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社会インフラを通じて、すべての人が豊かさを享受できる社会の実現を目指すNECの取り組みについて
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を契機に、行政サービス、放送、空港など社会システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)が急加速しています。一方で、地球環境の変化に伴う自然災害の激甚化・頻発化が進んでおり、実世界を的確に把握するセンシング技術が必要とされています。将来の世代を含めたすべての人が豊かさを享受できる持続可能な社会を実現するためには、これらDX技術とさまざまなセンシング技術に加え、未来を見据えたネットワーク・インフラ技術が重要となります。
本稿では、NECが取り組む現在から未来へかけての革新的な社会インフラ技術の研究開発について、海底から宇宙までの幅広い活動を概観します。
1. はじめに
社会は生き物であり、その姿はしばしば変化します。
今、私たちはまさに大変動の時代に生きていることを、実感しているのではないでしょうか。この社会を支えるインフラにも、大変革が求められています。
NECは、今直面しているものだけではなく、将来における大変革に対応していくにあたり、社会はすべての人が豊かさを享受できるものであるべきとの信念を持ち、研究開発を推し進めています。
本特集では、このNECの取り組みについて紹介しており、次に概略を説明します。
2. 社会システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する技術
2.1 政府・行政サービスのDX
世界各国で、デジタル・ガバメントの実現へ向けて、動きが加速しています。NECは、「作らず使う」「素早く試す」を可能とする「アジャイル・ガバメント」により、さまざまな社会的課題を柔軟にかつ時間をかけずに解決へと導く枠組みが最重要だと考えています。この枠組みでは、サービスを自由に積み替えることができるブロックとして提供します。利用者はそれらを組み合わせることで、最適なクラウド環境を素早く構成することが可能となります。
また、行政と国民との接点である地方公共団体のDXも急務です。長年の慣習で続けられてきた署名と押印を前提とした行政手続きが大きく見直されることをはじめ、紙をなくしすべての行政情報がデジタル化される予定です。情報のデジタル化はその可用性を飛躍的に高め、AIを含めたビッグデータ活用が新たな価値を生む可能性が高まっています。このような最新テクノロジーを駆使した、自治体業務、住民サービスの利便性向上に取り組んでいます。
社会の変化は教育現場にも大きな影響を及ぼしています。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の拡大は、子どもたちや教員、学びを支える事業者に、新たな学び方や働き方の実現を迫ることとなりました。NECのスマートスクール事業が提供する学習コンテンツの1つである「協働学習支援ソリューション」は、遠隔形式の「アクティブ・ラーニング」などのオンライン・グループ活動を支援するとともに、子どもたちと教員の発話やりとりから、教育に資するさまざまな特性を分析し、可視化します。これにより、子どもたち一人ひとりへの効果的な指導の実現を後押しします。
2.2 放送システムのDX
映像素材の管理と流通は、デジタル化されるだけにとどまらず、クオリティチェックやプレビュー、オンライン送稿などの機能を有する安全・安心な映像流通DXを実現するサービス基盤へと進化を遂げています。NECが提供している「映像プラットフォームサービス」では、inB(企業内)の業務効率化を目指した映像管理から、BtoB(企業間)の創造的な映像流通へと活用の場が広がっています。
