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モバイル通信の高度化を支える高密度BDE

Vol.68 No.3 2016年3月 新たな価値創造を支えるテレコムキャリアソリューション特集

モバイル通信の大容量化のため、多くの周波数帯を利用し、広域エリアをカバーするマクロセルと、トラフィックの多い局所的なセルをカバーするスモールセルが混在するようになってきています。このような環境で効率的に通信を行うには、1つの基地局で扱うセル数とユーザー数を飛躍的に増大させたC-RANの構成をとり、自由度の高いキャリアアグリゲーションを実現することが求められます。これに対しNECでは、これらの条件を達成する高密度BDEを開発し、機能向上を重ねています。本稿では、この高密度BDEについてアーキテクチャや要素技術を紹介します。

1. はじめに

NECは、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)が2015年3月にサービスを開始した「PREMIUM 4GTM」に対応した高密度BDE(Base station Digital processing Equipment)を開発しました。

この高密度BDEは、LTE-Advanced(以下、LTE-A)を効率的に展開する高度化C-RAN(Centralized Radio Access Network)アーキテクチャを採用しています。本アーキテクチャは、図1に示すように広域なエリアをカバーするマクロセルと、人口密集地などトラフィック量が多い局所的なエリアをカバーするスモールセルが共存するヘテロジニアスネットワーク環境において、キャリアアグリゲーション(CA)を活用してそれぞれのセルを高度に連携させ、更なる高速伝送と無線リソースの効率化を実現する、NTTドコモが提唱するアーキテクチャです。

図1 ユースケース

また、NECでは、将来的にはパブリックセーフティのような公共サービス網への適用を検討しています。公共サービス網は、現在、音声を主体とする低ビットレートの通信網です。しかし、近年では、ビデオ画像などの大容量データ伝送の需要が高まっています。このような状況から、LTE方式を公共サービス網に適用する動きが高まっています。また、公共サービス網に適用するに当たっては、「ネットワークの安定性」と「偏ったトラフィック発生時に対する柔軟な対応」が求められます。これらの要求を満たすため、高度化C-RANアーキテクチャを有する高密度BDEの適用を検討しています。

本稿では、今回開発した高密度BDEの構成と各機能部の特徴について概要を説明します。

2. 主要諸元

高密度BDEの主要諸元を表1に示します。高密度BDEの主な特徴として、トラフィック増に対応するためマルチプロセッサ化による大容量化、CA、MIMO(Multiple Input Multiple Output)による通信速度の高速化が挙げられます。通信容量は従来装置比で、収容セル数8倍、収容ユーザー数約30倍を実現しています。CAのコンポーネントキャリア数については、2015年時点では 3CC(Component Carrier)まで対応しており、今後のソフトウェア更新により5CCまで拡張可能です。送受信アンテナ数については、2015年時点では最大2まで対応しており、ソフトウェア更新で最大8まで拡張可能です。

表1 高密度BDE諸元

3. 各機能部の説明

高密度BDEは通信方式としてLTE方式と3G方式に対応しており、大きく以下の3つの機能部群に分類されます。

(1)共通機能部群

LTE機能及び3G機能を実現するために必要な機能部の集合で、伝送路制御(HWY)機能部、RE(Radio Equipment)インタフェース機能部、信号中継機能部、タイミング生成機能部、外部機器監視制御機能部、電源機能部から構成されます。

(2)LTE機能部群

LTE機能を実現するために必要な機能部の集合で、LTE-AP(Application Program)部、LTE-BB(Base Band)部、伝送路制御機能部、REインタフェース機能部、保守監視機能部、ファイルシステム機能部、テスト機能部、装置メンテナンス機能部などから構成されます。

(3)3G機能部群

3G機能を実現するために必要な機能部の集合で、3G-AP部、3G-BB、REインタフェース機能部、保守監視機能部、ファイルシステム機能部、テスト機能部、装置メンテナンス機能部などから構成されます。

