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感動空間の連鎖が、人、地域、社会の絆を深める「Smart VenueCX」
Smart VenueCX近年、インバウンドの急増も相まって、ホテルやテーマパーク、ライブエンターテインメントなどのサービス業における需要が増えた一方、労働力不足による現場オペレーションの負荷軽減が課題となっていました。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、これらのサービス業は経済的な打撃を受けています。Under/Post COVID-19において、これら非日常空間における事業を継続するためには、安全・安心な環境を整備しながら、サービス提供側の業務負荷軽減と利用客の体験価値向上を実現していくことが求められます。本稿では、デジタルを活用し感動空間の連鎖を実現する「Smart VenueCX」の目指す世界観と、それを構成する主要事業の概要を紹介します。
1. はじめに
「コト消費へのシフト」が取り上げられるように、消費者は非日常な体験に価値を求める傾向が年々強くなっており、テーマパークの入場者数推移や、ライブエンターテインメントの集客数推移などは増加傾向にありました。一方で、これらコト消費を支えるサービス業側では、労働力不足による影響が深刻化してきました。
ホテルやテーマパークにおいては、顧客を理解して適切なサービスを提供し、顧客満足度を高めることでリピートにつなげることが重要ですが、人手不足によりそれがままならない状況になってきていました。
そのような状況のなか、発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)は、ホテルやテーマパーク、スタジアムなど体験価値を提供してきたサービス業にとって、大変な打撃を与えました。しかし、これらコト消費が抑制されたことで、消費者にとって感動・体験がいかに大事であり、生活していくうえで不可欠なものであったかを再認識するきっかけにもなりました。
本稿では、デジタルを活用し感動空間の連鎖を実現する「Smart VenueCX」の目指す世界観と、それを構成する主要事業の概要を紹介します。
2. 集客を中心としたサービス業の事業環境や取り巻く課題
2019年末までは、インバウンドの急増に伴うホテル稼働率の上昇や新規ホテル開業ラッシュがあり、主要なテーマパークでは来場者数が右肩上がりで、入場料の段階的引き上げにもかかわらずパーク内は慢性的に混雑する状況でした。また、ライブエンターテインメントの集客数も右肩上がりに増え、音楽産業における主要な収入源の1つとなっていました。国外からの消費者及び国内の消費者ともに、リアルな世界でライブの体験ができること、多くの人と同じ場所で一体感が得られること、日常とは異なる心に残る体験ができることに高い価値を感じ、そうした体験に多くの消費が流れる構造ができつつありました。
一方、労働人口の減少に伴い、労働集約型産業であるホテルやテーマパークなどのサービス業にとっては、さまざまなゆがみが顕在化し始めていました。インバウンドの増加により観光地やホテルの収益は伸びたものの、SNSで有名になったある特定の場所に多くの観光客が押し寄せることで、ゴミが増加したり、マナー違反が多発したり、市民の足となる路線バスが満員で乗れなかったり、多くの観光客がスーツケースを引きながら歩くことで道幅いっぱいに人が溢れたり、ホテルのフロントにおける対面チェックイン待ちの行列が急増したり、ホテルの従業員も労働負荷の高い状態が続くなど、いわゆるオーバーツーリズムの問題が数多く発生していました。テーマパークでも契約社員やアルバイトの確保に苦心し、正社員も現場に出て対応せざるを得ないなど、人手に頼る事業構造が限界を迎えつつありました。
これらサービス業では、省力化などにより生産性を高めながら、利用者の体験価値も高めていくことが課題となります。また、周辺地域に視野を広げると、地域にある観光アセットや感動施設を効果的に活用しながら、増加する利用者の流れをコントロールして滞留をなくすことで、利用者が気持ちよく消費できる環境をつくり出すことが課題になります。
2020年に入り、COVID-19の影響は、“集客”をメインとするサービス業を直撃しました。2019年まで月平均250万人を超えていたインバウンドは、2020年5月単月では1,700名程度まで落ち込み、90%近くに達していたホテルの稼働率も20%を下回り、ホテルによっては休館になるなど、事業継続が危ぶまれました。テーマパークは、休園を経て入場人数を絞りながら営業を継続しました。スタジアムスポーツは、リーグの中断や中止をし、そのあと無観客での試合が実施されました。ライブエンターテインメントは軒並み公演中止になるなど、少しずつ再開に向かってはいるものの持続的な収益を得ていくには厳しい状態が続いています。
