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PLMコラム ~PLM導入の進め方~
<執筆者>
NEC エンタープライズコンサルティング統括部
PLMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。
前回は、「PLM」という言葉の定義と、「PLMソリューション」の歴史について話しました。
今回からは、「PLMソリューション」の位置付けや、導入の目的等について考えていきます。
3.「PLM」は、もはや部門システムではない
前回お話しした「PLMソリューション」の歴史によると、初期の「PLMソリューション」は、PDMと呼ばれ、製品設計部門が図面管理を行うためのソリューション、あるいはデータベースシステムのことを指していました。
2000年代初頭までは、PDM導入として、PJオーナーが製品設計部門の統括役員、PJマネージャーが技術管理部長、PJメンバーが技管部員と実設計者という体制でのシステム導入プロジェクトが一般的でした。
図6:2000年代初頭までの一般的なPDM導入プロジェクト体制
しかし、1990年後半に、「エンジニアリングチェーン」という概念が出始め、技術情報をチェーン上で活用できていかないといけないという発想が生まれます。
東京大学名誉教授の藤本隆宏教授は、「付加価値は設計情報に宿る」とし、「製品とは設計情報が媒体となって、素材に転写されたものである」と、提言されました。
図7:広義のものづくりの考え方と、エンジニアリングチェーン/サプライチェーンとの関係
「エンジニアリングチェーンを考えることこそが、サプライチェーンを上手く駆動させる」という考え方が広まったのは2000年代初めでした。
当時は、「SCM改革」が大流行でした。SCPと呼ばれる計画系シミュレーションソフトを導入すれば、最適在庫での最適オペレーションが図れるであろうとの考えの下、大手企業では大規模変革プロジェクトが推進されていました。その中で、皆が気付いたのが、エンジニアリングチェーンを検討する大切さでした。つまり、将来のことを考えようとすると、①現行出荷中製品については、変更されない技術情報(あるいは変更される場合は即時に指示されること)が必要、であり、②次期開発中製品については、必要となる部材、製造工程の情報が必要なのでした。
※特に製品ライフサイクルが短いデジタル家電や半導体、当時のガラケー等のハイテク分野においては、この②の傾向が非常に強く、まだ企画中(設計前)の製品においても「BOMを出せ」と、不条理極まりないトップからの指示が飛んでいる企業もありました。
当時、SCM改革でご支援させていただいた、大手精密機器メーカー:SCM改革リーダーの方は、「本来はSCM改革前に、ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)改革をやらなければならない。しかし、当社では設計は聖域であり、情報システム部門から変革を起こし、主導するのは難しい」と仰っていたのをよく覚えています。
情報システム部門は、黎明期は「電算室」と呼ばれ、経理系システムの電算化(現在の言葉ではデジタル化)から始まった組織であることが多かったことから、財務諸表に直結するSCM領域改革を主導していました。一方で、ECM領域の改革は、CAD導入を主導してきた「技管」と呼ばれる開発部門が主導しており、この間には大きな壁がありました。
現在では、この壁が徐々に取り払われ、①はBOM連携によって、「PLMソリューション」が、設計⇒生産をスムーズに繋いでくれますが、②の最適な連携方式はまだ確立されていない、と言うのが私の認識です。
1990年代のコンピューターシステムに思いを馳せてみましょう。
1995年にWindows95が発売され、やっとGUIベースのクライアントOSの普及が始まりました。(それまではUNIXを主体としたCUIが基本でした。)
併せて、WindowsNTというOSも発売され、企業内で「コンピューターネットワーク」の構築が始まり、EUC(エンドユーザーコンピューティング)という言葉の下、様々なアプリケーションが乱立していました。しかし、Windowsベースのアプリケーションは、基幹システムとしてはまだまだ未熟で、突然システムが落ちてしまうことが頻発していました。
情報システム部門は、経理&SCM系の情報システムを運用・改修していくと共に、当時「情報系」と呼ばれた、eメール、グループウェア等の導入を推進し、部門間・社内外の情報の流通を促進させました。
一方で、やはり「技術情報」については、情報システム部門の管轄外で、「コンピューターネットワーク」に関しては、全社ネットワークと、技術部門ネットワークが別に存在していた企業も多かったのではないでしょうか?電機機器系の企業においては、Windows、Linux、Mac(当時は、まだMacintoshと言っていました。)が混在したネットワークが当たり前のように運用されていました。
さて、話を戻しましょう。
2024年現在、「PLM」は、もはや製品設計部門のシステムではなく、企業全体のエンジニアリングチェーン最適化のためのシステムなのです。
