イベント活性化 ― 安全・安心と施設を核とした地域活性化

お客様との接点を改革するDXオファリング

世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が長引くなか、イベント業界(スポーツ・コンサート・テーマパーク・ミュージアムなど)では、来場者の上限設定や無観客開催など、大きな影響を受けています。NECは、感染症対策を行うことで安全・安心に会場に足を運んでいただける環境作りを進め、来場者数を増やすとともに、オンラインとリアルのハイブリッドで楽しめる環境と臨場感あふれる多様な楽しみ方を提案。ファン・マーケティングを効果的に行うことで、より強いファンの創造を実現し、更に、イベント施設に来場された多くの方々を周辺地域に送客し、そこで特別なおもてなしを受けることで地域のファンにもなっていただき再訪していただく、イベント施設を核とした地域活性化の実現を目指しています。NECはこれらのソリューションを、イベント活性化DXオファリングSuiteとして発表し、より迅速に提供できる仕組みを構築しました。

1. はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の世界的な流行により、人流が制限されるなか、スポーツ・テーマパーク・コンサートなどのイベント業界は大きな影響を受けています。大規模イベント開催において、緊急事態宣言下では感染状況に応じ、「上限5,000人又は収容定員50%以内のいずれか大きい方」や「無観客開催」などの厳しい来場者制限が出されました。更に感染リスクを避けるため、これまで会場に足を運んでいた方も、ためらう傾向が強く見られ、国や自治体で設定された来場者数の上限にも満たない状況が多くのイベント会場で続いています。一方で、これまではあまり行われてこなかったオンラインイベントが頻繁に開催されるようになり、多くのアーティストのコンサートやe-sportsに注目が集まるなど「新しいイベントのあり方」が定着しつつあります。このような環境のなか、NECではイベント活性化DXオファリングSuiteを発表しました。Under COVID-19においても安全・安心に会場に足を運んでいただける環境の提供とともに、新しい楽しみ方の提案・提供を行っています。また、Post COVID-19を見据え、業界全体がV字回復を早期に実現できるよう、運営側では「チームの強化」「魅力ある情報発信」「ファン・マーケティング」「ロボットを活用した話題性と省力化を兼ね備えた施設運営」などの施策を、ファンの皆様に向けては会場での利便性の向上を目的とした「飲食のオンラインオーダー」や「顔認証入場と決済」などの施策とともに、より楽しめることを目的とした「笑顔コンテスト」「AR/VR観戦」「オートフォト」などの施策を用意しています。更に、来場された数千から数万人の方々が、イベント終了後にそのまま帰宅されるのではなく、その地域を回遊し、特別なおもてなしを受け、地域のファンになり再度地域を訪れてくれる、「イベント施設を情報発信の核とした地域活性化」を実現することを目指しています(図1)。本稿では、これらNECの提供する施策について説明します。

図1 イベント活性化の実現

2. 安全・安心な環境の提供の取り組み

数千から数万人の人々が、同じ場所で、同じ空気を吸い、同じものを見て、喜びや悲しみを共有すること、それは日常生活ではなかなか味わえない醍醐味です。Under COVID-19において、まず人々が安全・安心に会場に足を運んでもらえる環境を整備すること、それをNECは最優先課題として取り組んでいます。

2.1 世界一の評価の生体認証技術を活用し、非接触を実現する「顔認証入場」と「顔認証決済」

あらかじめ登録した顔情報とチケット情報を連携させることにより、「顔認証によるチケットレス入場」が可能になります。加えて「体表温の異常検知」も同時に行うことで、入場の待ち時間を大幅に削減し混雑緩和とファンの満足度向上に貢献します(図2)。更に、「顔認証決済」では紙幣のやりとりをなくした「完全キャッシュレス化」も実現。非接触による感染リスクの低減に役立つとともに、運営者側の現金を扱う手間やリスクも大きく削減されます。

図2 感染症対策ソリューション

NECの顔認証技術は、マスクを着けた状態でも本人確認が可能であり、マスクは色柄物にも対応しています。

2.2 人流と混雑検知を行うことによる密回避の迅速な対応

NECの画像分析技術では、人流分析を行うことも可能です。「人数」や「マスク着用の有無」とともに、「性別」や「年齢」「笑顔度」まで情報収集することができ、人流分析を感染症対策として活用する一方、マーケティングの基礎情報として活用することもできます。また、人と人の間隔をあらかじめ設定しておくことにより、密の発生状況を検知し、分かりやすくヒートマップとして表示することができます。これらの情報をモニターし、人流を変えることによる密回避の対策や、適切なタイミングでの警備員の派遣ができるようになります(図3)。

