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デジタル・ガバメントを推進する、これからのクラウド活用

社会システムのDXを実現する技術 ~ 政府・行政サービスのDX

昨今、日本をはじめとする各国で、デジタル・ガバメントの実現に向けた動きが加速しています。日本におけるデジタル・ガバメントの推進には、「作らず使う」「素早く試す」ことが可能な「アジャイル・ガバメント」の実現が、重要なポイントであると考えます。

本稿では、デジタル先進国であるデンマークの取り組みを先例として、「アジャイル・ガバメント」の概要説明、現状の問題点の整理を行ったうえで、デジタル・ガバメントの実現に向けてNECが取り組んでいる「政府向けクラウドソリューション」の要素と今後の展望について紹介します。

1. はじめに

国民生活の利便性を向上し多様な幸せを実現できるよう、近年世界各国でデジタル・ガバメントの取り組みが活発です。日本でも2021年5月にデジタル改革関連法案が成立し、デジタル・ガバメントの取り組みが加速しています。本稿では、最先端のデジタル先進国として知られるデンマークの事例紹介とそれを踏まえた日本が目指す姿、そしてこれらの実現を目指すNECの現在の取り組みを紹介します。

2. デジタル先進国デンマークの事例

国連の世界電子政府ランキングで1位、幸福度ランキングでも2位のデンマーク1)2)は、約50年も前に日本のマイナンバーに相当する国民ID「CPR」を導入しました。2011年にデジタル化庁を創設し、現在も電子私書箱やパブリックデータの相互利用などのデジタル化を推進しています。

このようなデンマークのデジタル化を支えてきた企業の1つが、2019年からNECのグループ会社となったKMD社です。同社はデンマーク最大手のIT企業であり、40年以上にわたりデンマークのITインフラを支えてきました。具体例として挙げられるのが、「自治体共通デジタルプラットフォーム」と「WorkZone」です。

「自治体共通デジタルプラットフォーム」とは、行政サービスに用いられる機能を共通モジュールとして用意することで、さまざまな自治体や企業がこれらを組み合わせて行政サービスを提供できるエコシステムを実現するものです。構成概要を図1に示します。

図1 「自治体共通デジタルプラットフォーム」概要

「WorkZone」とは、行政の職員自らがビジネスロジックを定義し、申請ワークフローやデータ管理システムなどを容易に作成可能とする統合情報管理プラットフォームです。構成概要を図2に示します。

図2 「WorkZone」概要

このように「誰もが社会システムから取り残されない仕組みづくり」と「素早く試せるプラットフォームの活用」の2点が、デンマークでデジタル化が進んでいるポイントといえます。

3. 日本のデジタル・ガバメント

3.1アジャイル型で進める行政

日本においても、デンマークと同様に「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を目指しています3)。この実現には、行政をアジャイル型で進める「アジャイル・ガバメント」という考え方が必要です4)

従来の行政分野では政策立案からシステム運用開始まで数年掛かることが珍しくはなく、社会環境の変化や利用者のニーズに機敏に対応することは難しい状態でした。近年、地震や台風などの自然災害への対応や、コロナ禍でのタッチレスやリモートといった新しい価値の提供など、迅速な決定と対応が行政に求められています。そこで、行政サービスの提供を開始した後に逐次改善することを前提として、政策立案からシステムの企画~検証までのプロセスを素早く遂行することにより、必要な行政サービスを迅速に提供できるようになります。実装と改善を繰り返しながら完成形に近づけるシステム開発手法(アジャイル開発)の考え方を行政に適用したものを「アジャイル・ガバメント」と呼び、NECはこの考えに基づいて、デジタル・ガバメントを支援しています。

「アジャイル・ガバメント」の実現に向けて重要なポイントは、「作らず使う」と「素早く試す」という2点の実現です。

3.2クラウドサービス活用における課題

クラウドサービスなどの技術を活用しながら「アジャイル・ガバメント」を実現するには、いくつかの課題があります。

まず、クラウドサービスの進化は速く、年間数百件のアップデートが行われることも珍しくありません。クラウドサービスの活用にあたっては、利用するサービスの仕様に関する正しい知識と、適切に組み合わせて運用する経験が重要です。

また、「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」のように、行政のシステムに求められる要件と一般的なシステムのそれとでは違いがみられるため、一般向けのクラウドサービスをそのまま適用することが難しいこともあります。

このように、行政機関におけるクラウドサービス活用ではさまざまな観点から作り込みが必要となり、素早く手軽に試すことが難しいというのが現状です。

4. NECのデジタル・ガバメントにおける取り組み

これらの課題を解消して「アジャイル・ガバメント」を実現するために、NECが提供しているのが「政府向けクラウドソリューション」です。このソリューションは「クラウド基盤」「アプリケーション」「運用」「セキュリティ」の4つのブロックで構成されています。

