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小惑星リュウグウ到達間近、「はやぶさ2」に携わった技術者は語る
2018年夏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が、目的地である小惑星リュウグウに到着します。5月21日、「はやぶさ2」に携わったNECの2人の技術者がインタビューに応じました。登壇したのは、開発当時、宇宙システム事業部長であった社会基盤ビジネスユニット主席主幹の安達昌紀、そして「はやぶさ2」のNEC側プロジェクトマネージャを務める宇宙システム事業部プロジェクトディレクタの大島武です。
「おおすみ」以来70機以上の製造実績を生かし、「はやぶさ2」を作る
「NECは1970年に打ち上げた日本初の人工衛星『おおすみ』以来73機の衛星を製造してきました。1機の衛星には100以上の電子機器が組み込まれています。それらのインテグレーションのみならず、地上の衛星管制装置や、宇宙で得られたデータを処理してソリューションとして提供する仕組みなどの全てのアセットを、デザインオーソリティを持って対応できることを当社の強みとしています」(安達)。
「『はやぶさ』、『はやぶさ2』には、地球を遠く離れた宇宙空間で機能するために自ら判断し行動する自律機能を組み込みました。その技術開発と運用の経験は、地球を周回する衛星にも生かされています。地球周回衛星に自律機能を持たせると、少ない手間で効率よく運用できます。使いやすい衛星は宇宙利用ビジネスにも生き、商用拡販につながります。
その上で、高まりをみせる国際宇宙探査にも、NECが長い時間をかけて蓄積してきた技術とノウハウを生かし、日本代表としてお役に立ちたい」(安達)。
新たな機能を探査に生かす
「役職名はプロジェクトディレクタですが、『はやぶさ2』での職務はプロジェクトマネージャです。JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャに協力し、メーカー側のマネジメントを担当しています」(大島)。
「NECは、『はやぶさ2』全体のとりまとめ、探査機本体、搭載センサー、電子機器などの多くの設計と製造を担当しました。NECが担当していない部分を数える方が早いほどです。
『はやぶさ2』は、『はやぶさ』の設計を基本に、様々な新機能を搭載しています。そのひとつがNEC担当の小惑星の表面温度を計測するセンサー『中間赤外カメラ(Thermal Infra-Red Imager:TIR)』です。日照による表面温度の変化を調べることで、表層が、砂か、小石か、岩石か、といったことを調べます。同時にTIRは、『はやぶさ2』の運用においても、安全にサンプルを採取できる着陸場所の選定という重要な役割を受け持ちます。リュウグウに近づく『はやぶさ2』は、リュウグウ表面からの照り返しにあぶられます。表面温度が高すぎると、『はやぶさ2』本体の温度が危険なほど上昇してしまいます。適度な温度の安全な着陸地点を探すためにTIRの観測データを使用するのです」(大島)。
「はやぶさ2」を、探査機を製造した者として支える
質疑応答では、メーカーとして、どのようにして「はやぶさ2」を開発し、またこれからのリュウグウの観測に参加していくのかという点に質問が集中しました。「今後の仕事は運用の技術支援」と大島は語ります。「はやぶさ2」を運用する主体はJAXAです。メーカーとしてNECが果たす役割は、探査機を製造し、コンポーネントの細部に至るまでを知り尽くした者として、JAXAの望む運用が安全に実施できるように、必要となる様々な技術情報を提供することです。
「JAXAにパートナーとして協力し、探査機メーカーの知見で運用計画をダブルチェックし、より安全な運用計画を組み上げていきます」(大島)。
2014年12月の打ち上げから、「はやぶさ2」は順調に航海を続けてきました。予定では6月下旬以降に※リュウグウからの距離20kmのホームポジションと呼ばれる場所に到着します。まだリュウグウ表面がどのような状態なのかは分かりません。接近観測によりリュウグウの詳細な3次元の地図を作製するなどし、そこから降下・サンプル採取に向けた計画が決まります。
「一番難しいのは、サンプル採取や、『はやぶさ2』に搭載した小型着陸機の投下のためにリュウグウへ降りていく、降下運用でしょう」と大島は言います。「どの場所に降りるかの選定から始まって、そこへ正確にどのようにして降ろしていくか。探査機と地上側の人間が協力し、正確に目指す場所へと『はやぶさ2』を誘導していくことが難しいのです」(大島)。
リュウグウでの探査は1年半あまり続きます。2019年12月にリュウグウを出発、地球帰還は2020年末の予定です。
あと1ヶ月ほどで、探査の本番が始まります。
- ※2018年6月27日に到着
執筆 松浦晋也 2018年6月28日