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加速度的な成長を実現するコンポーザブル経営とデジタル変革
DXオファリングを支える先端技術及びメソドロジーヒト・モノ・コト・キャッシュが、データでつながり続けることを生かすデジタル化が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経て進みつつあります。本稿では、このような変化をとらえ、成長を加速していくための、コンポーザブルなアプローチについて述べます。コンポーザブルとは、社会・事業・業務・組織・システムのモデルを再構成し、組み換え続ける取り組みです。このような取り組みが必要となっている背景、具体化のための事業・業務・組織・システムの構造、実際の進め方について概説します。NECでは、デジタルシフトから、デジタルトランスフォーメーション(DX)までコンポーザブルな変革推進を実現するDXオファリングをそろえ、お客様の変革と成長の加速を支援しています。
1. はじめに
ピーター・ドラッカーは、著書「Managing in the Next Society」で、ミッション・ビジョン・バリュー以外は、すべてアウトソーシングすることができる、と述べています。更に、ネクストソサイエティにおける企業の最大の課題として、社会的に認められる存在意義の確立と、柱となる価値観、すなわちバリューが必要となるということも述べています。このドラッカーのメッセージ通り、今や企業は、自社が目指す方向と存在意義、価値観以外は、ビジネスモデルも機能も、組織も再構成し続けることができるようになりつつあります。そして、逆にこれを実行できない企業は取り残されるといえるのではないでしょうか。この「ビジネスモデルや組織の再構成・組み換えをし続けながら、自社の存在意義や価値観を継承できること」を本稿では「コンポーザブル(composable)」と表現します。
企業はデジタルを有効に活用し実現することで、企業や社会の事業モデルを再構成・組み換えし続け、コンポーザブルに顧客や受益者の今の問題や持続的成長に資する長期的な課題の解決を図っていくことができます。そのための構造について述べていきます1)。
2. つながりが価値を生む。無形資産で加速する変化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)により、私たちは大きな変化を経験しています。一方、このような危機の際とその後に、それまで起こり始めていた変化が加速することを、人類は何度も経験してきています。ではCOVID-19を経てこれからについて一言でいうと、デジタルを活用した変化の加速といえるのではないでしょうか。
今や世界人口の57%に相当する約43億9,000万人がインターネットにつながり、同じく67%に相当する約51億人がモバイルユーザーです(2019年時点)。同時点で253億台の機器がインターネットにつながっていると試算されますが2)、この数は今後更に加速していくでしょう。一つひとつの機器の個々の機能の稼働が、データ化・見える化、蓄積されたデータをもとにシミュレーションされることで、さまざまな予測が可能になっています。過去と未来をデータと数字で示せるようになり、精度向上も加速しています。図1の左は、世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2020年版」のものです3)。つながり続ける世界では、人が直面するリスクが、本質的に相互に関連しています。社会、経済、地政学、環境、技術がつながっているのです。これらはリスクであるとともに、大きなイノベーションの機会であるといえます。特に、ESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)分野の変革には、大きな可能性があるでしょう。更に図1の右にあるように、人々の暮らし、それにかかわる企業や企業などの機関の活動はすべてつながっていきます。デジタルを活用することが、価値創造を生み、これからの成長につながる理由でもあります。
インターネットなどのデジタルとしてのつながりと相互依存が進む現代のネットワークを前提とした世界が広がるなかで、重要なのが「無形資産価値」です。過去50年、無形資産が生み出した企業価値は増え続けています(図2)。
無形資産とは、内閣府の検討資料では具体的に次のような資産のことを指します(図3)。
例えば情報化資産は、初期の固定費以外コピーに掛かる費用はほぼありません。限界費用はゼロに近づき、ユーザーを1単位増やすコストもほぼ掛かりません。ネットワーク効果や補完価値を活用し、企業価値を大きくスケールさせることができます。情報価値のアップデートは、ハードウェアよりも迅速です。AI(機械学習、深層学習など)により、提供価値やその価値構成を更新、加速も可能です。
経済的競争能力で重要になるのは、人・組織といえます。具体的には3方向(行動の規範・価値基準、自立と自律、多様性)で価値を発揮します。行動規範・価値基準とは、企業が目指す方向にそった価値基準であり、バリューなどで個人・組織に徹底されていきます。価値基準が共感され、行動されることで人々を集めています。また、標準的な活動やガバナンスを徹底することで、足元での生産性や中長期のESG貢献も実践されます。
企業・組織が活用できる資源を選択することが、戦略といえます。つまり、ヒト・モノ・カネに加えて、無形である情報・データ、組織の競争能力、知財などをいかに限られた時間で選択し、存在意義にそって価値創出するかがこれからの戦略と考えられるのではないでしょうか。
3. 顧客にとってのトレードオフ解決が価値の源泉となる
本稿で考える、つながり・データを活用しデジタルを梃子とした価値の源泉は、次の3つです。
- (1)従来のトレードオフを解決していくこと
- (2)顧客体験のジャーニーをつないでいくこと
- (3)その価値創造のバリューチェーン統合
特に(1)については、ESGを経済価値として具体化することが、今多くの企業に求められています。これに応える企業に投資も集まっています。従来の会計的な価値に加えて、ESGへの貢献のファクトが求められています。
