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DXにおけるITサービスマネジメントの取り組み
DXを支えるITインフラデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、働き方改革やUnder/Post COVID-19により、企業のITシステムにおけるクラウドサービス利用が加速し、これらに伴い従来のITシステム運用の見直し・改善として、ITサービスマネジメントの必要性が高まってきています。
本稿では、ITシステム運用のあるべき姿から、課題対策としてのDXオファリングの提供を説明します。また、DXオファリングを支えるITサービスマネジメントの仕組みとして、グローバルで豊富な実績のあるデジタルワークフローを実現する「ServiceNow」を活用したマルチクラウド運用サービスやDX時代のモニタリングについて解説します。
1. ITシステム運用の課題
従来のITシステムは、自社サーバルームやデータセンターといったオンプレミスでの利用が主流で、事業部門や業務システムごとにITベンダーが分かれて構築されており、そのため、システム運用においてもオンサイト前提での独自のツール、プロセス、体制が構築され、個別最適(サイロ化)の状態で運用される傾向にあります。
一方、近年はネットワーク、セキュリティの技術向上によって、リモート利用やオンデマンド型によるサービスの普及も進み、企業のITシステムにおけるクラウドサービスの導入が進んでいます。
この流れはデジタルトランスフォーメーション(DX)(以下、DX)の推進、働き方改革やUnder/Post COVID-19により更に加速し、業務用途に応じてスピーディに複数のクラウドを使い分けるマルチクラウドといった適材適所のIT活用が主流になりつつあります。このようなお客様のニーズに応えるべく、NECは米国AWSと日本で初めてコーポレートレベルの戦略的協業を締結し1)、グローバル5Gやデジタル・ガバメントなどの領域で協業を拡大したり2)、マイクロソフト社3)やServiceNow社4)と戦略的パートナーシップを拡大するなど、グローバルベンダーとアライアンスを組み、DXオファリングメニューの共同開発やデリバリー体制の強化を進めています。しかし、マルチクラウド化が進むと利用するITシステム環境の増加によって運用すべきプラットフォームが複雑化してくるという問題も発生します。
今後、お客様が目指すべき運用(あるべき姿)として、サイロ化したプラットフォームの全体最適化、複雑化した運用プロセスの標準化、自動化を行うことで運用品質向上と負荷軽減の取り組みが進む傾向にあります。
これらにより、お客様のIT要員をより付加価値の高い業務にシフトさせ、運用維持コストをスリム化し、新規投資に費用を回すことが可能になります。
あるべき姿の運用実現に向けては、次のことが課題として取り上げられます。
<経営層における課題>
- DXなど新規投資に回すためのOPEX効率化
(IT費用構造改革)
<IT部門における課題>
- 情報システム運用全体のQCDの最適化
プラットフォーム/システムごとに運用管理プロセス/ツール/要員が異なる運用(サイロ化)への対応 - IT人材の確保
DX推進においてIT戦略を立案、企画する要員が、24時間365日などの運用保守管理業務を対応- 働き方改革やUnder/Post COVID-19によるリモート前提での運用サポート業務への移行
- オンサイトを想定したマニュアルでの属人的(要員拘束)運用への対応
2. DXオファリング提供
前述の課題に対して、システム運用としてのあるべき姿を実現するため、NECは、マルチクラウドに対応するITIL準拠のベストプラクティスなツールであるシステム運用管理(機能/プロセス)と豊富なクラウド標準オペレーションをオールインワン化したサービスをDXオファリングとして提供します(図1)。
本DXオファリングは、オンプレミス環境、AWSやマイクロソフトなどのマルチクラウド環境における多様なプラットフォームに対応できるシステム運用管理基盤をスモールスタートで短期導入し、その後必要に応じて適用範囲を広げて運用領域をあるべき姿にするサービスです。
これらにより最終的には既存システムを含めた「複数システムの統合運用管理」「運用業務の自動化」「ロケーションに関係ないリアルタイムでの情報共有」を実施し、「お客様のICT環境全体の効率化」「運用負荷軽減」「緊急時の迅速な対応」を支援します。
提供価値として、プラットフォームにかかわらず、既存システムも含めた運用管理の統合により、システム運用の全体最適化を実現します。主な形態として次を挙げます。
- 各種ツールとのAPI連携やクラウドならではの運用業務(24時間365日)を自動化することで運用負荷を軽減
- ロケーションに関係なく、ポータルを介した関係者間でのリアルタイムに情報を共有
- クラウドサービスであるServiceNowと標準運用メニューにより、短期間でのスモールスタートが可能
- ServiceNowをマネージドサービスとして利用できるため、サービス提供範囲についてはお客様でバージョンアップや維持管理が不要
本DXオファリングは、グローバル標準の運用管理基盤であるServiceNowに、長年の運用実績に裏付けられたNECの運用標準プロセスを組み込んだマネージド運用サービスです。また、運用ポータルと運用体制、標準的なオペレーションメニューをあらかじめ用意しているため、スピーディにスモールスタートが可能です。ServiceNowとNECの双方の強みを生かした、スピーディでスモールスタートが可能なマネージドサービスとして、提供します。
3. DXを支えるITサービスマネジメント
DXはビジネス変革のために行うものであるため、DX時代ではビジネスとITが密接にかかわる関係となり、ITサービスマネジメントはビジネスを支える重要なミッションとなりつつあります。一度システムを導入したらサポート期限を迎えるまでそのまま使い続けるような従来型のシステムでは、初期導入時の設計通りにシステムを安定稼働させるために、あらかじめ決められた帳票を用いてインシデント管理やキャパシティ管理などのシステムの品質管理を行い、手順に沿ってミスなくオペレーションを実行するといったことがITサービスマネジメントの担う主な機能でした。しかし、DXではビジネスとシステムの提供するサービスが直結しているため、ビジネス状況に応じて柔軟にシステムを変化させる必要があり、ITサービスマネジメントにおいてもシステムの安定稼働もさることながら、そのシステムが提供するサービスがビジネス目標達成に貢献できているかを管理し、常にビジネス戦略を意識してサービスの改善を行うことが求められます。