2020年4月からの非常事態宣言下においては、体験価値を提供する産業は感染リスクも相まって、利用者及び事業者ともに活動の自粛を余儀なくされました。この自粛期間は、体験価値が心の豊かさを保っていくために必要不可欠なものであることを強く再確認する機会になりました。実際、人数を限定して再開したテーマパークやスポーツ観戦のチケット確保には、待ちに待った多くの人が応募に殺到する状況になりました。
Under/Post COVID-19におけるサービス業の運営は、安全・安心をより一層確保し、多くの人が集まっても感染症クラスターを発生させない対策を行うことが重要となります。労働力不足の課題はこれからも変わらないと考えられるため、これら安全対策は人手に頼るのではなく、いかに省人化して効率的に行えるか、利用者にも従業員にも負担をかけない形で実施することができるかが、重要なポイントになります。また、人と人との距離や対面、接触に関する衛生意識などは、Post COVID-19においても変わらないことが考えられるため、デジタルを活用した密の防止や対面業務の軽減、非接触オペレーションの実現などが求められます。これらに加え、Under COVID-19において注目されてきたのが、デジタルを活用したリレーション維持、収益方法の多様化です。スポーツ選手が自宅でできるトレーニング映像を配信し普段は見られない一面を一般視聴者が見ることができたり、距離感の近い双方向のコミュニケーションが取れるなどリアルではできないリレーションを行い、潜在的なファン層を掘り起こす効果も出てきています。更には投げ銭などの新たな収益方法へのトライも始まっており、集客施設のキャパシティ以上の“集客”による収益獲得が活発化することが想定されます。
Under/Post COVID-19では、ワークスタイルにテレワーク環境が急速に組み入れられて、人々のワークスペースがライフスペースと重なるケースが増えてきています。これに伴い、これまで以上にライフスペースとなる地域でのコト消費やコミュニティの醸成が進んでいくものと考えられます。今後は、このような需要を安全・安心とともに支えるデジタルインフラが、必要になると確信しています。
3. 「Smart VenueCX」の目指す世界観
「Smart VenueCX」の目指す世界観は、「感性とデジタルの融和が生み出す感動空間の連鎖が、人、地域、社会の絆を深める」世界です。これは、感動を生む顧客体験を起点に、深い顧客理解による集客・売上の最大化、新規ビジネスの創出、そして地域の活性化を実現していくことを意味しています (図1)。
感動空間としては、選手たちの筋書きのない熱いドラマが繰り広げられるなかで集まった仲間たちの熱い声援が鳴り響くスタジアム、日常を忘れ、時を忘れてファンタジーの世界やキャラクターと触れ合えるテーマパーク、ちょっとした非日常の贅沢を味わえて心の疲れを癒すホテル、そしてそれらを集約させた統合型リゾートであるIR(Integrated Resort)などが挙げられます。NECはこれらの“場”にフォーカスした3つのコンセプトを掲げ、デジタルを駆使して具現化していくことで、人と人/場と人をつなげ、想像を超える体験を、安全で快適な環境のなかで提供し、人、地域、社会の絆を深めていきたいと考えています (図2)。
1つ目のコンセプトとして、「快適な環境」を掲げています。感動空間は、利用者にとっても、そこで働く従業員にとってもストレスのない環境であるべきであり、どちらかが欠けても成立しないと考えます。これまでホテルやテーマパークにおいては、急増する観光客や来場客に対処しきれず、待ち時間や滞留が増え、対応する従業員の負荷も増大し疲弊するといった問題を抱えていました。NECは、感動空間においてあらゆる情報を集約し、すべてがスムーズかつフレキシブルに動き、施設運営の効率化につながる快適環境を提供します。Post COVID-19においても衛生面を考慮し、密にならない環境作りと、非対面でもスムーズで満足度の高い体験価値提供が事業継続の必須要件になると考えます。
2つ目のコンセプトは、「FANの連鎖」です。感動空間において人と人、場と人をつなげる根幹にあるのは、“好き”という感情です。感動空間を持続可能な“場”にしていくためには、愛好者をいかに増やし、繰り返し見たい、行きたいという想いをつなげていくかが大事だと考えています。NECは、“好き”を共有し、デジタルとリアルの境界を越えて人と人、場と人をつなげて、FANの連鎖を生み出し集客の最大化を目指していきます。Post COVID-19では、リアルな場の安全・安心を確保しながら、リレーションを醸成し、収益を確保していくことが重要となります。これらの要件をデジタルで解決していきます。
