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Vol.74 No.1 安全・安心・公平・効率を提供する社会インフラ特集

Vol.74 No.1(2021年8月)

現在、私たちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行、激甚化・頻発化する自然災害、少子高齢化による生産年齢人口の減少など、さまざまな社会問題に直面しています。

NECは、これらの問題を解決するために、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に加え、ヒト・モノの動きや自然、社会インフラの状況をとらえるセンシング技術開発・活用に取り組んでいます。

本特集では、行政サービス、放送、空港などの社会システムを支えるインフラのDXに加え、海底から宇宙にわたる領域のセンシング技術を紹介しています。

更に、長期的な視点を顧客と共有し、ぶれない視点で研究開発を進めている最先端のインフラ技術についても紹介しています。

安全・安心・公平・効率を提供する社会インフラ特集

安全・安心・公平・効率を提供する社会インフラ特集によせて

執行役員常務
田熊 範孝


社会インフラを通じて、すべての人が豊かさを享受できる社会の実現を目指すNECの取り組みについて

執行役員
永野 博之

社会システムのDXを実現する技術 ~ 政府・行政サービスのDX

デジタル・ガバメントを推進する、これからのクラウド活用

諸藤 洋明・田中 佑典・堀田 佳宏・徳山 慎一・打田 貴樹・青野 亜希子

昨今、日本をはじめとする各国で、デジタル・ガバメントの実現に向けた動きが加速しています。日本におけるデジタル・ガバメントの推進には、「作らず使う」「素早く試す」ことが可能な「アジャイル・ガバメント」の実現が、重要なポイントであると考えます。本稿では、デジタル先進国であるデンマークの取り組みを先例として、「アジャイル・ガバメント」の概要説明、現状の問題点の整理を行ったうえで、デジタル・ガバメントの実現に向けてNECが取り組んでいる「政府向けクラウドソリューション」の要素と今後の展望について紹介します。


自治体DXに向けた取り組み

倉光 一宏・岩田 孝一・橋本 利紀

ここ数年におけるブロードバンド網の発展やスマートフォンなどの電子デバイスの普及により、行政においても、署名と押印を前提とした行政手続きが大きく見直されることとなっています。更に紙をなくしすべての行政情報がデジタルとなることにより、AIなどを活用したビッグデータ活用がその利用範囲を広げ、新たな価値を生む可能性が高まっています。本稿では、このような環境において、行政と国民との接点である地方公共団体のDXに向けた取り組みについて、業務標準化や実証実験の内容を中心に紹介します。


音声の可視化による学びの改革 協働学習支援ソリューション

田畑 太嗣・片岡 俊幸・仲川 壮太・前田 裕貴

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡⼤を受け、子どもたちや教員、学びを⽀える事業者には新たな学び方/働き方の実現が求められています。
NECのスマートスクール事業が提供する学習コンテンツの1つ「協働学習⽀援ソリューション」は、遠隔形式の“アクティブ・ラーニング”などのオンライン学習におけるグループ活動を支援し、子どもたちの発話からさまざまな特性(学習キーワード出現回数、子どもたちと教員の発話率など)を可視化・分析することで、子どもたち一人ひとりに効果的な指導の実現を支援します。

社会システムのDXを実現する技術 ~ 放送システムのDX

映像流通DXが目指す新たな社会インフラ「映像プラットフォームサービス」

早川 瑛介・坂川 尚之・香月 正宏・大西 真司

映像素材の管理・流通は、旧来のアナログテープから新たにデジタルファイルへ移行し、その仕組みも大きく変化しています。これにより映像素材を単に保管・送信するだけではなく、クオリティチェックやプレビュー、オンライン送稿などの機能を持つ安全・安心な映像流通DXを実現するサービス基盤が求められています。本稿では、NECが提供している映像流通の新たな社会インフラ「映像プラットフォームサービス」の概要と主要機能・技術、及び今後の展望について紹介します。


