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公共交通ICカードソリューションの取り組みと今後の展望

Vol.68 No.1 2015年9月 安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集

日本国内での交通系ICカードの発行枚数は累計1億枚を突破し、首都圏の利用率は9割を超えています。交通系ICカードは、ライフスタイルのさまざまなシーンを支える、新たな社会インフラとして定着しました。NECはSuica導入当初から長年にわたり、ICTでその発展過程を支え、全国展開や新たな価値を提案し続けてきました。今後も2020年に向けて交通系ICカードは進化し続け、更に海外においても新興国を中心に日本の技術への期待から大きな需要が見込まれます。NECはこれまでに培ったノウハウを生かし、国内外の公共交通機関における交通系ICカードの普及拡大により、豊かな社会の実現に貢献していきます。

1. はじめに

交通系ICカードは、既に日本国内で1億枚を超えるカードが発行され、鉄道・バスなどの交通利用から、商業系電子マネーまで、日々の生活に浸透した社会インフラへと発展しました。各都市圏・鉄道会社ごとに導入されてきたICカードシステムも、2013年に全国相互利用が実現し、全国主要都市の鉄道・バスを1枚のカードがあれば乗れるようになり、利便性が大きく向上しました。こうしたIC化の動きは、日本国内の地方都市及び海外でも今後更なる導入に向けて加速しています。

日本国内では、国土交通省が、2020年度までに全国相互利用カードをすべての都道府県で使えるようにすることを発表しています。その施策を盛り込んだ「交通政策基本計画」が2015年2月に閣議決定し、地方でのICカード化検討が活性化しています。

一方、海外に向けては、政府が日本の優れた鉄道技術の海外輸出に積極的です。アジア新興国においては、経済発展に伴う急速な自動車の普及が、交通渋滞や大気汚染を引き起こしています。その対策として環境に配慮した公共交通機関であるMass Rapid Transit(MRT:大量高速輸送)やBus Rapid Transit(BRT:バス高速輸送システム)を整備するため、各国の政府開発援助や世界銀行、アジア開発銀行などの国際開発金融機関の融資による導入計画が盛んになっています。これら公共交通機関の整備と合わせて、新たにICカード導入が急速に進んできています。

2. これまでの交通系ICカードへの取り組み

NECは、2001年のSuica立ち上げ時から、構築プロジェクトに参画し、2014年までに合計9ブランドの交通系ICカードに携わってきました。NECはセンターサーバから駅サーバまで基幹システムに携わってきています。センターサーバは、ICカードの発行から廃札までのライフサイクルを管理し、駅サーバは、センターサーバと機器の間でデータの収配信を行います。図1に概要を示します。

図1 交通系ICカードシステム全体イメージ

更にNECは、交通系ICカードへの新たなニーズや用途に対応し、進化を支えています。

代表的な例は、売店やコンビニエンスストアの決済に利用できる電子マネーや、モバイルSuicaです。FeliCaチップ搭載の携帯電話・スマートフォンをモバイル乗車券・電子マネーとして利用できることで、どこでもチャージ可能となり、利用拡大に寄与しています。

3. 新たなマーケットの取り組み

3.1 国内地域での取り組み

日本国内では、多くの地域で少子高齢化や人口減少が進み、いかに経済を活性化させるか、ということが各地域で共通した重要な課題です。また、公共交通においても、利用者の減少を食い止める打ち手が必要な状況であり、レンタカーやタクシーを利用しがちな県外来訪者にも、地域の公共交通を利用してもらえるような仕組みが求められます。

こういった地域の現状を受け、NECでは、地域住民の利便性を高めるとともに、県外来訪者には、普段利用している全国相互利用カードで地域の公共交通を利用できるICカードシステムの導入を推進しています。また、ICカードを交通利用だけにとどめず、電子マネー利用やそのほかのサービスと連携させることで、より利便性の高いICカードを実現することも可能です。加えて、さまざまなシーンで利用されたICカードの利用データを分析し、公共交通網の見直しや新たなサービスの実現に活用することで、ICカードが経済の活性化に寄与し、地方創生を実現する打ち手になると、NECは考えます(図2)。

