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テクノロジーの倫理的活用
人道支援組織と民間企業のパートナーシップ
日常生活のあらゆる場面で、テクノロジーは大きな役割を果たしています。ICT企業としてNECは、自社の技術やノウハウを活用して社会的価値を創造し、持続可能な未来の構築にどのように貢献できるかを常に検討し、取り組んでいます。
そのような取り組みの一環に、赤十字国際委員会(ICRC)とのパートナーシップがあります。NECは、さまざまなプロジェクトを通して、ICRCが世界の紛争地や人道問題を抱える現場で取り組んでいる課題の解決を支援しています。両者の取り組みについてプロジェクトに関わる3人が、それぞれの立場から意見を交わしました。
それぞれの役割
―― まずは一人ずつ、どのような業務に携わっているのかを教えてください。
ブッチャー: 私が所属するグローバル事業推進本部(GRD)では、さまざまな国際機関や人道支援活動団体と協力して、持続可能な社会的価値を創り出すことに取り組んでいます。赤十字国際委員会(ICRC)が今秋発行した「人道支援におけるデータ保護ハンドブック」第二版(英語)では、発行前のコンテンツのレビューをNECとして行いました。
サビオ: ICRCは、武力紛争の状況に置かれている人々を保護・支援するという、大変特殊な任務を担っています。私はICRCの駐日代表として、人道外交と国際人道法の普及に焦点を当てて活動していますが、重要な仕事の一つに、日本のテクノロジーを活用して、人道支援分野における課題の解決策を見つけることがあります。これこそが、私たちがNECと会話を重ねることが大変重要であると考える理由の一つです。
久木田: 私はNECに30年以上在籍し、新しいテクノロジーの活用を推し進めるエバンジェリストとして活動してきました。現在は、NECの経営陣によるさまざまな組織への政策提言活動を支援する立場にあります。
データ保護の重要性とハンドブックが果たす役割
―― なぜ今、人道支援活動において、個人データの保護が重要なのでしょうか。
サビオ: デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎えた今日、人道支援分野ではデジタルフットプリントの重要性がこれまで以上に高くなっています。また、取り扱いがセンシティブなデータの収集も、大幅に増えています。私たちは、テクノロジーの発展は人道支援セクターにとって大きなチャンスであると同時に、大きなリスクもはらんでいると考えています。例えば、危機的な状況にある人の個人情報が武装勢力の手に入ってしまうと、生死に関わる問題に発展しかねません。ICRCは、グローバル・スタンダードに基づき、人道支援組織が個人データを保護し、国際的な基準にきちんと適応するよう、啓蒙していくことを優先課題としています。このハンドブックは、そのような背景から制作されたものです。
その前段階として、2019年10月に、NECをはじめとする日本の多くのパートナー企業や団体とともにワークショップを開催し、人道支援組織の任務とそれに適合した個人データ保護を、どのように実現していくべきかという意見交換を行いました。
ブッチャー: ワークショップには大学や民間企業、人道支援組織、データ保護の専門家が参加し、ハンドブックに記載する生体認証(バイオメトリクス)のデータ保護のあり方といったトピックについて、議論が交わされました。NECは民間企業の一つとして参加し、当社テクノロジーと、その利用に関して独自の倫理基準を設けていることを説明しました。このワークショップへの参加をきっかけにその後、ICRCとは、その他のプロジェクトでの協力についても話を進めていくことになりました。
サビオ: ワークショップを通じて、私たちの経験やノウハウを、関連するすべてのステークホルダーと共有していくことの重要性に気付きました。日々の生活において、いわゆる「デジタル化によるジレンマ」というものが数多く存在します。ICRCは、民間企業と協働して人道支援を行うという目的達成のために何をすべきか、また、人道支援活動において、厳しい取り締まりなど政府による過度の介入を避けつつデータ収集の必要性をいかに理解してもらえるか、など、さまざまなジレンマを抱えながら、その対処に取り組んでいます。
今回、私たちが制作したハンドブックは第二版となりますが、新しいテクノロジーが生まれ、発展していくにつれて、第三版、第四版が作成されることになるでしょう。
ブッチャー: ICT企業の私たちにとっても、テクノロジーをどのように使うべきかを考えさせられる機会となりました。非常にしっかりとした議論ができたと思います。第三版、第四版を制作する際には、ぜひ協力したいと思っています。
世界中の専門家と語り合った1日
―― 2020年9月1日にICRCは、「人道支援におけるデータ保護ハンドブック」第二版の出版を記念して、オンラインでのグローバルイベント「Follow the Sun」が開催されました。
