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第3回 「宇宙からの視点」で地球の水の状況を私たちに知らせる

気象や地球環境は水と密接に結びついている。地球上の水の状況を正確に把握することによって、より確度の高い気象予報が実現し、地球の環境の微細な変化をとらえることも可能になる。
遠く離れた宇宙から地球の水に関する様々な情報を集め、気象や環境の微細な変化を私たちに知らせるという重要な役割を担っているのが、第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)だ。水についてあらゆる角度から研究する「水文学」の第一人者である東京大学生産技術研究所の沖大幹教授に、地球の水の現状と「しずく」への期待について話していただいた。
沖 大幹 氏
東京大学 生産技術研究所

地域の水の問題が世界中に波及する
──水文学(すいもんがく)とはどのような学問なのですか。
- 沖:
-
天文学が、「天」、つまり宇宙に関するあらゆることを研究する学問であるのと同じように、水文学とは「水」に関するすべてを扱う学問です。中でも私が主要な研究分野としているのは、主に三つです。気候変動が水資源にもたらす影響の研究、雨と洪水の関係を明らかにして洪水予測の仕組みを作る研究、そして、東南アジアなどの海外諸国の水問題を解決するための研究です。
日本の人口は減少に向かっていますが、世界の人口はどんどん増え続けています。現在の70億人という人口が90億、100億近くにまで増えていったときに、人々が幸せに、安定して暮らしていくにはどうすればいいいか。今後、それが人類規模での大きな課題となっていくでしょう。
気候変動、社会の変化、人口動態といった様々な視点からその課題について考えていかなければなりませんが、とりわけ水資源や地球上の水循環といった分野の研究によって課題の改善に寄与していきたいと私は考えています。
──現在、地球は「水」に関してどのような問題を抱えているのでしょうか。
- 沖:
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まず、飲み水の問題があります。安全な飲み水が簡単に得られない人たちが現在、世界に8億人ほどいると言われています。飲み水を得るのに往復最低30分も歩かなければならない人。あるいは、飲み水を確保できる場所が近くにないために、病原菌などが含まれている可能性のある水を飲まざるを得ない人。そんな人たちが、まだまだたくさんいる。それが一つの大きな問題です。
もう一つは、生産のための水をいかに確保していくかという問題です。人口が増え、経済発展があらゆる地域で進んでいくと、農業用水、工業用水が現在よりも必要とされるようになります。そういった水を環境に負荷をかけずに確保していくことが大きな課題となりつつあります。
また、気候の変動も大きな問題です。近年日本でも、短時間で大量の雨が局地的に降る、いわゆるゲリラ豪雨が増えています。原因は現在のところ、地球温暖化よりも、都市のヒートアイランド現象だと考えられていますが、今後、温暖化が進めば、ゲリラ豪雨が増えていくのは確実です。豪雨の被害を防ぐには、できるだけ正確な降雨予想を立てる仕組みを確立しなければなりません。
──日本で暮らしている私たちにとっては、水の問題はそれほど深刻ではないようにも思います。
- 沖:
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確かに日本では飲み水や生活用水で不便を感じることはあまりありませんが、たとえば食料という視点で見ると、地球の水問題は日本人にも密接に関わっているのです。日本の食料自給率は4割なので、6割は海外での食料生産に依存しているということです。つまり、食料生産国で干ばつなどの水の問題が起きれば、即座に食料の価格に影響しますし、食料供給が不安定化する可能性もあるわけです。
さらに産業面での影響もあります。日本企業は海外にも多くの工場がありますが、そこで洪水が起きれば、日本製品の供給や価格に大きな影響が出ます。製品のサプライチェーンが世界的に広がっている今日、一地域、一国の水の問題が、ほかの地域、ほかの国に及ぶ可能性は非常に高くなっているのです。経済のグローバル化によって、地域の水問題があらゆるところに波及する。それが現在の世界です。