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顔の三次元情報の計測と顔画像照合への応用
社会システムを支えるセンシング技術 ~ 検知と認識のセンシング技術防犯カメラなどで撮影される顔画像は、犯罪捜査などで重要な手掛かりとなります。しかし、カメラに対する顔の向きや顔を照らす照明は多種多様で、画像上の見た目に大きな影響を及ぼします。結果、あらかじめ登録されている顔画像と比較したときに、それぞれに映っている人物が同一か否かの判断を難しくします。そこで、顔の三次元情報をあらかじめ登録しておくことで、防犯カメラなどにおける顔画像と同じ条件の顔を再現できるようになり、より速やかで確実な顔鑑定が可能になります。
本稿では、NECの高速・高精度な顔三次元計測技術及び、顔の三次元情報の顔画像照合・顔鑑定への応用について紹介します。
1. はじめに
バイオメトリクス認証には、指紋、虹彩、静脈や顔などさまざまな種類があります。犯罪捜査や鑑定においては、万人不同、終生不変といわれる指紋が特に活用されてきました。一方、近年では店舗や街頭などに設置される防犯カメラが広く普及し、そこに映る顔画像が重要な手掛かりとなることが増えています。そのため、顔を用いた鑑定や認証技術への期待が高まっています。
防犯カメラは店舗や街頭を上方から俯瞰して撮影することが多く、必ずしも認証に適した顔を撮影できるとは限りません。特に、正面向きの顔が撮影できることはまれで、また顔を照らす照明は多様であって顔の陰影が大きく変動することから、あらかじめ登録された顔画像と比較したときに人物が同一か否かの判断を難しくします。この画像上の見た目が大きく変化する問題に対し、同じ見た目の顔画像を3D-CG技術によって再現することができる顔の三次元情報をあらかじめ登録しておくことで、より速やかで確実な顔鑑定が可能となります。
本稿では、NECの顔の三次元形状の計測技術及び、顔の三次元情報の顔画像照合・顔鑑定への応用について紹介します。
2. 顔の三次元情報の計測
生体である顔を計測する際には、人は静止し続けることが困難であるため、計測時間をできるだけ短くする必要があります。一方で、顔画像の比較においては、実際には犯罪者の疑いをかけるべきではないのに、鑑定で誤認が発生してしまうという可能性は、できるだけ低くする必要があります。つまり、計測器として正しく稼働し、かつできるだけ高い精度で計測できる必要があります。
計測時間をできるだけ短くと計測精度をできるだけ高く、という要件を同時に満たすことは一般に難しく、トレードオフの関係にあります。NECの顔三次元計測装置は、この2つを高いレベルで均衡させて実現している点が大きな特長となっています。
2.1 三次元形状計測の方法
NECの三次元形状計測装置では、基本性能の優れた「正弦波格子位相シフト法」をベースとして、その弱点である位相値算出における位相値の不定性を、複数カメラ・複数プロジェクタを積極的に活用する(第一期装置)、あるいは別の投影パターンと併用する(第二期装置)ことで解決しています。この結果、計測時間は0.3秒以下、奥行き計測精度は300μm以下という優れた性能を達成しています。
2.2 顔の三次元形状計測結果
写真に外観図を示します。被計測対象者は、ヘッドレストに頭をつけて、椅子に腰かけます。三次元形状計測装置は2つの計測モジュールから構成されており、向かって左側が左の顔を、右側が右の顔をそれぞれ計測します。その後に合成して、顔全体の三次元形状を出力します。
計測と同時にテクスチャ画像も撮影しているので、計測した三次元の各点にはその地点のRGB値を割り当てることができます。
図1に、計測結果を示します。このような三次元形状があれば、防犯カメラで撮影された顔画像と整合させて、顔の向きや照明条件を揃えた画像を原理的に生成することが可能となります。
3. 顔の三次元情報の応用
3.1 顔の三次元情報の特長
顔の三次元情報を使うことで、3D-CG技術によって、さまざまな顔画像を再現することができます。顔の見えは、撮影するカメラの仕様(画像サイズ、画角など)と、カメラと顔の位置・向きの関係で決まります。画像上の顔の大きさ・位置・向きは、三次元空間上でのカメラに対する顔の位置情報と回転情報から計算することができます。また、照明によって顔に生じる陰影は、照明の位置と顔の三次元形状の相対関係から計算することができます。これらの計算の組み合わせによって、任意の条件の顔画像をコンピュータ上で再現することができます(図2)。
3.2 顔画像照合への応用
顔画像照合は、2枚の顔画像を比較し、どれくらい似ているかの類似度を計算します。しかし、顔画像は常に同じ顔の向き、照明条件で撮影されるとは限りません。特に、防犯カメラなどで撮影された顔画像は、正面向きの顔が撮影できることはまれです。また、照明環境も昼夜や屋内外、照明の数や種類が多様で、顔の陰影が大きく変動してしまいます。そのため、類似度を正しく計算できない問題が生じます。そこで、顔の三次元情報を用いることで、この影響を低減します。
前述のとおり、顔の三次元情報を使うことで、任意の位置・向き・照明条件の顔画像を3D-CG技術によって生成することができます。ただし、実世界の照明条件は多種多様で、その組み合わせは無数に存在するため、計算コストが非常に大きくなります。
この多種多様な照明条件を少ない計算コストで再現する手法として、測地照明基底法1)があります。この手法では、事前に顔の三次元情報を用いてさまざまな照明条件下での顔画像を生成します。そして、これらの顔画像に対して主成分分析による統計処理を行い、代表的な陰影の変化(測地照明基底)を計算します(図3)。この測地照明基底の組み合わせによって、少ない計算コストでさまざまな照明条件の顔画像を生成できます。
照合したい顔画像と最も類似となるように、顔の位置情報・回転情報と測地照明基底の最適な組み合わせを計算し、顔画像を生成します。これを照合したい顔画像と照合して類似度を計算することで、顔の向きや照明の影響を抑えることができます(図4)。
3.3 顔鑑定への応用
顔の三次元情報は、犯人の顔画像と被疑者の顔が同一かどうかを判断する顔鑑定にも活用できます。
顔鑑定の手法は、大別して人類学的計測法による検査、形態学的特徴による検査、スーパーインポーズ法があります。そのなかのスーパーインポーズ法は、比較する2つの顔画像を重ね合わせ、顔の各部位の配置や形状の合致度を評価します。しかし、防犯カメラなどで撮影される顔画像は、カメラに対する顔の向きや大きさが多種多様なため、単純に顔写真を重ね合わせるだけではズレが生じてしまい、客観的な判断を難しくします。そこで、顔の三次元情報を用いて、照合したい顔画像と同じ大きさ・向きの顔画像を生成します。これを照合する顔画像とスーパーインポーズで重ね合わせることで、どの程度一致しているかを速やかで確実に検証することができます(図5)。また、この三次元情報から生成された顔画像を使うことで、人類学的計測法による検査、形態学的特徴による検査もより確実に実施することができます。
4. まとめ
本稿では、顔の三次元形状の高速かつ高精度な計測技術と、顔照合及び顔鑑定への応用について紹介しました。NECは今後もバイオメトリクス技術を通して、安全・安心で公平な社会の実現に貢献します。
参考文献
- 1)石山塁ほか:顔の三次元見えモデルを用いた任意姿勢・照明変動下の顔画像認識,電子情報通信学会論文誌 D,Vol. J88-D-II No.10,pp.2069-2080,2005
執筆者プロフィール
第二官公ソリューション事業部
マネージャー
社会基盤ビジネスユニット
主席技師長