勤怠管理システム導入の“前と後”(後編)
社会保険労務士レポート第2回

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直接的な業績への貢献度が一見低そうな勤怠管理。実は手を入れれば目に見える経営への改善効果が得られることをご存じでしょうか?日ごろから、様々な会社の勤怠管理に関わっている社会保険労務士が、「勤怠管理システム」導入の前後で業務がどのように改善されていくのか、その効果をレポートします。

特定社会保険労務士 産業カウンセラー 大島 祐美子 氏

特定社会保険労務士・産業カウンセラー
日本女子大学文学部卒業。大学を卒業後、外資系計測器メーカーに入社。人生の転機となるできごとをきかっけに参議院議員の公設秘書へと転職。法律を学ぶ中で従業員教育などの重要性を感じ、資格を取得後に社会保険労務士として独立。「話しを聞いてもらえてよかった。いてくれてよかった」をモットーに、中小企業の労務にかかわる。

1.直行直帰 出先の勤怠管理

スマートフォンを利用した勤怠管理システムを導入することで、直行直帰や複数事業所勤務の方の勤怠管理がとても簡単になりました。

安易な「事業場外みなし労働時間制」の適用は危険

これまでは、営業職については、直行直帰が多く、タイムカードがあっても打刻ができないため、ほとんど勤怠管理の意味をなしていませんでした。

「営業の仕事は、お客さんの都合で遅くなることもあるかもしれないけれど、アポイントメントの合間には、空き時間もできるのだから、時間の管理は本人任せにして、所定労働時間働いてもらったことにするのが一番シンプルでいいよな…。」

こんなふうに考えて、安易に「事業場外みなし労働時間制」を導入して、正確な時間管理をしていない会社は多いのではないでしょうか。

しかし、テクノロジーの進化した現代、いくら会社の外で働いているとは言っても、事業場外みなし労働時間制の前提となっている「労働時間の算定が困難な場合」はほとんどありません。

事業場外みなし労働時間制を導入していた会社でも、社員から裁判が起こされて、適用が否定され、残業代を払っているケースは複数あります。

イメージ:安易な「事業場外みなし労働時間制」の提要は危険

スマートフォンのワンプッシュだけで正確な勤怠管理ができる

しかし、外勤の方の労働時間管理は、朝と夕方だけ会社に電話すれば済むような話しではありません。商談の前後に空き時間ができることもあります。
商談がスタートしたとき、終わるとき、毎回、会社に電話で報告してもらえば、正確な勤怠管理は可能ですが、会社にも従業員にも負担が大きく、到底現実的ではありません。

この問題を、スマートフォンを利用した勤怠管理システムが解決してくれました。
勤怠管理のサイトにアクセスして、出勤、休憩、退勤のボタンをワンプッシュするだけで、正確な時刻を記録することができます。同時に、GPS機能を利用して場所情報も記録するため、虚偽の申請も防げます。

複数勤務地で働く人の管理も楽になる

スマートフォンを利用した勤怠管理は、複数の事業所で働く従業員の管理にも役立っています。

これまでは、複数の事業所で働く方のタイムカードは、働く事業所と同じ数だけありました。給与計算の際には、それらを合算しなければならず、時間数の確認も、交通費の計算もたいへん面倒なものでした。

新たな勤怠管理システムでは、従業員は、どの事業所で働いても、自分のスマートフォンをワンプッシュするだけです。

タイムカードは不要となり、労働時間は一括管理され、時間数の確認や交通費の計算という面倒を一掃してくれました。

このように労働時間を正しく把握することは、法律上の義務であるだけでなく、企業の防衛上、必要なことです。

GPS機能は災害時にも有効

GPS機能は、直行直帰や複数の事業所で勤務する従業員の勤怠管理に役立つだけではありません。

災害時の従業員の安否確認にも使用することができます。
大規模な災害が起きたとき、電話回線はつながりづらくなります。誰がどこにいるか連絡を取らずとも、どこで出勤打刻したかがわかることで、結果的に、安否確認ができるのは、会社にとって大きな安心です。

正確な勤怠は、公平性にも資する

正確な勤怠は、公平性にも役立ちます。

全面禁煙の会社が増えていますが、いまでも喫煙所があったり、外に出てたばこを吸うことができる会社はあります。そのような会社では、「たばこを吸っている人だけが堂々と頻繁に休憩を取っている」と吸わない人たちの中に不満がたまっていることがあります。

