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5分で復習!今さら聞けない定時決定のポイントをおさらい。

公開日:2024年5月15日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

算定基礎届とは

算定基礎届とは、社会保険料計算の基礎となる標準報酬月額を見直すために行う届出です。4月から6月に実際に支払われた給与と、標準報酬月額に大きな開きが出ないように、原則として年に1回の提出が求められています。

算定基礎届の提出により、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額の等級が決まり、その額に基づいて社会保険料が算出されます。この手続きを「定時決定」と呼びます。定時決定によって、入社時の給与や前年4月から6月までの給与に基づいて決定された等級と、現在の給与額との開きを修正しているわけです。

算定基礎届の概要

算定基礎届には、提出期限や提出先、対象者などが定められています。項目ごとに解説を行います。

①提出期限および提出先

期限:毎年7月10日
提出先:管轄年金事務所ないしは年金機構の事務センター

届出は、「被保険者報酬月額算定基礎届(70歳以上被用者算定基礎届)」で行います。CDやDVDなどの電子媒体で提出する場合には、「電子媒体届出書総括票」が必要となります。また、7月に随時改定に該当する対象者がいる場合には、「被保険者報酬月額変更届(70歳以上被用者月額変更届)」も併せて提出が必要です。

届出様式や添付書類の詳細は年金機構のHPをご覧ください。
new window参考:定時決定(算定基礎届)|日本年金機構

②対象者

算定基礎届は、原則として7月1日現在に在籍している社員全てが対象となります。そのため、原則全ての社員について算定基礎届の提出が必要となります。育児休業や介護休業などを行っている社員も対象です。

ただし、以下に該当する場合は対象となりません。

  • 6月1日以降に資格を取得した者
  • 7月改定の月額変更届を提出する者
  • 8月または9月に随時改定を予定している者
  • 6月30日以前の退職者

届出用紙(算定基礎届)は、6月中旬以降に事業所宛てに送付されます。なお、2つ以上の事業所に勤務している場合には、それぞれの事業所を管轄する事務センターから届出用紙が送付されます。この場合には、2つ以上の事業所から受けた報酬を合算した額から標準報酬月額が決定され、各事業所が報酬の割合に応じた保険料を負担しなければなりません。

標準報酬月額の決定方法

標準報酬月額は、健康保険で50、厚生年金保険では32の等級に区分されています。詳細は以下のリンク先をご覧ください。

new window参考:令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)|全国健康保険協会

報酬月額の決定または変更の方法は、以下の通りです。

  • 資格取得時決定
    資格を取得(入社)時の見込み給与で決定します。
  • 定時決定
    4月から6月までに支払われた報酬の平均から決定します。
  • 随時改定
    固定的賃金の変動に伴って、継続した3か月間に受けた報酬の平均額が、標準報酬月額の基礎となった報酬月額と比べて2等級以上開いた場合に行われる改定です。

その他、育児介護休業等終了時にも改定が行われます。

標準報酬月額の計算方法

標準報酬月額は、原則として4月から6月までに支払われた給与(報酬月額)の平均に基づいて決定されます。

  1. 4月から6月までに支払われた報酬額を計算
  2. 支払基礎日数(支払対象となった日)が17日未満の月を除いて合算
  3. 支払基礎日数が17日以上となる月の報酬総額を対象月の月数で除して、平均額を計算

①短時間就労者の特例

パートタイマーなどの短時間就労者の場合には、通常とは異なった処理が必要となるため、紹介します。なお、ここでいう短時間就労者とは、名称を問わず正規職員より短時間となる条件で労働に従事する者を指します。

  • 支払基礎日数が17日以上となる月が4月から6月までに1か月以上ある
    対象となる各月の報酬額を合算し、対象月数で除し平均額を計算します。
  • 支払基礎日数が17日以上となる月が4月から6月までに1か月もない
    支払基礎日数が15日以上17日未満となる各月の報酬額を合算し、対象月数で除し平均額を計算します。
  • 支払基礎日数が4月から6月までのいずれの月も15日未満
    従前の標準報酬月額をそのまま使用します。

特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数101人以上の事業所)で使用される短時間労働者の場合には扱いが異なるため、注意が必要です。特定適用事業所に使用される短時間労働者の場合には、支払基礎日数が11日以上となる月が計算の対象となります。なお、特定適用事業所において、社会保険の適用対象となる短時間労働者とは、以下の要件を満たす者を指します。

  • 週所定労働時間が20時間以上
  • 賃金月額が8万8千円以上
  • 学生ではない
  • 2か月を超える雇用見込みがある

上記の要件を満たし、週の所定労働時間または、1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満であれば、特定適用事業所の短時間労働者として社会保険の適用対象となります。

