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数多くの部門が1チームで取り組む初の衛星システム輸出
ベトナムの宇宙利用を支援する「LOTUSat-1」プロジェクト
ベトナム向けの地球観測衛星「LOTUSat-1(ロータスサット・ワン)」プロジェクトは、ODA基金を活用する日本企業初の地球観測衛星案件。実は、NECにとっても衛星システムの輸出は初めての挑戦です。来年度の打ち上げに向けてプロジェクトも大詰めの中、メンバーたちがそれぞれの想いと意気込みを語りました。
気候変動対策に貢献する地球観測衛星
──みなさんの経歴と「LOTUSat-1」プロジェクトにおける役割を教えてください。
蛇石 2013年にNECにキャリア採用で入社しました。前職でも宇宙関係の仕事をしていたのですが、海外向けの衛星案件に携わりたいと考えて、転職を決意。現在は、「LOTUSat-1」のプロジェクトマネージャーを担当しています。
川崎 2007年に入社し、宇宙システム事業部(当時)で水循環変動観測衛星「しずく」(GCOMシリーズ)を皮切りに、複数のプロジェクトに携わりました。「LOTUSat-1」プロジェクトには、その前身である地球観測衛星「ASNARO-2」のシステム設計から関わり、現在は画像プロダクトに関わるとりまとめ役を担っています。
郷内 私は2016年に入社し、NECスペーステクノロジーに出向して衛星に搭載する通信機器の設計・開発を担当しました。その後、現在のエアロスペースソリューション統括部に異動し、フライトディレクターとして「ASNARO-2」の運用を統括。2020年から、「LOTUSat-1」の運用を支える地上システムの開発に従事しています。
榎本 2020年に入社して以来、NECの宇宙・防衛営業本部に所属し営業を担当、3年目の2022年から「LOTUSat-1」プロジェクトに参加しています。同期入社の中でも唯一の宇宙営業担当、しかも「LOTUSat-1」はNEC初の海外案件ということもあり、最初は緊張ととまどいの連続でした。プロジェクトでは、主に契約周りの実務を行っています。
──「LOTUSat-1」プロジェクトの概要を教えてください。
蛇石 小型レーダー衛星をベトナム国家宇宙センターに提供するプロジェクトです。NECは、気候変動の監視強化による自然災害予測の高度化や被害低減に貢献する地球観測衛星として「LOTUSat-1」を開発・製造。さらに打ち上げサービスの調達や、地上システムの整備、衛星開発プロセスに関する現地の人材育成プログラムまでを一括受注しています。本プロジェクトを機に、モノだけでなくソリューションも提供する、新しい宇宙ビジネスモデルを確立したいと考えています。
──このプロジェクトは、日本企業がODA基金を活用した初の地球観測衛星案件となります。NECが選ばれた理由と背景をお聞かせください。
蛇石 国内での衛星プロジェクトを成功させ、その成果をもって海外展開するという経済産業省の施策に則って進めてきました。NECは以前から、経産省の先進的宇宙システムの研究開発事業であるASNARO事業に参画しており、今も軌道上で観測を続ける光学衛星「ASNARO-1」とレーダー衛星「ASNARO-2」での実績があります。とくに、合成開口レーダー(SAR)を搭載した「ASNARO-2」は、天候にかかわらず地表面を観測できる点が特長です。その強みと当社独自の低コスト・小型化の技術が評価され、「ASNARO-2」と同型機の「LOTUSat-1」が選ばれたのだと認識しています。
──衛星システムの海外向け輸出は、NECにとっても初めてのプロジェクトですね。
蛇石 初の海外輸出もそうですが、何より提案型の宇宙ビジネスを展開できたことに大きな意義を感じています。衛星システムやその活用法の提案によりお客さまのやりたいことを実現していく、新しい宇宙事業の第一歩を踏み出せたと考えています。
出張先でのトラブル解決が成功体験と自信につながった
──みなさんのプロジェクトにかける意気込みをお聞かせください。
蛇石 今回のお客さまであるベトナムは、宇宙事業の推進が始まったばかりの国です。宇宙に対して経験の浅いお客さまにも有効に活用していただけるよう、ターンキー(鍵を回してスイッチを入れればすぐ運用できる状態で引き渡す)契約で衛星システムを納め、なおかつ運用トレーニングや技術トランスファーまでをセットで提供するところに、本プロジェクトの新規性があると思っています。今後、グローバルな展開につなげていくためにも、ぜひ成功させたいです。
川崎 私を含めメンバーの多くは、「ASNARO-2」からこのプロジェクトに関わっていますが、海外案件となると事業の進め方も変わってきます。それだけに、何が起こるかわからないという不安はありました。同時に、初の挑戦への期待はそれを上回るものがありました。
郷内 プロジェクトメンバーに抜擢されたときは驚いたし、うれしかった半面、 大変なことになったと思いました。当時は異動したばかりで、地上システムや運用についても学ぶべきことが多くあったからです。ただ、海外の案件は異動前にも担当していたので、その経験を活かしてプロジェクトに貢献したいと考え、チャレンジしました。
榎本 数多くの部門が携わっていますし、海外案件ということでこれまでの常識が通用しないこともあります。そこで、営業という枠にとらわれずに、できることは何でもやろうという意気込みで参加しました。
──プロジェクトでもっとも大変だったこと、そこで得られた成果や達成感についてお話しいただけますか。
蛇石 「LOTUSat-1」の受注契約を締結したのは2020年ですが、それまでに10年以上かけて案件形成や入札、契約交渉を行っています。その間も我々は、本プロジェクトの意義やベトナムにおける価値創造、NECの技術や支援内容について、ベトナム国家宇宙庁のメンバーに時間をかけて誠実に提案し続けてきました。それがベトナム国内での調整の成功につながり、契約に結びついたのです。これは、チームのみんなで協力して勝ち取った成果だと、今も誇りに思っています。
