Japan
サイト内の現在位置
NECの宇宙事業が目指す持続可能な社会
衛星技術から確かな社会価値を生み出すためにNECグループは2021年に発表した中期経営計画において、「顧客との未来の共感創り」というテーマを掲げています。そのテーマを実現するための活動の一つが、Thought Leadershipの取り組みです。市場のリーダーとして未来に向けたビジョンを提案し、新たな価値を創造し、人々との共感を生み出していく──。その活動をグループ内で推進しているのが、シンクタンク「国際社会経済研究所(IISE)」です。2022年7月には、宇宙飛行士の野口聡一が理事に就任し、カーボンニュートラル推進の取り組みを進めています。2023年2月10日の「IISEフォーラム2023」開催に当たって、野口とNECで衛星データ利活用事業を担当する大野翔平が、宇宙技術と環境問題との関係などについて語り合いました。
宇宙から見た地球環境の変化
大野 野口さんは2022年7月にNECのグループ企業であるシンクタンク、国際社会経済研究所(IISE)の理事に就任されました。現在はカーボンニュートラル推進に取り組まれていますね。
野口 理事に就任する際、NECの森田隆之社長から、NECも注力しているカーボンニュートラルの領域でぜひ力を発揮してほしいと言われました。IISEという場で何ができるか、NECの事業とどう連携していくか、外部の有識者の皆さんとの接点をどうつくっていくか。そういったことを現在検討しているところです。
大野 これまで国際宇宙ステーション(ISS)に何度も滞在されています。宇宙から地球を見て、環境の変化で気づいた点はありましたか。
野口 地球は驚くほど美しい──。それが、私が宇宙から最初に地球を見たときに感じたことでした。本当に息を飲むような美しさを地球はもっています。しかし、その地球上で環境変化が進んでいることは肉眼でも見て取ることができます。私が最初にISSに滞在したのは2006年で、最近では2020年に宇宙に行っていますが、その15年ほどの間にさまざまな変化を確認することができました。
例えば、北極圏では長さ10キロ以上に及ぶ巨大な氷山が宇宙から見えます。これは、北極の氷が解けて流れ出したものです。このような氷山が南下して融解が進むことによって、海面が上昇することになります。
また、南米のアマゾンを宇宙から見ると、熱帯雨林のあちこちに枝のような茶色い線が伸びていることがわかります。これは森林の乱開発が進んでいることを示すものです。
これらはたいへん危険なシグナルだと思います。地球の環境は40億年以上をかけて形成されてきたものです。もちろん、1000年単位、1万年単位で自然環境はおのずと変わっていきますが、たかだか10年、15年の間に肉眼で確認できる変化があるというのは驚くべきことです。このシグナルを私たちはしっかり受け止めなければなりません。
大野 地球にいても環境変化や気候変動を実感しますが宇宙から見ると、その変化を如実につかむことができるのですね。
野口 人が宇宙に行くことの一つの意味は、宇宙から地球の姿を直接見ることができる点にあると思います。私は自分の目で見た地球について、日本の皆さんに日本語という母国語で伝えることができます。それが日本人である私が宇宙に行った大きな意義であると考えています。
しかし、人間の目で見えるものは限られています。環境変化を正確に捉えるためには、衛星を使ったリモートセンシングをはじめとするさまざまな観測技術を駆使する必要があります。一方に私たち宇宙飛行士が肉声で伝える率直な感想があり、一方にそれを裏打ちする技術やデータがある。そのことが何より重要であると思います。
宇宙から地球を観測するさまざまな技術
大野 NECは、まさに宇宙飛行士の皆さんが肉眼で見たことを補完できる事業にこれまで取り組んできました。私自身は2015年の入社以来、人工衛星に搭載されている合成開口レーダー(SAR)のデータ利活用を担当しています。ご存知のとおり、SARは宇宙から地表に向けてマイクロ波を発射し、その反射を受信してさまざまな観測を行うレーダーです。SARの大きな特徴は、天候に左右されずに地表を観測できることです。また、NECが運用しているSARは極軌道を回っているので、地球全体の観測が可能です。このSARを活用することによって、森林減少などの環境変化をはじめ、災害発生時の状況把握、インフラの維持管理などが可能になります。この数年で、SARのデータをほかのいろいろなデータと組み合わせて民間企業や自治体にご活用いただけるようになっています。
野口 SARはたいへん画期的な技術ですよね。そのデータは、とりわけ未来予測に力を発揮すると私は考えています。
大野 おっしゃるとおりですね。環境変化などの要因を分析することによって次の変化の予兆を把握すること。あるいは、過去のデータの蓄積から未来の傾向を予測すること。それがSARのデータの有効な活用法の一つだと思います。