未来の放送業界のDXを支える映像符号化技術

森吉 達治・新保 豪平・辻 直也・永山 卓・道口 隼人・飯田 健太

インターネットトラフィックの約8割を占める映像データは、放送などの日常サービスからテレワークをはじめとする企業活動まで、欠かせないものになっています。このことは、映像データを圧縮する映像符号化技術に支えられています。本稿では、安全・安心・公平・効率を提供する放送インフラを支えるNECの映像符号化技術、及び、放送業界のDXに向けた今後の取り組みについて紹介します。

社会システムのDXを実現する技術 ~ 空港のDX

空港の税関検査場の混雑緩和とスムーズな手続きを実現する税関検査場電子申告ゲート

鳥居 聡・石井 伸明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大、世界人口の増加や国際行事への観光客の招致、及び日本の労働人口の減少など、世界の状況は日々変化しています。それらに対応するために、NECは税関検査場電子申告ゲートを提供しました。これにより、税関検査場の混雑の緩和、増加し続ける入国旅客の円滑な入国と待ち時間の短縮に貢献します。NECの世界No.1の顔認証技術及び空間デザインなどにより、訪日旅客の安心、ストレスフリー、及びスピーディな税関手続きを実現します。NECは、「NEC I:Delight(アイディライト)」のコンセプトを通じて、世界や日本を取り巻く環境の変化に対応した「より快適な体験」を提供していきます。


顔認証を活用した新しい搭乗手続き「Face Express」(成田国際空港「One ID」)

石原 一雄・山田 裕代・大谷 巧・笹本 武史・井上 淳一・石川 真澄

NECの顔認証システムを活用した新たな搭乗手続き「Face Express」が、稼働開始します。空港を利用するお客様が「Face Express」を利用すると、所定の手続きで顔写真を登録することで空港でのその後の手続きにおいて、搭乗券やパスポートを提示することなく“顔パス” で手荷物預け・保安検査場への入場・搭乗ができるようになります。これにより、従来の煩わしい搭乗手続きが非接触かつスムーズに行えるようになります。本稿では、システム構築プロジェクトの成田国際空港「One ID」における顔認証精度実証の難しさ、設置場所ごとの画質調整の重要性、ウォーキングペース実現に向けた設計、既存業務と関連する各種ステークホルダとの調整の取り組みを紹介します。


GPSを利用した航空機進入着陸システム(GBAS)の開発

井上 恵一・田口 達雄・鈴木 和史・近藤 天平

NECは、GPSを利用した航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システムであるGBASを日本で初めて実運用システムとして開発し、東京国際空港向けに納入しました。NECはこれまで、航空の安全、安心、効率化に貢献するさまざまな航空管制システム、レーダシステム、航法システム、着陸誘導システムなどの重要な社会インフラを開発・製造してきました。GBASは、従来の着陸誘導システムと比較して、1システムで複数の進入経路の情報を提供可能なため、導入/運用コストを低減することができます。また、空港の設置環境などによっては、柔軟な進入と着陸が可能となるなどの効果も期待されています。


次世代に向けた航空交通管理への取り組み

庄田 武志・吉田 宏昭

NECは、航空機の交通管理を行う航空交通管制システムを開発し、納入しています。一層のグローバル連携や航空交通量の増加、運航の多様化は、今後、更に進んでいきます。昨今の課題、そしてその課題を解決すべく、次世代に向けた航空管制の取り組みについて紹介します。

