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光デジタルコヒーレント通信技術の開発
Vol.68 No.3 2016年3月 新たな価値創造を支えるテレコムキャリアソリューション特集近年、モバイルネットワークやクラウド、ビッグデータなどによる急激なトラフィックの増加に伴い、基幹系光ネットワークに要求される伝送容量は、増加の一途をたどっています。NECのパケット光統合トランスポート装置「SpectralWave DW7000」では、100Gbps級の高速光信号を伝送する技術として、光デジタルコヒーレント通信方式を開発・採用しています。本稿では、その概要について紹介します。
1. はじめに
基幹系光ネットワーク装置において大容量化を実現するために、デジタル信号処理技術とコヒーレント光伝送技術を組み合わせた、光デジタルコヒーレント方式が注目を集めています。NECのパケット光統合トランスポート装置「SpectralWave DW7000」では、光デジタルコヒーレント方式を採用することで、長距離、大容量な通信を実現しています。本稿では、光デジタルコヒーレント方式について、従来の方式との違いや、今後の発展の方向性について紹介します。
2. 従来の光通信方式
従来の基幹系光ネットワーク装置では、光の強度に情報を載せ、その強度を受光素子で直接検出する、強度変調直接検波(Intensity Modulation-Direct Detection:IM-DD)方式が採用されています(図1)。IM-DD方式は、光の点灯・消灯を切り替えることでデジタル情報を伝送させる方式であり、制御方法がシンプルなことから、数10Gbps程度までの光信号の伝送に広く用いられています。
一方、100Gbpsのような高速信号を長距離伝送する場合には、光ファイバの持つ歪み特性が信号伝送に大きな影響を与えるようになり、従来のIM-DD方式では伝送可能距離が制限されてしまい、技術的、経済的に長距離・大容量伝送の実現が困難でした。
3. 光デジタルコヒーレント方式
光デジタルコヒーレント方式では、光の強度だけでなく、波としての性質を利用することで、長距離・大容量伝送を効率的に実現することが可能です。SpectralWave DW7000において、100Gbps伝送に用いている変調方式は4相位相変調(Quadrature Phase Shift Keying:QPSK)であり、光の位相情報を用いることで、IM-DD方式に対して2倍の情報を伝送することが可能です。
また、直交する2つの光波は交わらないという性質を利用して、X偏波、Y偏波に異なる情報を載せることで更に2倍の情報を伝送可能です。これを偏波多重(DualPolarization:DP)QPSKと呼びます。DP-QPSK方式では、従来のIM-DD方式に比べて、同じ信号帯域で4倍の情報を伝送することが可能です。
図2は光デジタルコヒーレント方式を構成する各要素を示しています。光信号の送信部では、0、1のデジタル信号をX偏波、Y偏波それぞれの同相(I:Inphase)成分、直交(Q:Quadrature)成分に変換します。XI、XQ、YI、YQそれぞれの電気信号を用いて、マッハツェンダー型変調器を駆動し、更に偏波合成することで、位相変調、偏波多重された光信号を生成します。
光信号の受信部では、位相変調、偏波多重された光信号を偏波分離した後、受信部に搭載しているレーザー光(局発光)と干渉させることで、X偏波及びY偏波それぞれにおけるI成分、Q成分を検出します。信号光と局発光とを干渉させて信号を検出することから、これをコヒーレント検波と呼びます。
検出されたX偏波、Y偏波のI成分、Q成分は受光素子で電気信号に変換された後、高速なサンプリングレートを有するアナログ-デジタル変換器(Analog to Digital Converter:ADC)にて、デジタルサンプリングデータに変換されます。このデータに対して、DSP(Digital Signal Processor)を用いたデジタル信号処理による高度な信号等化を行うことで、光ファイバ特有の波長分散や偏波分散などの信号歪みを補正することが可能です。
また、0、1のデジタル信号を再生する前のデジタルサンプリングデータを利用することで、軟判定前方誤り訂正(Soft Decision Forward Error Correction:SD FEC)による強力な誤り訂正処理を行うことが可能です。デジタル信号処理とSD FECの適用により、長距離伝送が可能となります。
4. 今後の発展の方向性
光デジタルコヒーレント方式を高度化することで、更なる大容量・高性能な光伝送を実現することが可能です。例えば、光信号の送信部におけるデジタル信号処理によりナイキストフィルタリングを行うことで、光信号のスペクトル幅を小さく抑えることができます(図3)。これにより、波長多重(Wavelength Division Multiplex:WDM)伝送を行う際に、光スペクトルの間隔を狭め、1本の光ファイバで伝送する容量を大きくすることが可能となります。
また、100Gbps信号の伝送にはQPSK方式を用いていますが、200Gbps信号の伝送には更に周波数利用効率が高い16値直交振幅変調(16Quadrature Amplitude Modulation:16QAM)の適用が有力視されています。16QAM方式では、位相に加え振幅の情報を用いることで16種類の値を表すことができるため、QPSK変調方式に対して2倍の情報を伝送することが可能です。ただし、図4に示すコンスタレーション波形を見ても分かるように、QPSK方式に比べシンボル間の距離が近くノイズの影響を受けやすいため、より高度な信号処理が必要となります。
5. むすび
以上、SpectralWave DW7000装置で採用している光デジタルコヒーレント方式について紹介しました。光デジタルコヒーレント方式の採用により、大容量、長距離の光伝送を実現することが可能であり、更なる大容量化への発展が期待できます。
参考文献
- 1)鈴木扇太ほか:光通信ネットワークの大容量化に向けたディジタルコヒーレント信号処理技術の研究開発 , 電子情報通信学会誌 , Vol.95, No.12, 2012.12
- 2)K. Kikuchi:Fundamentals of Coherent Optical Fiber Communications , Journal of L ightwave Technology, vol.34, no.1, pp.1-23, Jan./Feb. 2016
- 3)NECプレスリリース:NEC、ネットワーク障害耐性の高い100ギガビット対応ノンブロッキング光クロスコネクト伝送装置を発売 , 2011.6.8
執筆者プロフィール
コンバージドネットワーク事業部
マネージャー
コンバージドネットワーク事業部
主任
コンバージドネットワーク事業部
主任
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エキスパート
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