飲食店や小売店など、一斉に休憩を取ることができない会社では、空き時間に短い休憩を数回取ってもらうことも多く、そうした短い休憩は記録につけないこともあります。休憩を取れるときと取れないときがあるのに、記録していないためにすべての時間に給与が出ていれば、休憩を取れなかった人は不公平を感じます。

日々の不公平感は、従業員間の非協力、やる気の喪失にもつながります。短い時間の休憩もきちんとつけることで、従業員間の公平性を保つことは重要です。

2.ムラなく仕事を振り分ける=コスト管理に

規定時間オーバーがもたらす予算オーバー

コンサルティングのタイムチャージや派遣など、自社の従業員が労働した時間に応じてお客様から報酬をいただけるのであれば別ですが、ほとんどの場合、会社同士の契約は成果に対して支払われるものです。一方、従業員に支払う給与は時間に応じて計算されます。
このため、従業員の仕事時間が長いと、お客様からいただく報酬額を上回り、赤字になってしまうこともあります。

知識やサービスといった目に見えないものを提供していると、お客様から軽く出された依頼について、「このくらいサービスでいいかな」、「請求を出さなくてもいいかな」と思って、無償で業務を受けてしまうことがあります。このような気持ちは、個人で事業を行っている私自身にも覚えがあります。

従業員にとっては「お客様のため」と思ってやるサービスであっても、会社にとっては「費用が発生しているにもかかわらず、売り上げはゼロの時間」となってしまいます。

日や週で区切り、残業が一定時間を超える場合には、従業員から理由を添えて申告することとすれば、なぜ長くなっているのかがリアルタイムでつかめます。
勤怠に給与情報をリンクできるシステムであれば、さらに正確に予算管理を行うことができるようになります。

従業員が、お客様と自社の契約内容を超えて働いていることに気づけば、お客様と話し合うことで、別途報酬を請求して、正当な対価をいただくこともできるでしょう。

ある会社では、クラウドの勤怠管理システムを導入したことによって、1週間ごとにグループリーダーがメンバーの労働時間を確認し、一定の時間を超えそうであれば、事前に上長に理由とともに報告することになりました。

このことによって、従業員が、何によって時間がかかってしまっているのか、予想と実際が異なったときは、どこに問題があるのか、明確にできるようになりました。

従業員に労働時間に対する意識が芽生え、問題が早めに見つかるようになったため、この会社の残業時間は次第に短縮されつつあります。

従業員にとっても、業務の進行状況や知識の理解度合いについて、リーダーからまめにケアしてもらえるようになったことで、働く安心感につながっています。

アイドリング状態がもたらす無駄なコスト

前編で書きましたように、飲食店や小売店等のサービス業におけるシフト管理は難しいものです。時間帯や天気、季節などに左右されて客足は大きく増減します。

サービス業は人件費率が高いため、お客様人数に比して従業員数が多く、アイドリング状態(いつでも動けるが待機している状態)の従業員が出てしまうと、あっという間に利益を食いつぶしてしまいます。

イメージ:アイドリング状態がもたらす無駄なコスト

「東京都中小企業業種別経営動向調査報告書 平成24年度調査」によりますと、小売業において、黒字企業と赤字企業を比較すると、人件費率が黒字企業は18.7%であるのに対し、赤字企業では22.9%となっています。損益を構成するのは人件費だけではありませんが、経営を左右する大きな要素であることに間違いはありません。

俯瞰することで最適が見える

無駄のない理想的な人員配置を実現するためには、情報が必要です。
労働時間についても、一人の1日の数字だけ見ていたのでは、適正であるかどうか判断がつきません。

同期入社で同じ仕事をしている人たち、同じ仕事を違う事業所でしている人たち、部署内、部署ごと、前年と当年、前月と当月など、勤怠は、さまざまに比較する中で、異常に気づき、最適化する糸口が見えます。

最適化する糸口が分かれば、残業が少なく成果を出している人はどんな働き方なのか、有給取得率が高い部署はどんな工夫をしているのか、休憩が取れる店舗はどんなシフトなのか、その人や部署、店舗から学ぶことができます。

近隣で多店舗展開をしている企業であれば、店舗のシフトを一覧することで、店舗の混み具合に応じてリアルタイムで人の配置を変え、アイドリング状態を減らすこともできます。

クラウドの勤怠管理システムは、理想的な人員配置の推進を強力にバックアップしてくれます。

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