ここで、映像素材のデータサイズが大きいこととともにデータ圧縮技術の重要性は、よく知られているところです。近年は、映像データの管理流通量が膨らみ、ますます大きくなってきていることから、映像符号化技術の重要性は高まりこそすれ、低下することはあり得ません。NECは、映像符号化技術とともに、放送におけるDXにも取り組み続けています。
2.3 空港のDX
2.3.1 空港を利用するお客様に対するDX
海外渡航をした経験がある方は、空港税関検査場が混雑することをご存知でしょう。これを解決するために、NECは税関検査場に電子申告ゲートを提供しています。NECの世界No.1顔認証技術1)及び優れた空間デザインなどにより、訪日旅客の安心、ストレスフリー、及びスピーディな税関手続きを実現しています。
ワクチン接種の進行とともに、COVID-19も終息が期待されています。NECは、「NEC I:Delight(アイディライト)」のコンセプトを通じて、世界や日本を取り巻く環境の変化に対応した「より快適な体験」を提供していきます。
出国時においても、搭乗手続きの煩わしさを解決することが望まれています。成田空港において、新たな搭乗手続き「Face Express」が導入される予定です。所定の手続きで顔写真を登録すれば、その後の空港手続きで搭乗券やパスポートを提示することなく「顔パス」で搭乗まで可能になります。
本システムは非接触であるため、New Normalな社会にも対応することができます。周辺システムとの連携や他空港との連携を進め、非接触で安全・安心かつ利便性が高い空港サービスの実現に取り組んでいきます。
2.3.2 航空交通管制システムのDX
旅客機の運航に目を向けてみましょう。乗客は、搭乗した旅客機が、無事にそして時間通りに目的地の空港に到着することを誰もが願っていると思います。乗客が気付かないところで、NECの技術が旅客機の安全な定時運行を支えています。
その1つが、地上直接送信型衛星航法補強システム(GBAS)で、航空機が安全に着陸できるようGPSを利用して航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システムです。NECは日本で初めて実運用システムとして開発し、東京国際空港(羽田空港)向けに納入しました。GBASは従来の着陸誘導システムと比較して精密な進入着陸支援ができることから、経路短縮による運航の効率性向上や今まで着陸が困難だった気象条件での安全な着陸実現による就航率向上で、乗客の利便性向上を実現しています。
もう1つは、航空交通管制システムです。航空交通における安全と定時運航は管制官によって確保されています。管制官が航空機同士の間隔を維持するよう働きかけることで、安全を維持しており、そのためには、管制官に各航空機の飛行計画とリアルタイムに位置情報を提供するシステムが必要になります。NECは、半世紀以上にわたり、航空機の交通管理を行う航空交通管制システムを開発し納入しています。航空交通管制システムを通して管制官の業務を支えるとともに、皆様が搭乗する旅客機の安全な運航を実現しています。
3. 社会システムを支えるセンシング技術
3.1 見えないところで活躍するセンシング技術
3.1.1 地球環境監視、インフラモニタリング
近年、激甚化・頻発化する豪雨災害をはじめとした自然災害から国民の生命・財産を守るとともに、全世界共通の社会課題解決の目標である持続可能な開発目標(SDGs)達成のために、気候変動予測や災害予測に資する地球環境監視、被災状況把握やインフラ劣化把握などができるセンシング技術の重要性は更に増してきています。NECは、それらのセンシング技術を数多く保有しています。
「衛星からの地球観測」として、多波長光学放射計SGLI、宇宙実証用ハイパースペクトルセンサHISUIや温室効果ガス観測センサTANSOなど地球観測衛星に搭載する光学センサー技術で、地球変動と密接に関係のある雪氷、エアロゾル、海色や植生そして二酸化炭素や窒素といった温室効果ガスを全地球で観測し、気候変動の予測精度向上など、SDGsの達成に貢献しています。