また、DXを実現し成功させるためには新たに登場した技術やクラウドサービスを積極的に取り込む必要があり、ITサービスマネジメントを支える仕組みであるITSMS(IT Service Management System)もそれらに素早く柔軟に対応していくことが必要となりました。そこでNECではITSMSを「標準化」「クラウド活用」「自動化」の視点で刷新し、DX時代のITサービスマネジメントの仕組み作りを行ってきました。
3.1 NECマルチクラウド運用サービス
2021年2月に発表した「NECマルチクラウド運用サービス」は、30年以上にわたる6,000社以上のアウトソーシング事業で培ったNECの運用業務標準プロセスを、ServiceNowのITSM(IT Service Management)やITOM(IT Operations Management)をベースにデジタルワークフロー化した仕組みになります(図2)。
NECはITサービスマネジメントの標準化に長年取り組んでおり、そのメソドロジーを用いてサービスの運用設計を行い、手順書を整備し運用サービスを提供してきましたが、その結果、顧客ごとに膨大な量の運用ドキュメントを生み出すこととなり、運用作業が大変煩雑なものとなってしまいました。そこでNECマルチクラウド運用サービスでは標準化されたプロセスは生かしつつ、つどドキュメントを見ながら運用プロセスを実行するのではなく、デジタル化されたワークフローに沿って運用プロセスを実行する形としました。その結果、ミスの防止や作業の迅速化につながり、運用サービスの品質を向上することができました。
また、自動化の視点では、これまで電話やメールで障害通報を受け取りインシデント管理票へ転記するといった人手による作業が発生していましたが、NECマルチクラウド運用サービスでは監視システムから受け取った通報をインシデント管理データベースへ自動で登録し運用担当者へディスパッチすることを実現しています。更にインシデントのステータスがWebで参照できるようになっているため、つど対応状況を運用者へ問い合わせる必要なく関係者がインシデントのステータスを確認することができるようになっています。
もう1つ自動化の視点でいうと、資産管理を含む構成管理の自動化があります。資産管理とはサーバ機器やソフトウェアなどのITサービスマネジメントの管理対象リスト、それら管理対象の関係性が付加された情報が構成管理情報になります。この構成管理情報は常に最新化していないと判断を誤り、思わぬ大障害へ発展しかねないため、情報のアップデートは非常に神経を使う作業となっていました。NECマルチクラウド運用サービスでは、構成管理データベース(CMDB:Configuration Management Database)を刷新し、関係者との構成管理情報の一元管理及び管理対象システムからの構成情報自動収集(Discovery)を行えるようにし、常に最新の情報が管理できるようになっています。
3.2 DX時代のモニタリング
ITサービスマネジメントとは、環境やニーズの変化による価値の低下を抑えて利用者の期待に応えるサービスを継続的に提供することを目的としており、利用者へ提供するサービスの品質を観察しチェックし続ける行為が必要となります。そのため、ITサービスマネジメントにおいてシステム監視(モニタリング)は重要な機能の1つであり、監視機能もDX時代に合わせてアップデートする必要があります。
現代のデジタルサービスにおいてサービスレベルを維持・改善するためには、Google社が提唱するSRE(Site Reliability Engineering)で挙げられている次の4つのゴールデンシグナルをモニタリングすることが重要とされています5)。
- (1)Latency (遅延)
- (2)Traffic(処理数)
- (3)Errors (エラー率)
- (4)Saturation(飽和度)
遅延はリクエストに対するサービスの処理時間、処理数はサービスに対する要求数、エラー率はサービスが失敗する割合、飽和度はサービスのリソース枯渇状況をモニタリングすることを意味します。従来のインフラを中心とした監視では、飽和度の一部はモニタリングすることができるものの、その他の指標についてはアプリケーションログなどから読み取るといった工夫が必要でしたが、現在ではAPM(Application Performance Management)製品を使うことにより容易にゴールデンシグナルのモニタリングが可能となっています。また、APMではオンプレミスシステムやIaaSだけでなく、コンテナやサーバレス、主要メガクラウドベンダーの各種マネージドサービスといったクラウドネイティブな環境のモニタリングも可能となっており、APMの使用がDX時代のモニタリングでは主流となりつつあります。APMを使用して、ゴールデンシグナルに代表されるようなビジネスに直結する指標をモニタリングし、サービスの問題発生時はAPI経由でNECマルチクラウド運用サービスへ自動でインシデント起票及びディスパッチを行い、障害対応を行うといったことも可能になっています。
4. むすび
本稿ではDXを推進されるお客様のシステム運用について説明してきました。システム運用がDX推進の妨げとなってはならず、DX時代の変化のスピードに対して運用サービスも柔軟に対応する必要があり、また、システムのみならずお客様ビジネスを意識したITサービスマネジメントを提供することの重要性が高まってきています。
これまで培ってきたシステム運用ノウハウをベースに新技術や新たなクラウドサービスへ対応し、お客様のDX推進をリードできるITサービスマネジメントの仕組み作りにこれからも取り組んでまいります。
- *マイクロソフトは、米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
- *ServiceNowは、米国およびその他の国における ServiceNow, Inc. の商標または登録商標です。
- *Googleは、Google LLC.の商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
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執筆者プロフィール
サービス&プラットフォームSI事業部
部長
サービス&プラットフォームSI事業部
部長