3つ目のコンセプトは、「新鮮な体験」です。感動空間においてより心に刻まれるのは、想像を超える体験であると考えます。日本にはおもてなしの文化がありますが、まさに一人ひとりの心に寄り添った体験が提供できれば、人の心はより動かされます。NECは利用者の状態を深く知ることで、その利用者の心や体の状態に合わせた新鮮な体験を提供し、心に残る感動空間作りを目指していきます。
これらのコンセプトを具現化できる感動空間には、デジタルとリアルを通して多くの人が集まり、コミュニティが醸成され、感動空間を取り巻く地域にも人と経済が循環していくことになります。NECはそのような感動空間作りに貢献していきたいという想いから、「Smart VenueCX」という世界観を掲げています。
4. 「Smart VenueCX」を構成する主要事業
「Smart VenueCX」を構成する主要事業の1つとして、スマートホスピタリティサービスがあります。これは、ホテルを中心とした顧客体験をより安全でスマートに、待つことなくスムーズに変えていくサービスであり、同時に従業員の負荷を軽減し、労働力不足の環境下においても無理のない事業継続を可能とします。これまでホテルのフロントなど対面を主としていた本人確認をデジタルな顔認証で瞬時に行うとともに、顔をIDとしてチェックイン予定のホテルに先に手荷物を送り込むことで手ぶら旅行を可能とするなど、ホテルと物流などの複数事業者間連携によるサービス提供を可能とします。本サービスについては「タッチレスで快適なこれからの顧客体験」1)にて詳しく紹介します。
もう1つの事業として、ファンマーケティングソリューションがあります。これは、スマートフォンをタッチポイントとしてスポーツリーグとファン、スポーツチームとファンをつなぎ、オンシーズン/オフシーズンを問わずさまざまな情報やコンテンツでリレーションを保ちながら、ファンの嗜好やニーズを定量的に可視化し、集客向上や更なるエンゲージメントの向上に役立てるための基盤をサービス提供していくものです。本ソリューションに関しては、「New Normal時代に求められるこれからの集客施設向けソリューション」2)にて詳しく紹介します。
5. 代表的な事例
スマートホスピタリティサービスの代表的な事例として、2020年1月28日付でプレスリリースを行った三井不動産株式会社様及び株式会社三井不動産ホテルマネジメント様が展開する新しいホテルブランド「sequence」があります。顔認証を活用したセルフチェックインとルームキーレスでの入室により、「sequence」が目指す重要なコンセプトである「smart:気の利いた心豊かになれる時間」の実現に貢献していきます。
ファンマーケティングソリューションの代表的な事例としては、一般社団法人日本バレーボールリーグ機構様の「Vアプリ」があります。コミュニケーション基盤の構築とファンの見える化や、利用者数増加に貢献しています。
6. 事業を支えるテクノロジー
スマートホスピタリティサービスでは、クラウド基盤を活用した顔認証技術を採用しています。顔認証技術はNECの生体認証「Bio-IDiom」の中核技術であり、世界No.1の認証精度3)を有する顔認証AIエンジン「NeoFace」を活用しています。また、このクラウド基盤は複数事業者間連携を見据えたデジタルIDにも発展可能であり、顔認証の利用及び事業者連携に同意した利用者は、顔をIDとしてさまざまなサービスを利用できる拡張性を持っています。
7. むすび
労働集約型産業であるサービス業、特に娯楽を提供していた事業者においては、運営効率化や生産性の向上は従来からの課題でした。これらの課題がCOVID-19の影響により一気に顕在化し、デジタルの活用が不可欠となりました。また、人々のライフスタイルが急速に変化し、安全・安心への意識の高まりと、心のつながりとなるコミュニティの醸成がよりいっそう重視されることが予見されます。これまで、ワークスペースとライフスペース、日常と非日常、オンとオフは、場所と時間に密接に紐付き区分けされていましたが、そのような概念は急速に変わりつつあります。「Smart VenueCX」で目指す世界観において定義する感動空間は、場所と時間を問わずに生まれてくることが考えられます。NECはデジタルを駆使して、人と人、場と人、人と地域をつなぎ、そこで生まれる一つひとつの感動で心豊かな社会を支えていきます。
参考文献
執筆者プロフィール
トレード・サービス業ソリューション事業部
エキスパート