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バイオメトリクス研究の今後の進化発展

NECが推進するバイオメトリクスの取り組み

本稿では、「誰もが手軽に享受できる」ようになりつつあるバイオメトリクス(生体認証)が、今後どのように進化発展するかについて考察します。最初に「効率化」という目的で進化発展するとし、膨大なデータや事実に対する効率化、「モノ」に対する効率化、実世界に対する効率化の観点で事例を紹介します。次に、「ヒト」の内面まで理解できるようになるとし、「ヒト」から「群(むれ)」への発展、理解から働きかけへの発展の観点で事例を紹介します。最後に、今後の経済の継続的成長を可能とする指数関数的成長を実現するドライバーとして、生体認証を始めとするAI技術を展望します。

1. はじめに

2012年頃から活発となった深層学習(ディープラーニング)の研究開発は、画像認識を始めとするさまざまなAIの認識精度を劇的に向上させました。その進化発展の様子は、一般物体認識の国際コンテストILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)に象徴的に表れています。

ILSVRCでは、物体識別タスクのエラー率が2017年の時点で2.3%に達しており、同じタスクを人間が行った場合のエラー率が5.1%であることと比較すると、その認識性能の高さが理解できます。またILSVRCへの参加者も、深層学習が導入された2012年以降は増加の一途をたどっていましたが、2017年には115組織と大きく減少しています(2016年は172組織)。2014年に優勝したGoogleもそれ以降は参加しておらず、直近のコンテスト参加者の多くは中国勢で占められています。この流れを受けてILSVRCも2017年の開催を最後にその役割を終了しました。

深層学習の進化発展を支えてきたのが、ソフトウェアとハードウェア両側面への知の集中・開発環境の低コスト化・コモディティ化といえます。

ソフトウェアに関しては、例えば、TensorFlow(Google)、Chainer(PFN)、Caffe(CMUほか)といった深層学習のライブラリーや開発フレームワークがオープンソースソフトウェア(OSS)として公開され、またImageNet(スタンフォード大学)やCOCO(Microsoft)といった大規模なデータセットが学習/評価データとして利用できるようになったことで、誰もが簡単に深層学習を試す環境が整ってきました。またGoogle、Microsoft、Amazonらは画像認識や音声認識を始めとするさまざまな認識機能をクラウドサービスとして公開しており、更に近年では学習プロセスまでがクラウドサービス化されています。

ハードウェアに関しても同じです。NVIDIAを始めとしたAIの推論及び学習のアクセラレータの高性能化・低価格化は、2012年に深層学習が再度注目された成果を引き出した大きな要因であったと言われるように、深層学習の進化発展を支える基盤となるものです。

前述したような深層学習の進化発展は、バイオメトリクス(以下、生体認証)にも大きな恩恵を与えています。NECでも、指紋、顔、虹彩による認証では米国国立標準技術研究所(NIST)が主催するコンペティションでNo.1を獲得しており、また声による認証でもトップクラスの成績を収めています。

この恩恵を一言で表現すると、生体認証が「誰もが手軽に享受できる」技術になりつつあるといえます。

「誰もが」つまり、子どもからお年寄りまで、身長、肌の色や国籍、更にはファッションなどの個性に依存せず、「手軽に」つまり、工夫いらずで、安全に、不安なく、生体認証という恩恵を享受できるようになってきています。

本稿では、「誰もが手軽に享受できる」ようになりつつある生体認証が、今後どのように進化発展するかについて考察します。

2. 生体認証による効率化

生体認証は、本人の生体情報を元に認証するので、他人が本人になりすまして認証されたり、鍵などのように紛失してしまって、本人が認証させることができなくなってしまったり、他人がその鍵を使って認証されてしまうことがないなどの特徴を持ちます。生体認証は、このような「安全」「安心」を担保するという側面がある一方、今後の生体認証は、まずは「効率化」という目的で進化発展すると考えています。

2.1 膨大なデータや事実に対する効率化

例えば、多くの人が映っている大規模な動画データであっても、生体認証技術の1つである顔認証技術を用いることで、いつどこに目的の人が存在していたかを知ることができます。また、同時に目的の人と同席していた人を同定もできます1)