川崎 大変だったのは、校正サイトの候補地探しです。校正サイトとは、衛星からの画像データのゆがみやノイズをキャリブレーション(校正)/バリデーション(検証)するための装置を設置する場所のこと。サイトの立地は、周りに何もない開けた土地が理想とされるものの、いざ現地に行ってみると、空間は広がっていても舗装されていないなど、最適な場所がなかなか見つかりませんでした。
榎本 私も同行したのですが、事前にGoogle Mapであたりを付けたところは全部NG。現地でゼロから探索することになりました。
川崎 日本で培ってきた知見は通用せず、情報を集めながら方々を訪ね歩き、最終的にいくつかの候補地を選ぶことができました。苦労はありましたが、お客さまとも協力して得られた成果なので、達成感は大きかったですね。
郷内 出張で言えば、フランスのアンテナ工場での試験に苦心した思い出があります。 LOTUSat-1プロジェクトで採用したアンテナとNECの地上システムの接続を確認する試験だったのですが、仕様通り設計したにもかかわらず、なぜかうまくつながらない。原因を調査するために出張期間を延長し、現地のエンジニアやNECグループのメンバーと協力しながら解決にこぎ着けた瞬間は、心からほっとしました。このときも、榎本さんが一緒でしたね。
榎本 営業は通常、受注活動がメインですが、この案件ではプロジェクト側の出張にも同行して現場での調整にも関わっています。とにかく活動範囲が広いのがこの案件の特長だと思います。大変といえば大変ですが、貴重な経験を積むことができ、また少しでもみなさんのお役に立てたのであれば、うれしく思います。
──プロジェクトでとくに大きなチャレンジだったことを教えてください。
郷内 2022年12月に1週間、お客さまに設計の了承を得るための審査会の対応を任されたことは、私にとって大きなチャレンジでした。審査会は、設計から製造フェーズに進むための重要なマイルストーンなので、責任も重大。お客さまとリモートでなく初めてリアルで対面し、技術的な質疑にも対応するなど、衛星チームと営業チームのみんなで知恵と力を出し合って成功させることができました。
榎本 衛星開発プロセスに関わる人材育成はNECとしても初めてのことなので、挑戦しがいのあるミッションです。2022年に約40名のベトナムのお客さまが府中事業場に来られ、数カ月にわたり人材教育を行いました。その際は、総務や警備、食堂の方も巻き込み、みなさんの協力を得てなんとか乗り越えられました。23年度も4カ月の研修が予定されています。
川崎 ベトナムのお客さまや研修生の方に向けて、「LOTUSat-1」の性能や画像データ活用のノウハウをわかりやすく工夫しながら説明するのは、チームにとっても新しい試みとなりました。実際に運用を始める前に多くの情報を共有できたことは、互いの信頼関係や宇宙利用の理解を深める大きなステップになったと思います。
NECグループや社会に大きな価値をもたらすプロジェクトに
──プロジェクトの今後の予定と進捗状況はいかがでしょうか。
蛇石 2024年度に、LOTUSat-1の打ち上げを計画しています。衛星はシステム製造(衛星全体を組み立てる)フェーズに入っており、来年はじめに完成する見込みです。
郷内 それと並行して、衛星運用を支える地上システムの据え付け作業も進めていきます。打ち上げ前には、現地での運用訓練も実施するため、現在チームで教材やマニュアルづくりの準備にとりかかっているところです。
──衛星を納めるだけでなく、教育を含めたさまざまな支援も継続的に行っていくわけですね。このプロジェクトがNECグループや社会にもたらす価値について、お考えを聞かせていただけますか。
蛇石 「LOTUSat-1」プロジェクトは、これまでの受注生産の枠を超え、我々の提案から生まれた事業。自分たちがやりたいと思ったこと、世の中に必要だと信じたものを、事業として展開できる可能性を示せたと考えています。その意味では、NECグループ社員のモチベーションや自発性を高めるきっかけになったのではないでしょうか。
川崎 「LOTUSat-1」は、「ASNARO-2」の同型機です。同型機の製造はNECではあまり経験のない事例で、プロセスやノウハウを改めて社内に蓄積できる貴重な機会になりました。また「LOTUSat-1」は、天候や時間の制約を受けずに地表を常時モニタリングできるため、ベトナムの気候変動研究にも大きく貢献できると確信しています。
榎本 衛星をつくり、技術を教えることで、他国に貢献することができる。それを私のような若手営業でも実感できるところに、このプロジェクトの価値があると考えています。そもそも私の入社理由は、「誰も取り残さない社会を創る」というNECのメッセージに共感したから。「LOTUSat-1」は、まさにNECの想いを体現するプロジェクトです。
郷内 衛星からの観測データを気候変動や災害の調査、都市計画などに活かすことで、地上に住む多くの人々に価値をもたらすことができます。国境を越えてその価値を提供する「LOTUSat-1」は、NECにとっても社会にとっても意義のあるプロジェクトといえるでしょう。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
蛇石 本当に重要なのは打ち上げ後にお客さまに衛星を使い続けていただくこと。社内外の関係者と協力しながらこのプロジェクトを成功させたいと願っています。
榎本 NECの宇宙事業では「はやぶさ」の注目度が高く、他にも数多くの人工衛星を手掛けていることはあまり知られていない印象があります。LOTUSat-1をきっかけに、NECの宇宙事業に関心を持ってくださる方が一人でも増えたらうれしいです。