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PLMコラム ~PLM導入の進め方~

<執筆者>
NEC エンタープライズコンサルティング統括部
PLMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。

執筆者

5.PLM導入の効果について

前回までのコラムで、改革初期の企画段階において、PLM導入の目的明確化と、検討メンバーの納得(腹落ち)が、PLM導入成功のための重要ポイントだと述べてきました。
では、日本の製造業では、どのような目的を持ってPLM導入を進めてきた、進めようとしているのでしょうか?
いくつかのパターンについて紹介していきながら、効果についても考察していきたいと思います。

パターン1)設計⇒生産連携の最適化

このパターンは、PDMの時代からあり、現在でもある典型的なPLM導入の目的です。
20世紀のPDM時代では、図面出図のデジタル化が主ソリューションでしたが、現在ではE-BOM(設計BOM)を中心としたBOM連携が主ソリューションとなっています。
設計変更のワークフローを、図面システムとは別に運用されている製造業のお客さまもまだまだいらっしゃるのが現実です。
設計変更&図面変更&BOM変更を同一システムで連携させ、生産側に連携することで、効率かつ確実な履歴管理が可能となります。
また、例えば、図面内情報を簡素化し、BOM情報として生産側に連携することで、設計変更時の図面変更枚数を削減することも可能です。
この場合は、設計部門での図面記載内容変更検討に加えて、生産/調達部門との整合が必要です。
言わずもがなですが、単にシステム導入に徹するのではなく、現状と目指す姿のギャップから、自社にとっての「最適化」とは何か、具体目標を設定していくことが重要です。
2次元の図面だけでなく、3次元モデルも出図対象としている企業もあり、その場合は、CADネイティブファイルとしての3Dモデルの所在管理と、出図対象としてのビューイングデータ(図面でいうと、TIFFやpdfに相当)をどのようにハンドリングしていくか、業務設計/システムレイアウト設計する必要があります。
★パターン1の効果:出図/設計変更ミスの削減、手戻りレス、電子ワークフローによるLT短縮、変更履歴の即時見える化、設計変更図面枚数削減など


パターン2)グローバルトレーサビリティのための適用/変更指示ガバナンス
グローバルトレーサビリティのための適用/変更指示ガバナンス

自動車メーカーのみに報告/立入検査を求めていたリコール制度が、2015年の道路運送車両法改正により、自動車部品メーカーにも適用されることになりました。
参考)PDFhttps://www.mlit.go.jp/common/001082446.pdf
「国土交通省:リコールに係る装置メーカーへの対策強化」
その結果、自動車部品メーカーにとっては、海外工場であっても重大な不良品の市場流出が起こってしまっては、会社の存続自体が危うくなる経営リスクとなりました。
そのため、設計情報を正確に調達や製造現場にまで適用していく、特に変更情報を適用していき、不良の市場流出を防ぐ仕組み作りが必要となりました。
筆者も何社かの海外工場を視察させて頂きましたが、実態は、現地の現場(各ライン)で、本社が把握していない指示書が作られていることが通常でした。
日本からの変更指示後、この現場の指示書まで変更がタイムリーに実施され、どのロットから変更が適用されたか追えるようにすることが求められました。
更に先進メーカーでは、調達先変更や5M変更等の生産側での変更履歴の統合管理もPLMで行えるよう変革実行を進めた企業もありました。
★パターン2の効果:設計指示/変更のグローバルトレーサビリティ確立


パターン3)デジタル技術を活かしたコンカレントエンジニアリングの推進

昨今は、デジタル技術を活かしたコンカレントエンジニアリングの推進を目的にPLM導入を進める企業も増えています。
3Dデータを活用し、生産サイドの加工シミュレーション(成形解析、プレス解析等)や、デジタルモックアップによる組立性検討を、設計と並行してコンカレントに進められるよう変革していきます。
加工や組立手順等の情報を一元管理する器が必要になってきますので、必然的にPLMでのBOP(※)管理が必要になってきます。
経験的に、このケースの進め方の難易度はやや高いと感じています。理由は、PLM導入=コンカレントエンジニアリングの推進とはならないからです。
まず、デジタル技術を活かしたコンカレントエンジニアリングの推進の方針が策定され、業務プロセスやルール、適用するツールが選定され、パイロット製品による運用トライアルが進みます。
その上で、そのプロセスやツールを全社展開する際に、管理情報基盤が必要ということでPLM導入が進んでいくという順番が正当な進め方になると考えます。
PLM導入を進めながら、業務プロセスやルール策定、適用するツール選定を並行してい進める場合、PLMの要件定義に手戻りが発生することがあるので注意が必要です。
★パターン3の効果:開発LTの短縮、初回出図品質の向上(設計変更の削減)、試作回数の削減など