このように、生体認証を用いると、膨大なデータや事実に対して、効率的に人の存在を知ることができます。これにより、例えば未解決であった事件を解決に導いたり、危険を事前に察知し、安全に導いたりすることが可能となります。

2.2 「モノ」に対する効率化

「モノ」と生体認証を組み合わせると、「モノ」を所有から共有にするという効率化が実現できます。

例えば、自家用車を考えてみると、これまで自家用車はずっと所有することが一般的でした。しかし、生体認証技術が発展すると、自身が使っていないときは自家用車を他人に貸すことができるようになります。つまり、ずっと所有から、たまに所有へと効率化できます。

更に、生体認証により、自身が必要なときだけ自動車を使うというようにできると、たまに所有から、持たないというレベルまで効率化できます。

このように、生体認証は、あらゆる「モノ」を所有から共有にすることで効率化する可能性を秘めています。スマートフォンを例にとれば、近い将来、スマートフォンにおける生体認証は、単なるログインのためだけの手段ではなく、スマートフォンの利用を他者と共有化する手段として活用され、最終的には自身のスマートフォンを持たないことが一般的になる可能性もあります。

2.3 実世界に対する効率化

生体認証は、実世界における「ヒト」の行動を匿名から実名に変える可能性を秘めています。

昨今、例えばある建物の入り口で生体認証により本人確認を行い、その建物の中では自分が誰であるかを明示した状態、つまり、実名での行動をすることがあります。この場合、ある建物の中で実名となりますが、街中のいたる所で生体認証が一般的になると、街中でも常に実名であることが強いられます。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)という仮想世界のサービスでは、実名と匿名の2種類が存在しています。例えば、Facebookは実名であり、TwitterやInstagramは匿名です。前述したとおり、実世界においても、同様に実名と匿名が存在します。この実名と匿名の境界を定義するのが、生体認証ということができます。

実世界での実名は効率重視です。誰がいつどこで何をしたのかが分かることで、その「ヒト」に適したサービスを受けることができます。しかし、匿名の特徴であるプライバシーの一部を犠牲にしています。プライバシーをいかに担保しながら、実名で可能となる効率を享受できるようにするかが、今後の技術の進化発展のポイントといえます。

3. 「ヒト」の表面から内面の理解へ

生体認証は、対象となる「ヒト」が誰であるかを認証するものですが、今後の技術の進化進展により、その「ヒト」の内面まで理解できるようになります。

例えば、ウェアラブルセンサーを用いて取得した生体情報から、従業員の長期ストレスを段階別に高精度に推定する技術があります2)3)

認証対象である「ヒト」が誰であるかは時間に依存して変わりませんが、「ヒト」の内面は時間に依存して変化するものなので、これまで個に依存したサービスであったものが、個だけではなく時間に依存したサービスを提供できるようになります。

長期の内部状態を理解することにより、サービスを受ける対象となる「ヒト」は、自身の例えばパーソナリティに依存したサービスを享受できるようになります。一方、短期の内部状態を理解することにより、サービスを受ける対象となる「ヒト」は、そのときのリアルタイムな感情などに依存したサービスを享受できるようになります。

いずれにしても、内面を理解する技術の進展により、サービスの対象となる「ヒト」は、その時々にふさわしいサービスを享受できるようになります。

3.1 「ヒト」から「群(むれ)」への発展

個々の「ヒト」のリアルタイムな内面に依存したサービスを提供する際、「ヒト」を「群(むれ)」として扱うことが重要となります。

例えば、ある店舗での購買において、生体認証技術により高度なサービスを提供する場合、対象とする「ヒト」だけではなく、その「ヒト」がどういう「ヒト」と一緒に店舗に来ているかが重要となります。つまり、「ヒト」と「ヒト」の関係性、「ヒト」と「モノ」の関係性を理解するということが重要となります4)。このことで、よりその「ヒト」の内面を深く理解することが可能となります。

また、「ヒト」それぞれではなく、「ヒト」の流れを理解するということにもつながります5)6)。個々の「ヒト」を理解することを超えて、「ヒト」を群として扱い、その行動を理解するということになります。