野口 カーボンニュートラルの取り組みの進度は「スコープ」によって示されます。スコープ1は事業者の設備から排出するCO2を削減すること、スコープ2は電気や熱などのエネルギーが生成される過程で発生するCO2を削減すること、スコープ3はサプライチェーンの各プロセスにおけるCO2を削減することを意味します。私はよく、IISEの藤沢久美理事長と「スコープ4、いわゆる削減貢献量をどう構想すべきか」という話をしています。おそらく、そこには時間軸の観点が含まれるはずです。事業者の建物が10年後にどのくらいのCO2を排出しているか。それを建て替えるときにどのくらいのCO2が排出されるか。そういった視点が今後は重要になると考えられます。
カーボンニュートラルには、CO2の排出削減量をクレジット化することで取り引きを可能にするという考え方がありますよね。SARのデータを活用して未来予測を実現し、その時間軸の視点をクレジットに加えていく。そんな取り組みも今後はありうるのではないでしょうか。
大野 まさに未来に向けたデータ活用と言えそうですね。もう一つ、NECは経済産業省が運用している「HISUI」という宇宙実証用のハイパースペクトルセンサーも開発しています。これはすでにISSの日本実験棟「きぼう」に搭載されています。野口さんは、このセンサーを操作したことはありますか。
野口 HISUIがISSに搭載されていることはもちろん知っています。直接操作したことはありませんが、これもまた、過去になかった画期的技術だと思います。
大野 人間の目は、RGB(赤、緑、青)の三原色で物体を認識しています。つまり、バンド数が3つしかないわけですが、ハイパースペクトルセンサーは180以上のバンドでものを捉えることが可能です。これによって森林の樹種の違いや、資源分布、農作物分布などを宇宙から細かに把握することができます。
野口 ハイパースペクトルセンサーは、まさしくデータ活用の可能性を大きく広げる技術だと思います。もっとも、データはあくまでもデータです。最新技術によって獲得したデータを分析し、解釈して、そこから新しい価値を生み出していくこと。それができるのがICT企業であるNECの強みだと思います。その強みを宇宙の領域でもどんどん発揮していただきたいですね。
「宇宙ビジネス」から「宇宙利用ビジネス」へ
大野 現在、私たちは主に国内企業に向けて、衛星データの利活用をご提案しています。企業の皆さんとお話をすると、「こういう衛星技術があることを初めて知った」という方が少なくありません。やはり、国内における衛星データ活用はまだまだ発展途上という気がします。それに対して、海外、とりわけ欧州では衛星からのデータをアクティブに活用している印象があります。グローバルに活動されている野口さんから見て、日本と海外における衛星データ活用にはどのような違いがあると思われますか。
野口 日本における衛星データ活用が海外と比べて大きく後れをとっていると私は思っていませんが、一般的な市場への浸透度という点では、確かに欧州などと差があるのは確かです。市場や人々の動向を捉えて、シーズとニーズをマッチングさせるのが欧州の企業は上手です。その点は大いに見習うべきだと思います。
例えば、日本において衛星の気象データを活用するのは主に気象庁ですが、「あなたの街で来週の日曜日に開催される運動会が始まる時刻の降雨量を予測します」ということが衛星データによって可能になれば、そのデータを必要とする民間のプレーヤーはたくさんいるはずです。あるいは、「700ヘクタールの茶畑の生育状況を衛星から把握し、施肥の時期や刈り取りの時期をピンポイントでお知らせします」といった提案に魅力を感じる企業も少なくないでしょう。
世の中の人々が何を求めていて、それに応えるために技術やデータをどう使えばいいのか。そういったことを考え、提案できるセールスエンジニアリングの力が今後はいっそう求められるようになるのではないでしょうか。
大野 とても重要なご指摘だと思います。NECは、衛星技術を活用した事業を「宇宙ビジネス」ではなくて「宇宙利用ビジネス」と呼んでいます。「宇宙ビジネス」には、衛星やさまざまな機器、つまりハードウェアを開発して販売する事業というニュアンスがあります。一方、そういったハードウェアやデータに関わる技術を社会課題の解決や企業活動に役立てるのが「宇宙利用ビジネス」です。宇宙利用ビジネスにおいて重要なのは、まさに野口さんがおっしゃるシーズとニーズのマッチングだと思います。ぜひIISEの皆さんとも力を合わせて、NECの宇宙利用ビジネスを世の中に広げていきたいですね。
さて、2月10日に開催される「IISEフォーラム2023」に野口さんはパネリストとして参加されます。最後にそのフォーラムに向けた意気込みをお聞かせいただけますか。
野口 「防災とカーボンニュートラル」というテーマのセッションでパネリストを務めさせていただきます。このセッションでは、NECが掲げている2030年に向けたビジョンにIISEとしてどう寄与していけるかといったこともお話ししたいと思っています。私自身関心があるのは、やはり宇宙に関連するテーマです。今後はIISEの活動の中にも宇宙に関するテーマを積極的に取り入れていきたいと考えています。このフォーラムがその一つの取り掛かりになればいいと思っています。フォーラムの様子はオンラインでライブ配信され、オンデマンドでも視聴できます。ぜひ、多くの皆さんにご覧いただきたいですね。