図2 地方創生に貢献するICカード

地方創生に寄与できるICカードとして、NECは熊本地区の「熊本地域振興ICカード(愛称:くまモンのIC CARD)」システムを構築しました。

熊本地区では、少子高齢化により、電車やバスなどの交通事業者の収益の低下はもちろん、小売店など商業事業者の経営にも影響を及ぼしています。こうした現状を打破し、いかに地域全体を活性化させるか、という悩みを抱えていました。また、交通事業者では、磁気カード乗車券の老朽化が課題として挙げられており、それらを解決する施策として、ICカードの導入が決定されました。

「くまモンのIC CARD」は、熊本県内の交通事業者5社が運営するバス、鉄道の共通交通乗車券として利用できるほか、商業加盟店で電子マネーとしても利用可能です。地域に即した定期券や特殊券を実現しつつ、ポイントサービスやクーポンサービスなどのプロモーション機能も実現し、より利用者に使ってもらえるカードを実現しています。

また、観光客の増加にも役立てたいという狙いから、全国相互利用カードを県内でも利用可能とする仕組みを構築しています。これらは、全国相互利用カードのシステム経験を持つNECだからこそ実現できるシステムです。

このような、地域の特徴を生かしながらも広域性を保ち、自律的で持続的な社会を創生できるICカードの導入に、NECは貢献しています。

3.2 海外展開への取り組み

NECは2015中期経営計画において「強いニッポンを支える新しい国のインフラづくりへの貢献と海外展開の推進」を成長戦略の1つに掲げており、交通セクターにおけるICT事業の強化をその1つの施策として位置付けています。アジア新興国市場では「都市化に伴う高度化への対応」というテーマのもと、NECのICTの普及を目指しています。

日本の交通インフラの成長段階は、既に成熟期に達しています。一方、新興国では、日本が歩んできた成長段階をたどり、これから高度成長に向けて歩み始めた段階です(図3)。ただし、そのスピードは速く、日本の鉄道が紙の乗車券からスタートしたのに対し、新興国では非接触型ICカードからスタートしています。このスピードに対応するには、今までの日本における交通インフラでの経験が、新興国の成長に対して大きく貢献できると考えています。

図3 国の成長段階と交通インフラのニーズ

今後、新興国において新しく導入される公共交通機関では、不正乗車による損失を防ぎ、コスト削減、利便性の向上を目的に、日本の交通機関で広く普及している非接触型ICカードを活用した自動料金収受システム(Automatic Fare Collection System:AFCS)が必須要件となっています。

NECでは長年にわたり、日本国内において交通系ICカードシステムの開発に携わり、多くの実績とノウハウを蓄積してきました。NECのAFCSが、アジア新興国での公共交通機関における市場ニーズに応えられるものと考えています。

実例として、2014年10月に株式会社片平エンジニアリング・インターナショナルとNECにて、独立行政法人 国際協力機構が実施する技術協力プロジェクト「ダッカ市都市交通料金システム統合のためのクリアリングハウス設立プロジェクト」を共同で受注しました。

本プロジェクトでは、NECが日本国内で蓄積した非接触型IC乗車券システムの構築ノウハウ・技術を応用し、ダッカ市における路線バスや、今後計画されているMRT・BRTなどの公共交通機関を共通の非接触型ICカードで利用できる環境を実現するため、ICカード発行・ID管理・清算などを行うAFCS構築をダッカ都市交通調整局や現地ソフトウェア開発会社と連携して推進しています。

今後の展望としては、ベトナム社会主義共和国やインド共和国にて、国際開発金融機関の融資によるAFCS入札案件が具体化しているため、NECのAFCSを普及させ、アジア新興国における課題を解決するべく、積極的に応札したいと考えています。

以上のビジネスを通じて、NECの2015中期経営計画に掲げている、アジアにおける社会ソリューション事業の強化を図り、海外売上高比率目標を達成できるものと考えています。

4. 将来に向けて

これまで述べてきたように、NECは国内外の公共交通ICカードソリューション分野において、さまざまな実績を上げてきました。NECは、2015中期経営計画として「社会ソリューション事業への注力」「アジアへの注力、現地主導型ビジネスの推進」を掲げており、公共交通ICカードソリューションは、まさにICTによる社会インフラの高度化を支えるものと考えています。