図3 感染症対策(混雑度検知)活用例

事例:2020年 横浜スタジアム様 技術実証

2020年10月に、株式会社ディー・エヌ・エー様を中心としたコンソーシアムの一員としてNECも参画し、「大規模イベント開催における感染症対策の技術実証」を行いました(図4)。

図4 大規模イベント開催における感染症対策の技術実証

コロナ禍において、大規模イベントを開催するうえで「急所」となるところを明確にし、運営方法を工夫しながらICTを有効活用することで、「安全・安心な大規模イベント開催に向けたガイドライン策定の支援」を行うことが目的とされました。そのなかで、NECは画像分析技術を用いて「スタンド内の観客のマスク着用率の推移」「コンコースでの人流や密状況の発生状況の把握」「外周やスロープの人流変化」について、データを取得し時系列で分析を行い、「分散退場」などの施策や「CO2濃度の変化」などの他のデータと組み合わせて関連性を分析することにより、今後の大規模イベント開催における留意点の明確化や対応策の策定支援を行いました。この技術実証は国内のみならず海外を含めた多くのメディアから「世界に例のない取り組み」と大きく取り上げられ、スタジアムやアリーナなど、多くのイベント施設から問い合わせがあり、安全・安心な環境作りに貢献しています。

3. コアファン育成と新たな楽しみ方の提供

スポーツチームをはじめとしたイベント業界において、安定的な来場者数を確保することは非常に重要な要素の1つです。海外では年間を通じてほぼ予約でいっぱいでチケットを入手するのが困難というチームも存在します。コアファンといわれる層は、一般のファンと比較するとグッズ販売においても大きく差があり、また、新たな来場者を連れてくることでファン獲得にも役立っているというデータもあります。つまり、「より強いファン=コアファン」をいかに育成するかがとても重要だということです。

3.1 ファン・マーケティングの入口は来場者を知ること

ファン・マーケティングを行ううえで、まず行うべきことは来場するファンの情報を的確につかむことです。ファンクラブやチケット購入情報に加え、前述のNECの画像分析技術を活用した「来場者の性別・年齢の推定情報」や「感情分析情報」を総合的に分析して、より高い確率で効果が出せる施策を迅速に立てることができます(図5)。

図5 マーケティング来場者分析(年齢/性別/感情推定)

3.2 利用開始しやすく削除されにくいファンアプリと共通データ基盤

また、チームや選手がいつもファンの近くに寄り添い、有益な情報を発信できるようにする仕組みを作ることも有効だと考えています。多くのチームがファンアプリを作っていますが、そのアプリケーションをインストールする手間から敬遠されてしまうことや、削除されてしまう可能性を鑑み、NECではLINEベースのFORESTISというツールを提供しています。多くの人々が利用しているLINEに「LINE公式アカウント」を友だち追加することで登録完了となるので、他のアプリケーションをインストールすることなく利用を開始することができ、ユーザーのサービス利用開始の障壁が低いこと、そしてアプリケーションを削除されるリスクを低減する効果が期待されます。FORESTISを入口として情報を収集、データ共通基盤を構築し、図6にある他の情報(IoTを含む非構造データ)と組み合わせて分析をすることで、より個人のニーズに即したサービスを提供することが可能になります。

図6 IoT基盤+データ活用基盤

3.3 新しい観戦の楽しみ方

これまでの観戦方法とともに、ファンのレベルや趣向に応じた楽しみ方が求められています。より臨場感を求めるファン層にはAR/VRを活用し多地点に設置したカメラ映像を好きな視線で見ることができる仕組みを、データ中心型で予測をしながら観戦したいファンには、過去データをスマートグラスに投影しながら観戦ができるスタイルを提供します。遠方などの理由で現地に足を運ぶことが難しいファンには各地に設置したリモートスタジアムで気心が知れた仲間のみで飲食を楽しみながら観戦を楽しめる環境を提供します。さまざまなニーズにどのように応えるか、ファンの皆様の声に寄り添いながら、サービスの提供を行ってまいります。

