産業のDXを加速し豊かな社会を実現するローカル5G

お客様の業務改革を推進するDXオファリング

日本の産業界は労働力不足、技術伝承の困難さといった課題に直面しています。これらの課題を解決するため、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するうえでのキーテクノロジーとして、ローカル5Gへの注目が高まっています。NECは、産業界に提供してきたITとOperational Technology(OT)の知見に加え、通信キャリア向けに培ってきたネットワークの経験をもとにローカル5Gの各種サービスをDXオファリングとして提供します。このローカル5Gを活用して産業DXを推進し、お客様との共創による社会価値を創造する取り組みに力を入れています。本稿では、産業DXを加速し豊かな社会を実現するローカル5Gについて紹介します。

1. はじめに

日本の産業界において、労働人口の減少による労働力不足や少子高齢化による技術伝承の困難さなどに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による現場作業の制限などの課題が顕在化しています。このような社会課題の解決には、あらゆる情報をつなぎITやOperational Technology(OT)(以下、OT)を駆使した産業DXが必要不可欠です。業務効率化を追求し業務プロセスを根本から変革する産業DXの実現には、「リモート化」や「自働化」が大きなキードライバーとなります(図1)。

図1 産業DX実現のキードライバー

リモート化や自働化の実現に向け、ネットワークには高信頼性、高セキュリティ、高速、低遅延、多種多様なデバイスの接続、機器設置の容易性、移動体の安定通信が求められます。Wi-Fiでは対応が難しかったこれらに応えられるローカル5Gを活用し、新たな社会価値を創出します。

本稿では、NECにおけるローカル5G1)のDXオファリングと特長、お客様との共創による導入事例を紹介します。

2. サービス型で提供するローカル5G DXオファリング

産業DXの実現を支えるネットワークとして、あらゆるものを“賢く”つなぎ、新たな価値を生み出す「NEC Smart Connectivity」2)を提供します。ローカル5Gは、Wi-Fiなどとともにこの構成要素です。NECでは、業種別のDXオファリングも整備しており、パートナー企業の優れた技術、製品などのアセットと組み合わせ、業種やお客様ごとにDXオファリングSuiteとして提供します(図2)。これにより、お客様が短期間で信頼性の高いDXを実現することができます。

図2 ローカル5G DXオファリングの位置付け

2.1 ローカル5G DXオファリングの概要

さまざまな市場で導入が進むローカル5Gですが、ネットワークの複雑化、IT人材の確保、機器購入コストなど、ローカル5G導入に向けた課題は少なくありません。NECではこれら課題を解決するため、通信キャリアビジネスで培った5G技術を活用し、NEC資産の機器を月額利用できるメニューなど、サービス型でローカル5Gを提供します(図3)。NECはこれらサービスを標準化、DXオファリングとしてお客様の課題に応じて素早く提案できる体制を構築しています。ローカル5GのDXオファリングは、“ローカル5Gコンサルティングサービス”、“ローカル5Gインテグレーションサービス”、“ローカル5Gマネージドサービス”、“ローカル5Gセキュリティ要件定義コンサルティング”、“ローカル5Gセキュリティアーキテクチャ設計支援”で構成されます。

図3 ローカル5Gサービス

2.2 NECが提供するローカル5G DXオファリング

コンサルティングサービスでは、現地調査を通じてネットワーク要件を定義する要件定義支援サービスや、免許取得時に課題となる電波がないか事前確認する電波調査サービスを提供します。また、お客様で用意した5G端末が使用できるか事前検証する5G端末検証サービス、NECローカル5G機器を短期で貸出しお客様が導入後の効果を確認する価値検証サービスも提供します。これら4つのサービスを活用することで、本格導入前の事前検証を実施することができます。

インテグレーションサービスでは、要件定義、基本・詳細設計、構築、評価を行う構築サービスと、免許交付経験豊富なエンジニアがお客様の免許取得をサポートする無線免許取得支援サービスを提供します。

マネージドサービスでは、3つのサービスを提供します。5Gコアクラウドサービスは、クラウドから提供する5Gコア機能により初期費用を抑えることができ、事業計画に応じて柔軟にリソースを増減することができます。運用サービスでは、お客様主体でネットワークを運用し、障害発生時の窓口、リモート切り分けを提供する復旧支援と、お客様に代わりNECが運用を担当し、障害時の切り分けに加え構成管理、監視も含めて対応する運用管理を提供します。最後に機器サブスクサービスでは、機器提供と機器保守をセットにし月額料金で提供します。これにより機器導入の初期投資を抑え、固定資産の費用等を削減できます。

セキュリティサービスでは、システムで必要となるセキュリティ要件を定義するセキュリティ要件定義コンサルティングを提供します。また、セキュリティ要件をどのようにシステムで実現するか明確化し、セキュリティ設計を支援するセキュリティアーキテクチャ設計支援も提供します。