本稿では、高密度BDEのなかでも特徴的なLTE-AP機能部、LTE-BB機能部、HWY機能部、REインタフェース機能部について説明します。

3.1 LTE-AP

LTE-APは、Common Controlカード(共通制御カード)上のプロセッサで呼処理を行うソフトウェアです。

呼処理とは、RRC(Radio Resource Control)/S1AP(Application Protocol)/X2APなどのL3プロトコルの終端、無線リソース管理(Radio Resource Management:RRM)などであり、ハンドオーバーのための処理なども含みます。

従来装置では、LTE-APはシングルプロセッサ上で動作していますが、シングルプロセッサでは処理性能、収容ユーザー数の向上に限界があります。高密度BDEでは、これらの更なる向上のため、マルチプロセッサを採用しています。マルチプロセッサ構成の特性を生かすため、複数のプロセッサに負荷を分散させ、各プロセッサ上のLTE-APを並列動作させています。

3.2 LTE-BB機能部

3.2.1 機能分担

LTE-BB機能部は、以下に示す3つのレイヤからなります。

  • PHY(物理)レイヤ
    誤り訂正符号や、Hybrid ARQ(Automatic Repeatre Quest)による誤り訂正、物理チャネルの変復調、MIMO送受信などの機能を有しています。
  • MAC(Medium Access Control)レイヤ
    1msごとに無線品質やUE間・論理チャネル間の優先度に応じた無線リソース割り当てを行う高速スケジューリング機能や、SCell(Secondary Cell)状態管理機能、Hybrid ARQ制御機能、UL受信タイミング制御機能などを有しています。
  • RLC(Radio Link Control)レイヤ
    UM(Unacknowledged Mode)、AM(Acknowledged Mode)などのモードを有しています。UMは、ARQ再送制御を行わず、音声通話のようにリアルタイム性が求められるサービスに適用され、AMは、ARQ再送制御を行い、ファイル転送のように確実なデータ伝送が求められるサービスに適用されます。

3.2.2 LTE-BB機能部の特徴

高密度BDEのBBカードは、ソフトウェア変更のみで、W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)のような異なる通信システムや、5CCまでのCA、FDD(周波数分割多重)とTDD(時分割多重)の両LTE方式を用いたCAなどの機能追加、更には下り最大ユーザースループット1Gbpsの高速通信に向けた将来技術にも対応できる柔軟性を有しています。

また、BBカード交換時、従来装置では当該BBカードに割り当てられているセルのサービス瞬断を伴っていましたが、高密度BDEでは当該セルのサービスを継続したままメンテナンス可能となり、保守性の向上を図っています。

3.2.3 アーキテクチャ

従来装置では、LTE-BB機能部は PHY/MAC/RLCを収容する一体型カードにより構成されていました。

高密度BDEでは、さまざまなユースケースが想定される高度化C-RANを最適な Scalabilityで実現し、また、任意のセルの組み合わせでのCAを可能とするため、収容セル数に依存するL-BBカード(PHYを収容)と、収容加入者数に依存するH-BBカード(MAC/RLCを収容)に分離した構成としました(図2)。更にL2SW(レイヤ2スイッチ)を介してスター状に接続することにより、全BBカードで互いに通信が可能な構成としました(図3)。

図2 LTE-BB機能部アーキテクチャ
図3 ユーザーデータの流れ(任意のセルでのCA)

また、信号処理の高速かつ高度な柔軟性を実現するため、最新のマルチコアDSPや高集積 FPGA、プログラマブルアクセラレータIPを積極的に採用しました。

3.3 HWY機能部

HWY機能部では、以下に示す機能を有しています。

  • 伝送路インタフェース
    上位装置との通信において、IPsecプロトコル処理・QoSシェーピング処理などを実施します。
  • GTP-U(GPRS Tunnelling Protocol User Plane)レイヤ
    上位装置との通信において、ユーザーごとのデータ通信用パスを確立する機能などを有しています。
  • PDCP(Packet Data Convergence Protocol)レイヤ
    ユーザーとの通信において、データの暗号化、ユーザーパケットのヘッダ圧縮(RObust Header Compression:ROHC)機能などを有しています。

