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NECの考えるリテールの将来像と「Smart Retail CX」
Smart Retail CX小売業は、経済のグローバル化やICTの急激な進化に加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生による消費者の購買行動の変化によって、生き残りをかけた変革をより求められるようになっています。NECは、2015年発行の本誌1)で消費者主導型のリテールのあるべき姿“Consumer-Centric Retailing”の概念を示し、小売業の抱える課題解決を図ってきました。今般、その内容を「Smart Retail CX」というブランドメッセージ及びそれに基づくオファリングソリューションとして企画開発しています。本稿では、その全体像について紹介します。
1. はじめに
小売業では近年、Amazonに代表されるようなECサイトでの購買、キャッシュレス決済、及び配達サービスといった、消費者購買行動のオンライン化が進展しています。
2020年に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下、COVID-19)の感染拡大が発生したことにより、世界の実体経済全体に大きなインパクトを与えています。小売業においても、例外ではありません。
消費者購買行動の観点では、在宅勤務の拡大・自粛生活によって、オンラインを活用した購買が急速に拡大しています。
一方、小売業のサービス提供の観点では、リアル店舗とオンラインチャネルでの両方のサービス提供を融合させた、Online Merges with Offline(OMO)と呼ばれる、従来のOnline to Offline(O2O)やオムニチャネルの考えを発展させた新たな概念が普及しつつあります。この実現に向けては、IoT、AI、5G(5th Generation、第5世代移動通信システム)といった新技術の活用が背景にあります。
NECでは、こうした小売業の外部環境変化を踏まえ、「Smart Retail CX」のコンセプトを提唱しています。本稿ではその内容について詳述します。
2. NECの考えるリテールの将来像とは
小売業では、労働力不足や需要に応じた品揃えへの対応など、以前から顕在化している課題は継続しています。また、消費者のITリテラシーの高まりによって、消費者は商品の購入にあたって、パソコンやスマートフォンなどを活用しながら、さまざまな場面やタイミングなどに応じて購入先を柔軟に選択できるようになっています。加えて、COVID-19による消費者の購買行動の変化が、第1章で述べたOMOに対応したサービス提供などの変革を求めています。
よって、小売業は消費者一人ひとりのその時のニーズに合わせて、あらゆる業務を見直していくことが必要です。NECはその変革を、「消費者主導対応型」小売モデル“Consumer-Centric Retailing”と表現しています。このコンセプトに基づいて、NECでは取り組むべきテーマとして「業務の省力化」「顧客体験の向上」「非接触・不正防止」を提唱しています(図1)。

まず、「業務の省力化」について、深刻な労働力不足問題を抱える小売業においては、従業員が生きいきと接客し、笑顔でやりがいをもって働く環境が必要不可欠であると考えます。そのためには、現在人手をかけている業務のうち、ITで代替・補完可能な業務は極力省力化・自動化することが重要です。
次に、「顧客体験の向上」について、小売業は単なるモノ売りではなく、消費者一人ひとりに合わせたカスタマージャーニーを描き、試着などの体験も含めたコトの提供が重要と考えます。そのためには、購買体験だけではなく利用まで含めた消費プロセス全体で顧客満足度を高める接客などの実現が必要です。つまり、素早く買い物をしたい人は「探す」「並ぶ」ストレスから解放され、ゆっくり買い物をしたい人は「発見」「体験」「ふれあい」ができる場を作ることが重要となります。それにより、消費者は快適で心地よく買い物ができ、「また買い物をしたい」という動機付けになると考えます。
最後に、「非接触・不正防止」について、消費者の購買行動がデジタル化することによって、購買時に発生する個人情報や決済情報を不正に取得されるリスクが高まってきていると考えます。小売業は、これらのリスクに対応するためにセキュリティ対策を万全に行い、消費者が安心して購買体験ができるよう環境を整備する必要があると考えます。
「Smart Retail CX」は、これらの世界観の実現を目指し、消費者から“選ばれる”小売業への変革に貢献します(図2)。

3. 「Smart Retail CX」のビジョンと製品コンセプト
第2章で述べた3つのテーマに対し、「Smart Retail CX」ではビジョンとして「業務量50%減」「魅力2倍」「不正/現金ゼロ」を掲げています。本章では、それぞれのビジョンについて説明します。
3.1 業務量50%減
NECでは、労働力の確保が難しくなってきている環境下でも効率的に業務を行うことができ、かつ消費者に満足いただける購買体験を提供するお店作りを目指します。具体的には、店舗の売場管理や商品管理、レジ業務、従業員管理などのバックヤード業務を可能な限り省力化・自動化して、削減できた時間を消費者への接客に充てるような仕組みを提供します。例えば、レジをセルフレジに切り替えたりチェックアウトレスにしたりすることで、レジ業務の省力化に貢献します。その他にも、カメラやセンサーを利用し売場の陳列状況や欠品をリアルタイムかつ遠隔でもモニタリングできるようにすることで、従業員の業務負荷軽減に寄与します。
このような仕組みを実現するためにNECは、世界No.1の評価を受けている顔認証技術2)をはじめ、映像解析技術やセンシング技術、AI技術、クラウドコンピューティングなどの技術を組み合わせたサービスの開発を推進しています(図3)。

