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小さなパーツ製造から大型衛星の組み立てまで 宇宙ミッションを支えるものづくりの現場とメンバーたちの想い

人工衛星は一度打ち上げてしまうと、当然修理ができません。真空かつ温度変化の激しい過酷な宇宙空間に長年耐え、ミッションを遂行するためには壊れないものづくりがなによりも重要になるのです。衛星に搭載する機器の設計・製造から人工衛星の組み立て、各種試験や打ち上げに至るまでの全工程を一気通貫で手掛けているNECでは、どのようなものづくりが行われているのでしょうか。衛星インテグレーション(※)と搭載機器製造の現場について、3名の社員に話を聞きました。

(※)さまざまな機器を組み合わせて衛星をつくり上げること

多彩な衛星を一気通貫で製造するNECグループ

──みなさんの経歴と現在のお仕事を教えてください。

柴崎 1998年にNECに入社して以来、衛星インテグレーション一筋でやってきました。当時は、衛星の組み立て、試験までをJAXAの筑波宇宙センター等で実施していましたが、2014年に府中事業場内に「衛星インテグレーションセンター」(人工衛星の組み立て・試験を行うための施設)が稼働してからは、NECグループの施設で一貫して行っています。これまで「はやぶさ2」「ASNARO-2」「XRISM」など多くの衛星づくりに携わり、現在は衛星システムを中心とした製造現場の総括を担当しています。

NEC府中事業場の衛星インテグレーションセンター

相馬 私は2019年にNECに入社し、エアロスペース・ナショナルセキュリティビジネスユニットに配属されました。1年目はワイヤーハーネス(搭載機器に信号や電力を供給するケーブルの束)の製造、2年目は熱計装(衛星の温度を制御するための部材を取り付ける作業)に携わり、2021年から衛星インテグレーションを担当しています。

電機計装の製造風景

植竹 2012年にNECスペーステクノロジーに入社し、衛星に搭載する地球からの電磁波を観測するためのパッシブ機器や受信機、送信機など、主にRF(高周波無線通信)機器の製造業務を担当しています。

衛星に搭載する機器

──NECグループにおける人工衛星開発、製造の概要をお聞かせください。

柴崎 一口に人工衛星といっても、地球観測衛星や通信衛星、科学衛星などさまざまな用途がありますが、NECグループではあらゆるタイプの衛星を手掛けています。どんな衛星もオールマイティーに開発・製造できるだけでなく、衛星本体と搭載機器の設計から生産、試験まですべてを一気通貫でこなせるのが私たちの強みだと自負しています。

NECスペーステクノロジー
生産本部・機器製造検査部
植竹 悠

植竹 そのなかでも、通信や電源、データ処理、姿勢制御、熱制御といった幅広い衛星サブシステムを支える搭載機器を製造しているのが、NECスペーステクノロジーです。当社は、NEC以外にもさまざまな衛星向けに9400台以上の搭載機器を製造し、これまでに約30カ国400機以上の搭載実績があります。

──両社は、衛星づくりの現場でどのような連携をしているのでしょう。

柴崎 NECスペーステクノロジーが製造した搭載機器を、NECが衛星の構造体に取り付け、衛星として組み上げていくというのが、基本的な流れになります。一部、サブシステムの試験などを共同で行うことはありますが、ものづくりにおいては完全な分業で、現場で一緒にインテグレーションする機会はほとんどない、というのが実情です。ですが、同じ衛星づくりに携わる仲間なので、お互いによく知っている関係ではあります。

植竹 搭載機器のパーツはかなりの数に上ります。それだけ多くの衛星やものづくりに関われるというのが、この仕事の醍醐味だと思っています。

宇宙ミッションを成功に導く高精度なものづくり

──衛星のかたちにインテグレーションするまでの工程を教えてください。

NEC
エアロスペース・ナショナルセキュリティビジネスユニット
QA統括部 第一品質プロダクトグループ
相馬 幸乃

相馬 衛星は開発のたびに設計や仕様が異なる、オーダーメイドのプロダクトです。ワイヤーハーネスや熱計装の設計も衛星ごとに1から設計し、ケーブルはすべて手作業で配線していきます。そこにNECスペーステクノロジー製作の搭載機器を組み付けて衛星の形状にインテグレーションし、各種試験をクリアしたのちに、JAXA種子島宇宙センター等(以下、射場)に運ぶ、というのが大まかなプロセスになります。

柴崎 大きな衛星だと機器の取り付けも高所作業となるので、衛星インテグレーションセンターには、クレーンや高所作業車が何機も配備されています。私はもちろん、相馬も資格を取得し、クレーンや高所作業車を使用して作業しています。社内だけでなく、昨年は種子島の射場でロケットに衛星を載せる際のクレーン操作も、相馬に担当してもらいました。

相馬 射場にはNECだけでなく、JAXAや他社メーカーの方など関係者がたくさんいらしたので、ものすごく緊張しながらクレーン操作を行いました。

──自ら組み立てた衛星を打ち上げる瞬間は、感慨もひとしおですね。打ち上げを成功させ、さらに宇宙空間でのミッションを達成するためには、信頼性の高いものづくりが欠かせないと思います。品質を追求するにあたっての心がけや工夫を教えてください。

柴崎 人工衛星が打ち上がれば、当然修理には行けません。ネジ1本締めるのにも、ものすごく気を使っています。また品質を担保するためには、ただ図面を理解するだけでなく、その衛星の特性を隅々まで把握しておく必要があります。ミッションや用途によって、仕様も作り込みの方法も変わってくるからです。

相馬 ワイヤーハーネスや熱計装は宇宙で交換することができないため、あらゆる状況を想定しながら慎重に作業を進めています。次の工程の邪魔にならないよう、配線ルートやケーブルの収め方にも神経を注いでいますね。

植竹 ごく当たり前のことですが、図面通り、正確かつていねいに作ることを心がけています。衛星のミッションは数年間に及ぶので、機器やパーツの不具合は許されません。はんだ付けひとつとっても、高精度な仕事が求められます。

はんだ付けの様子

──まさに職人の世界ですね。NECスペーステクノロジーは、厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」に表彰される人材も輩出していますが、その技術はどうやって培われ、継承されているのでしょう?