社会システムを支えるセンシング技術 ~ 見えないところで活躍するセンシング技術

気候変動観測衛星(しきさい)を支えた光学センサ技術と成果

吉田 純・内方 達也・伊藤 義恭

全世界共通の社会課題解決の目標である持続可能な開発目標(SDGs)達成のために、全球規模で地球環境監視や被災状況把握などができる「衛星からの地球観測」の重要性は更に増してきています。NECは、日本初の衛星搭載用光学観測センサを開発して以来、数多くの衛星搭載用光学センサの開発実績があります。本稿では、2017年に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」に搭載された多波長光学放射計をはじめとして、2019年に国際宇宙ステーションに取り付けられた宇宙実証用ハイパースペクトルセンサ、更に2009年の打ち上げ以来、温室効果ガスの観測を継続している観測技術衛星「いぶき」搭載温室効果ガス観測センサのハードウェアおよび軌道上における成果の概要を紹介します。


宇宙から見守るまちの安全・安心 ~衛星搭載合成開口レーダ活用サービス~

大野 翔平・十文字 奈々・平田 寛道・橋爪 大輔・石井 孝和

近年、多数の衛星が打ち上げられ、衛星取得データの利活用が盛んになっています。従来は光学画像データが主流でしたが、悪天候下や夜間に観測できないため、マイクロ波を用いた合成開口レーダが脚光を浴びています。NECでは、高精度かつ広域に地表面変位を計測できる合成開口レーダの特性を活用し、インフラなどの劣化や変位を可視化するサービスを立ち上げています。ただし、光学画像と比べると直接視認性に欠けるため、さまざまな解析技術の付加が必要です。本稿では、それらの技術を解説し、インフラ維持管理サービスについても紹介します。


ミュオグラフィを活用した内部構造の観測

宮本 伸一・宮沢 和博・竹野 徹・石澤 善雄・浅見 隆太

ミューオンという極めて透過性が高い素粒子を使って、レントゲン写真のように物体内部を投影撮像する可視化技術をミュオグラフィと呼びます。本稿では、ミューオン検出器の仕組み、機械学習を活用した内部構造の把握、ミュオグラフィの適用領域などについて、NECの取り組みを紹介します。


海中の音波をあやつる可変深度ソーナー

姫野 真宏・荒谷 仁・籠谷 和峻・斯波 尚志

NECは、海の脅威である潜水艦を見つけるためのセンサーである“ソーナー”を90年もの長きにわたり開発しています。しかし近年では、潜水艦の静粛化性能が飛躍的に向上したため、これに対抗した更なる新しいソーナー技術の必要性が出てきました。そこで開発した技術が、音波の伝搬経路をあやつり、潜水艦を追い詰める「可変深度ソーナー」です。開発の中では、幾多の難題がありましたが、無事に成功を収め、実海面での試験においても期待以上の効果を発揮することができました。本稿では、それらの内容について紹介します。


マスト中段配置型艦船用TACAN(電波灯台)アンテナの開発

小川 聡・齋藤 典之・松澤 佳彦

NECは、航空の安全、安心、効率化に貢献するさまざまな航空管制システム、レーダシステム、航法システム、着陸誘導システムなどの重要な社会インフラを開発・製造しています。その1つに、航空機に対し距離・方位情報を提供する電波灯台であるTACAN(TACtical Air Navigation)システムがあります。TACANシステムは、地上に設置されるだけでなく、ヘリコプターなどを搭載した海上自衛隊の艦船にも搭載されています。艦船用TACANシステムのアンテナは、全方位へのサービス要求から見通しの良いマスト最上部に設置することが最適とされてきました。今般、NECでは、マスト中段でも全方位へのサービスを可能とする世界初のTACANアンテナを開発しましたので紹介します。


画像解析を活用して鉄道の沿線検査業務を支援する「列車巡視支援システム」

林 政裕・有山 幸孝・中島 昇・川崎 恭平・清水 惇・三和 雅史

近年、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化するなか、鉄道業界でも検査業務の省力化が喫緊の課題となっています。「列車巡視支援システム」は、列車走行時に撮影した沿線環境の映像から支障物を自動で検知・可視化できるため、安全・安心な列車運行に向けた列車巡視業務の効率化に貢献します。本稿では、「列車巡視支援システム」のシステム構成、適用事例、今後の展望について紹介します。

