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ガーナの母子を救え
―異業種3者の共創プロジェクトで母子の保健と栄養の改善を目指す

©The Ajinomoto Foundation

アフリカ大陸西部のギニア湾に面するガーナ共和国(以下ガーナ)。面積は日本の約3分の2、人口約3100万人という同国は、世界第2位のカカオ豆の生産地として知られる。日本にとっても、カカオ豆の輸入の8割がガーナからであり、多くの企業がガーナ産カカオ豆を使用してチョコレートなどを作っている。

(c)VINCENT LEFAI, SOPHIE RAMIS / AFP

そのガーナと日本を結び、NECをはじめとする日本を代表する異業種3者は、国際機関である国連世界食糧計画(WFP)との連携を通じて、母子の保健と栄養の改善を目指した共創プロジェクトを始動する。

ガーナ経済はカカオ豆の他、金、石油が輸出品目の上位を占める典型的な一次産品依存型。2010年に石油の商業生産が始まると、翌年には経済成長率15%を記録、2019年には世界銀行による分類で中所得国に位置付けられるなど、著しい成長を見せている。一方、雇用の約半数は農業分野で、その経済力は国際市況や天候に左右されやすい側面もある。
近年、貧困は改善されつつあるものの、都市部と地方部との貧困格差は依然として顕著で、経済成長の面でも重要な課題となる国民の健康管理についても、栄養不足、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素不足、過体重・肥満といった栄養面の問題が多くある。

なかでも、母子の健康状態に大きな懸念が横たわっている。
栄養失調は胎児・乳幼児の発育阻害の要因となるだけでなく、マラリアの重症化リスクを高める貧血をもたらす懸念もある。とりわけ妊娠期から子どもが2歳になる1000日までに失われた成長は、その後取り戻せないといわれている。マラリアはガーナにおける死亡原因の30.5%を占める感染症の一つで、病院受診の最大の理由となっており、妊婦の貧血・死亡、自然流産、死産、低出生体重児、新生児・乳児死亡など、母体と新生児の予後不良リスクを高めてしまう恐れもある。
そうした中、母親の健康に関する知識不足で、妊娠期からの健康・栄養管理が十分にできていないことも課題となっている。たとえば、基本的な栄養素について理解が十分でなく、栄養価の高い食べ物は費用がかかるため入手できないと思っている母親がたり、保健所スタッフの健康知識レベルにもばらつきがあり、適切な問診・指導が難しいケースもある。

これらの栄養・貧血・マラリアにまつわる課題を統合的なアプローチで解決すべくスタートしたのが、公益財団法人味の素ファンデーション、シスメックス株式会社、そしてNECという異業種3者で取り組む、ガーナの母子の保健と栄養の改善のための共創プロジェクトだ。

画像提供:NEC
(左から)シスメックス/松井取締役常務執行役員、味の素ファンデーション/重宗専務理事、NEC/北瀬役員

きっかけは「TICAD7」

2019年8月、横浜市で開催された「第7回アフリカ開発会議」(TICAD7)において、アフリカ諸国における産業人材の育成や女性向けの教育など、人に焦点を当てた支援を行うことを表明した「横浜宣言2019」が採択された。TICADとは、1993年以降、日本政府が主導し、国連(UN)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行およびアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催している、アフリカの開発をテーマとする国際会議だ。
その際、宣言に基づいて提唱された「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)拡大とアフリカ健康構想(AfHWIN)」の実現に向け、日本とガーナの間で協力覚書が締結された。この構想の具体的な事業として、両国の官民および民間の連携を強化し、ガーナの母子の保健と栄養の改善を目指すべく考案されたのが、今回の3者による共創プロジェクトだ。
本プロジェクトは、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)のゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」を実践しながら、ゴール2「飢餓をゼロへ」およびゴール3「すべての人に健康と福祉を」の達成を目指す。

UHCとは、「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味しており、SDGsでもUHCの達成が掲げられている。
本プロジェクトでは、このUHCのコンセプトに「栄養」という観点を加え、「ユニバーサル『栄養』ヘルス・カバレッジ」を提唱。その実現のため、日本発の革新的なICT(情報通信技術)、検査技術を活用し、妊婦、母親、子どもたちが、できるだけ質の高い栄養と保健サービスを享受できる環境づくりに貢献することを目標に掲げた。

3者は以下のような役割分担で、その達成を目指す。

【味の素ファンデーション】

    • WFPとの連携、プロジェクト全体のマネジメント
    • ガーナヘルスサービス(GHS)と連携した、保健所のスタッフ向けの研修実施による保健・栄養指導能力の向上
    • 保健所周辺における、栄養サプリメント「KOKO Plus®」のサプライチェーンの構築
    • 過去十数年のガーナにおける経験やネットワークをプラットフォームとして提供

【シスメックス】

    • GHSの指定医療機関へのマラリア診断装置導入による検査の質とアクセスの向上を促進
    • 貧血・栄養不良・マラリアの早期発見・早期治療につなげる医療従事者(臨床検査技師、臨床医)に対する人材育成、学術シンポジウム等を通じた啓発活動
    • GHS、National Malaria Control Programとの連携