植竹 当社には現在、3名の「現代の名工」が所属しています。その技に近づくためにも大切なのは、規格に沿ったものづくりに徹することです。技術研修でスキルを磨くと同時に、普段から上級者の作業を見て学び、わからないところは都度教えを請うようにしています。また、NECスペーステクノロジーでは、さらなる技術向上を目指す「NECスペース認定マイスター制度」が2024年度からスタートしました。この制度の1ステップに「NECスペース認定ジュニアマイスター」があります。私も次期ジュニアマイスター候補の1人として、技術研鑽や後進育成に邁進していきたいと考えています。

精密作業から高所での取り付けまで、日々プレッシャーとの戦い

──みなさんが日々の業務のなかで取り組まれている工夫や重要視しているポイントなどをお聞かせください。

相馬 衛星に搭載するパーツは、一つひとつが精巧で高価なものばかりなので、取り付けの際には全神経を集中させて作業しています。とくに高所作業ではうっかり落としてしまわないよう細心の注意を払い、破損を防止するための養生もしっかり行うことで万一の場合に備えています。今のところ、まだ落下事故は起こしていません。

NEC
エアロスペース・ナショナルセキュリティビジネスユニット
QA統括部 第一品質プロダクトグループ
柴崎 智幸

柴崎 機器やパーツを破損してしまえば、打ち上げ遅延につながる可能性もあるため、我々には小さなミスも許されないのです。

植竹 パーツや機器の製造も同じで、規定通りコンマミリ単位の正確さで作らないと後々の作業に響いてしまいます。不具合を出さないことはもちろん、取り付けの工程や宇宙空間での長期耐用までを考えた、ていねいな作業を心がけています。

柴崎 現在の業務はインテグレーションの全体総括なので、日程管理や後進育成が中心になっていますが、仕事のフィールドがものづくりの現場にあることは変わりません。衛星インテグレーションセンターにはつねに顔を出して状況を確認したり、ときには実際に作業を一緒に行ったりするなど、現場での指導にも力を入れています。

──この仕事で感じる苦労とやりがいについても教えてください。

相馬 高所作業は、毎回苦労と緊張の連続です。ときには無理な姿勢で機器を取り付けなければならないことも多々あります。とくに大きなネジを回す際などはかなりの力が必要となり、体勢を維持するのにも苦労しています。「落としたら一発アウト」というプレッシャーと戦いながら、全身全霊で作業に臨んでいます。でも、責任ある仕事を任せてもらえていること自体に大きなやりがいを感じているのも事実です。

衛星インテグレーションの作業風景

植竹 技術の進歩に伴い、私たちの取り扱う部品や治具、製造方法は日々新しくなっていきます。そうした初めての作業に取り組む際には試行錯誤することも多いのですが、それがうまくいき、無事に試験をクリアできたときは、より一層の達成感がありますね。また、衛星打ち上げのニュースなどを見て、「私の作った部品が載っている」と想像するのも嬉しい瞬間です。

柴崎 その打ち上げに向けて、衛星をインテグレーションするのが私たちの仕事です。日程の調整や作業管理は大変な作業ですが、衛星が宇宙に飛び立つところを早く見たいという気持ちが、日々のモチベーションにつながっています。ありがたいことに、これまで9回の打ち上げに携わることができました。嬉しいのは打ち上げ成功の瞬間だけではありません。衛星が軌道に乗ったあとの成果報告や報道、お客さまからの評価などを耳にできることも大きな喜びになっています。

種子島の射場から打ち上げられるH3ロケット

宇宙でも女性活躍は当たり前。その常識をNECから広めていく

──みなさんのものづくりが社会にもたらす価値と、今後の展望についてお聞かせください。

柴崎 安全保障や科学観測、地球観測や通信・測位など、さまざまな用途の衛星とその搭載機器を作ることで、人々の日常生活に広く貢献できていると考えています。とくに「はやぶさ2」のミッション成功などは、日本を元気にして盛り上げ、NECの宇宙事業を広く知らしめる機会になりました。

植竹 NECスペーステクノロジーは幅広い衛星搭載機器を製造しており、なかでも通信機器は世界でも高く評価されています。その意味では、私たちの技術が宇宙事業の発展に貢献しているといえます。こうした機器やパーツはプロジェクトの初期段階に製造・納品し、それらが搭載された衛星が打ち上がる頃には、もう次のものづくりがスタートしています。今後も技術を磨くことで、まだ衛星のかたちになっていない、未来の価値を創り続けていきたいと思います。

相馬 価値あるものづくりをするためには、それに見合った技術や資格も必要です。衛星の組み立てや試験にはさまざまな資格が求められるので、陸上無線技術士や酸素欠乏危険作業主任者といったまだ持っていない資格も積極的に取得し、作業の幅を広げていきたいと考えています。また入社6年目となった今、これまでの経験やノウハウを後輩に伝えていくことも大切な役目だと肝に銘じています。

柴崎 性別を問わず第一線で活躍できる環境づくりもNECならではの価値創造の1つです。種子島で相馬がクレーン操作を行っていたときは周囲から驚かれましたが、それを当たり前の光景にしていくことも私たちのミッションだと考えています。宇宙事業における女性活躍の場を、ここからもどんどん広げていきたいですね。

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