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次世代ものづくりの現場における個人特定の重要性
バイオメトリクスを用いたサービス・ソリューション昨今、ものづくりの現場では、法令やお客様との契約で定められた作業が正しく行われているかが厳しく問われています。また、外国人労働者の増加など人材の流動性も高まっており、作業者個人を特定して適切なマネジメントを行い、作業品質を向上することが求められています。
本稿では、次世代のものづくりを具現化した「NEC DX Factory共創スペース」において、顔認証による現場作業者の個人特定とその活用を行っている事例を紹介し、ものづくりの現場における個人特定の重要性について説明します。
1. はじめに
近年、AIの進化やIoTの普及拡大により新しい技術・サービスが数多く生み出され、製造業においてもものづくりを大きく変えると期待が寄せられています。
一方、労働人口の減少や長時間労働などが社会課題となるなか、ものづくりの現場では設備やロボットによる自働化が進んでいますが、マスカスタマイゼーションに求められる多品種少量生産への対応など、人が行った方が効果的な作業は普遍的に存在します。そのため、次世代のものづくりは設備やロボットと人が協調して作業を行い、その状況をデジタル上でバーチャルに再現し、シミュレーションした結果を現実世界にフィードバックするようになっていくと考えています(図1)。

また、昨今では無資格者による検査や結果の改ざんなどの問題が多発しており、企業は高品質な製品を製造するだけでなく、コンプライアンスを遵守し、企業の信頼を作っていく必要があります。
本稿では、第2章においてものづくりの現場における個人特定の重要性を考察し、第3章で次世代ものづくりを具現化した「NEC DX Factory共創スペース」の概要を、第4章、第5章で「顔認証なりすまし防止ソリューション」を活用した作業者個人の特定と、「NEC DX Factory共創スペース」におけるその活用について紹介します。
2. ものづくりの現場における個人特定の重要性
昨今、日本の製造業では、無資格者に製造作業や検査作業を行わせたり、検査結果を改ざんするなどの不正行為が次々と発覚し、大きな社会問題になっています。これからのものづくりでは、高品質な製品を製造するだけでなく、コンプライアンスを遵守し、正しく製造したかの証跡を残すことも企業の責任として重要となります。ユーザーID・パスワードでの認証だけでは、IDの貸し借りなども可能なため、作業しているのが誰なのかを確実に特定する仕組みが必要となります。
また、多様化する市場に対応するため、大量生産から多品種少量生産へのシフトが加速しており、製造の作業手順はより複雑になっています。一方で、外国人労働者や非正規労働者雇用の増加により現場作業者の流動性は高くなっています。このような環境下で、QCDを維持してものづくりを行うことは、これからますます難しくなっていくでしょう。これらの課題に対応するため、個人を特定し、作業者のスキルに応じた正確な作業ナビゲーションを行うことが、重要な要素になると考えています。
3. 「NEC DX Factory共創スペース」
「NEC DX Factory共創スペース」をNEC玉川事業場(神奈川県川崎市)に開設しました。ここは、次世代のものづくりを具現化し、NECとNECのパートナー企業・団体の先進技術・製品や、NEC自身のものづくり革新ノウハウを融合したソリューションを一堂に集め、デジタルトランスフォーメーションが変えるものづくりの未来を体験することができる場です。
「NEC DX Factory共創スペース」の生産設備は、小型電子機器製造を想定した部品投入、加工・搭載、組立、検査の4工程で構成され、部品投入、完成品取り出しのために、無人搬送車(AGV)が稼働しています(図2)。組立工程は人による作業工程となっており、設備やロボットと人が協調して生産するものづくりの未来を体験できるようになっています。

この生産設備には、図2に記載しているAI・IoTを活用した15のソリューションを組み込んで、ものづくりの現場の課題解決を提案しており、今後も更にソリューションを追加していく予定です。
4. 「顔認証なりすまし防止ソリューション」
ものづくりの現場における個人特定のため、「NEC DX Factory共創スペース」では、「顔認証なりすまし防止ソリューション」を組み入れています。
本ソリューションは、図3に示すように、QRコードまたはICカードに格納した顔の特徴量をカメラで撮影した顔の画像と照合して、生体個人認証を行います。

本ソリューションは、ものづくりの現場への適用において、以下の特徴とメリットがあります。
(1)スマートデバイスによりどこでも本人確認が可能
ものづくりの現場においてもスマートデバイスの普及が進みつつあり、追加のデバイスが不要、または導入障壁が低い
(2)データベースやネットワークの構築が不要
IT部門に頼らず、ものづくりの現場主導で導入・変更を進めることが可能
(3)個人情報を端末に保持しない生体認証方式
IoT普及に伴い、生体情報を含む個人情報の取り扱いは、まずます慎重に行う必要がある。サーバやライン設置の端末機器に生体情報を残さないことはセキュリティを確保するうえで非常に有効
5. 「NEC DX Factory共創スペース」での適用
「NEC DX Factory共創スペース」では、作業エリアの入り口に「顔認証なりすまし防止ソリューション」を適用することで、許可された作業者しか作業エリアに入れないように制限し、部品補給などの段取り作業においてもスキルを持った作業者だけに許可することが可能です。
また、ものづくりのIoTでは、設備だけでなく、モノや人のデータを統合して蓄積し活用することで、QCDの向上が求められていますが、人の作業データを確実に収集することは難しいとされています。そこで「顔認証なりすまし防止ソリューション」と他のソリューションを組み合わせて適用することにより、適切な作業ナビゲーションや信頼性の高い人作業データの収集・分析を実現しています。
「NEC DX Factory共創スペース」の組立工程では、作業の信頼性、生産性を高めるため、音声とプロジェクションマッピングにより、分かりやすい作業ナビゲーション(写真)を行います。また、音声認識技術により、作業者が発話した作業結果をデータに変換し、作業項目単位の詳細な作業実績登録を可能としています。

この組立作業に「顔認証なりすまし防止ソリューション」を適用し、作業を行う前に顔認証を行うことで、許可された作業者が作業したことを確実に保証するとともに、作業者のスキルに応じてナビゲーションを変えることで、作業の信頼性と生産性を両立させています。スキルの高い作業者には、簡潔な音声指示とし、初心者には、詳細な音声ナビゲーションとプロジェクションマッピングを併用して作業を指示することができます。
また、こうして収集した人の作業データを使って、作業者別の正確な作業分析を可能としています(図4)。

更に、リストバンド型ウェアラブルデバイスで収集したデータを用いて人の感情を分析する「感情分析ソリューション」との組み合わせにより、作業項目単位に、該当作業をしている時の作業者の感情についても分析し、作業改善につなげることが可能です(図5)。

6. まとめ
「NEC DX Factory共創スペース」では、顔認証とさまざまなソリューションを組み合わせて、人と設備やロボットが協調する次世代のものづくりを実現しています。
コンプライアンスを遵守してお客様との信頼関係を構築し、今後ますます労働力不足が進むなかでQCDを向上しつづけていくためには、生体情報を利用した個人特定はますます重要となっていきます。
- *QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
執筆者プロフィール
ものづくりソリューション本部
マネージャー
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