なお、現在の特定適用事業所の人数要件は、101人以上ですが、2024年10月からは51人以上に要件が拡大されます。社会保険の適用対象者が増えることになるため、対象となる企業においては今の段階から適用対象者の整理や従業員へのアナウンスなど始めていくとよいでしょう。万が一、社会保険に加入する必要がある方を加入させていなかった場合、過去の適用日まで遡って社会保険料が徴収されることにもなりますので、注意が必要です。

new window参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

なお、短時間労働者と短時間労働者ではない月が混在している場合など、取扱いに注意を要するケースも存在します。以下のリンクを参考にしてください。

new window参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック|日本年金機構(リンク先ページ内)

良くある誤りや注意点

標準報酬月額の決定においては、支払基礎日数や賞与の扱いなどで良く誤りが見られます。間違えやすいケースを紹介するため、参考にしてください。

①支払基礎日数の注意点

支払基礎日数は、報酬の支払対象となった日を指します。時給制や日給制であれば、有給休暇を含んだ実際の出勤日数が支払基礎日数となります。月給制や週給制であれば、出勤日数に関係なく、実際の暦日数が支払基礎日数です。ただし、欠勤日数などに応じて給与から控除される場合には、所定労働日数から欠勤日数を控除した日数が支払基礎日数となります。支払基礎日数が17日以上であるか否かで、計算方法が異なってくるため注意が必要です。

給与の締め日と支払日の関係でも日数が異なってくるため、併せて確認しておきましょう。以下に月給の場合の例を示すため、参考にしてください。

②報酬の注意点

標準報酬月額決定の基礎となる報酬は、原則として労働の対償として受ける全ての報酬です。これは、賃金や給与、手当など名称の如何を問いません。また、報酬は通貨だけでなく定期券や食事などの現物も含みます。ただし、臨時に受ける報酬や3か月を超える期間ごとに受ける賞与などは対象外となります。

以下に報酬に含まれる範囲を示すので、参考にしてください。

また、令和6年度版の全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)が日本年金機構より公表されております。40都道府県において、昨年度から価額改正が行われておりますので、社内でも価額が適切かどうか今一度確認しておく必要があります。
>>リンク先:new window全国現物価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)

③対象者の注意点

短時間就労者や短時間労働者の場合を除いて、4月から6月までの各月の支払基礎日数がいずれも17日未満であれば、従前の標準報酬月額をそのまま用いることになります。ただし、この場合であっても、算定基礎届を作成し提出しなければなりません。育児・介護休業や傷病による休業などによって、4月から6月までの間に報酬を受けない場合も同様です。
なお、例えば5月1日にパート(短時間労働者)から正社員(通常の労働者)に区分が変更となった場合については、各月の被保険者区分に従って計算することとなりますので、4月は短時間労働者、5月6月は通常の労働者として支払基礎日数を計算することとなります。

実務上のポイント

算定基礎届の提出の際には、押さえておくべきポイントがいくつか存在します。項目ごとに分けて紹介します。

①電子申請の活用

算定基礎届の提出は窓口への持参や、郵送だけでなく電子申請でも可能です。電子申請は、紙媒体での手続きに比べて、業務の効率化が図れます。電子申請に対応しているクラウドシステム等も使って、積極的に活用していきましょう。2020年4月から資本金等の額が1億円を超える一定の法人などに対して、一部の社会保険手続きにおける電子申請が義務化されています。算定基礎届は、義務化の対象となっているため、注意してください。

②年間平均額を用いる際の要件確認

4月から6月までの平均によって標準報酬月額を計算すると、その結果が著しく不当となる場合があります。このような場合には、一定の要件のもとで前年7月から当年6月までの平均額から計算した額を標準報酬月額とすることが可能です。

年間平均により定時決定を行う場合の要件は以下の通りです。

  • 「当年の4月から6月の間に受けた報酬の月平均額から計算した標準報酬月額」と「前年の7月から当年の6月までの間に受けた報酬の月平均額から計算した標準報酬月額」の間に2等級以上の差が生じている
  • 上記2等級以上の差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる
  • 被保険者本人が年間平均を用いることを希望している

4月~6月の3か月の平均により報酬月額が38万円となるケースを例に挙げます。
この場合の標準報酬月額は38万円です。しかし、この3か月間が例年の繁忙期であり、その期間だけ報酬額が高くなっている場合もあり得ます。

このケースにおいて、前年7月から当年6月の平均額が32万円だったとすれば、38万円(26等級)と32万円(23等級)は、2等級以上の差があります。そして、この差が毎年生じるのであれば、年間平均を用いることが可能です。年間平均を用いることで保険料負担を抑えられる場合もあるため、活用しましょう。

詳細な情報は以下のリンクを参考にしてください。

new window参考:定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき|日本年金機構

手続きの漏れに注意を

算定基礎届の提出は、保険料を決定するための重要な手続きです。支払った保険料は、従業員の将来の年金額に反映されるため、手続きのミスがあってはなりません。提出期限などに注意しながら、漏れがないように手続きしましょう。

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