また、衛星搭載の合成開口レーダは、高精度かつ高域に地表面変位を計測できることから、合成開口レーダの計測データに対してさまざまな解析技術を付加することで、橋梁、道路、建造物などの社会インフラの劣化やシールド工事の影響などを可視化することができます。NECは、それらの可視化技術を使ったインフラモニタリングサービスを立ち上げており、このサービスを通して、皆様の安全・安心に貢献しています。
観測は地球上ですが「宇宙から降り注ぐ宇宙線」であるミューオンを利用した地球観測について紹介します。素粒子の1つであるミューオンは極めて透過性が高く、レントゲン写真のように物体の内部を投影撮像する可視化技術ミュオグラフィとして活用するための研究が進められています。火山観測、海面潮位観測や土中水分量観測による土砂災害危険度評価など自然災害への対応だけでなく、溶鉱炉や電炉、発電用プラントなどの産業プラントのインフラモニタリングへの活用が期待されます。
3.1.2 自衛隊の任務を支えるセンシング技術
私たち日本が属するインド太平洋地域は、海賊、テロ、大量破壊兵器の拡散などのさまざまな脅威に直面しています。NECは、防衛装備品を通して、長年にわたり、これらの脅威から国民の生命・財産を守る自衛隊の任務を支えています。本特集では、海上自衛隊向けの装備品である可変深度ソーナーと艦船用TACANについて紹介します。
可変深度ソーナーは、海中の脅威である潜水艦を見つける音響センサーです。海中では光や電波の伝搬距離が短いため音波が使われますが、水温・塩分濃度分布、黒潮など潮流の影響や深度方向の圧力変化により媒質の変動が大きいため、音波の伝搬経路が複雑に変化します。そのため、現場海域の環境状況によって、潜水艦を見つけることができない死角が発生します。可変深度ソーナーは、センサーの深度を環境に応じて可変することで死角をなくし、海中脅威をしっかり見つけることで、国民の生命・財産を守る海上自衛隊の任務を支えます。
TACANは、航空機に対し距離方位情報を提供する電波灯台であり、艦船用TACANは艦載ヘリコプターなどへの海上での電波灯台の役割を担っています。従来の艦船搭載のTACANシステムのアンテナは、全方位サービスの必要性から、見通しの得られるマスト最上部に設置することが一般的でした。しかし、近年は高度化する脅威に対する防衛能力向上のため、マスト最上部には脅威を発見する目的のアンテナを設置するニーズが高くなってきました。NECでは、マスト中段でも全方位へのサービスを可能とする世界初のTACANアンテナを開発しました。これにより、航空機の安全な運用と高度化する脅威への対応を両立し、海上自衛隊の任務に寄与します。
3.1.3 生産年齢人口減少を解決する省力化技術
少子高齢化による生産年齢人口の減少は、既に差し迫った社会問題となっています。これを受けて、鉄道業界でも検査業務の省力化に取り組んでいます。NECでは、列車の走行時に撮影した路線の映像をもとにして、運行に支障をきたす可能性がある物を自動的に検知するとともに可視化する「列車巡視支援システム」を提供しています。このシステムは将来的に、クラウドを活用するサブスクリプションによるサービス事業化を目指しています。
3.2 検知と認識のセンシング技術
3.2.1 犯罪捜査の効率化・高度化への貢献
社会の安全・安心のため、NECは、犯罪捜査の効率化・高度化に長年取り組んできました。本特集では、スマートフォンなど電波端末の特性である電波指紋、生体認証で利用する指掌紋及び顔を照合する技術について紹介します。
スマートフォンをはじめとした無線端末は、私たちの日常生活に欠かせないものとなっています。これら無線端末の個体識別は、不審人物や、重要無線への干渉電波発信源などを特定、追跡することに活用できると考えられます。NECが開発した電波識別技術は、信号波形そのものから抽出した特徴量を用いて識別を行うため、詐称やランダム化された無線端末も識別可能です。更に、物理層の情報を扱うため、通信内容そのものを読み取ることはありません。今後、本技術を更に発展させ「電波で見守る」ことで、安全・安心な社会の実現への貢献を目指していきます。
近年、ディープラーニングはさまざまな所で活用され、従来の常識を打ち破る革新的な成果をもたらしています。生体認証の領域においても例外ではありません。
