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【全企業の課題解決!】残業適正化のアイディアと代替休暇導入時のチェックポイント

公開日:2025年2月3日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

業種を問わず、生産性の向上が求められる現代において、残業の適正化は避けて通れない課題です。本記事では、残業「時間」と残業「代」の観点から適正化に役立つヒントを紹介し、さらに残業を抑制できなかった場合に利用できる「代替休暇」制度についても詳しく解説します。

残業「時間」適正化のヒント

残業時間を適正化するためには、業務分析と業務改善の実行が必要です。それぞれについて解説します。

業務分析

残業時間を削減し、適正化するためには、「業務分析」が欠かせません。業務分析によって、どの部署の誰が、どの程度の時間で作業を行っているかが明らかになります。業務分析を行うことで、自社業務の実態が明らかになり、課題が見えてきます。業務の手順や方法を洗い出すことで、残業時間増大の原因となる無駄な作業や非効率的な業務プロセスが明らかになるでしょう。
勤怠管理システムを利用すると、従業員ごとの残業時間が確認しやすくなり、効率的に業務分析が進められます。業務分析の効率が悪いと感じた場合には、システムの導入が効果的です。

業務改善の実行

業務分析によって解決すべき課題が明らかになった場合には、改善のための施策を実行しなければなりません。その際には、「ECRSの原則」を意識するとよいでしょう。
ECRSの原則とは、業務改善を行う際に必要となる視点と順番を表したものです。ECRSは、「Eliminate(排除)」「Combine(結合)」「Rearrange(交換・代替)」「Simplify(簡素化・単純化)」のそれぞれの頭文字から取られています。
以下では、ECRSの原則におけるそれぞれの意味を解説します。

Eliminate(排除)

業務の改善を考える際には、まず業務において排除しても問題ない作業や工程がないか確認しなければなりません。削っても問題ない作業があれば、それを排除することで効率化が図れます。
例えば、報告のためだけに開催される会議や、紙の文書に対する押印などが代表的な例となるでしょう。また、製造現場であれば、新型の自動検査機器を導入することで、手動で行っていた品質チェックが不要になる場合があります。

Combine(結合)

無駄な作業や工程を排除できても、まだ効率化を図ることが可能です。重複する部分のある作業や工程を見つけ、それらを結合し一本化することで、さらなる効率化が図れます。
例えば、各部署で類似の業務を行っている場合、ひとつの部署で処理するように変更すれば、効率的な業務遂行が可能となるでしょう。複数の測定機器を用いた測定をひとつの測定機器で行えるように変更することや、複数のチェックシートを1枚にまとめることなども効果的です。

Rearrange(交換・代替)

業務そのものは無駄ではなく、他と一本化が不可能でも、業務の順序を交換することで効率化が図れる場合もあります。
例えば、工場などで、左から右の流れで行っていた工程を、人の利き手に合わせ右から左へ交換するだけで効率が上がる場合もあるでしょう。また、勤怠打刻を紙のタイムカードで行っている場合、クラウド型の打刻システムに代替することが可能です。このようにすることで、出先やリモートワークでも打刻が可能となり、効率的かつ正確な勤怠管理が可能となります。

Simplify(簡素化・単純化)

業務改善において最後に検討すべきことが簡素化や単純化です。簡素化では、自動化やパターン化できる作業や工程がないかを検討します。
例えば、複数枚にまたがっていた冗長な会議資料をA4用紙1枚に制限すれば、単純で分かりやすい資料となります。また、マニュアル化することで作業のパターン化が可能となり、品質を一定に保てるだけでなく、属人化を防ぐことも可能です。デジタルツール導入による自動化も効果的な施策となるでしょう。

残業「代」適正化のヒント

残業代の適正化を図るためには、「歩合給」の導入が効果的です。歩合給導入のメリット、注意点について解説します。

歩合給と固定給の違い

歩合給とは、成果報酬型の給与形態を指す言葉です。歩合給では、決まった額の給与を支給する固定給と異なり、従業員の上げた成果に応じて変動する給与が支払われます。
例えば、売上の20%が賃金となる契約であれば、100万円の売上を立てればその20%、つまり20万円が賃金となります。このように一定額ではない給与が支払われることが特徴です。月や週などの期間に応じて一定額が保証される固定給とは大きく異なっています。

残業代計算における歩合給のメリット

この完全歩合給を導入することによって、残業代を大幅に削減できる可能性があります。以下では、すべてを歩合給で支払う「完全歩合給」を基に金額の違いについて解説します。

固定給である月給制の場合には、残業代の計算は以下のように行われます。
 時間単価×残業時間×1.25
 時間単価=月額賃金÷月所定労働時間数

所定労働時間が170時間、月額賃金を30万円、残業時間が60時間である場合を想定してみましょう。この場合の時間単価は、30万円÷170時間で1,765円です。したがって残業代は以下のようになります。
 1,765円×60時間×1.25=13万2,375円

一方で、完全歩合給を採用した場合には、残業代は以下の式で計算されます。
 時間単価×残業時間×0.25
 時間単価=歩合給与÷月総労働時間数

月総労働時間数が170時間、売上等に基づいた歩合給与額を30万円、残業時間が60時間である場合を想定してみましょう。この場合の時間単価は、30万円÷230時間(170時間+60時間)で1,304円となります。そして残業代は以下のように計算します。
 1,304円×60時間×0.25=1万9,560円