サビオ: 東京から始まり、次に、同じアジアのマレーシアがバトンを受けました。その後一日をかけて、中東、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、南米と世界を巡回するオンライン・イベントでした。目的は、データ保護の国際基準を尊重しながら、武力紛争の状況下にある人々の尊厳をどのように守るべきかについて、さまざまな分野の専門家と深い議論を行うことにありました。
久木田: 私は、NECの代表かつ民間企業の代表という立場で参加しました。デジタルID技術、特に生体認証による識別テクノロジーと、そこから生じる可能性のある問題点について指摘し、NEC独自の取り組みとして、「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定していることを紹介しました。そして民間企業が、ICRCなどの人道支援を行う組織との連携の重要性についてもお話ししました。
サビオ: その日議論されたトピックには、メッセージアプリやSNS、デジタルアイデンティティー、生体認証、ブロックチェーン、コネクティビティ、AI(人工知能)や機械学習などが含まれます。これらは今日、人道支援に密接な関わりがあり、助けを必要とする人々に対してより効率的に支援を届ける上で重要な分野です。
NECとICRCのパートナーシップの現在
―― NECとICRCは、現在もさまざまなプロジェクトに取り組んでいるのですよね。
久木田: 私はこれまでのキャリアを通じて、色々な企業・団体とのパートナーシップを経験してきましたが、パートナーシップは、共通の価値観をお互いに見いだせたときに最もうまくいくということを学びました。そういう意味では、ICRCは自らの行動のあり方について、非常に明確なガイドラインを持っているので、人道支援に関して当社がICRCとどのように協力していけるか検討する上で、とても役立っています。
ブッチャー: ICRCが解決に挑んでいる課題は様々ですが、このパートナーシップを発展させていく中で、私たちの持つテクノロジーが幅広い分野の課題解決に応用できることを実感しました。
サビオ: 議論を重ねた結果、現在取り組んでいるプロジェクトが、ICRCの武器汚染ユニット主導の、地雷や不発弾の検知を効率的に実施するための手法の確立です。世界には、地中に影をひそめるそれらの武器により、自宅に戻ることや、水を汲みに出かけることができずにいる人々が大勢いるのです。
NECや早稲田大学と共同でプロジェクトを立ち上げ、サーモカメラ搭載ドローンや遠隔センサーとAI、ディープラーニング(深層学習)といったテクノロジーを組み合わせて、地雷や不発弾のような障害物を簡単に発見できる方法を開発できないか、検討を重ねています。ICRCの仕事は、そうしたテクノロジーの開発ではないので、自然とNECを頼るようになりました。国際人道法や私たちが守るべき原則にも配慮したソリューションを提供してくれる経験と能力を持っている会社と知ったからです。
久木田: AIや画像認識、画像解析などは、NECがまさに貢献できる分野です。しかし、活動を行う中で、意図しないデータまで入手してしまう可能性もあります。そのようなデータが、悪用されないようにしなければなりません。「データ保護ハンドブック」は、どのようにデータを保護し活動を展開していけばよいのかを検討する上で、とても参考になります。
サビオ: 私たちがハンドブックを作成した理由が、まさにそこにあります。このハンドブックは、組織が責任を持ってデータ管理できるかどうかを評価する基準を提供するものです。非常に難しい問題ですが、世界中の多くの人がハンドブックに基づき議論を重ねていることを、大変心強く感じています。
これからに向けて
―― 今後、NECとICRCの連携はどうなっていくのでしょうか?
久木田: 民間企業が、人道支援組織と連携して活動を行う機会が増えるとともに、人道支援活動において、より効果的な役割を果たすことができるようになると思います。同時に、当社としては、NECの企業倫理やガイドラインに基づき、グローバルな課題に対して当社だからこそできることを行っていきたいと考えています。今後も、ICRCとプロジェクトを進めていきながら、社会的価値をもたらす新たな機会を模索していきたいと考えています。
サビオ: 現在の世界情勢に鑑みて、民間企業との連携が増えていくのは自然な流れであり、NECとのパートナーシップは、より良い社会の構築に向けて、非常に有望なものだと思っています。私たちにはそれぞれに異なる任務や目的を有しますが、各々の強みを生かして協力し合うことで、新たに生み出せる価値がたくさんあります。今後も多くの課題に向き合うこととなりますが、その解決策を見つけ出していくのには民間企業の支援が欠かせないと考えています。
ブッチャー: 世界をより良くしていくために、NECは今後も、人道支援組織や研究機関との新たなパートナーシップを模索していきたいと思っています。
関連動画
weapon contamination video 0524(ICRC)
※日英音声、日本語字幕
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