製品や人の動きを録画しておき、事後の分析として活用し、高解像度・大容量の画像を送るにはネットワーク帯域などの問題から限界がありました。

5Gにより、生産ラインを流れている製品の微細な欠陥を高解像度カメラでとらえ、それをリアルタイムにAIエンジンで判別し、ロボットで欠陥品をピックアップするといった、一連の動作をカメラとロボットが連携しながらリアルタイムに処理することが可能になります(図4)。

図4 利用シーン:検査工程

3.2 ARを活用した作業者支援

熟練作業者の高齢化による指導者の不足に加え、労働人口の減少による人材不足が深刻化しています。指導者不足と人材不足は、熟練者の技術を伝承できず、製造現場の技術力を低下させる要因にもなっています。指導者不足、作業者不足、技術力の低下という問題の解決策として、ARグラスを活用した指導者(熟練者)による遠隔作業者支援が考えられます。

経験の浅い現場作業者は、熟練者に比べて作業効率が低く、作業完了までに多くの時間を必要とする一方で、人材不足のため、短時間で作業を完了させることを求められます。そこで、ARグラスを活用し、遠隔地にいる指導者が現場作業者の作業支援を行うことで、熟練者でなくても短時間で作業を完了させることができます。また、リアルタイムに指導を受けることで、現場作業者の習熟度が短期間で向上し、人材育成を効率的に行うことができます。更に、ARグラスによって指示情報が視界内に提示されるため、作業指示確認のために手を止めることなく作業を継続でき、作業効率が向上します。

遠隔作業支援において、遠隔地にいる指導者に現場の状況をより正確に、かつ、リアルタイムに伝えるために、5Gが必要となります。現場の状況を正確にとらえる方法として、4Kカメラなどによる高精細映像をリアルタイムに伝送することが考えられます。これにより、遠隔地にいる指導者もより現場に近い感覚を共有することができ、適切な指示を出すことが可能になります(図5)。

図5 利用シーン:生産設備のメンテナンス

3.3 ロボットの遠隔操作・遠隔ティーチング

ロボットには、そのロボットが製造する各製品に合わせた製造手順(動き)のティーチング(プログラミング)が必要になります。ロボットのティーチングにおいては、製品はもちろん、ロボット周辺の設備や他のロボットとの連携を考慮しなければなりません。そのため、ロボットティーチングには技術やノウハウを持った人材が必要になります。しかし、近年、ティーチングの技術者不足や多品種少量生産の進展によるティーチング頻度の増加といった問題が発生しています。そこで、技術者によるロボット操作を、5Gを介して遠隔から行うことを検証しています(図6)。

図6 利用シーン:ロボットティーチング

遠隔操作においては、オペレータの操作に対するロボットや機械の反応速度が、操作の難易度やオペレータに与えるストレスに大きく影響します。そのため、5Gの超高速、超低遅延という特性は遠隔操作において非常に重要な要素になります(図7)。

図7 ロボット遠隔操作デモンストレーション

ティーチングの遠隔化により、技術者はロボットが設置されている現場に移動する必要がなくなり、少人数で効率的にティーチングを行うことができるようになります。また、ティーチング中のロボットは予期しない動きをすることがあり、ティーチングは危険を伴う作業でしたが、遠隔操作が可能になることで、技術者の安全性を確保することにもつながります(図8)。

図8 遠隔人手組立

3.4 協調制御によるAGVの高度化

工場や物流倉庫において、物品搬送を無人化するために、自動搬送設備を導入している事例は多くあります。しかし、自動搬送設備は一度設置すると、そのレイアウトを変更することは難しく、生産現場の改善活動や製造品目の変化などによる生産ラインレイアウトの変更に柔軟に対応することができません。この問題の解決方法として、無軌道型AGVの導入が考えられます。無軌道型AGVは、周囲の状況変化に応じて搬送経路を変更できるという特徴があります(図9)。

図9 利用シーン:工場の物品倉庫

AGVの運用においては、通常、複数のAGVが同時に走行する運用になりますが、各AGVが独立して走行している場合、AGVによる渋滞が発生し、AGVの稼働率が低下するという問題があります。そこで、5Gの超低遅延、多数同時接続という特徴を生かし、AGVの走行状況をAGVの集中制御システムであるMRC(マルチロボットコントローラ)でリアルタイムに収集し、すべてのAGVの走行状況を基に、各AGVに対して走行すべき最適な搬送経路をリアルタイムに指示します。これにより、AGVによる渋滞が解消され、AGVの稼働率が向上し、目的の場所に適切なタイミングで物品が届くようになります(写真)。

写真 デモンストレーション:複数台のミニAGVをリアルタイムで一括制御している様子

4. 5G活用によるスマートファクトリー将来像

今後、5Gの活用は、工場内だけにとどまらず、工場間、企業間へと広がると考えています。工場内においてはローカル5Gが活用され、工場間や企業間においてはキャリア5Gが活用されます。そして、工場内をつなぐローカル5Gと工場間や企業間をつなぐキャリア5Gの連携により、バリューチェーン全体のスマート化がより加速されると考えています。

例えば、工場設備管理部門によるリモートメンテナンスなどが考えられます。設備管理事業者はキャリア5G経由でドローンを操作し、顧客の設備を点検します。そして、点検の様子を現場作業員にリアルタイムに共有し、人による作業が必要な場合は作業指示を出します。リモートでの設備操作で対応が可能な場合は、工場内のローカル5Gを経由して設備を操作するといったシナリオが考えられます。

このように、ローカル5Gとキャリア5Gの活用をバリューチェーン全体に拡大し、NECの目指すスマートファクトリーを実現していきます(図10)。

図10 ローカル5Gとキャリア5Gの連携

5. むすび

今回紹介したローカル5G活用のユースケースをNECでは、スマートファクトリー実現のため、ITからネットワーク、OTまでを、end to endでDXオファリングモデル化していきます。まずは、協調制御によるAGV高度化を実現するために、AGV稼働率向上オファリングモデルとして提供します(図11)。

図11 スマートファクトリー実現のための
DXオファリングモデルを提供

また、スマートファクトリー実現を体感し、お客様とともに創り上げるための施設として「NEC DX Factory 共創スペース」をNEC 玉川事業場内(神奈川県川崎市)に開設しています。更に、2020年度には「ローカル5Gラボ」の設置、「ローカル5Gを活用したスマートファクトリー」の実証を加速していきます。

そして、10年後を見据えながら、お客様にとっての価値を一つひとつ実現するとともに、人々が活き活きと働けるスマートファクトリーを目指していきます。


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    Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
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    その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

渕上 浩孝
スマートインダストリー本部
エキスパート
黒田 啓史
スマートインダストリー本部
主任

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