3.4 話題性と人件費抑制を実現するロボットの活用

NECは、イベント施設におけるロボットの活用を推進しています。観客が現地で飲み物や食事を購入する際に、人を介さずに飲食提供ロボットのみで提供します。ロボットに搭載している映像分析技術を活用して、顧客の「性別」「年齢」「笑顔度」を判定。その方に合った話題を提供し応対を行うことで、出来上がりまでの待ち時間も退屈することはありません。既に大規模テーマパークや飲食店でも活用され、訪れた方々を楽しませ話題性を提供しています(図7)。また、運搬ロボットは飲食店では顧客の席まで食事を届け(図8)、宿泊施設ではリネンの運搬などにも活用が進んでいます。自立走行が可能で、エレベーターにも単独で乗車ができ、指定された場所へ確実にものを届けられることから、人手不足への対応や大幅な人件費の削減効果も期待されます。

図7 ロボット活用
図8 フード/ドリンク提供ロボット

3.5 ダイナミックプライシングへの取り組み

スタジアムなどの施設内の物販の価格最適化の実現を目指し、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー様とダイナミックプライシングの実証実験を実施しました(図9)。

図9 ダイナミックプライシング実証実験について

茨城県立カシマサッカースタジアム内(茨城県鹿嶋市)で、地元で人気のスイーツ店のお菓子を、混雑度に応じて柔軟に価格設定を変更する試みです。

ここでは、NECの混雑度検知の技術を活用しています。

場内に設置したカメラで混雑状況をリアルタイムに検知し、Webブラウザにて来場者に公開。混雑度に応じて価格を変動させ、観客の行動変化の推移を観測しました。

今回の実証実験で得られたデータをもとに、実際の店舗での活用に向けた施策を検討していきます。

4. イベント施設を核とした地域活性化

スタジアム・アリーナ・テーマパークなど、イベント施設には数千人から数万人という多くの方々が来場します。NECは、イベントに来場した方々に、周辺地域の観光スポットや飲食店を回遊し、ホテルに宿泊し、楽しんでもらえる環境を作ることを目指しています(図10)。和歌山県の南紀白浜においては、空港からホテル、テーマパークやレストラン・ショップなどでの入場や決済のサービスを共通化し、顔認証でどこでも手ぶらで楽しめる環境を提供しています。訪れた人は、初めて来たのに常連のようなおもてなしを受け、他では味わえない特別感を体感することができます。

図10 イベント施設を核とした地域活性化

この事例をもとに、イベント施設を核として、さまざまなサービスがつながる街づくりを進めることで、地域のファンになり再来訪してもらい、そこで開催されるイベントにも参加してもらう、そのような循環を作り出し地域活性化につなげたいと考えています。

多くのスタジアムやアリーナは、稼働率をいかに上げるか、理想的には24時間365日稼働する施設を実現したいと考えています。そのため、改修や新設を検討している企業は、スタジアム、ホテル、ショッピングモール、行政や学校などの公共施設を併設した複合型の施設開発をして、1つの街をそこに作ることを目指しています。NECは、ネットワークやICT設備を、構想・設計から提案し、導入をしています(図11)。既に国内のみならず海外でも多くの事例があり(図12)、その経験に基づき最新のテクノロジーを組み合わせて提供しています。

図11 統合化、最適化されたICT設備スタック
図12 国内外のスタジアム/アリーナソリューション
導入事例

また、カスタマーエクスペリエンス(CX)を活用した人流の構築、滞在中の楽しみ方についても提案が可能で、前述の南紀白浜で実現している複合型施設と近隣地域との融合・活性化を一緒に実現していきたいと考えています。


  • *
    LINEは、LINE株式会社の商標または登録商標です。
  • *
    その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

執筆者プロフィール

菅原 昌治
デジタルビジネスオファリング事業部
上席事業統括
米田 大介
デジタルビジネスオファリング事業部
シニアマネージャー
森本 紘央
デジタルビジネスオファリング事業部
エキスパート
小林 哲郎
デジタルビジネスオファリング事業部
マネージャー
柴田 大輝
デジタルビジネスオファリング事業部

関連URL