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増大するトラフィック対応に向けた10G-EPONの開発

Vol.68 No.3 2016年3月 新たな価値創造を支えるテレコムキャリアソリューション特集

国内の光インターネットサービスには、主にPONシステムが採用されています。コンテンツの高度化/高精細化、Wi-Fiオフロードなどのモバイルデータ通信料の増加など、インターネットトラフィックは増加し続けています。NECは、近年の高速、大容量化に対するニーズの高まりを受け、これまでのPONシステムの10倍の伝送速度を実現する10G-EPONシステムを開発しました。本稿では、PON技術概要、NECの10G-EPONシステムの構成と特長、並びに、将来に向けた標準化活動とその動向を紹介します。

1. はじめに

国内のFTTH(Fiber to the Home)によるブロードバンドサービスには、主に通信速度1Gbps級の光回線を複数の加入者でシェアするGE-PON(Gigabit Ethernet-Passive Optical Network)方式が採用されています。

近年のWi-Fiオフロードなどモバイルデータ通信量の増加、そして、将来的な高画質テレビ放送(4K/8K)対応などに伴うトラフィック増加により、アクセスネットワークの帯域枯渇が課題となっています。NECは、その課題解消に向けて、10Gbps級の伝送速度を実現する10G-EPON(10Gigabit Ethernet PON)システムを開発しました。本稿では、PON技術の概要、NECが開発した10G-EPONシステムの構成と特長、並びに、将来に向けた標準化活動とその動向を紹介します。

2. PON技術の概要

PONシステムは、OLT(Optical Line Terminal)と複数のONU(Optical Network Unit)から構成されます。OLTはFTTHサービスキャリアの局舎へ、ONUは加入者宅内などへそれぞれ設置されます。OLTと各ONUは、光カプラを通って1本のファイバを共有することで、高い経済性を実現しています。PONシステムでは、OLTとONUは、それぞれ異なる送信用光波長を使用し、波長多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)技術により一心双方向通信を実現しています。

下り(OLT→ONU方向)の通信は、光カプラを通ってすべてのONUに同報されます。各ONUは自身宛の通信のみ受信し、それ以外を廃棄します(図1)。ペイロード部分はONU宛ごとに暗号化されており、他のONU宛通信を読み取ることはできません。

図1 PON下り通信方式

一方で、上り(ONU→OLT方向)の通信は各ONUが同時通信すると衝突します。そのため、OLTが各ONUの通信可能時間を制御するTDMA(Time Division Multiple Access)方式により、通信の衝突を回避します(図2)。OLTは、各ONUの帯域設定及び接続距離を考慮して、通信許可のタイミングと通信時間を計算します。この計算機能はDBA(Dynamic Bandwidth Allocation)機能と呼ばれます。

図2 PON上り通信方式

3. NEC 10G-EPONシステムの概要

NECの10G-EPONシステムは、OLTとONUから構成されます。OLTは主信号制御部としてIGU(Integrated Gateway Unit)とLTU(Line Terminal Unit)を収容します(図3)。

図3 NECの10G-EPONシステムの概要

(1)OLT

OLTは19インチラック4Uサイズの筐体です。最大2枚の電源ユニット、冷却ファン、最大2枚のIGU、最大8枚のLTUを収容します。主要諸元を表1に示します。電源部分は2重化され、DC-48VまたはAC100Vのいずれかを選択可能です。OLTは片電源でも動作するように設計されています。

表1 OLT仕様諸元

(2)IGU

IGUはL2SW(Layer 2 Switch)機能と装置制御機能を搭載しており、2枚のIGUでカード冗長、ポート冗長が可能です。各IGUは4ポートの10GbEインタフェースを備え、最大8枚のLTUのトラフィックを集約します。

(3)LTU

LTUは局舎側の回線終端機能とL2SW機能を備えます。8ポートの10G-EPONインタフェースを持ち、1PONポートに最大128台のONUを収容可能です。LTUが筐体に最大8枚搭載可能であり、OLT当たり最大8,192台のONUを収容可能です。

(4)ONU

ONUは加入者側の回線終端装置です。主要諸元を表2に示します。ユーザー向け通信に10GBASET/1000BASE-T兼用インタフェースを1ポート備えます。ONUの光回線には、上下10Gで通信する対称タイプと、下り10G上り1Gで通信する非対称タイプの2種類があります。