3.2 理解から働きかけへの発展

ここで、生体認証の進化発展を予測するときに、米国心理学者のアブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908年~1970年)の欲求5段階説を取り上げます。この説は1943年に発表されたものですが、「ヒト」の欲求を理解するのにとても参考になるもので、今でも頻繁に参照されています。

18世紀半ばから始まった産業革命、その後、20世紀半ばから始まった情報革命により、マズローの欲求5段階の衣食住などの生理的欲求から、他者から価値を認められたいという承認欲求までの4段階の欲求を満たしてきたと言えます。SNSでの「いいね」ボタンはまさに承認欲求の1つの形態だといえます。

マズローの欲求5段階の最後の欲求は、自己実現の欲求です。さきに、生体認証技術が進化発展することで、対象とする「ヒト」の内面を理解できるようになるということを紹介しました。内面を理解できるようになると、次の段階として、対象とする「ヒト」への働きかけが可能となります。その働きかけは、「ヒト」の自己実現、創造的活動につながるものであり、マズローの欲求5段階の最後の欲求を実現するものです7)

衣食住などの生理的欲求と比べると、自己実現はその欲求が「ヒト」それぞれによって異なることが大きな特徴になります。

例えば、ある店舗での購買の場合、自己実現がどのようなものかを考えてみます。

ある対象となる「ヒト」に「モノ」を薦める場合、その「ヒト」の過去の購買履歴から推薦すること、更に、類似の「ヒト」の購買履歴から推薦することなどが既に実用化されつつあります。

一方、自己実現ということを考えた場合、その「ヒト」の潜在能力を引き出すようなものを推薦できるということになります。つまり、将来の生体認証技術は、個々の「ヒト」の個性や能力を引き出すイネーブラーになるといえます。

4. 最後に

産業革命や情報革命は、指数関数的成長(Exponential Growth)に支えられてきました。

産業革命は、さまざまな技術の進展により食糧や資源の拡大、効率的利用を可能とし、このことで人口の増加や、生産労働人口と呼ばれる生産活動に就く人材の増加をもたらしました。このような人材の増加は、さまざまな技術を進展させ、これが産業革命のベースとなる指数関数的成長につながりました。

情報革命も同じです。半導体の微細化により、ITの性能・機能が向上し、これにより、半導体の微細化が更に進展し、指数関数的成長を実現しました。

半導体の微細化はまもなく終焉を迎えると言われています。すなわち、情報革命において指数関数的成長を支えてきた重要なドライバーの1つがなくなります。

生体認証を始めとするAI技術は、今後の経済の継続的成長を可能とする指数関数的成長を実現するドライバーとして発展するのでしょうか8)

AI技術による認識精度を高めるには、多くのデータが必要です。高い認識精度のAI技術はさまざまなところで使われ、それにより更に多くのデータが集まります。このデータが、AI技術の更なる発展(新しいサービスの実現)をもたらします。つまり、指数関数的成長を実現できます。データ駆動型ビジネスを推進している企業の業績が伸びているのはこの指数関数的成長の仕組みを利用しているといえます。

更に、本稿で紹介した、生体認証のさまざまな今後の進化発展も、経済の指数関数的成長の一助になると考えています。例えば、生体認証による理解から働きかけへの発展で述べた「ヒト」の自己実現は、「ヒト」の欲求を具現化するだけではなく、まったく新しいAI技術を創造する糧となると考えています。


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    GoogleおよびTensorFlowは、Google LLC.の商標です。
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    Chainerは、株式会社Preferred Networksの日本国およびその他の国における商標または登録商標です。
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    Microsoftは、米国Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。
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    Amazonは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標または登録商標です。
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    NVIDIAは、米国NVIDIA Corporationの米国およびその他の国における商標または登録商標です。
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    Facebookは、Facebook, Inc.の登録商標または商標です。
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    Twitterは、Twitter, Inc.の登録商標または商標です。
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    Instagramは、 Instagram, LLCの商標または登録商標です。
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    その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

水野 正之
バイオメトリクス研究所
所長

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