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NECにおける生成AIの取り組みについて
Vol.75 No.2 2024年3月 ビジネスの常識を変える生成AI特集 ~社会実装に向けた取り組みと、それを支える生成AI技術~2023年12月15日、NECは自社の研究開発の最新情報を投資家・メディア向けに発表するイベント「NEC Innovation Day 2023」を開催しました。2021年から始まり、今年で3回目を迎える本イベントの講演では、執行役 Corporate EVP 兼 CTOの西原基夫に加え、今回初めて執行役Corporate EVP 兼 CDOの吉崎敏文も登壇。「NECの次なる成長を牽引する先端技術の研究開発と新事業の創出」と題し、研究開発とビジネスをシームレスで連携させる体制が強調されました。本記事ではその講演の模様と会場で展示された大規模言語モデル(LLM)を組み込んだ5つのデモンストレーションについてレポートします。
1. 生成AIとの融合でNECの技術群を新たなレベルへ
今回の講演での大きなトピックとなったのは、生成AIです。最初に登壇したCTOの西原(写真1)は、新世代のAIとして注目を浴びる大規模言語モデル(以下、LLM)などの「ファウンデーションモデル」について、「インターネット登場以来の人生2回目の衝撃」であると強調。このファウンデーションモデルが、NECが技術ビジョンとして掲げる社会全体をつなぐデジタルツインシステムを、更に高度化・自動化・大規模化させるものとして、その重要性を述べました。
ファウンデーションモデル登場によるNEC技術ビジョンのアップデートとして、次の5点について言及しています。
1.1 独自ファウンデーションモデル
NECは2023年7月に自社開発のLLMを発表しています。130億という小規模なパラメータ数ながら性能が高く、日本語処理能力に長けたLLMです。性能とお客様環境への負荷の最適なバランスを意識して作られたサイズのモデルですが、今回の発表では、さまざまなLLM同士や他のAIと組み合わせることで、小型から大型まで柔軟に構築できるアーキテクチャの構想を発表。多彩な専門AI技術群と連携させることで、目的に合わせてフレキシブルにAIモデルを構築できるシステムを開発中であると述べました。
また、独自のLLMについては、1,000億クラスの大規模モデルの開発も並行して進行しているということにも触れました。
1.2 マルチモーダルAI
更に、NECが保有するグローバルNo.1の画像・音声技術やセンシング技術は、LLMを融合させることで更なる価値を創出できると言及。実世界のさまざまな事象を人間と同等レベル、もしくはそれ以上のレベルで把握し、高精度/自律的に処理することができようになり、NECのAI技術群を搭載した共通基盤「NEC Digital Platform」の各種技術との連携によって、革新的な価値を提供することができると強調しました。
本内容については、後述するデモンストレーション展示でも実例を見ることができました。
1.3 LLM時代の安全・安心
サイバーセキュリティはもちろんのこと、LLMの使用にあたっては生成AIが誤った情報をもっともらしい形式で出力してしまう「ハルシネーション」の問題や倫理的な問題、更には個人情報漏えいなどの不安もつきものです。今回の講演では、企業がLLMを安心して使うことができるように、現在AIリスク管理で世界中の注目を集めるRobust Intelligence社と連携し、精確なリスク評価を行ったうえでモデル提供を行うという方針が発表されました。
1.4 システム構築・運用の自動化
ソフトウェア開発効率化・省電力化に加えて、システム構築・運用管理も自動化することにも言及しました。
1.5 オーケストレーション機能
更にクラウドや端末などにLLMが搭載され、それぞれが連携する将来に備えて、新たな機能である「AIのオーケストレーション」が重要になると述べました。各種業務を自動的にタスク分解し、自律的にAIモデルの配置や連携を行ってネットワークやセキュリティを制御できるような機能を実装し、実世界の多様な業務を自動化することを目指すと述べました。
2. 生成AI事業を加速させるシナリオと組織体制
西原に代わって登壇したCDOの吉崎は、生成AIを活用したビジネスの現状と今後の方向性を示しました。
2.1 世界から注目を集めるNEC開発の生成AI「cotomi」
まず、2023年7月にリリースしたNEC開発の生成AIの名称を発表。「ことばにより未来をしめし、『こと』が『みのる』」という想いを込めた「cotomi」という名称は、今後もNECが開発するLLMや、LLMとAIとの連携サービスに継続して使用されると述べました(写真2)。
併せて、cotomiの軽量性・省電力性、高い日本語処理能力から多くのお客様の他、複数のグローバルプレイヤーからも大きな注目を集めていることも言及しました。
2.2 業種・業務特化モデルを構築してビジネスを順次拡大
更に、cotomiをNECがサービスを展開するあらゆる業種・業務へ導入するためのシナリオを発表しました。フェーズは3つあります。フェーズⅠは、まず特定のお客様に対してそれぞれの業種や業務に特化した生成AI環境を構築する個別SIです。既に15の企業・大学と協働し、業務特化型LLMを鋭意作成中です。
また、この先行導入について「あえて製造、金融、医療など、異なるものを選んだ」と言います。「各業種、各業務のモデルをフレームワークとして作ることができれば、それを業界別の業務パッケージ/ソリューションに組み込むことができます。すると、業界ごとに何十社、何百社、何千社という形で広げていくことができるようになります。これがフェーズⅡです」と吉崎。