このソリューションの特徴は、従来個別に設計されていた4つのブロックを部品のように利用可能にすることです。ブロックを組み合わせることで、行政機関の要件に対応したシステムを容易に構成します。次に、各ブロックについて説明します。

4.1 クラウド基盤

クラウド基盤のブロックとして、国産クラウド「NEC Cloud IaaS」を中心とした「官庁向けクラウドサービス」を提供しています。

図3で示す通り、本サービスはクラウド基盤を単に提供するだけではなく、利用者の拠点とクラウドをつなぐセキュアなネットワークも含めたワンストップなサービスです。複数のクラウドサービスを組み合わせたマルチクラウド構成にも対応しており、これらマルチクラウドとデータセンター間を閉域網で接続することも可能です。

図3 「官庁向けクラウドサービス全体像」

また、「NEC Cloud IaaS」は、政府が運営する政府情報システムにおける安全性を評価するセキュリティ評価制度(ISMAP:Information system Security Management and Assessment Program)のクラウドサービスリストにも登録されており、行政機関のクラウドサービスに求められるセキュリティ水準も満たしています。

4.2アプリケーション

「アジャイル・ガバメント」では、利用者の声に基づいて施策やシステムを素早く改善することが求められます。従来のような作り込み前提の開発手法よりも、素早く改善できる開発手法が適しています。このためにNECが提供するのが、「ローコード開発基盤」(図4)です。

図4 ローコード開発基盤と部品群

「ローコード開発基盤」では、行政機関に求められる画面テンプレートやデータモデル、API部品群を事前に用意しており、これらを組み合わせることで最小限のコーディングで素早くアプリケーションを開発できます。

これにより、行政職員とシステム開発者が利用者の声をもとに議論し、画面デザインの変更や機能の拡張を日々行うといった、「変化することを前提としたアプリケーション開発」が可能となります。

4.3 運用

クラウドサービスの機能やルールは多岐にわたります。例えば、パブリッククラウドの利用料金はサービスの利用量に従いますが、リソースの管理を誤った場合には想定以上にコストがふくらむ恐れがあります。安定したシステム運用には適切なスキルを持つクラウド人材や運用ノウハウを整える必要があり、多くの時間とコストが必要です。

そこでNECでは、クラウド人材と運用ノウハウを集約した「マルチクラウド運用サービス」を提供しています。本サービスはクラウドに関する問い合わせ対応、コストの最適化に向けた性能管理の支援、ITILに準拠した運用プロセス・ドキュメントの提供などを通じて、運用の標準化・自動化を行います。

4.4 セキュリティ

クラウドサービスのセキュリティは、サービス提供者によって担保される部分と、利用者によって担保される部分とに分けられます。この責任分界点を正しく理解したうえで、セキュリティを検討する必要があります。

更に行政機関のシステムでは、「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」などのセキュリティに関する基準に準拠することも求められます。

そこでNECでは、基準に準拠したセキュリティ設定を整理し、自動的にその設定を実装することができる仕組み(テンプレート)を提供します。これにより、必要なセキュリティ基準に準拠したシステムを手軽に素早く実現できます。

5. むすび

前述したように、NECがブロックのようにサービスを提供し利用者がそれらを組み合わせることで、最適なクラウド環境を素早く構成し、行政機関の「作らず使う」「素早く試す」という取り組みを実現できます。

「アジャイル・ガバメント」の推進には、クラウドサービスの迅速性や柔軟性が欠かせません。従来時間を要していた新技術の実用化についても、より短期間で行うことができるようになるでしょう。

一方で、デジタル・ガバメントの実現には技術の進化だけでなく、集まるデータの適切な利用やユーザーの意識改革にも取り組む必要があります。NECはデジタル・ガバメントに関わるステークホルダーの皆様と協力しながら、技術開発と平行してルール整備や人材育成にも取り組んでいきます。


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    ITILは、AXELOS Limited の登録商標です。
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参考文献

執筆者プロフィール

諸藤 洋明
ガバメント・クラウド推進本部
マネージャー
田中 佑典
NECソリューションイノベータ株式会社
官公ソリューション事業部
主任
堀田 佳宏
ガバメント・クラウド推進本部
シニアエキスパート
徳山 慎一
ガバメント・クラウド推進本部
主任
打田 貴樹
ナショナルセキュリティ・ソリューション事業部
主任
青野 亜希子
第一官公ソリューション事業部
主任

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