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NECの生体認証ブランド「Bio-IDiom(バイオイディオム)」
NECが推進するバイオメトリクスの取り組み急速に進むデジタルトランスフォーメーションによって、さまざまなサービスやソリューションが個人に最適化され、これからの社会はますます便利になっていきます。誰もが不安なく、しかも簡便にデジタルの利便性を受けるためには、その人だけしか持ちえない身体的・行動的特徴を用いて個人を識別する「生体認証」を活用することが重要です。本稿では、NECが2018年4月に立ち上げた生体認証のブランド「Bio-IDiom」を活用して目指す将来の社会や、複数の生体認証技術を組み合わせて高度な安全・安心を提供する「マルチモーダル生体認証」について紹介します。更に、これまでお客様やパートナーの皆様に活用いただいているマルチモーダル生体認証の例も、併せて紹介します。
1. はじめに
近年、インターネットやスマートフォンなどの普及が進み、さまざまな情報の入手や交換が活発に行われるようになりました。一方、近い将来、世界中に約300億個のIoTデバイスと数兆個のセンサーがあふれると言われています1)。ヒトとセンサーの間に膨大な接点が生まれるなかで、NECはデジタル化された広範なデータを「見える化」し、人工知能(AI)によって人の処理能力を超えた大量のデータを「分析」し、人が理解しやすく「対処」するプロセスを構築することで、社会に新たな価値を創造していきます。ヒト・モノ・コトがデジタルでつながり、新たな意味を持たせることで、深い知識や知恵を共有するソリューションを提供していく、これがNECの考えるデジタルトランスフォーメーションです(図1)。
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急速に進むデジタルトランスフォーメーションにより、これからの社会は圧倒的に便利になっていきます。生体認証はシェアリングエコノミ―など、デジタルトランスフォーメーションが進展した近い将来において、実世界とサイバー空間(デジタルの世界)を「安全」という扉でつなぐ重要な役割を果たします。NECは、その人自身が持つ重要な生体情報を「鍵」とし、必要に応じて複数の生体認証を組み合わせながら高度な認証をデジタルの世界の入口に構築することで、なりすましや悪意のある攻撃のリスクを排除し、「誰もが安心してデジタルの利便性を最大活用できる社会」を実現していきます(図2)。
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2. 生体認証ブランド「Bio-IDiom(バイオイディオム)」
2.1 NECの生体認証
生体認証は個人を認証する方式の一つで、その人だけしか持ちえない身体的・行動的特徴を利用して個人を識別する技術です。身体的特徴としては、顔、虹彩、指紋、掌紋、静脈など、行動的特徴としては署名や声などが挙げられます(図3)。
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特にNECが技術開発に注力しているのは、図4のひし形で囲った部分です。それぞれの認証技術はいずれも世界トップクラスまたはNEC独自の技術で、なかでも顔、指紋、虹彩は世界第1位の認証精度を有する、との評価を獲得しています2)。一般に利便性と認証精度(安全性)は相反するものですが、NECでは、これらを2軸でとらえ両立させた、最もデジタルの活用が求められる領域を中心として、新たな価値を提供していきたいと考えています。お客様のニーズや社会背景、活用シーンに合った認証技術を選択、または複数の認証技術を組み合わせた「マルチモーダル生体認証」として、活用を進めていきます。
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2.2 生体認証「Bio-IDiom」を活用した社会価値創造
NECでは、グループ全体で展開している生体認証の製品、サービス、ソリューションの総称を「Bio-IDiom(バイオイディオム)」と名付け、さまざまなソリューションを展開していきます。「Bio-IDiom」は、NECが保有し展開する多彩な生体認証が、それぞれの特性を生かしながら社会全体に安全・安心・効率・公平という価値を提供していく想いを込めた名称です(図5)。
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「あらゆる人を瞬時に認証し、たしかな信用が生まれれば、世界はもっと、ひとつになれる」。これが、NECが「Bio-IDiom」で実現しようとする世界です。スピーディかつ高精度な認証が可能な生体認証の活用は、ヒト・モノ・コトが一つにつながる世界が持つポテンシャルを、最大限まで発揮させることができるはずです。指紋認証から実用化がスタートした生体認証ですが、技術と活用シーンは今後更に拡大し、さまざまな分野の社会課題の解決に貢献していくことが期待されています。