社会システムを支えるセンシング技術 ~ 検知と認識のセンシング技術

電波識別技術の現状と将来

大辻 太一・奥野 純平・栗原 崇・竹内 俊樹・兼松 政弘

近年、画像、映像を活用したセンシング技術は、さまざまな場面で活用され、私たちの生活に欠かせないものとなりつつあります。例えば、防犯カメラの設置は犯罪の抑止になることに加え、カメラ映像の分析に画像・映像解析技術を用いることで犯人の検挙につながるなどの効果を上げています。しかし、これらセンシング技術が普及していく一方で、今後防犯カメラの死角を突くといった、高度化した犯罪の発生が予想され、画像、映像を活用したセンシング技術を代替、もしくは補完する技術が求められると予想します。本稿ではその技術の一例として、電波センサーで収集した電波信号を用いた、無線個体識別の要素技術、並びに、想定される市場における将来的なユースケースを紹介します。


ディープラーニング技術を用いた指紋照合技術の現状と将来

島原 達也・廣川 聡

近年、AI 技術の中核となったディープラーニング(深層学習)はさまざまな所で活用され、従来の常識を打ち破る革新的な成果をもたらしています。生体認証の領域においても例外ではなく、特に顔照合技術への活用が進んでいます。近年、指紋照合においても、画像強調や特徴抽出処理などで活用が進み始めています。本稿では、指紋照合への活用の現状と将来の展望を紹介します。


顔の三次元情報の計測と顔画像照合への応用

浜田 康志・坂本 静生

防犯カメラなどで撮影される顔画像は、犯罪捜査などで重要な手掛かりとなります。しかし、カメラに対する顔の向きや顔を照らす照明は多種多様で、画像上の見た目に大きな影響を及ぼします。結果、あらかじめ登録されている顔画像と比較したときに、それぞれに映っている人物が同一か否かの判断を難しくします。そこで、顔の三次元情報をあらかじめ登録しておくことで、防犯カメラなどにおける顔画像と同じ条件の顔を再現できるようになり、より速やかで確実な顔鑑定が可能になります。本稿では、NECの高速・高精度な顔三次元計測技術及び、顔の三次元情報の顔画像照合・顔鑑定への応用について紹介します。


インビジブルセンシング技術によるウォークスルーセキュリティ検査

有吉 正行・小倉 一峰・野村 俊之・森本 伸一・本條 翔

公共交通機関や多くの人が集まる施設でのセキュリティ対策として、電波の透過性を利用したセンシング技術が注目されています。実環境での運用に際しては、多数の利用者の流れを止めずに、利用者に負担なく、非接触でのセキュリティ対策が望まれます。本稿では、利用者を立ち止まらせることなく手荷物の中や衣服下に隠された危険物を検知するウォークスルーセキュリティ検査システムを紹介します。 

未来の社会を支える最先端技術 ~ 社会に浸透してゆく先端技術

ソフトウェア無線技術のその発展と取り組み

長田 公隆・関 悟史・南 賢二・岡 誠・石井 康雄・菅田 昌利

ソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)とは、ソフトウェアを変更することで、複数の通信方式を切り替えることができる無線機を指します。具体的には、内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)の処理や回路をCPUで切り替えることで、複数の変復調方式を実現します。本稿では、日本と米国とのソフトウェア無線の相互通信を目的とした日米合同研究と、その成果を採用した陸上自衛隊向けの広帯域多目的無線機の試作から量産、更にソフトウェア無線の特性を生かしたプログラム改修事業について説明します。