労働時間や計算の基礎となる賃金は変わらないにもかかわらず、固定給に比べて残業代は10万円以上削減されました。基本となる賃金部分(1.25における1の部分)の支払いが不要となるだけでなく、時間単価も下がるため、大幅に残業代が削減可能です。この点は、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。

従業員にとっての歩合給のメリット

歩合給は企業だけにメリットのある制度ではありません。従業員にとってもメリットのある制度です。最大のメリットは、自身が上げた成果を適正に評価してもらえる点でしょう。
固定給では、成果を問わず一定額が支給されるため、成果を上げた月もそうでない月も同じ給与です。これでは、自身の働きが直接的に評価されているとは感じられないでしょう。
また、成果次第では短期間で大きな収入アップが望める点も従業員にとって魅力的に映ると考えられます。高い収入を得るという目的ができるため、歩合給導入は、従業員が積極的にスキルアップを図る原動力ともなります。短い時間で大きな成果を得ようというインセンティブも働くため、生産性向上等にもつながる制度であるとも言えます。

導入における注意点

歩合給では、給与が低下する可能性を完全に排除できません。そのため、固定給の企業が歩合給を導入することは、労働条件の不利益変更に該当すると判断される場合があります。不利益変更に該当する場合には、企業の一存で導入することはできません。
また、完全歩合給とする場合には、保障給も定めなくてはなりません。導入の際には、社会保険労務士などの専門家に相談し、適切な導入・運用を心掛けましょう。

代替休暇の概要と注意点

ここまで紹介したように様々な角度から残業を適正化したとしても、残業を抑えきれない月もあることでしょう。
残業時間が月60時間超となった場合には、その部分について、50%で計算した残業代の支払いが必要です。そのような場合には、「代替休暇」が利用可能です。

代替休暇とは

「代替休暇」とは、残業時間が月60時間超となった場合に、超過分に対する50%の割増率の適用に代えて、有給の休暇を付与する制度です。この休暇の付与によって、超過分についても50%ではなく、25%の割増率で計算されることになります。

導入の手続き

代替休暇の導入するためには、労使協定の締結したうえで就業規則に定めをおくことが必要になります。労使協定で締結する事項は、以下の通りです。

  • 代替休暇の時間数の具体的な算定の方法
  • 代替休暇の単位
  • 代替休暇を与えることが可能な期間
  • 代替休暇取得日の決定方法、割増賃金の支払い日

代替休暇の時間数は、以下の計算によって求めることが可能です。
 代替休暇の時間数=(1か月の残業時間数-60時間)×換算率

換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払うべき割増賃金率(50%)から代替休暇取得時に支払うことになる割増賃金率(25%)を控除した率です。つまり、50%-25%=25%となり、0.25が換算率となります。代替休暇は、従業員の休息を確保する観点から、1日又は半日のいずれかで付与することが必要です。また、代替休暇を付与できる期間は、残業を行った月から2か月以内となります。

代替休暇の運用例

所定労働時間8時間、残業時間96時間、換算率0.25のケースで考えてみましょう。この場合に、代替休暇として付与できる時間数は以下のようになります。
 36時間(96時間-60時間)×0.25=9時間

代替休暇を取得しなかった場合の残業代から見てみましょう。なお、残業時間の時給単価は2,000円としています。
 60時間×2,000円×1.25=15万円
 36時間×2,000円×1.5=10万8,000円
上記の合計額である25万8,000円が、代替休暇を取得しなかった場合の残業代です。

次に、1日単位(8時間)の代替休暇を取得し、端数となる残りの1時間を割増賃金で支払った場合は、以下のように残業代が計算されます。
 95時間×2,000円×1.25=23万7,500円
 1時間×2,000円×1.5=3,000円
上記の合計額である24万500円が、この場合における残業代です。

なお、代替休暇は1日もしくは半日での取得しか認められませんが、他の休暇(年次有給休暇など)と合わせて半日、1日単位として取得することは認められています。そのような運用で、端数となる1時間について代替休暇を取得した場合は、次のような残業代の計算となります。
96時間×2,000円×1.25=24万円

時間単位の年次有給休暇と合わせることで、端数も代替休暇として処理できたため、端数の1時間についても1.5ではなく1.25で計算した残業代が支払われています。

注意点

運用例のとおり、代替休暇は残業代の抑制に効果のある制度です。しかし、代替休暇の取得自体は従業員の自由意思に基づくものでなければなりません。取得を強制できないことに注意しましょう。
また、代替休暇は割増の代替として休暇を付与する制度ですが、本来の25%分の割増率で計算された残業代まで支払いを免れるわけではないことにも注意が必要です。

さいごに

残業時間や残業代の削減は、多くの企業に共通する課題です。しかし、残業の適正化は容易なことではなく、悩みを抱える担当者も多いでしょう。そのような場合には、本記事の適正化についての解説を参考にするとともに、代替休暇の導入も検討してください。また、勤怠管理システムを導入すれば、残業時間の把握も容易になるため、積極的な活用が求められます。

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