指紋照合技術の世界的なパイオニアかつトップランナーであるNECでは、研究を開始してから40年以上経過し、これまで根幹技術としてマニューシャをベースとした技術を積み重ねてきました。ディープラーニングの登場により転換期を迎えてきていますが、これまでの蓄積を生かしながら、ディープラーニング技術の活用を進め、より高速かつ高精度な指紋照合技術の開発に努めていきます。
防犯カメラなどで撮影される画像中の顔は、顔の向きや顔を照らす照明が多種多様で、画像上の見た目に大きな影響を及ぼします。顔の3D情報をあらかじめ登録しておけば、画像中の多様な条件のもとでの顔が再現でき、法執行において速やかかつ確実な顔鑑定が可能になります。NECでは、高速・高精度な顔3D計測技術から、3D顔情報による照合・顔鑑定応用について説明します。
3.2.2 公共交通機関や人が多数集まる施設でのセキュリティ対策
昨今、不特定多数を標的とする殺傷事件などの都市犯罪の増加やテロ脅威の高まりを背景に、公共交通機関や多数の人が集まる施設でのセキュリティ強化が急務となっています。NECでは、電波の透過性を利用して歩行者の動きを止めることなく、手荷物の中や衣服下に隠された危険物を非接触で検知するインビジブルセンシング技術(Invisible Sensing:IVS)の研究開発に取り組んでいます。本技術は、高スループットと利用者の利便性、また特定の危険物を日用品と区別して検知する機能を実現しており、都市部の施設でのセキュリティ強化策の1つとして有効と考えています。今後、実環境での実証実験を進め、早期社会実装を目指します。
4. 未来の社会を支える最先端技術
4.1 社会に浸透していく先端技術
4.1.1 ソフトウェア無線技術
ソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)とは、ハードウェアを変更せず、ソフトウェアあるいはプログラマブルなハードウェアを使用して、さまざまな通信方式に対応できる無線機を指します。本特集では、日本と米国とのソフトウェア無線の相互通信を目的とした日米合同研究と、その成果を採用した陸上自衛隊向けの広帯域多目的無線機の試作から量産、更にソフトウェア無線の特性を生かしたプログラム改修事業について説明します。
今後、ソフトウェア無線の特性である柔軟性・拡張性を生かして各省庁間との相互通信や他国との相互通信機能などへの展開で、社会に貢献していきます。
4.1.2 人工衛星運用における自動化・省力化技術
NECは、高性能小型レーダ衛星「ASNARO-2」の運用を2018年から行っています。自社開発の衛星運用ソフトウェアパッケージ「GroundNEXTAR」によって、安定した衛星運用を実現してきました。本特集では、GroundNEXTARの特徴と、これまでの衛星運用で得られた自動化・省力化に向けた知見を紹介します。また、衛星運用で課題となっている「観測候補の選定」について、熟練の運用者からの脱却と運用の自動化・省力化に向けた取り組みとして、「熟練の運用者の意思決定」を自動化する意図学習技術について紹介します。
人工衛星運用システムの自動化、AIでの自動化・省力化技術の獲得を通して、社会課題の解決と公平・効率という社会価値の創造に貢献していきます。
4.1.3 光が導く次世代の暗号技術「量子暗号」
量子暗号は、将来にわたり解読されるリスクがなく超長期的に情報を保護できる暗号方式で、国家レベルの重要な基幹システムなどに適用が期待されています。
量子暗号は、量子鍵配送によって事前に暗号鍵を伝送共有し、ワンタイムパッドと呼ばれる暗号方式で通信を暗号化することを指します。量子鍵配送では、光の粒である光子に鍵情報を載せ、その量子力学的な性質で鍵を守ります。
NECは、世界トップクラス(波長多重時)の鍵生成速度と装置の実装安全性を確保した量子鍵配送装置(BB84)を開発しました。更に1本の通信用ファイバーに鍵配送通信を共用でき衛星通信での鍵配送を可能とする、新しい量子鍵配送技術 (CV-QKD)の研究を推進中です。
