Japan

関連リンク

関連リンク

関連リンク

関連リンク

次世代に向けた航空交通管理への取り組み

社会システムのDXを実現する技術 ~ 空港のDX

NECは、航空機の交通管理を行う航空交通管制システムを開発し、納入しています。一層のグローバル連携や航空交通量の増加、運航の多様化は、今後、更に進んでいきます。昨今の課題、そしてその課題を解決すべく、次世代に向けた航空管制の取り組みについて紹介します。

1. はじめに

NECは、半世紀以上にわたり、航空機の交通管理を行う航空交通管制システムを開発し、納入しています。航空交通管制システムは、大都市圏拠点空港の整備やアジア諸国の経済発展などによる“航空交通量の増加”とともに発展してきました。将来に目を向けると、さまざまなエアモビリティの出現により、航空交通量は継続的に増加すると見込まれます。しかし、多種多様な運航環境や昨今の社会情勢は、新たな課題を生み出します。今後の航空交通管制システムの発展には、これら双方を考慮した課題解決が必要条件となります。これらを踏まえ、NECのこれまでの実績と今後の取り組みについて紹介します。

2. これまでの航空交通管制システムへの取り組み

2.1 開発・導入の歴史

社会や経済のグローバル化により、空港や航空交通が果たす役割が年々重要になってきました。NECはこれまで、航空交通管制システムをはじめとする航空交通業務全般のシステムの開発を、半世紀以上にわたって行ってきました(図1)。

図1 航空交通管制システム開発・導入の歴史

2.2 稼働中のシステム

航空交通を支えるNECの大規模システムの導入事例として、2015年に運用開始となったFACE(Flight object Administration CEnter system)及び2018年運用開始のHARP(Hybrid Air-route suRveillance sensor Processing equipment)を紹介します。

航空交通において、管制官が航空機同士の間隔を維持するよう働きかけることで、安全を確保しており、そのためには、管制官に各航空機の飛行計画とリアルタイムに位置情報を提供するシステム(図2)が必要となります。日本の管制において、FACEは情報のデジタル化と共有、HARPは飛行状況の把握のためのセンシングの要であり、DXを進めるうえで、それぞれ重要なシステムとなります。

図2 FACEとHARPのデータ連携イメージ

2.2.1 航空交通管理インフラのDXを担うFACE

管制官は、フライト前に航空会社などの運航者から提出される飛行計画をベースに、管制業務を行います。飛行計画には、コールサイン、出発空港、出発予定時刻、目的空港、所要時間、巡航高度、その他の情報が含まれています。近年、より高度な航空交通管理を行うため、これらの情報を、精細さを高めたフライト・オブジェクト・データとして扱えるよう、システムの開発(DXへの足掛かり)を進めており、その基幹システムがFACE(図3)になります。人(管制官)が対応することを前提としていた従来の飛行計画から、FACEによってフライト・オブジェクト・データがシステムで管理され、人の判断支援をする形にステップアップさせることで、人とシステムによる、より安全で効率的な航空交通管理の実現を目指しています。

図3 FACE概要1)

FACEに求められるシステム要件の概要は、次のとおりです。

  • (1)
    高可用性: 24時間無停止の高可用性
  • (2)
    処理性能: 全管制対象機に関する情報の遅滞ない処理及び関連システムとの連携
  • (3)
    処理容量: 全管制対象機に関する情報の管理

ここでは、特に、高可用性と処理性能を支えるNECの技術を紹介します。

FACEでは、次世代社会インフラを支える高信頼・高可用な大量・高速トランザクション処理基盤であるDIOSA/XTP(拡張性の高い大規模・高信頼性・高可用性システムの構築を支援するNECのソフトウェア製品の名称)を活用することで、高速データアクセスによる大量・高速トランザクション処理と多様な障害時対策による信頼性・可用性の向上を実現しています。

DIOSA/XTPの構成概念と特徴を、図4に示します。

図4 DIOSA/XTPの構成概念と特徴2)

