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GPSを利用した航空機進入着陸システム(GBAS)の開発

社会システムのDXを実現する技術 ~ 空港のDX

NECは、GPSを利用した航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システムであるGBASを日本で初めて実運用システムとして開発し、東京国際空港向けに納入しました。

NECはこれまで、航空の安全、安心、効率化に貢献するさまざまな航空管制システム、レーダシステム、航法システム、着陸誘導システムなどの重要な社会インフラを開発・製造してきました。

GBASは、従来の着陸誘導システムと比較して、1システムで複数の進入経路の情報を提供可能なため、導入/運用コストを低減することができます。また、空港の設置環境などによっては、柔軟な進入と着陸が可能となるなどの効果も期待されています。

1. はじめに

民間航空機は安全に着陸するため、1940年代からILS(Instrument Landing System:計器着陸装置)と呼ばれる電波を使った誘導システムを、進入着陸に使用してきました。

一方で、年々増大する航空需要に対応するため、GPS(Global Positioning System)などの測位衛星を活用した衛星航法へ移行が進められています。

1990年代からGPSを利用した民間航空機の進入着陸を実現するため、衛星航法の航法精度や安全性を補強するGBAS(Ground Based Augmentation System:地上直接送信型衛星航法補強システム)の研究開発が、米国を筆頭に各国で行われてきました。

NECは、1990年代後半からGBASの研究開発を開始しました。国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の電子航法研究所(以下、電子航法研究所)様向けにプロトタイプGBASの開発を受注し、2001年に仙台空港へ、2010年には関西国際空港へ設置することにより、GBASの知識と基礎技術を培ってきました。その後、2016年に国土交通省航空局(以下、航空局)様から国内初の実運用システムとして、東京国際空港(以下、羽田空港)向けGBASを受注し、2020年3月に納入しました。本稿では、GBASの概要と技術課題、及びその対応について紹介します。

2.GBASの概要

2.1 GBASとは

GBASは、GPSを利用した民間航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システムです。カーナビや携帯電話などでは、位置情報を把握するためにGPSが広く利用されていますが、GPSから得た位置情報では航空機の進入着陸で要求される精度や安全性を保障することができません。そのため、GBASは、GPSを使用した測位の精度や安全性を保障するための補強情報(誤差補正データ*1 、インテグリティ情報*2 、進入経路情報*3 )を地上で生成・放送しています。航空機はGPS信号に対して、地上から放送された補強情報を適用することで、安全な進入着陸を実現しています。

図1及び写真に、GBASの構成と外観を示します。図に示すとおり、GBASは、GBAS基準局、GBAS処理部プロセッサ及びVDB(VHF Data Broadcast)アンテナから構成されています。

図1 GBASの構成
写真 羽田空港に設置されたGBAS機材の外観

GBAS基準局はGPSからの信号を受信し、GPS受信データをGBAS処理部プロセッサに伝送します。GBAS処理部プロセッサでは、GBAS基準局から伝送されたGPS受信データを使用し、補強情報を生成します。生成された補強情報は、VDBアンテナから航空機に向けてGBASメッセージとして放送されます。また、GBAS処理部プロセッサでは、GPSの衛星故障や電離圏の急激な変化により衛星が使用できない状況(電離圏異常)の監視も行っています。衛星故障や電離圏異常により測位に悪影響を与えると判定された衛星は、GBASメッセージに含めないという機能により、それらの衛星を使用させないようにすることで、進入着陸に問題が生じることを回避しています。

  • *1
    GPSの測距誤差を補正するための情報。
  • *2
    安全性を保障するため、GPSによる測位誤差の信頼性に関する情報。
  • *3
    航空機が着陸する際に使用する滑走路への進入経路を示す情報。

2.2 GBASのメリット

従来のILSは、1つの滑走路の1つの進入経路に対して一式整備する必要がありました。それに対してGBASは、一式のシステムから放送するGBASメッセージで複数の進入経路の情報を提供可能なため、整備コストを低減することができます。図2は、2本の滑走路に対して両側からの進入経路が設定されている例を示しています。一式のILSでは1つの進入経路にしか対応できないのに対し、一式のGBASは4つの進入経路に対応することができます。

図2 一式のシステムで対応可能な進入経路の比較

GBASはデジタルデータにより進入経路を航空機へ提供するため、空港の設置環境などによっては、柔軟な進入と着陸が可能になるなどの効果も期待されています。

3. GBASの技術課題とその対応

3.1 電離圏

電離圏は、地球の一部大気が太陽からの紫外線などにより電離された、高度約60kmから1,000km以上にわたる領域です。GPSの電波が電離圏を通過する際には遅延が生じ、GPSによる測位誤差の一要因となります。電離圏活動は地球磁場の影響を強く受けるため、地磁気の水平面に対する向き(磁気伏角)と関連付けた磁気緯度で議論されます。低磁気緯度地域では、電離圏の状態が不安定になりやすく、電離圏活動がGPSを利用した測位に強い影響を与える傾向にあります。日本は地理緯度に対し磁気緯度が低いため、電離圏の影響を受けやすい環境にあります。