人工衛星運用における自動化・省力化技術

郷内 稔也・猪股 壮太

NECは、高性能小型レーダ衛星「ASNARO-2」の運用を2018 年から行っています。自社開発の衛星運用ソフトウェアパッケージ「GroundNEXTAR」によって、安定した衛星運用を実現してきました。本稿では、「GroundNEXTAR」の特徴と、これまでの衛星運用で得られた自動化・省力化に向けた知見を紹介します。また、衛星運用で課題となっている「観測候補の選定」について、熟練の運用者からの脱却と運用の自動化・省力化に向けた取り組みとして、「熟練の運用者の意思決定」を自動化する意図学習技術について紹介します。


光が導く次世代の暗号技術「量子暗号」

伊東 洋一郎・遠山 裕之

量子暗号は、将来にわたり解読されるリスクがなく超長期的に情報を保護できる暗号方式で、国家レベルの重要な基幹システムなどに適用が期待されています。量子暗号は、量子鍵配送によって事前に暗号鍵を伝送共有し、ワンタイムパッドと呼ばれる暗号方式で通信を暗号化することを指します。量子鍵配送では、光の粒である光子に鍵情報を載せ、その量子力学的な性質で鍵を守ります。
NECでは、BB84と呼ばれる方式に加えて、次世代技術のCV-QKD方式の研究を進めています。


重作業の省人化・無人化を実現するロボティクス技術

石田 尚志・根 和幸

日本では、少子高齢化により重作業を伴う産業の労働力不足が、問題になっています。この労働力不足を補う技術として注目されているのが、ロボティクス技術です。本稿では、ロボティクス技術として、防衛装備庁の研究試作事業で設計・製造した、装着者の重量負荷軽減と俊敏性を両立し不整地にも対応可能な「高機動パワードスーツ」と、事前地図情報によらない不整地での自律走行を可能とする「多目的自律走行ロボット」に関して、各々の事業背景、構成、主要技術及び将来展望について紹介します。


海中の無人機に効率良く大電力を伝送できるワイヤレス給電アンテナの開発

小川 誠・山本 満

本稿では、海中での無人機運用に重要となる海中ワイヤレス給電(充電)アンテナの開発について紹介します。広大な海洋では状況把握、資源調査や採掘・採取を行う設備の開発などに関する研究や産業が進展し、昨今では、ドローンと同様に無人機が海中でも広く活用されています。しかし、海中での無人機運用は有線給電では移動範囲が狭く、バッテリー駆動では稼働時間が短いという課題があるため、運用効率を改善するために海中でのワイヤレス給電の開発に着手してきました。NECで研究開発した独自のアンテナ技術により50W級の海中用アンテナを実現しましたが、容量が小さく適用範囲が限定的となるため、実用レベルのキロワット級へと開発を進めました。

未来の社会を支える最先端技術 ~ 宇宙で活躍する先端技術

はやぶさ2 イオンエンジンと今後の展望

尾郷 慶太・渡部 修・碓井 美由紀・吉澤 直樹・清水 裕介・森本 悠介・大井 俊彦

小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されたイオンエンジンは、地球から小惑星「リュウグウ」への往路、そして小惑星でのミッションを終えサンプルを地球へ持ち帰る復路を支えました。更に、今も「はやぶさ2」の次のミッションに向けて稼働を続けています。イオンエンジンのような電気推進システムは、深宇宙探査にはなくてはならないシステムとなり、注目されています。本稿では、宇宙機における推進システムとイオンエンジンの概要から、NECにおけるイオンエンジン開発、及び「はやぶさ2」での運用実績、そして次期探査プロジェクトの深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」へ向けた更なる高性能化の状況について紹介します。


はやぶさ2 リュウグウへの高精度タッチダウンを実現した自律航法誘導制御

保田 誠司・神谷 俊夫・松島 幸太

小惑星探査機「はやぶさ2」は、地球から約3億km彼方の小惑星「リュウグウ」に到着後、目標地点誤差約1mの高精度タッチダウンに成功しました。このタッチダウン成功に大きく貢献したのが「自律航法誘導制御システム」であり、小惑星表面の厳しい環境条件や長い通信遅延時間を克服できる自律的な誘導制御により、タッチダウンを実現しました。本稿では、軌道上実績とともに、ターゲットマーカ及びレーザー高度計を用いた「自律航法誘導制御システム」を紹介します。