このソリューションは、日本国内をはじめ海外におけるさまざまな社会課題を解決へと導くものと考えています。日本国内では2020年とその先を見据えた国づくりや、地方創生に向けた公共交通インフラ整備に向けた取り組みを推進します。海外では成長著しいアジアを中心とした新興国に注力し、現地ニーズに対する感度を高め、事業スピードを加速していきます。将来に向けた具体的な取り組みを3つ紹介します。

(1)国内における交通系ICカード普及拡大に向けた取り組み

国土交通省から2015年2月に閣議決定された交通政策基本計画において、交通系ICカードを使えない地域の解消を掲げています。NECは、これまでの国内地方都市におけるICカード導入の構築実績に加え、全国相互利用カードの構築実績を生かし、交通系ICカード未導入地域や全国相互利用カードに対応していない地域に対してシステム導入を進めます。全国で交通系ICカードが利用できるようにし、交通系インフラの利便性拡大へ向けた取り組みを強化していく計画です。

そのためには、地域で独自に導入される交通系ICカードで、全国相互利用カードの片利用環境を提供するサービスの構築を計画しています。これにより、地域において交通系ICカードが利用できる範囲が広がることに加え、全国相互利用カードが利用できる地域も拡大し、更なる交通系インフラの利便性拡大が期待されます。

(2)2020年に向けた取り組み

第3章1節で述べた地方創生や、2020年に向けて増加が見込まれる訪日外国人や観光利用における利便性を向上させていきます。ICカードを交通機関の利用や電子マネーでの決済系利用に加え、デジタルチケットやビル入退館などの非決済系におけるID連携サービスなど、交通系ICカードの利用できる場所を増やす取り組みを計画しています。

そのためには、従来のようにICカードへ情報を書き込む方式からセンター問い合わせ型へ集約することで、あらゆる生活シーンに柔軟に対応できるようなシステムの実現を目指しています。更に、センター問い合わせ型とすることで、交通系ICカードはカード型に限らず、ウェアラブル媒体や生体認証など多様な形態での運用が可能となります。交通系ICカードは、より人々の生活に密着した形での利用シーンに対応するため、最適な形態への応用を検討していきます。

(3)アジア新興国に対する取り組み

アジア新興国では、MRTやBRTといった公共交通機関の建設ラッシュが続いています。NECは、既に日本で先行して確立してきた交通系ICカードに関する高い技術力をアジア新興国に展開し、現地のさまざまな課題を解決に導いていく計画です。

将来は、日本を含むアジア地域において、国をまたがる交通系ICカードの相互連携も考えられます。日本で普段使われている交通系ICカードが海外でも利用できることになり、更に利便性が高まることが期待されます。そのためには、カードの互換性やセキュリティの確保、為替の問題などさまざまな課題をクリアする必要がありますが、これらを1つずつ解決の方向へ導き、グローバルレベルでの経済活性化、効率性、公平性を確保することで、社会ソリューションへの貢献を果たしていく計画です。

NECは、交通系ICカードにおけるこれまでの数々のシステム構築や運用実績に加え、ビッグデータ解析技術や画像認識、認証技術など、さまざまなICTを活用することで、グローバルレベルで付加価値の高い公共交通インフラの構築を支援していきます。世界の国々や地域の人々と協奏しながら、明るく希望に満ちた暮らしと社会の実現に向け、貢献し続けていきます。


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    Suica、モバイルSuicaは、東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。
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    FeliCaは、ソニー株式会社の登録商標です。
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    くまモンは、熊本県の登録商標です。

執筆者プロフィール

西 高宏
交通・物流ソリューション事業部
第五インテグレーション部
マネージャー
青柳 宗之
交通・物流ソリューション事業部
第五インテグレーション部
プロジェクトマネージャー
阿久津 哲史
交通・物流ソリューション事業部
第五インテグレーション部
主任
丹野 晴元
交通・物流ソリューション事業部
第五インテグレーション部
主任

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