2012年7月4日、東京港区、メルパルクの大ホールを埋めた聴衆を前に、大きな地球の映像をバックに中川は静かに語り始めた。「昨日から今朝までに「しずく」が捉えた全地球の映像がこれです」一瞬、会場がどよめいた。大勢の聴衆が一緒に「この地球(ほし)の今を視た」瞬間だった。
先ほど受信したばかりの地球の水の有様がスクリーンに現れた。1周100分で地球を回る衛星ならではのグローバルな視点が十分に活かされた画像。あわせて縮小しつつある北極海の海氷の様子も示された。
この日、18:30から行われた、JAXAシンポジウム「宙(そら)から視る、宙をつかう」での、中川が参加したトークセションの終わりの出来事だった。
会場からの拍手を浴びながら少し紅潮した中川の胸中には「ようやくここまで来た、これで国際的な地球観測の土俵に乗れる!」という想いがあふれていた。
「しずく」搭載センサAMSR2の観測データ 地球全体の擬似カラー合成画像
2012年7月3日から4日にかけて取得されたもの。23GHz、89GHzで観測黄色は降水域や雪氷域を示している。1走査で約1450kmの幅を観測するが中緯度から赤道域では1日の観測では未観測領域(図の黒い場所)が残る。2日間で地球上の99%以上の場所を観測することが出来る。
「しずく」(第一期水循環変動観測衛星:プロジェクト名 GCOM-W1)は、高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)を搭載して、高度約700kmの極軌道から様々な周波数を使い地球の水(水蒸気、氷)が発するマイクロ波を検出して、全地球的な水の循環を調べようとするJAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星だ。
2002年12月に打ち上げられた「みどりII」に搭載された初代のAMSR、そして2002年5月にNASAが打ち上げた地球観測衛星Aquaに搭載されたAMSR-Eをさらに改良、衛星搭載センサとしては世界最大の2mもの可動型アンテナを搭載、5年間にわたって観測を続ける予定だ。
「しずく」のプロジェクトマネージャ、中川敬三さんに「しずく」開発から打ち上げまで、そして軌道投入から初画像の取得、今後の展開などを小笠原が聞いた。
JAXA GCOMプロジェクトマネージャ
中川 敬三 氏