4.1.4 重作業の省人化・無人化を実現するロボティクス技術
国内の少子高齢化により、重労働を伴う産業の労働力不足が問題になっています。この労働力不足を補う技術として注目されているのが、ロボティクス技術です。本特集では、ロボティクス技術として、防衛装備庁の研究試作事業で設計、製造した次の2つを紹介しています。1つ目は、装着者の重量負荷軽減と俊敏性を両立し不整地にも対応可能な「高機動パワードスーツ」で、2つ目は、事前地図情報によらない不整地での自律走行を可能とする「多目的自律走行ロボット」です。これらに関して、各々の事業背景、構成、主要技術、将来展望について紹介します。
国内の少子高齢化が急速に進むなか、労働力不足を補うために、防衛分野と民生分野の双方でロボティクス技術の利用が進んでいくものと思われます。今後もロボティクス技術を追求して、社会ソリューション事業を推進し社会に貢献していきます。
4.1.5 海中の無人機に効率良く大電力を伝送できるワイヤレス給電アンテナの開発
海洋資源の調査活動や海底生産設備の点検などを効率的に行う手段として、海中の無人機の活用が着目されています。しかし、人手によるバッテリー交換が必要なことから効率的な連続稼働が制約されており、戻れば自動的に再充電されるロボット掃除機のようなワイヤレス給電システムの実現が望まれています。ワイヤレス給電技術は、電気自動車の分野で先行して技術転用の事例も報告されていますが、海中では水分子の振動による損失の他、Na+、Cl-イオンによる電流損失が発生します。NECが考案した誘電体アシスト構造による海中用アンテナにより、海中で高効率かつ送受アンテナ間の離間距離性能の高い50W級ワイヤレス給電システムを実現しました。
今後は、大電力化に対する電力伝送効率の向上と部分放電への耐性状況を確認しながら、キロワット級アンテナの実現を図る予定です。キロワット級アンテナの実現により、海中のワイヤレス給電の適用例が増え、近い将来、IoTが水中の世界にも広がっていくものと期待しています。
4.2 宇宙で活躍する先端技術
4.2.1 勇気と感動を地球に届けた小惑星探査機「はやぶさ2」、その偉業を支えたNECの技術
2014年12月に地球を旅立ち、2018年6月から2019年12月に小惑星リュウグウ近傍で複数の探査ロボットの投下・展開、2度の着陸などの運用を行い、2020年12月6日、COVID-19にあえぐ地球に勇気と感動とともに小惑星リュウグウで採取したサンプルを届けてくれた「はやぶさ2」。皆様は、心躍らせながらさまざまな偉業達成をご覧になったと思います。今なお、思い起こすと感動が湧いてくるのではないでしょうか。NECは、裏打ちされた技術とともに「はやぶさ2」の全体システム設計統括、インテグレーション、試験から運用支援まで携わり、ミッションを成功に導きました。本特集では、「はやぶさ2」の偉業を支えた技術の紹介とシステム設計・運用視点からの成功の要因について紹介します。
この6年の旅路を支え、成功の立役者として再び脚光を浴びたイオンエンジン。今も「はやぶさ2」の次のミッションに向けて稼働を続けています。イオンエンジンのような電気推進システムは、深宇宙探査にはなくてはならないシステムとなり、注目されています。イオンエンジンとは何か、NECにおけるイオンエンジン開発、及び「はやぶさ2」での運用実績、そして次期探査プロジェクトの深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」へ向けた更なる高性能化の状況について紹介します。
「はやぶさ2」が地球から約3億km彼方の小惑星リュウグウに到着後、皆様が固唾をのんで見守ったのが小惑星へのタッチダウンではないでしょうか。目標地点誤差約1mの高精度タッチダウンの成功に大きく貢献したのが、自律航法誘導制御システムであり、小惑星表面の厳しい環境条件や長い通信遅延時間を克服できる自律的な誘導制御により、タッチダウンを実現しました。本特集では、軌道上実績とともに、ターゲットマーカ及びレーザー高度計を用いた自律航法誘導制御システムを紹介します。