2.2.2 センシング情報の有効活用を行うHARP

より安全で効率のよい航空交通管理を行うためには、航空機の位置情報をリアルタイムかつ正確に取得し、管制官/管制システムに提供する必要があります。位置情報は、レーダーに加え、WAM(Wide Area Multilateration:航空機が発出する信号を複数の受信局で検出し測位するもの)やADS-B(Automatic Dependent Surveillance–Broadcast:航空機が自機の位置情報を自動的に放送するもの)といったセンサーにより、取得可能です(図5)。HARPは、レーダーの高信頼性やWAM/ADS-Bの高精度、高頻度といったメリットを生かし、複数のセンサーから得られる航空機の位置情報を統合することにより、精度を高めた位置情報を管制官に提供することを可能とします。

図5 HARPのマルチセンサー対応の概要3)

3. 航空交通DXに向けた今後の取り組み

3.1 航空交通領域におけるDigitization

航空交通領域において、現在、情報の高度化(テキスト形式からXML/GML形式)への変化の過渡期にあります。例えば、テキスト形式の飛行計画は、XML形式のフライトオブジェクト情報として、新しいデータ交換モデル(FIXM:Flight Information eXchange Model)の導入が計画されています(図6)。

図6 航空機の運航に不可欠な情報の形態変化4)

同様に、気象情報はIWXXM(ICAO Meteorological Information Exchange Model)、航空の安全に関する情報はAIXM(Aeronautical Information eXchange Model)として国際標準化されるとともに、社会実装が進んでいます。

また、情報の高度化と同期して、情報を扱う航空通信/情報共有の仕組みも図7のように、バージョンアップを行っています。

図7 情報を扱う航空通信/情報共有の仕組みの変化

これらの動きは、国際便が就航されることが前提の航空交通領域では、各国が単独のシステムを構想するのではなく、地球規模でSystem of Systemsを実現するために、SWIM(System-Wide Information Management)への取り組みが国際規格として定義される流れとなっています(図8)。

図8 NECにおけるSWIM国際実証試験への取り組み

NECは、前述したFACEを含めた統合的な情報管理を見据え、いち早く情報の高度化やSWIMの社会実装検討に取り組み、アジア太平洋地域で実施される国際実証試験へ積極的に参加し、米国とともに国際的な動きを牽引しています。

3.2 航空交通DXに向けて

航空交通DXでは、航空業界全体としてデジタル化を加速して、日本の航空、空港会社の国際競争力を高めることを目指します。そのためには、従来の管制運用や空港運用の効率化・システム高度化だけではなく、旅客目線での体験価値向上に資するデータ利活用に取り組みます(図9)。

図9 旅客目線で実現する航空交通DX

「情報共有基盤(SWIM)」の導入を契機に、あらゆる事業者がつながり、そのデータを利活用することで、顧客体験価値の向上・事業者の生産性革命を実現することができます。例えば、航空会社が保有するデータを二次交通や地域と連携することで、シームレスな乗り換え案内など、旅客にとって快適な旅を提供することができます。更に、航空業界に従事する関係者の最適な人員配置・働き方改革にも貢献することができます。

NECは、航空業界の皆様と歩んできた歴史と経験を生かしてステークホルダーを牽引し、航空交通DXの実現、日本の航空業界の継続的な発展に寄与します(図10)。

図10 航空交通DXへの変革

4. おわりに

本稿では、航空交通を支えるシステムの概要とNECの取り組みを紹介しました。大きな環境変化のなかで起こる新たな市場動向を踏まえ、顧客価値の最大化につなげるべくシステム開発を継続し、航空交通の更なる発展に貢献します。

本システムの開発にあたり、ご指導いただいた国土交通省航空局様、並びに関係機関様、またご尽力いただいたメーカー各社の皆様に心から感謝を申し上げます。

参考文献

執筆者プロフィール

庄田 武志
電波・誘導事業部
シニアエキスパート
吉田 宏昭
電波・誘導事業部
マネージャー

Escキーで閉じる 閉じる