高密度BDEでは、収容セル数の増加、CAや多値変調方式によるセル/ユーザートラフィックの高スループット化への対応として、約10Gbpsの能力が必要となりました。そのために、従来装置では1つのCPUで行っていたHWY機能を4つのCPUに分散配置しています。HWY機能部の主要機能がどのように複数のCPUに分配され、制御パケット、ユーザーデータパケットがどのように処理されるかを図4に示します。制御パケットはMMEと送受信されるパケット、ユーザーデータパケットはS-GWと送受信されるパケットです。

図4 HWY機能部の構成

図4に示すように、CPU1は伝送路インタフェース処理を行います。一方、CPU2〜CPU4は並列に配置された構成においてそれぞれGTP-Uプロトコル処理、PDCPプロトコル処理を行います。

収容セクタ数の増加に伴うユーザー数の増加は、ユーザー単位の識別、制御が必要なGTP-Uプロトコル処理、PDCPプロトコル処理に大きく影響を及ぼします。これらの機能部位にユーザー単位の負荷を均等に分散可能な構成を採用することで、高密度BDEのHWY機能部として必要な処理性能を実現しています。CPU2〜CPU4にユーザー単位の負荷を均等に分散するために、伝送路インタフェース処理をGTP-Uプロトコル処理、PDCPプロトコル処理から切り離し、伝送路インタフェースの設定とは独立にCPU2〜CPU4にユーザーを分散することが可能な構成としています。

3.4 REインタフェース

高密度BDEは、CPRI(Common Public Radio Interface)と呼ばれる基地局標準の光伝送路を、REとのインタフェースに採用しています。表2にREインタフェースの主要諸元を示します。物理的な構成としては、SFP(Small Form-factor Pluggable)と呼ばれる光トランシーバモジュールを、1装置あたり最大48本実装することが可能で、RE側のSFPモジュールと光ケーブルで接続して使用します。SFPモジュールは、運用中のプラグイン・プラグアウトが可能なため、SFPモジュールにハードウェア故障が発生した場合でも、対象セル以外のすべてのサービスを継続したまま、サービス復旧させることができます。

表2 REインタフェースの主要諸元

高密度BDEのCPRIラインビットレートは、従来装置と同様の2.4576Gbpsだけでなく、4.9152Gbps、9.8304Gbpsにも対応しており、伝送路の大容量化を可能にしました。また、従来装置の最大光伝送路距離は20kmまででしたが、高密度BDEでは30kmまでに拡張しているため、従来装置よりも柔軟性のあるエリア構成が可能となっています。

REインタフェースの最大の特徴は、同一装置内でさまざまな混在運用を行える点です。FDD/TDD混在運用はもちろん、CPRIラインビットレート混在や、LTE/3G混在といったさまざまな混在運用が、同時対応可能となっています。特に、通信方式については従来装置のLTE/3G(3G-BTS共用)混在対応に加え、高密度BDEで処理する3G方式との3種の同時混在運用を行うことも可能となっています。

4. まとめ

本稿では、モバイル通信の大容量化・高度化に柔軟に対応するため、セル数とユーザー数を大容量化し、自由度の高いキャリアアグリゲーションを実現した高密度BDEについて紹介しました。

現在、国内の事業者様でモバイル基地局の主力装置として導入され、広く運用されています。

本稿で記載のとおり、本装置は柔軟に将来技術に対応できる構成となっており、現在も標準化の新しい仕様に順次対応していっており、今後も次世代のモバイル通信への対応も視野に入れ、機能拡張を続けていきます。


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    PREMIUM 4GTMは、株式会社NTTドコモの商標です。
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    LTEは、欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。

執筆者プロフィール

近藤 誠司
モバイルRAN事業部
事業部長代理
今江 勇紀
モバイルRAN事業部
主任
吉田 充高
モバイルRAN事業部
主任
徳永 道太
モバイルRAN事業部
主任
石川 恭右
モバイルRAN事業部
主任
板羽 直人
モバイルRAN事業部
主任
下山 裕司
モバイルRAN事業部
主任
岩崎 玄弥
モバイルRAN事業部
エグゼクティブエキスパート