「Bio-IDiom」は、Bio(生体)とIdiomを組み合わせた造語です。Idiomは、複数の単語を重ねることで言葉に新たな意味や価値を吹き込む「慣用句」の意味を持ちます。複数の生体認証を組み合わせることで安全の価値を高めるとともに、新たな価値を創出する、というNECの強い意思を込めています。更にIdiomは、単語の中にID(Identification)を含んでおり、ユーザーを世界でただ一人の存在として認証し、安全にデジタルを最大限活用できる世界を構築したいという意思を込めています。
一方、「Bio-IDiom」の名称に加え、より親しみを持って生体認証を活用いただくため、シンボルマークも開発しました。市松模様のシンボルマークは、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が紡ぎあって広い面を作りだす織物のように、すべての人と社会をあたたかく見守り、包み、豊かにしていくという想いを込めています。
3. マルチモーダル生体認証の活用事例
NECでは、1970年代から指紋認証の研究にいち早く取り組み、その後も顔認証を中心として世界の生体認証の技術開発を牽引してきました。実用化された認証技術は、犯罪捜査や出入国管理、国民IDなどを中心として世界各国で既に活用されており、社会と人の安全・安心を支えています。
一方、生体認証は、対象が生体であるがゆえの「あいまいさ」が存在することも事実です。例えば、常に変化する体質や健康状態などの環境条件、あるいは測定条件などによって認証しづらくなる認証方式もある他、人によっては病気などの理由でそもそも使用することができない認証方式も存在します。そこで、複数の生体認証技術を保有するNECでは、個々の生体認証をお客様のニーズに合わせて巧みに組み合わせ、認証精度を飛躍的に向上させるソリューションを提供しています。
以下、これまで約70カ国以上で延べ700システム以上の豊富な導入実績のなかから、複数の生体認証技術を組み合わせたマルチモーダル生体認証に関する代表的な事例を紹介します。なお、「マルチモーダル生体認証」でセキュリティを高める考え方や、これまでの豊富な導入実績を主な理由とし、「Bio-IDiom」は2018年グッドデザイン賞・ベスト100を受賞しました3)。更に世界3大デザイン賞の一つといわれるドイツiF Design Award 2019も受賞しました4)。「Bio-IDiom」は日本国内のみならず、海外からも高く評価されています。
3.1 インド大規模固有識別番号プログラム(国民ID)
13億人の人口を抱えるインドにおいて、個人を特定して誰もが公平に社会サービスを受けられるシステムを整備することが、長年望まれつづけてきた課題でした。NECではこの課題に対し、指紋と顔、虹彩認証を組み合わせた高精度なマルチモーダル認証により、書類の保管・提出や固有IDを介在させない大規模生体認証システムを完成させました(図6)。これにより、食糧の需給や職業のあっせん、納税といった場面において、二重登録やなりすましを防止。更には手続きの簡素化を実現することで、国民一人ひとりへの公平な公共サービスや金融サービスの提供を支えています5)。
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3.2 米国ロサンゼルス郡保安局
NECの指紋照合システムは、各国の犯罪捜査の現場で活用されてきましたが、高度化・複雑化する犯罪の早期解決を通じて街の安全を確保するため、指紋、掌紋、顔、虹彩認証など、複数の生体認証技術を組み合わせたマルチモーダルの犯罪捜査システムを提供しました。これにより、犯行現場に残されたわずかな手掛かりから関係する人物を絞り込むことで遺留捜査の効率化を支援し、より多くの犯罪の解決に貢献していきます。システムの導入からわずか1週間で、迷宮入り未解決事件の手掛かりを発見するなど、事件解決に向け、貢献することができました。また、提供したシステムは、カリフォルニア州司法省や米国連邦捜査局を始めとした連邦・州警察のデータベースと接続し、世界最大級のサービス型犯罪捜査向け生体認証システムとしても期待されています(図7)6)。
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4. むすび
NECでは、生体情報を始め幅広いデジタルデータを取り込みながらAI技術と組み合わせたシステムを構築し、さまざまな事象の予測や傾向分析などを行う高度なソリューションを提供しています。特に、生体認証やAIを最大限に活用する事業領域として、パブリックセーフティ事業を始めとする「NEC Safer Cities」や、産業の枠を超えてヒトやモノ、プロセスをつなぎ新たな価値を創出する「NEC Value Chain Innovation」を主軸として、ソリューションの拡充など取り組みを強化していきます(図8)。
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NECは社会価値創造型企業として、「安全・安心・効率・公平」の価値の創造を通じて「人が生きる。豊かに生きる」社会を実現します。
参考文献
執筆者プロフィール
執行役員 兼 CMO
マーケティング戦略本部
マネージャー
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