「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへのタッチダウンを成功に導いたもう1つの技術が、レーザー高度計LIDARです。LIDARはレーザー光を小惑星の表面にあて、戻ってくる光を検知して距離を測定する機器です。GPSなどの航法支援が得られず、地球からのリアルタイムの制御が効かない遠い深宇宙で、探査機を自律的に機能させるためには、直接距離を計測できるLIDARの役割が大きく、今回も精緻な3Dモデルでタッチダウン着陸地点の決定に寄与しました。
そのほかにも、LIDARは、リュウグウの構成物質も明らかにしました。岩が光を跳ね返す反射率の違いから、複雑に混じり合った岩石の違いを調べることができ、どのような物質が合わさってリュウグウが構成されているのかが分かるのです。
最後に、全体システム設計統括から運用まで携わった経験から、「はやぶさ2」においてNECが果たした役割を振り返るとともに、小惑星近傍での運用シナリオ/運用結果と、その成功要因について考察します。
4.2.2 高速・大容量のデータ通信を実現する光衛星間通信技術
NECは将来、衛星間の光通信ネットワークを構築することにより、従来に比べ、より高速かつ大容量の衛星間データ通信を実現し、リアルタイム性の高い衛星観測データをさまざまな分野へ活用できる社会を目指しています。その第一歩として、2020年11月29日に打ち上げられた光データ中継衛星(JDRS:Japanese Data Relay Satellite)に搭載されている光衛星間通信システム(LUCAS:Laser Utilizing Communication System)を開発し、約40,000km離れた光地上局との間での光リンクの確立に成功しました。今後、地球観測衛星(ALOS-3)との衛星間光通信の軌道上実証が予定されています。また、実用化に向けて小型軽量化や高速化を目指した次世代光通信装置の研究開発を進めており、社会への貢献を目指します。
4.2.3 深宇宙探査機運用に必要となる大電力X帯送信機
NECは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様との契約により、長野県佐久市にある美笹深宇宙探査用地上局に30kW級X帯固体電力増幅装置を納入しました。これまで深宇宙探査機運用に必要となる大電力のX帯送信機にはクライストロンが採用されていましたが、今回の国産GaN(窒化ガリウム)素子を用いた電力増幅ユニットの多段合成により、固体型としては世界で初めてとなる30kW級のX帯固体電力増幅装置を実現しました。固体型大電力増幅装置の実現により、クライストロン型よりも安定した動作が可能となりますが、大きさや消費電力の点では、依然クライストロン型が優位です。今後更なる小型化、省電力化が期待されており、その実現に向けて研究開発を継続していく予定です。
4.2.4 世界最高性能の薄膜太陽電池パドルの開発
NECが豊富な製造実績を有する宇宙用太陽電池パドルには、軽量かつ大電力を供給可能な高い発生電力質量比が求められています。そこで、新たなコンセプトにより徹底的な軽量化を行い、世界最高レベルの発生電力質量比を実現しつつ、汎用性の高い、薄膜太陽電池パドルをJAXA様と協力して開発しました。続いて、軌道上で展開実証と発電実験を行い、設計通り動作することも確認することができました。こうして開発された薄膜太陽電池パドルは、深宇宙探査や、数百機規模のコンステレーション衛星など、さまざまな宇宙開発での活躍が期待されます。
5. むすび
ここまで、NECが取り組む社会インフラの革新について、DXの推進や最先端のセンシング技術など、本特集で取り上げた内容を概観しました。社会インフラは、多くの組織と国民がかかわっているものであり、NEC単独ですべてを構築できるものではありません。ともに議論し、作り上げていく皆様のご協力があってこその、社会インフラの革新であることを忘れず、持続可能な社会を実現し、将来の世代を含めたすべての人が豊かさを享受できる社会が実現できるよう、貢献してまいります。