※BOP:Bill of Process 製造工程(工程順/作業手順、設備、工程品質など)の情報
参考)製造業DXのキーファクター“BOP(Bill of Process)”とは?
https://jpn.nec.com/manufacture/monozukuri/iot_mono/2024-02/02.html


パターン4)マスカスタマイゼーション対応(個別受注設計からCTO/BTO型への変革)

機械メーカーのお客様における昨今の最大の課題は、製品のコモディティ化と設計者不足です。
これまでの日本メーカーは、顧客要求に対して個別受注設計を行うことにより、きめの細かい対応をしてきました。
年間数台や数十台程度の出荷台数の製品ならともかく、数百台以上のレベルになると、個別設計するには設計者の数が圧倒的に不足してきています。
個別設計を受けるためには、引合い段階の設計者による見積も必要で、ベテラン設計者は設計作業よりも見積作業に駆り出されていて、設計品質が落ちてきているという声もよく聞きます。
そんな中、モジュラーデザインによって個別受注設計からCTO/BTO型へ変革し、顧客ニーズに対して個別設計で応えるのではなく、予め準備したモジュールの組合せで応えようとする取り組みが進んでいます。
PLM導入はその取り組みの一つとして企画されますが、PLM以外に、CPQの新規導入や、オーダーエントリーシステム/生産管理システムの改修も企画されることが通常です。
★パターン4の効果:個別受注設計からCTO/BTO型への変革、設計プロセスの売上ボトルネックからの排除、設計者工数の最適活用、受注~出荷LT短縮、在庫回転率向上など

参考)
モジュラーデザイン変革:https://jpn.nec.com/consult/development/ecm/md/index.html
設計者不足への対応:https://jpn.nec.com/manufacture/monozukuri/iot_mono/2024-08/01.html


パターン5)新規製品の原価企画からLTV最大化
新規製品の原価企画からLTV最大化

機械メーカーや自動車部品メーカーにおいては、更なる事業拡大のために、設計段階での更なる原価低減や、アフターでの更なる収益化を求めています。
※自動車部品においてはアフター市場が存在するパーツのみ
PLM導入は、前者においては、設計者に既存部品やASSYの実績原価、あるいは見積原価の即時提供を可能にします。
昨今では、BOP(※)までPLMで統合管理している事例も出始めてきました。その場合では、資材費のみならず、加工費や金型/治具費もBOPと合わせて確認することができるようになり、設計段階で設計部門と製造部門協働によるコストダウン検討が進む環境ができるようになってきました。
LTV最大化においては、保守パーツをマスター化して整備しておく、保守/点検/保全サービスをパッケージングしておき、各製品/機種毎のパッケージと必要部材を紐付て管理しておき、出荷案件毎の情報と合わせてプッシュ型で保全を提案、サードパーティ製のパーツ交換での不具合等を防ぎ、ユーザーを囲い込むと共に製品を最適に保ち続け、収益力も上げていくことが期待されています。
★パターン5の効果:設計段階からの更なる原価低減検討(実績原価/見積原価の即時見える化)、プッシュ型保全提案の実現、アフターの収益向上など


パターン6)製品情報/ものづくり情報マスターとしてのPLM導入

PLMを、企業の製品情報/ものづくり情報マスターとして位置付け、エンジニアリングチェーンだけでなく、様々なチェーンと連携するためのマスター管理基盤として位置づけようとする取り組みが出始めています。
これまでは、パターン1や2でみる設計⇒生産連携が主な連携でしたが、本ケースでPLMは、MESと連携したり、各種規制対応システムと連携したりする、セントラルマスターとしての位置付けとなります。
これまでも環境物質規制対応として、BOMを活用した規制対応の効率化などのソリューションは存在していましたが、これを例えばCFPや、廃プラ規制、リサイクル対応、ソフトウェアの脆弱性管理などにも活用拡大していこうという取り組みです。
参考)NECの含有化学物質管理ソリューション:https://jpn.nec.com/obbligato/chemicals/index.html
デジタルツインへの拡大を模索している企業もあります。具体的には、工場のフロアのロケーション情報(座標としての位置情報、柱情報など)までもPLMでマスター管理し、フロア/ライン構築のシミュレーションや、MESと連携して製造指示に活用していこうという取り組みです。特に、組立業は製造現場の人手不足を背景に、ショップやラインの自動化が益々進んでいく方向です。その際に、統合管理されたマスター情報は必須となっていくでしょう。
★パターン6の効果:各種規制対応の効率化/確実化、規制違反によるレピュテーションリスクの低減、デジタルツイン/フロアシミュレーションの実現など

ここで紹介したPLM導入の目的別パターンは、大きな分類をしてみたものです。
具体的には、各社様の現状と、今後の方向性を踏まえて、多種多様な(もっと具体化された)目的を設定されています。
自社は、PLM導入によって何を目指すのか?その検討のヒントになれば幸いです。

次回は、「PLM導入の進め方と注意点について」考察を続けていきたいと思います。


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