はやぶさ2の快挙をセンシング技術で支えた「衛星搭載ライダー」

加瀬 貞二・黛 克典・生瀬 裕之

小惑星探査機「はやぶさ2」をはじめ、世界各国で深宇宙探査ミッションが競うように立ち上がっているなか、月・惑星探査に必須の技術となっているのがライダー(LIDAR:Light Detection and Ranging)です。アポロ計画以降、ライダーは探査機の高度情報を取得しさまざまな天体の地形観測に利用されています。日本では月探査の月周回衛星「かぐや」に搭載された他、2020年代前半の打ち上げを目指している「火星衛星探査(MMX:Martian Moons eXploration)」にもライダーが搭載される予定です。NECが開発した探査衛星用ライダーと、2021年現在の取り組みについて紹介します。


はやぶさ2 システム設計と運用結果

大島 武

NECは、小惑星探査機「はやぶさ2」のシステム設計/インテグレーション/試験/運用支援を行うのみならず、構造/熱/電源/通信/データ処理/姿勢軌道制御/イオンエンジン/電気計装/サンプラサブシステムのまとめを行い、これらサブシステムの構成要素はもちろん、観測機器の一部も供給しました。「はやぶさ2」においてNECが果たした役割を振り返るとともに、小惑星近傍での運用シナリオ/運用結果と、その成功要因についてまとめました。


高速・大容量のデータ通信を実現する光衛星間通信技術

行實 昌和・横田 祐介・栗井 俊弘

NECは、光衛星間通信技術によるネットワークを構築し、より高速かつ大容量の衛星間データ通信を実現して、衛星観測データのリアルタイム性を向上させることで、さまざまな分野へ活用していくことを目指しています。その第一歩として、2020年11月29日に打ち上げられた国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様の光データ中継衛星に搭載されている光通信装置を開発し、約40,000km離れた光地上局との間での光リンクの確立に成功しました。また、地球観測衛星に搭載する光通信装置との衛星間光通信の軌道上実証が計画されており、その後に本格的な運用が開始される予定です。


美笹深宇宙探査用地上局向け30kW級X帯固体電力増幅装置の開発

中原 智勇・山田 庸平・大竹 俊也・浅尾 博之・泉倉 健司・小東 幸助

NECは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様との契約により、長野県佐久市にある美笹深宇宙探査用地上局に30kW 級X帯固体電力増幅装置を納入しました。これまで深宇宙探査機運用に必要となる大電力のX帯送信機にはクライストロンが採用されていましたが、今回国産GaN(窒化ガリウム)素子を用いた電力増幅ユニットの多段合成により、固体型としては世界で初めてとなる30kW 級のX帯電力増幅装置を実現しましたので紹介します。


世界最高性能の薄膜太陽電池パドルの開発

小林 拓郎・廣瀬 大市・金子 直之・大瀬 貴之

人工衛星に搭載される太陽電池パドルには、できるだけ軽量で大電力を供給できる性能が求められます。そこで、NECは国立研究開発法人宇宙航空研究機構(JAXA)様と連携し、世界最高レベルの発生電力質量比150W/kg以上を目標とした、薄膜太陽電池パドルの開発を進めてきました。新しい構造方式により大幅な軽量化を実現した薄膜太陽電池パドルは、地上実証モデル及び軌道上実証モデルにより、目標とした性能が確認されています。こうして開発された薄膜太陽電池パドルは、深宇宙探査や、数百機規模のコンステレーション衛星など、さまざまな宇宙開発での活躍が期待されます。本稿では、薄膜太陽電池パドルの特徴、軌道上実証などの開発実績、今後の取り組みについて紹介します。

NEC Information

2020年度C&C賞表彰式典開催