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人工衛星の熱設計
地球上とは全く異なる過酷な環境の宇宙空間で活躍する人工衛星。太陽光が当たる部分と、そうでない部分で数百℃もの温度差がつく環境にさらされます。その中で、人工衛星がきちんと機能できるよう、適切な温度に制御するのが人工衛星の熱設計です。そのために、どのような工夫をしているのでしょうか。
宇宙空間の熱環境
地上との最も大きな違いは、宇宙空間は空気のない高真空であることです。地上では空気による対流により、例えば扇風機やファンなどを用いて熱を逃がすことが可能ですが、宇宙空間では対流を期待できません。空気のない宇宙空間では、熱放射と熱伝導で熱を伝えなくてはなりません。
- 熱放射:離れている対象物との間の熱量のやり取り
(日が照っている場所に居たり、焚火の前に居ると、暖かく感じる) - 熱伝導:接触している対象物との間の熱量のやり取り
地球近傍の宇宙空間で考慮すべき熱環境には主に以下の4つがあります。
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太陽光(太陽の温かさによる放射熱)
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アルベド(太陽光の地球反射)
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地球赤外(地球の温かさによる放射熱)
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宇宙の温度(宇宙背景放射3K(-270℃))
このうち、(4)宇宙の温度を除く(1)~(3)については、人工衛星の位置によってその強さが変わります。
例えば(1)の太陽光の強度は、金星探査機「あかつき」では地球近傍の約2倍、水星探査機「みお」では約10倍、小惑星探査機「はやぶさ2」では約0.5倍から1.5倍になります。
(厳密には、地球を含む惑星の周りを回るのが「(人工)衛星」であり、月や小惑星までいくものは「探査機」などと称します。)
宇宙空間の熱環境

太陽からの距離により変わる熱環境

人工衛星の熱環境
例えば通信衛星のように常時決まった面(アンテナ)を地球方向に向ける場合や、観測のために望遠鏡を常時宇宙に向けるなど、目的により人工衛星の姿勢が異なります。このため、太陽が当たる面が決まっていたり、刻々と変わったりするので、各部位がさらされる熱環境は同じではありません。また、人工衛星の内部には電子機器がたくさん搭載されていますが、それらの発熱の大小、運用時間の長短により宇宙へ逃がす必要のある熱量が変わってきます。
人工衛星の熱設計
人工衛星の熱設計において、基本的な考えは以下の通りです。
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内部に搭載された機器の発熱を「適切に」宇宙に逃がす
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太陽光などの外部からの熱入力を「適切に」抑える
「適切に」がミソです。宇宙空間は-270℃ですので、冷えすぎる危険があります。
これを実現するために、以下のような部材を用いて熱設計を実施します。

熱設計の確認
熱設計の確認として、解析モデル(熱数学モデル)によるシミュレーションや、宇宙環境を模擬した熱真空試験により評価します。ただ、いずれも人工衛星が宇宙で遭遇する全ての環境を模擬できるわけではないので、どのように模擬するかが腕の見せ所になります。NECには人工衛星が丸ごと入る試験室があり、熱真空試験を実施しています。
人工衛星が宇宙に旅立った後も、計測された温度が地上に届き、人工衛星が適切な温度に保たれているかどうかモニタしています。また、時には当初想定していなかった軌道・姿勢などの運用をした場合の人工衛星温度を計算することもあり、人工衛星がその役目を終えるまで、熱設計者の対応が必要となります。
解析モデル(熱数学モデル)の例

熱真空試験の様子

将来に向けた取り組み
人工衛星に搭載する電子機器は年々高性能化しており、これに合わせて、高発熱・高集積化する傾向にあります。宇宙空間では空気がないため対流による排熱は期待できませんが、NECでは発熱体を絶縁性冷媒の中に入れて、単相あるいは二相ループを用いた宇宙機用冷却装置などの開発を進めています(関連特許多数出願中)。NECは新しい技術を用いながら、これからも数多くの人工衛星を開発し、社会課題の解決に貢献していきます。