3.2 電離圏がGBASに及ぼす影響

GPSによる測位の主な誤差要因として、衛星位置誤差、衛星時計誤差、電離圏遅延誤差、対流圏遅延誤差があります(図3)。GBASでは、精密に測量されたGBAS基準局のアンテナ位置とGPSが放送している軌道情報から計算した衛星位置を用いて、衛星までの幾何学的距離を正確に求めます。次に、アンテナで実際に観測した衛星までの距離と前述の幾何学的距離との差分を計算し、GPS信号に含まれる誤差を推定し、誤差補正データとして航空機に放送します。

図3 電離圏とGBASの主な誤差要因

電離圏の状態が不安定な低磁気緯度地域では、観測する場所がそれほど離れていないにもかかわらず、電離圏遅延量が大きく異なり、誤差補正データの精度が影響を受ける場合があります。以降、観測場所による電離圏遅延量の変化を電離圏空間勾配と呼びます。

電離圏空間勾配が小さく、GBAS基準局が観測する電離圏遅延量(IDgnd)と航空機が観測する電離圏遅延量(IDair)が同等な場合には精度よく補正できますが、電離圏空間勾配が大きくなると、航空機とGBAS基準局で観測される電離圏遅延量が同等でなくなり、補正精度が劣化します。図3は、IDairと、IDgndが大きく異なっている状態を示しています。

このように低磁気緯度地域において頻繁に発生する大きな電離圏空間勾配が、GBAS実用化の最大の課題となっていました。

3.3 IFMによるGBAS実用化の課題への対応

NECのGBASでは、電離圏空間勾配を監視するために、電子航法研究所様が発案し、NECが前述のプロトタイプ開発を通して実用化した技術である電離圏フィールドモニタ(IFM:Ionospheric Field Monitor)1)を導入しました。

図4は、電離圏空間勾配により、GBAS基準局と航空機で電離圏遅延量が同等でない状態を示しています。航空機が受信するGPS信号のみが電離圏空間勾配が大きい領域を通過しているため、大きな補正誤差が生じます。この電離圏空間勾配を監視するために、IFMを図4に示すように、航空機の進入経路方向に設置します。IFMで受信したGPS信号の観測値とGBAS基準局で受信したGPS信号の観測値の差分から、電離圏空間勾配を監視することができます。IFMにより監視している電離圏空間勾配が一定のしきい値を超えた場合には、電離圏空間勾配が影響を与えている衛星をGBASメッセージに含めず、航空機が当該衛星を使用した測位を行わないようにします。なお、GPS衛星は軌道上に30基前後存在しており、日本上空では通常、同時に8~13基程度観測することができます。このため、電離圏空間勾配の影響を受けている衛星を使用しなくても、他の衛星を使用して測位を継続することができます。

図4 IFMによる電離圏空間勾配の検出

羽田空港には、図5に示すように6本の進入経路があります。すべての進入経路に対応するため、IFMを空港北東の航空局の施設(IFM1)及び南東の海ほたるパーキングエリア(IFM2)の2力所に設置しました。北東及び北西からの進入に影響を与える電離圏空間勾配に対してはIFM1を使用して、南東からの進入に対して影響を与える電離圏空間勾配に対してはIFM2を使用して監視を行っています。

図5 羽田空港の進入経路およびIFM設置位置

このように2つのIFMを導入することにより、低磁気緯度環境下でのGBASを実現しました。

4. むすび

本稿では、羽田空港に設置した日本初の実運用システムとなるGBASの概要と技術課題への対応について紹介しました。低磁気緯度地域でGBASを実現するうえで課題となっていた電離圏空間勾配への対応として、IFMを導入し、低磁気緯度地域の電離圏環境に適合したGBASを実現しました。今後は、国内の主要空港への展開を図るとともに、海外の低磁気緯度地域の国々への展開も行います。

最後に、本開発を成功に導くうえで、ご指導いただいた航空局様並びに電子航法研究所様に心から感謝を申し上げます。

参考文献

  • 1)
    S. Fujita,T. Yoshihara and S. Saito:Determination of ionospheric gradient in short baselines by using single frequency measurements,Journal of aeronautics, astronautics and aviation, Series A 42,pp.269–275,2010

執筆者プロフィール

井上 恵一
電波・誘導事業部
田口 達雄
電波・誘導事業部
主任
鈴木 和史
電波・誘導事業部
マネージャー
近藤 天平
電波・誘導事業部
シニアエキスパート

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