3.2 魅力2倍
消費者から“選ばれる”小売業を実現するためには、その時その人に合った提案をすることが重要です。そのためには、企業内に散在している顧客のデータを統合、分析し、顕在ニーズだけではなくその背景までを含めて、個客を深く把握する仕組みが必要です。例えば、珍しいワインを購入する目的で来店された個客に単に流通量の少ないワインを提供するのではなく、なぜ珍しいワインが欲しいのかの理由や利用シーンを踏まえた接客が購買の満足度を高めると考えます。
その時その人に合った接客を実現するためにNECは、POSシステムやECシステムだけではなく、映像解析技術やセンシング技術を活用し、会員情報や注文情報に加え店舗内の行動情報なども取得できる仕組みを開発しています。また、取得した個客の情報をオンラインとオフライン問わず、統合管理できる基盤も開発しています(図4)。

3.3 不正/現金ゼロ
COVID-19の流行により、人との接触をなるべく避け短時間で買い物を済ませられる店舗や買い方を選ぶ傾向が強くなっています。また、キャッシュレス決済の利用が拡大している一方で、決済に関する個人情報流出や不正利用の防止など、消費者にとってより安心してお買い物ができる重要性も高まっています。そのためには、オンラインの活用やキャッシュレス決済、チェックアウトレスへのレジ業務改革に加えて、決済シーンをモニタリングしたり、個人情報を流出させないセキュアかつ確実な本人認証を実現する必要があります。
こうした環境を実現するために、NECでは、生体認証技術や映像解析技術を駆使して、店舗内の不正監視やマルチモーダル認証3)を用いた生体認証決済の実現に向けて研究を進めています (図5)。

4. NECのオファリング
NECは、第3章で述べた3つのビジョンの実現に向け、次のオファリングソリューションを提供します(図6)。

4.1 業務量50%削減に向けたオファリング
NECでは、需要予測や店内コミュニケーションなどさまざまなソリューションを開発・提供しています。そのなかでも、レジレス型店舗は店舗内に設置したカメラや画像認識技術などを組み合わせ、購入する商品をレジに通すことなくそのまま退店するだけで決済可能なサービスを実現できます。それにより、レジ業務に充てられていた時間を接客などに活用することができ、消費者にとってもレジの混雑を気にすることなくお買い物ができるようになります。
更に、店舗カメラを利用した棚定点観測サービスを活用すれば、従業員がスマートフォンやタブレットから遠隔で実際の棚画像を確認できます。それにより、欠品検知を行う業務が店舗に移動しなくても可能になり、業務の省力化や複数店舗運営を効率化できます。
4.2 魅力2倍に向けたオファリング
NECでは、一人ひとりに合わせたプロモーションができるターゲット広告サイネージや、レジを待たずにスマートフォンで決済できるセルフスキャンショッピングなどを提供しています。そのなかでも、相互連携可能なECシステムやPOSシステムであるNeoSarfシリーズ4)を導入することで、オンラインとオフラインの会員情報や購買情報、在庫情報などを統合管理し、消費者に適切なタイミングで適切な商品・情報を提供することが可能となります。
4.3 不正/現金ゼロに向けたオファリング
NECでは、店舗でのお買い物の際に非接触で安心して購買できる環境を確保するため、店内行動可視化サービスやマルチペイメントなどを提供しています。そのなかでも、マルチモーダル認証による生体認証決済により、マスクをしたままでも現金やカードなどを利用しない手ぶらでの決済を実現します。それにより、消費者は人との接触を減らし、スマートフォンや財布を取り出す手間を省くことができ、衛生面でも安心してお買い物ができます。また、その場でクレジットカードなどを使わないため不正防止にも役立ちます。
4.4 オファリングを支えるプラットフォーム
前述したオファリングを活用するために、企業内にデータが分散管理されていても必要な時に欲しいデータをリアルタイムに取得したり、統合できたりする必要があります。かつ、それらのデータは多様なデバイスで利用できなければなりません。そこでNECは、データの格納場所を意識することなく、欲しいデータを必要なタイミングで活用できる情報システム基盤“Digital Store Platform”を企画・開発しています。
5. むすび
労働力不足やICT環境の進化、COVID-19の感染拡大による消費者の購買行動の変化により、小売業は変革を求められています。NECは、「Smart Retail CX」というコンセプトを打ち出し、オープンイノベーションによりさまざまな企業と連携しながら、価値のあるオファリングを企画・開発していきます。それらのオファリングの提供を通じて、購買体験の向上と業務の省力化を実現し、消費者から“選ばれる”小売業への変革に貢献します。
- *Amazonは、Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標または登録商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
執筆者プロフィール
第一リテールソリューション事業部
マネージャー
第二リテールソリューション事業部
マネージャー
第二リテールソリューション事業部
主任
第二リテールソリューション事業部
主任
第二リテールソリューション事業部
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