表2 ONU仕様諸元

4. NEC 10G-EPONシステムの特長

4.1 PON制御

(1)10G/1G共存技術

10G-EPONシステムは、同一PON回線上に既存の上り10G/下り1Gのコンシューマ向け非対称10Gサービス、上り10G/下り10Gのビジネス向け10Gサービスに加え、既存のGE-PONサービスを収容できます。
下り光信号は、WDM技術により10G、1Gそれぞれ専用の波長を使用することで実現しています。また、上り光信号は、TDMA技術により10G、1Gを同一波長で混在受信することで実現しています。
10G-EPONでは、既存の1Gサービスからのマイグレーションを容易にするため、GE-PONと同じ光ロスバジェットを確保しています。その実現のため、高出力/低受光の光トランシーバとReed-solomon符号によるエラー訂正を組み合わせています。

(2)帯域制御

ONUは、物理的にPONインタフェースを1ポート備えますが、最大8ポートの論理インタフェースとして取り扱うことができます。この論理インタフェースは個別に主信号系の設定が可能であり、ネットワーク設計者は、各論理インタフェースを電話用あるいはインターネット用などといった異なるサービスに割り当てることができます。NEC 10G-EPONシステムは、OLTの持つDBA機能により、論理インタフェースごとに最大帯域制限、最低保証帯域、輻輳時の帯域割当比などを設定できます。例えば1Gサービスと10Gサービスとの間で帯域割当比を10:1に設定したり、あるいは、1:1に設定したりするなど、柔軟な帯域制御が可能です。

(3)セキュリティ

本システムはPON区間を暗号化します。これにより、悪意のあるユーザーに光区間を覗き見られて情報が漏えいする可能性を排除しています。また、ONU自体やONU配下のホスト、あるいはブロードバンドルータを認証する機能を備えます。登録されたホストのみ通信を許可することで、不正なユーザーの使用を拒否し、セキュリティを高めています。

4.2 装置アーキテクチャ

(1)既存システムからのマイグレーション

NECの10G-EPONシステムは、既存GE-PONシステムからのマイグレーションを重視した設計となっています。10G-EPON OLTは、GE-PONシステムのLTUを収容可能です。また、管理方式はGE-PONシステムを継承しており、共通的な操作で10G-EPONシステムを管理できます。GE-PONシステムのハードウェア資産の流用や、既存の運用・保守方式を継続することにより、10G-EPONシステムへの移行を容易にします。

(2)冗長制御

IGUは、筐体内に2枚搭載してカード冗長構成を取ることができます。カード間でお互いに正常性を監視し、1枚のIGUに障害が起きた場合であっても、残りのIGUでサービスを継続します。またIGUの任意のポートから複数の10GbEインタフェースを選んで、論理的に1ポートと見なす(リンクアグリゲーション)機能を備えます。上位スイッチやルータとリンクアグリゲーションを構成することで、光モジュールの故障や回線断など、上位回線の一部にトラブルがあった場合でもサービスを継続可能です。

4.3 高密度/低消費電力化

既存GE-PONと同じく、10G-EPONシステムも高密度/低消費電力設計となっています。19インチラック4Uサイズに最大64ポートの10G-EPONインタフェースを備え、最大8,192台のONUを収容可能とし、1,260W以下の消費電力で動作します。

5. 標準化活動とその動向

NECは、次世代光アクセス技術標準化への貢献と製品化を目的として、ITU-TやIEEEの標準化会合に参加しています。次世代光アクセスシステムの新しい国際標準として、ITU-Tでは、通信帯域40Gbps級PONをNG-PON2として規定しました1)。また、IEEEでは、100Gbps級PONの検討が始まっています2)

次世代光アクセスシステムは、これまでのブロードバンドサービスのみならず、トラフィックが爆発的に増加しているモバイルバックホール、フロントホールへと適用可能領域が広がっています。

6. おわりに

以上、FTTHを実現しているPONシステムの基本的な技術、及び、NECで開発している10G-EPONシステムの構成や技術について紹介しました。

NECでは、これまでに培ったPON技術を強みに、次世代光アクセスシステムの国際標準化に取り組むとともに、市場ニーズに合った製品開発を行っていきます。


  • *
    Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。
  • *
    IEEEは、アメリカ合衆国におけるInstitute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.の登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

大串 貞一郎
コンバージドネットワーク事業部
主任
佐藤 壮
コンバージドネットワーク事業部
マネージャー
佐伯 直人
コンバージドネットワーク事業部
シニアエキスパート