サイト内の現在位置

日本とベトナムの50年にわたる友好関係が結実
~ ベトナムの自然災害を宇宙から監視する「LOTUSat-1」

レ・スアン・フイ
ベトナム科学技術アカデミー(VAST)
ベトナム国家宇宙センター(VNSC)副所長

毎年、ベトナムは農地やその他の資源だけでなく、人々の生命や資産にまで危害を及ぼす熱帯サイクロンの影響を受けています。気候変動によって豪雨の被害が増加する中、国は土砂崩れや森林火災、洪水などの災害を監視し、被害状況を把握する能力を向上させたいと考えています。このため、ベトナムはNECが製造した地球観測衛星「LOTUSat-1」の配備を計画しています。この衛星には、あらゆる天候において昼夜を問わず撮影ができる合成開口レーダー(SAR)が搭載されています。

ベトナム国家宇宙センターの副所長レ・スアン・フイ氏に、LOTUSat-1を打ち上げる目的や、NECとパートナーシップを結んだ理由について聞きました。

自然災害を監視する空の目

ベトナムは2006年に宇宙開発戦略を策定し、2年後に通信衛星VINASAT-1を打ち上げました。2011年にはベトナム科学技術アカデミー(VAST)の傘下にベトナム国家衛星センターを発足させ、新たな通信衛星VINASAT-2を打ち上げました。翌年、地球観測衛星VNREDSat-1によって、気候変動の影響を監視し、自然災害の緩和を図るミッションが開始されました。そのデータは国内においてだけでなく、国際的な科学共同研究にも使用されています。

2017年、ベトナム国家衛星センターはベトナム国家宇宙センター(VNSC)に改名されました。これまでに、ベトナムは6つの衛星を打ち上げ、そのうちの2つの通信衛星はテレビ、インターネット、携帯電話の通信をサポートしています。

ホアラックにあるベトナム国家宇宙センター
LOTUSat-1イメージ

VNREDSat-1同様、LOTUSat-1はベトナムの自然災害および気候変動対策に役立つよう設計されており、よりスケールアップされています。 質量600キログラムのLOTUSat-1はNECが製造し、VNSCによって運用される予定です。これはベトナムにとって初めてのSAR搭載衛星であり、気候変動リスク対策の発展における大きな節目となります。光学衛星とは異なり、SAR衛星は地球の表面にマイクロ波を反射して高解像度の画像を作成します。昼夜を問わず機能し、雲やその他の気象現象にも影響されず地表を観察できるため、気象構造の把握における重要なツールです。

「災害を引き起こすレベルの豪雨の時期の8割は雲で覆われた状態ですが、SARにより常時地表の状況が把握できるようになることで、災害被害の低減対策となると考えています。」とフイ氏は語ります。

日本とベトナムの長きにわたるパートナーシップが実を結んだLOTUSat-1

NECはまた、衛星管理センター、直径9メートルのパラボラアンテナ、および自社開発のGroundNEXTARパッケージに基づくソフトウェアシステムを備えた衛星データ処理センターなど、高性能の地上インフラをベトナムに提供します。

LOTUSat-1は、日本が政府開発援助(ODA)基金を活用した初の衛星プロジェクトであり、日本国際協力機構(JICA)の本邦技術活用条件(STEP)の条件下で行われます。このプロジェクトの下で、すでに何十人ものベトナムのエンジニアやマネージャーが日本で訓練を受けており、自然災害の監視と緩和を向上させるための衛星の開発や運用を学んでいます。

この協力プログラムの一環として、36人のVNSCエンジニアが日本の5つの主要大学で学び、2019年に日本の鹿児島にある内之浦宇宙センターから打ち上げられた地球観測衛星MicroDragonを開発しました。そして今、ベトナムではこの成功事例がLOTUSat-1でも繰り返されることが期待されています。

「衛星の軌道上での設計寿命はわずか5年であるため、効果的に使用する方法を学ばなければなりません」とフイ氏は述べています。「それは容易な課題ではなく、NECからのノウハウを継続的に蓄積していきたいと考えています。また、衛星から得たデータを最大限に活用するため、SARコミュニティ内の人々とデータを共有することも必要です」

フイ氏は、2006年に衛星データに基づく防災システム「センチネル・アジア」が設立されて以来、VASTと日本航空宇宙研究開発機構(JAXA)が協力関係にあることを指摘し、VNSCがこの重要なミッションのために日本をパートナーに選んだひとつの理由として、両国の科学分野における協力の歴史があると述べています。

「2023年、ベトナムと日本は外交関係樹立50周年を迎えました。両政府は長きにわたりお互いを支援し合っており、だからこそベトナムは日本からLOTUSat-1という先進技術移転を受ける最初の国となったのです。私たちは17年間にわたって、JAXAと宇宙開発における強力な協力関係を築いてきており、それが実を結ぶ形となりました」

このような最先端の装置の名前に「LOTUS(蓮)」が選ばれたのは、意外なことではありません。蓮はベトナムの国花であり、純粋さと自然の美の象徴としてベトナムの人々に愛されています。蓮は耐久性と長寿命で知られており、劣悪な生育条件でも繁茂することができます。フイ氏だけでなく、ベトナム国家宇宙センターの関係者も、2024年に打ち上げ予定であるLOTUSat-1に同じような期待を寄せています。今後はさらに、LOTUSat-2の打ち上げも計画されています。

「私たちは、自然災害時においてSAR技術がより効果的な支えになると信じています」と フイ氏は述べています。「LOTUSat-1はベトナム初のSAR衛星であり、昼夜を問わず雲に覆われていても観測することが可能になります。LOTUSat-1からのデータがベトナムに貢献してくれることを心から期待しています。」

関連リンク