【NEC】

    • 健康診断および栄養指導のためのアプリケーション開発
    • 保健所スタッフが同アプリケーションを活用してガーナ母子へ健康診断及び栄養指導を行い、「KOKO Plus®」摂取やシスメックス検査機器のある病院での追加検査の推奨といった母子の行動変容を促進するための支援
    • 保健所のスタッフへのタブレット提供およびトレーニング
画像提供:NEC

母親の「行動変容」を促すアプリとは

ガーナにおいては、急激な経済成長に起因する都市部と農村部の貧困格差が教育面にも大きな影響をもたらしている。とりわけ農村部の母親の栄養知識が十分ではなく、母子の栄養状態の格差が顕著で、また、保健所スタッフごとに栄養・貧血改善指導の質にもばらつきがあった。さらに、行動変容を促す継続的なフォローアップの仕組みづくりも課題であった。
この課題の解決に向けてNECが取り組むのは、モバイルアプリを開発し、保健所スタッフらにタブレットを提供し、トレーニングすること。保健所スタッフが母親に健診結果をわかりやすく伝え、改善策として栄養状態に応じて「KOKO Plus®」」購入や、シスメックス検査機器のある病院での検査を推奨することで、より効果的に母子の行動変容を促進し、健康・栄養改善を目指す。

具体的には、

  • 保健所スタッフがNECのアプリを装備したタブレットで健診結果を図示し、本来あるべき状態とのギャップをわかりやすく母親に伝える
  • 栄養失調や重度の貧血、スケジュール通りに健診を受けていないなどのケースを特定しリスト化することで、より確実なフォローアップを実現する
  • 測定結果、および食生活や鉄剤摂取等に関するヒアリング結果に基づいて、保健所スタッフが提示すべき最適なアセスメント内容をタブレット上に表示する
ことを可能とする。
これらによって母子の行動変容を促し、栄養改善に貢献する。
また、クラウドにデータをアップロードすることで、行政側も日々の状況を正確に把握でき、健診データDXによって実態に基づいた政策決定が可能になる。

画像提供:NEC
画像提供:NEC

NECは同様の取り組みとして、インドの糖尿病対策で実績をあげている。
糖尿病患者は世界中で急増しており、2045年には約6億3000万人になると予想されている。とりわけインドの増加率は高く、2045年には約1億3400万人と患者数世界一になるとみられている。
この問題に対処すべくNECは、インド・ビハール州政府と共同で2020年2月から3月にかけ、実証実験を行った。

画像提供:NEC

具体的にはモバイルアプリを使用した健診サービスで、州政府のヘルスワーカーが訪問型健康診断サービスを州民5000人に実施。訪問した際、身長・体重・ウエストなどの測定に加え、生活習慣に関する問診やアドバイスを実施してアプリに登録。一定期間後に次回以降の健診受診を促す、また必要な市民に血圧や血糖値の測定を手配するなどのフォローアップを行った。

こうした実績を踏まえた上で今回のプロジェクトに参画しているが、今回のプロジェクトはまったくの異業種3者の共創、立ち上げまでに苦労も多かった。健康に直結する事業であるうえ、関係者が国をまたいで膨大な数に及ぶ。それぞれの機関、部署、専門技術者や現地の保健関係者との間での調整は並大抵ではない煩雑さと難しさがあった。その趣旨やさまざまな壁を乗り越えるという意味でも画期的であり、意義深い取り組みといえる。
そうした苦労、壁を乗り越えての立ち上げである本プロジェクトには、ガーナ政府関係者からも期待の声が寄せられている。

「これまでの経験と未来に向けた創造性を結びつけることで、この官民パートナーシップがユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に貢献すると信じています。ガーナは官民を挙げて、日本のヘルスケア企業との連携に積極的に取り組んでいます。この『ガーナと日本の官民連携のストーリー(Ghana Japan PPP Story)』は、アフリカ他国へも拡大可能な成功モデルになると信じています」(Dr. Patrick Kuma-Aboagye:Director General of the Ghana Health Service)

ビデオメッセージはこちらより

さらに期待される今後の展開

将来的にはガーナ全土や、近隣諸国への展開も目指していきたい考え。また、今後、母子それぞれの健診データをAIで分析・予測し、それによってガーナ政府の健康政策決定にも貢献しうるより精度の高い健康管理につなげられる可能性も広がっている。
今年8月にチュニジアで開催されるTICAD8で活動事例として世界に発信されるよう推進していく予定だ。
こうした活動がアフリカにおける母子保健分野での民間の活動を後押ししていくだろう。
 
ガーナ母子の健康、ひいては、持続的かつ安定的な経済成長の促進に貢献する仕組み構築を目指す。NECの挑戦はこれからも続いていく。

眞塚 麻里江
NECグローバル事業推進統括部国際機関グループ 担当
「ICTだからできること、パートナーとの共創だからできること、それぞれを組み合わせることで「誰一人取り残さない世界の実現」を目指し、グローバルな課題解決に挑戦していきます」

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©AFPBB News

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