製品コンセプトを立案する「商品企画部門」、そのコンセプトの実現を具現化する「製品設計部門」、その製品を量産するための工程を考える「生産技術部門」、必要部材を最小在庫で運用するための「生産管理・調達部門」、設計情報を素材と言う媒体に転写する現場である「製造部門」、それらを市場に浸透・販売する「営業部門」、製品が使われなくなり、廃棄・リサイクルまでの保守を行う「保守サービス部門」の全ての部門において、技術情報が起点となって業務が駆動しているのは、イメージできる通りと思います。
つまり、「PLM改革プロジェクト」は、これらの部門を跨った「クロスファンクショナルなプロジェクト体制」が必要であり、そのガバナンスをきかせた企業が改革を成功させている、と経験的に実感しています。
現在の話ではなく、未来の話に移っていきましょう。
ここまでの話では、自社内のエンジニアリングチェーン最適化、という前提の下、考察を続けてきましたが、DX時代のエンジニアリングチェーン最適化では、企業間のコラボレーションが非常に重要になります。
何故ならば、もはや自社製品の開発/生産には、多くの企業群が関わり(サプライチェーン)、そのサプライチェーン上でどのように技術情報を流通させるか、が企業競争力に直結する時代に入ってきたからです。
具体的に、(A)攻めの観点、(B)守りの観点の2つで考察を続けましょう。
まず、(A)攻めの観点ですが、競合に増して品質向上や原価低減を推し進めるために、新たなサプライヤーを開拓したり、現サプライヤーへの交渉力を強化させる必要があります。
そのためには、自社製品の優位性(沢山売れること)を訴求し、サプライヤーにとって自社と付き合う(自社製品の部品を供給する)ことが魅力的であることを訴求していかなければなりません。昨今は人手不足で、サプライヤーも自社能力を超えた供給をしない方向性が出始めています。これまでの時代は大量生産の時代の延長線でしたので、サプライヤー不利な市場環境でしたが、これからはサプライヤーに選ばれる、ということを意識した経営が必要になるでしょう。
次に、(B)守りの観点ですが、こちらの方が企業間での技術情報流通を推進するエンジンになってきている、と認識しています。
いくつか例を挙げて説明します。
一つ目が、SBOM(ソフトウェアBOM)です。
昨今の製品では、ソフトウェアの比重が増し、複雑なプログラムが多数連携しながら、製品を駆動させています。従来は、プロプライエタリ開発が当たり前でしたが、昨今はオープンソースのソフトウェアを活用しないともはや開発できない、と言うのが実態となっています。
そうなると、そのソフトウェアに対する責任を、誰が、どうとるのか、という論点・課題が発生します。
ソフトウェア関係の業務に携わっている方々はご存じの通り、2021年に「Log4Shell」脆弱性問題が表面化し、大騒ぎになりました。
昨今では日本でも、「病院のシステムが乗っ取られ、身代金を要求された」とか、「自動車系サプライヤーがランサム攻撃を受け、自動車製造ラインが全工場で停止」など、製造業への攻撃も増えている印象です。
SBOMには「SPDX」や「CycloneDX」という主要フォーマットでの記述が求められますが、これらは技術情報そのものであり、この技術情報を企業間(サプライチェーン上)で流通させ、脆弱性をマネジメントしていくシステムが求められています。ソフトウェアは、ネットワークにさえ繋がっていれば即時に更新することができますので、その更新マネジメントも含めて、企業間(B2Cだと個人としての顧客も含む)での新たなシステム化(IT+マネジメント)が必要になってきています。
SBOMが解決する課題と関連資料の紹介 : NECセキュリティブログ | NEC
「SBOM」とは | サイバーセキュリティ | NECソリューションイノベータ
二つ目が、環境規制対応です。
早くは2000年初頭から、RoHSやREACHといった含有化学物質の規制が始まり、よくあった例として、PCBを使うメーカーは、鉛フリーはんだへの切り替えを進めるなど、対応を進めてきました。
2024年現在においては、「サステナブル」をキーワードに、環境への意識が高まり、化学物質に加え、廃プラ規制や、CO2排出量、いわゆるCFPについても規制が掛かっていく状況です。
これらの環境規制対応でも必須となるのが技術情報です。特に製品を構成する部材の情報であるBOM、及び、その構成を作っていく過程での情報であるBOPがマスター管理され、サプライチェーン上で流通させていく必要性が高まっています。
欧州では、DPP(デジタルパスポート)と呼ばれる制度化を進めようとしており、製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保するために様々な情報が記録されたデジタル証明を、企業に求める時代が近づいています。
当然、このデジタル証明のベースは、製品技術情報となります。
含有化学物質管理ソリューション: NECのPLM/PDMシステム Obbligato (オブリガート) | NEC
カーボンニュートラルに向けて~SX(Sustainability Transformation)支援コンサルティング~: SX支援コンサルティング | NEC
第2回は、PLM導入は技術部門での検討事項なのではなく、企業全体で、経営として考えるべき事項であることを解説しました。
次回以降、その具体的な目的や効果についての考察を続けていきたいと思います。
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