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地球の水を追え!

執筆:林 公代
その1「水と私たちの生活~水を制すものは地球を制す~」
地球はその7割を水が占める「水の惑星」です。水の循環で私たちの生活は支えられています。その一方で水害は時に深刻な被害をもたらします。2011年にはタイで洪水が発生し、世界中の産業に影響をおよぼしました。また、2012年7月に九州で「記録的豪雨」を観測、一方、アメリカでは干ばつで、小麦の価格が上昇しています。世界で起こる水害が私たちの生活に大きな影響を与えるのです。災害による被害を最小限に留めながら、水を資源として有効に活用するために、私たちは水循環の仕組みを長期間にわたって観測して理解し、その振る舞いを予測して対策を立てなければなりません。降雨現象は時間的な変動や地域の隔たりが大きく、その全体像をとらえるのは困難ですが、世界トップレベルの技術で、日本の「しずく」が、宇宙から地球の水循環を観測していきます。

(その2)A-trainに乗って。新たな発見への期待・・・
「しずく」は2012年9月現在、列車の先頭に立ち、宇宙を回っています。
列車の名前はA-Train。「しずく」の後にNASAやヨーロッパの地球観測衛星4つが続く、宇宙からの観測網です。
世界の地球観測衛星は、協力しながら観測を行っています。異なる衛星が異なる観測機器を駆使し、同一地点をほぼ同じ時刻(約10分以内)に観測することで新たな発見ができます。たとえば昼夜と問わず雲があっても観測できる「しずく」と、細かいところを見分けるのが得意なNASAの衛星「AQUA」が連携することで、高解像度で雲のない画像を得られますし、「AQUA」の雲画像と「しずく」の降雨情報を重ねることで台風を精度よく観測できます。
「しずく」のデータは、他の衛星データとも連携して使われます。日本の観測技術が世界から頼りにされている証でもあるのです。

(その3)高度700km、地球一周100分!その飛行速度は?
「しずく」は宇宙のどのあたりを飛んでいるのでしょうか?国際宇宙航行連盟の定義では高度100km以上が宇宙と定められています。衛星が飛ぶ通り道を「軌道」と呼び、国際宇宙ステーションは高度約400km、「しずく」は高度約700kmを飛びます。
飛行速度は秒速約7.5km、時速にするとなんと27,000km。その速さは地球を約100分で一周するほどで、旅客機(時速900km)の30倍、新幹線はやぶさ(時速300km)の90倍という超高速です。
5年以上にわたって精密な地球観測を行い、地上に観測データを送り続けます。しかも宇宙に打ち上げてしまうと修理ができないため、長時間使ってもタフで壊れにくい衛星本体になっています。

(その4)天気予報の精度があがる?
天気予報と言えば、気圧配置図を使って予報するイメージを持つ方が多いと思いますが、天気予報もハイテク化。従来の方法に加えて最近では「数値予報」が取り入れられています。
数値予報とは、気温や風速などの時間変化をコンピューターで計算し、今後の大気の変化の状態を予測する方法です。
天気予報には各地の気象台や気象レーダーなどにより観測されたデータが用いられていますが、より多くの観測点から詳細な観測データが得られるほど、天気予報の精度は向上します。そのため、広域に観測できる宇宙からの観測データが欠かせません。
「しずく」は二日間で地球の約99%を観測することができます。海面水温や海上風速、水蒸気量、雲水量、降水強度などを正確に観測できるため、天気予報や集中豪雨、台風の進路予報などの精度向上に貢献すると大いに期待されています。

(その5)利用者の手元にいち早くリアルタイムで!
宇宙から観測した「今の地球」の情報をなるべく早く利用者の元に届けたい。そのために地球上のネットワークが駆使されています。
提供ルートは2種類あります。一つは「標準」ルートです。全球を観測したデータは「しずく」のデータレコードに蓄積された後、北極圏にあるスバルバードで受信。筑波宇宙センターで加工処理が行われた後に利用機関や研究者に提供されます。
もう一つは「準リアルタイム」ルート。日本周辺を「しずく」が飛ぶときに、リアルタイムで勝浦局又は筑波局でデータを受信。筑波宇宙センターに送られ自動で必要な処理を行い、今後気象庁や漁業関係機関に提供される予定です。
観測から利用者の手元にデータが届くまで数十分という早業です。魚は種類によって最適な水温が異なるため、水温情報が得られれば、カツオや秋刀魚等の漁場に効率よく直行することが可能になります。

(その6)アジアとヨーロッパを結ぶ北極海航路!?
2012年5月に打ち上がったばかりの「しずく」の観測が早くも注目を集めています。
北極海を覆う海氷の面積が2012年8月、史上最速のペースで縮小を続けていることが観測されたのです。過去に北極海の海氷が最小面積を記録したのは2007年9月24日で、425.4万平方キロでした。2012年夏季は2007年と同じペースで縮小を続けてきましたが、例年ペースが鈍り始める8月になっても加速し8月24日現在で約421平方キロまで縮小しました。
生成してから1年未満の薄い氷で表面が広く覆われていたこと、また一定面積内の海氷の割合が低く、過去の同時期と比べても非常に脆い状態になっていたことなどが原因として推定されています。
北極海航路はヨーロッパと東アジアを結ぶ最短航路のうちの1つですが、海氷の状況によって運行ルートが決まるため、北極海の海氷の状況には、アジアとヨーロッパを結ぶ北極海航路を通る運行会社も注目しています。海氷は融解を続けており、「しずく」は注意深く、その状況を観測しています。