更にフェーズⅢでは、さまざまなソフトウェア会社、IaaSやSaaSのベンダーとの連携を考えており、これらをcotomiのAPIを活用して進めていくと言及しました。吉崎は「NECのLLMと組みたい、日本市場に進出したいというお声や、多くのグローバルカンパニーからもお話をいただいています」と述べ、その高い注目度についても補足しました。
2.3 生成AIセンターを開設し、事業化を加速
続いて、西原と吉崎からLLMビジネスを加速させるための新組織についても発表しました(写真3)。なかでも注目を集めたのは、「生成AIセンター」の新設です。本センターは生成AIの研究に取り組む研究者約100名を集めた組織で、日本、ドイツ、北米の優秀な研究者のノウハウを結集させることで、研究開発の効率化を目指しています。
また、2023年度発足した生成AIの事業化を推進するNEC Generative AI Hubとシームレスに連携することで、新しい技術研究、プロトタイプ、アルファ版、ベータ版の製品、デリバリー、更にはお客様のマネージドサービスを一貫して行う体制を整えたといいます。
吉崎は「生成AIの世界では、アルゴリズムやソフトウェアが目まぐるしく変わります。このスピード感のなかでどれだけ商用化につなげられるか、このサイクルが早い事業者だけが残ると私は思っています。だからこそ、研究開発と事業部門が事業という観点で一体となって、DXを加速させていきたい」と述べ、講演を締めくくりました。
3. 実用化を見据えたAI技術×LLMの技術デモンストレーション
講演終了後、会場内に設けられたブースでは現在研究開発を進めるNECの最先端技術を体感できるデモンストレーションが展示されました。生成AIにかかわるデモンストレーションも5つ展示され、事業化まで見据えてスピーディに取り組むNECの研究開発体制を実感できるものとなっていました(写真4、図1)。
3.1 dotDataによるデータドリブンソリューション
2018年にNECの研究所からカーブアウトし、特徴量設計の自動化を実現するAIプラットフォーム「dotData」を提供するdotData社は、2023年12月6日に生成AIと組み合わせた新たなプラットフォーム「dotData Insight」を発表。データサイエンティストのような高度な専門知識やスキルがなくても、業務データからビジネスの目的に応じたインサイトや仮説を導き出すことができるソリューションを今回展示しました(図2)。
デモンストレーションでは、dotDataによって導き出した個人ローンの支払い遅延リスクが高まる銀行データ内の特徴量から、その要因を掘り下げて仮説を導き出す様子を実演。LLM上でのクエリやユーザー側のドメイン知識入力を通じて、仮説を洗練させていく様子が実演されました。
3.2 電子カルテ/医療文書作成を支援
本技術は生成AIを活用して、医師の大きな負担となっている電子カルテ/医療文書作成を支援するものとして期待される技術です。デモンストレーションでは実際の対話音声から電子カルテを自動作成する(図3)様子の他、複数回の診療で蓄積された膨大なカルテのテキストデータから、紹介状などの医療文書を自動作成する(図4)様子が実演されました。
カルテの作成支援では医師一人当たり年116時間の削減が見込まれており、医療文書の作成支援では作成時間の47%削減を確認しているといいます。
2024年4月から法規制の適用によって医師の働き方改革が本格化するなかで、注目を浴びる技術です。
3.3 発表時から更に進化したLLM
2023年7月に発表されたNEC開発のLLMは、半年ほどの間で更に進化を遂げました。良質な学習データを倍近く集めたことで、更に高い日本語処理能力を実現(図5)。また、長文処理能力が飛躍的に進化し、30万字に対応できるようになりました。これにより、プロンプトから業務文書や社内マニュアルをそのままインプットすることが可能になったといいます。従来のLLMの課題であった、構築時のデータから知識がアップデートされないという欠点を克服し、プロンプトから新しいデータをインプットし、学習させることができるようになります(図6)。
デモンストレーションでは、小説一冊分のテキストデータをインプットし、シーンごとに要約を生成したり、膨大な商品レビューコメントを読み込み、ユーザーの希望に応じたオススメ商品を提示する様子が実演されました。
3.4 映像×LLMで報告書の作成業務を自動化
NECが伝統的に得意とする領域である画像処理、映像認識、映像検索とLLMが融合した先進的な技術も展示されていました。本技術は、膨大な映像データを認識して文章を自動で生成し、任意の映像をその説明文とともに抽出することができる技術です(図7)。例えば、ドライブレコーダーに録画された長時間の映像に対し、「交通事故の状況を教えて」「交通事故の発生した要因を教えて」とLLMのプロンプトで入力すれば、AIがそれぞれの当該シーンを説明文章とともに出力してくれます。デモンストレーションではドライブレコーダー映像から保険調査用の報告書作成を行う様子が実演されましたが、他にも看護・介護記録の自動作成や工場や建設現場での作業記録作成など幅広く活用できることが強調されました。
3.5 LLMによるセキュリティリスク自動診断
従来、セキュリティリスク診断は高度な専門性が要求されるため、多大なコストと時間が必要とされていました。しかし、日々報告される脅威・脆弱性情報に対応するためには、なるべく頻繁に診断を行ったほうが効果的です。LLMとNECのセキュリティリスク診断技術を融合させた本技術では、専門知識のないユーザーでもLLMでの対話を通じて簡単かつ気軽に診断を行うことができるようになるといいます(図8)。デモンストレーションでは、脆弱性の有無やネットワークにおける攻撃ルートの分析に加え、対策についてまでAIが応答する様子が実演され、参加者の注目を集めていました。