図4は、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏が描いた、初期のECのビジネスモデルに加筆したものです。お客様にとって、多くの品揃えと、安さ、そして手元に欲しいものが届けられるという、今となっては当たり前ですが、当時のトレードオフ解決を実践し、更新し続け成長しています。
Amazonは更に、(2)の顧客体験をつなぎ続けることも具体化し続けています。ECは生活に必要なものほぼすべてに広がり、音楽や動画、商いだけではなく、ハードウェアをも作り届けています。同社の目指すビジョンである、地球上で最もお客様を大切にする企業であることをもとに、一受益者、お客様にとっての体験のジャーニーをつなぎ続けているといえます。また、(3)のバリューチェーンの統合については、ECのバリューチェーンを統合し続け、バリューチェーンの各機能そのものも価値として提供しています。FBA(フルフィルメント by Amazon)というサービスでは、ECにかかわる各機能をサービスとしてマーケットプレイスの出品者に価値提供をしています。AWSなども、バリューチェーンから生まれてきたサービスの1つと言えるでしょう4)。
4. コンポーザブルに再構成・組み換え続けて成長する
デジタルを梃子に社会・事業・業務・組織の仕組み・機能をコンポーザブルに成長継続するポイントは次の3つです。
- (1)企業の存在意義にそった将来の方向が「パーパス・ミッション・ビジョン」などとして明示されている
- (2)「パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー」は「共感を得られ、行動を伴うルーチンになり、ビジネスモデルの再構成・組み換えがあっても行動は継続される」
- (3)それ以外は再構成・組み換え可能
これらに対応した企業活動、資源選択、人々の行動支援、顧客体験、バリューチェーンのすべての活動が、再構成・組み換えが続いても「パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー」が継承される仕組みになっています。
この3つがつながり、変化が加速し続けていく世界のなかで、コンポーザブルスタックは、ビジネスモデルとその具体化の戦略の自由度を高め、イノベーションを継続し、成長を継続するために必要とされており、その全体構造が図5です。
更に、テクノロジースタックは、4つのスタックに分けて、テクノロジー活用のコンポーザブルを具現化させます(図6)。
- (1)アプリケーション・スタック
ビジネスの現場で直接必要な機能やアプリケーションを迅速に導入・組み換え・機能拡張を可能にします。そのために標準機能を組み合わせて使うことを最優先します。 - (2)共通サービス・スタック
これまで各個別のシステムに組み込まれていた共通利用可能な機能を独立分離させたうえで、新たに共通サービスとして提供します。これはビジネス現場の機能開発の負荷を低減しながら、利用体験の向上を実現させるサービスです。API、ID、データ基盤、データマネジメント、コンポーザブルの重要な分野となります。 - (3)インフラ・スタック
ビジネスモデルのスケール加速を支えます。維持・管理を意識する必要がなく、コスト管理やサービス品質などのビジネスに集中できるようにクラウド化が基本です。事業業務組織の成長に応じてユーザーからは意識することなく対応することを想定するものです。 - (4)セキュリティ・スタック
自在に再構成・組み換えるコンポーザブルに、セキュリティは必須です。それぞれのスタックのセキュリティを担保するために、(1)~(3)のスタックを横断して準備します。
5. デジタル変革を進めるための10のポイント
ビジネスモデル、テクノロジースタックを駆使して、コンポーザブルに、事業環境や社会の変化に対応し、また先取りして自社・自組織のモデルを再構成・組み換え続け、成長を継続するためにはどのようにしていくとよいでしょうか。次の10のポイントがあります。
- (1)前提としての企業・組織の存在意義、価値基準
- (2)インパクト・オン・パーパスと、シナリオプランニングによる、企業・組織の目指すところの明確化、その具体化戦略と腹落ちを図るセンスメイキング
- (3)世の中の動向、自社の取り組みの動的な見直し継続
- (4)顧客・受益者視点での価値の見直し
- 顧客体験価値のジャーニーにそった拡大
- その価値創造のバリューチェーンの統合
- (5)新価値を具現化・更新継続のためのアジャイルな進め方
- (6)スモールスタートとMVP(Minimum Viable Product)
- (7)デジタルに関する人材育成5)
- (8)企業文化の形式知化としてのバリューの徹底
- (9)トップのコミット
- (10)これら実践のモニターとフィードバック
基本的な考え方は、ビジネス価値、顧客・受益者視点での価値、テクノロジーの具現性の3つを検証し、具体化していきます。これらは、企業・組織としての存在意義・価値基準に整合している必要があります。また、ここでいうビジネス価値は、ESGと経済価値を両立するビジネスモデルの成果です。図7のとおり、最小限の価値であるMVPから、顧客・受益者に試しながら価値の更新とスケール・成長を進めていきます。
6. むすび
NECでは、これらのオーガナイズアプローチに加えて、多数のDXオファリングをそろえて、お客様の事業・業務・組織・システムのモデルを再構成・組み換えて、アップデートし続けることを支援しています。本稿でとりあげた全体像または、個別の項目についても、デジタルを梃子に、価値共創と今目指すべきところに取り組むための問題・課題の解決に資する準備を整え、更にお客様の成功の継続に貢献します。
- *Amazonは、Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標または登録商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
- 1)
- 2)
- 3)世界経済フォーラム:グローバルリスク報告書2020年版,2020.1
- 4)
- 5)
執筆者プロフィール
デジタルビジネスプラットフォームユニット
Managing Executive