3. NECローカル5Gの特長

5Gには超高速、超低遅延、多数同時接続といった技術的な特性がありますが、お客様のニーズに合った最適なネットワークを構築できるローカル5Gが注目されています。

3.1 NECが提供するローカル5Gシステム

ローカル5Gは、(1)5Gコア、(2)RAN、(3)ローカル5G専用端末機器の主に3つの要素で構成されます(図4)。5Gコアはモビリティ管理、セッション管理、加入者情報の管理を行います。RANは5G端末が接続する基地局設備であり、通信制御やユーザートラフィックの管理を行います。RANは、CU(Central Unit)/DU(Distributed Unit)/RU(Radio Unit)の3つの機能から構成されます。

図4 NECローカル5Gの基本構成

NECでは多様なニーズに応えるため、複数のローカル5G製品を提供していますが、2つの基地局「分離型」と「一体型」について紹介します(図5)。

図5 NECが提供する分離型・一体型基地局

「分離型」は、文字どおり、CU/DUとRUが異なるハードウェアで構成されており、要件に合わせてRUの台数を決定したり、導入後の要求変更に合わせてRUの台数を変更したりと拡張性に優れています。

他社に先駆け開発した「一体型」3)は、CU/DU/RUを1つの筐体内に収めたオールインワン(AIO)モデルとなります。製品サイズがコンパクトなため設置場所の自由度が高まり、シンプルなネットワーク構成のため構築に掛かる工数が少なく済みます。電波出力は分離型と比較すると小さいですが、屋内など入り組んだ場所に設置する用途に向いています。一体型により適応領域が拡大され、多くの企業でローカル5Gの導入が進みお客様の課題解決につながることを期待しています。

3.2 シームレスに連携したトータルネットワークを提供

NECは単に個別のローカル5Gを提供するだけでなく、5GのスライシングとSDN(Software-Defined Network)のVTN(Virtual Tenant Network)をシームレスに接続し、用途に合わせたネットワークをEnd to Endで実現することが可能です。更にSDNとRIC(RAN Intelligent Controller)を統合管理することで従来のLANやWANに加えてRAN(Radio Access Network)を含めたネットワーク全体の可視化や運用の自働化を行い、効率化だけでなく安全なネットワークの運用を実現します。

4. 社会実装に向けたローカル5G導入事例

産業DXを実現するローカル5Gのユースケースとして、工場の生産ラインや工事現場などの高精細映像を用いたリモートからのリアルタイム監視・分析が挙げられます。ローカル5Gにより現場の映像を超低遅延に遠隔の監視室へ届けることで、監視業務の効率化や省人化、迅速な異常検知による安全性の確保、熟練者からの遠隔技術支援や生産性向上などの価値創出が考えられます(図6)。

図6 ユースケース例:高精細映像監視

4.1 製造・建設業における導入事例

NECは一部のアーリーアダプターとビジョンを共有しながら、このようなローカル5Gのユースケースによる産業DX・イノベーションの創出に取り組んでいます。

製造業の分野では、工場における製造業務のリモート化や自働化のためのソリューション開発が進められており、実際の工場に導入して効果を検証しています4)。例えば、株式会社リコー様では、リコーインダストリー東北事業所にSA(Stand Alone)型ローカル5Gを導入しました。遠隔から現場担当者へのシームレスな接続による技術支援や機器制御、工場内データの完全見える化などの効果を狙うだけでなく、高精細ライブ映像を活用した工場見学といった新たな顧客体験の実現を目指しています5)

建設業の分野では、熟練職人の高齢化や若手就業者の減少が進み、従来の危険で過酷な現場のイメージを払拭した労働力の確保が急務となっています。こうしたなか、5Gの特長を生かした重機の遠隔操縦や自律運転に取り組み、省人化に加え安全・安心で快適な労働環境の実現を目指しています。NECでは、無線ネットワーク環境におけるスムーズな遠隔操縦を実現する「重機遠隔操縦サービス」を提供しており6)7)、更なる遠隔操作の普及に向けパートナー企業との共創にも取り組んでいます8)

4.2 お客様との共創によるイノベーション創出

こうした共創を促進するため、NECは「ローカル5Gラボ」を運営しています。お客様やパートナー企業が機器やソリューションを持ち込み、ユースケース実証を行える環境を整えています。また、建設現場を想定した「我孫子実証フィールド」を設立し、無線ネットワーク環境での建機の遠隔操縦サービスの検証の場を設けています(図7)。

図7 お客様との共創によるイノベーション創出

5. むすび

本稿では、産業DXを実現するローカル5Gの特長と各種サービス、導入事例について説明してきました。産業DXが進むにつれネットワークに対する要求が高度になり、ローカル5Gが産業界から大きな注目を集めています。NECが培ってきた通信技術を結集したローカル5GとNECのデジタル技術を用い、先進的な取り組みによる社会実装に向け、お客様やパートナー企業との共創を重視した活動を推進し新たな社会価値創出に取り組んでいきます。


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    Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
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    その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

新井 雅之
新事業推進本部
部長
綿貫 隆
デジタルネットワーク事業部
マネージャー
古屋 百々葉
デジタルネットワーク事業部